小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

第八章 帝国との紛争

第五百二十九話 男爵領で一泊します

　マイスター師団長さんたちと話し終えた後、僕たちはまた馬車に乗ってサンダーランド辺境伯領へ向かいます。

「結婚式が終わった後だからまた魔物が出ているかと思ったけど、そうでもないですね」
「ある程度討伐してしまえば、そう簡単には増えないわよ。だから、道中何かに襲われる可能性はとても少ないわ」

　アイリーンさんの言う通り、本当に道中は穏やかでした。
　馬車便にもたくさんの人が乗っているし、人々の移動もとても盛んです。
　もしとても危ない道だったら、人の移動はとても少ないそうです。
　ちなみに緊急事態なので、いちいち道中の貴族に挨拶をする必要はないそうで、子爵領に着いたけど休憩だけしてそのまま通過しました。
　そして、夕方にはあの問題を起こした男爵領に着きました。

「流石に、森の中で野営するのはリスクがあるわ。今日はこの男爵領で宿を取ることにしましょう」
「「「はい」」」

　もう日も暮れ始めたし、これ以上進むのは馬にも負担になります。
　ということで宿を取ろうとして町に入ったら、何故か防壁を守っている守備隊から僕に声がかかりました。

「あっ、あの黒髪の魔術師様ですね。もし姿をお見かけしたら、お館様の屋敷に寄ってくださいと申し使っております」
「えっ、もうこんなに遅い時間ですけど……」
「何時でも構わないとのことです」

　うーん、これは流石に単独では決められない話なので、アイリーンさんと相談することに。

「会うだけ会ってみましょう。わざわざ兵にも話を通しているってことは、危ないことではないと思うわ。何せ、その問題となった当主は既にいないわけだし」

　シークレア子爵家の屋敷に突っ込もうとした当主はまともに話せる状況ではなかったし、治療しても駄目だったんだよね。
　今は、嫡男と令嬢が頑張って統治しているはずです。
　でも、結婚式の帰りにあったし、その時にも普通に挨拶をしたんだよね。
　何はともあれ、屋敷に向かう事になりました。
　すると、直ぐに応接室に案内してくれました。

「本当にお忙しいところ、寄って頂き感謝申し上げます」
「本当に申し訳ございません」

　直ぐに、応接室に兄妹が顔を出しました。
　僕たちの事情も知っているので、先ずは足止めしたと謝罪を行いました。
　そして本題に入ったのだけど、とってもびっくりすることを教えて貰いました。

「まず、皆さまにお伝えしないとなりませんが、ご迷惑をおかけした父が亡くなりました」
「えっ、そんな。僕の治療は失敗していましたか？」
「いえ、そんなことはありません。しかし、混乱の状況が全く改善されず、その、収容施設に入っていたのですが、ある日突然亡くなっておりました」
「恐らく、頭に何か問題を抱えていたのかと思われます。黒髪の天使様のお力をして治せないのであれば、そうとしか考えられません」

　シロちゃんとの合体魔法でも良くならなかったのだから、多分二人が言っているのは本当なのでしょう。
　前にもあったけど、やっぱり強力な回復魔法でも治せない人がいるんだ。
　改めてその事実を知って、僕は少し悔しくなりました。
　すると、アイリーンさんが僕に優しく話しかけてきました。

「レオ君も、良い経験になったと思うよ。これから向かう戦地の後方支援なんて、まさにそういう状況ね。私も前に後方支援で多くの怪我人を治療したけど、残念ながら全て救えなかったわ。正直なところ、優しいレオ君にはそういう状況ではショックを受けるかもって思ったのよ」

　アイリーンさん程の魔法使いでも、やっぱりそういう経験があったんだ。
　それに、激しい戦地では多くの怪我人が出ているだろう。
　そう思うと、確かに助けられなくてその場でショックを受けるよりも良かったかもしれません。
　そう、前向きに捉えます。

「今夜は、是非我が家にお泊り下さい。この後は大変な任務が待っております、安心できる場所で少しでもお体をお安め下さい」
「私たちにはこれくらいしかできませんが、せめて皆さまのお力になれればと思っております」

　ということで、今夜はそのまま男爵家の屋敷に泊まることになりました。
　僕たちもきっと男爵家の兄妹も大変なんだと思うけど、お互いにいま出来る事を頑張らないとって思いました。