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第六章 バーボルド伯爵領

第三百九十五話 事件発生

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 新しい一週間も始まり、僕たちはまた軍の治療施設での治療を始めます。
 安息日を挟んだので、また入院患者が増えたみたいです。

「でも、入院している人はとっても少ないですね」
「それは、レオ君がずっと治療してくれたからなのよ。部隊にも多くの軍人が戻って訓練を行えているし、色々な人から感謝されているわ」

 今日は久々にコレットさんと一緒だけど、大部屋は半分くらいしか埋まっていません。
 ユキちゃんもいるし、これなら一時間もあれば全員治療できそうです。
 そして、実際に一時間もかからずに大部屋の治療が終わりました。
 昼食までまだまだ時間があるので、僕たちは別の場所で治療をする事になりました。

「じゃあ、グラウンドで部隊が訓練しているから、怪我をした人の治療をしましょう」

 僕達はグラウンドの側に移動して、訓練で怪我をした人を治療するために待機します。
 沢山の兵が剣を手にして、激しい訓練を行っていました。
 そして激しい訓練をするので、時々怪我人も出てきます。

「いたた……」
「わあ、ぽっこりと腫れちゃっていますね。直ぐに治療します」

 剣を鎧で受けちゃったので切れてはないけど、腕が腫れている人がやってきました。
 治療をしながら、そういえば僕が一番始めに治療した人も腕で剣を受けて腫れちゃったひとだったなと思い出しました。
 こんな感じで、ちょっとした擦り傷や打撲も治療していきます。

「アオン」
「ユキちゃんも木剣を振ってみる?」
「アン!」

 兵の訓練を見ていて、ユキちゃんも剣を振るってみたくなったんだね。
 僕が一番小さい木剣をユキちゃんに渡すと、シロちゃんが一緒について剣の使い方を教えてくれました。

「アン、アン、アン」
「そうそう、良い感じだよ。ユキちゃんも剣を上手に使えるね」
「ふふふ、とっても微笑ましい光景ですね」

 ユキちゃんは、一生懸命に木剣を振るっています。
 一生懸命なんだけど、何だかとってもほのぼのする光景ですね。
 でも、そんなほのぼのとする雰囲気をぶち壊しにする人が現れました。

「ははは、犬が剣の真似事をしてやがるよ」
「ガキもいやがる。軍はいつから託児所になったんだ?」
「下等生物もいやがるよ。魔法使いとしても、どうせ大した実力はないんだろうな」

 三人の若い男性が、大笑いしながら僕達の事を馬鹿にしています。
 シロちゃんもユキちゃんも馬鹿にされたので、僕はかなりムカッとしちゃいました。
 しかし、三人組に指摘をしたのはコレットさんでした。
 うん、コレットさんも激おこモードです。

「あなた達、まだ訓練は終わっていないはずですが何故ここにいるんですか?」
「げっ、コレット秘書官!」
「や、やべっ。行くぞ」
「戻るぞ」

 もしかしなくても、あの三人組は訓練を抜け出してサボっていたんだ。
 そりゃ、僕達の事も含めてコレットさんが怒るはずです。
 コレットさんは、溜息をついてから通信用魔導具でどこかに連絡しました。

「師団長に連絡しました。あの三人は貴族の子弟で、特権意識が強いのか人を見下す事も多いんですよ。サボりの常習犯でもあるんですよ」

 という事は、既に貴族籍は抜けているけどあの暴走した魔法使いみたいに適当な事をしちゃうんだ。
 トップであるマイスター師団長さんも、こういう部下を持って大変だって思いました。
 しかし、これで騒動は収まりません。
 それは、昼食を食べようと大食堂に行った時でした。

「あいよ、今日はパスタとお肉だ。いっぱい食べろよ」

 僕は食堂のおばちゃんからトレーを受け取って、いつものテーブルに置きました。
 コレットさんや他の人は、少し後からやってくるそうです。
 先に食べようと思ったら、目の前にあの三人組が現れました。
 僕たちは、フォークを持ったまま固まっちゃいました。

「何でチビが、ここで飯を食っているんだ!」

 ドン、ガッシャーン!

「熱っ、わあー!」

 三人組の一人がテーブルの上に置いていたトレーを僕の方に突き出して、僕達は思わず椅子から転げ落ちちゃいました。
 しかもパスタとお肉もかぶってしまい、ちょっと火傷もしちゃいました。

「あてて……」

 僕は、椅子から落ちた衝撃で少し体を打っちゃいました。
 シロちゃんとユキちゃんは怪我はしなかったみたいだけど、パスタで真っ白な体が汚れちゃっています。

 ざっ。

「テメーみたいなのが、何で軍にいるんだよ!」

 ブオン。

 そして、一人が悪態をつきながら思いっきり僕の事を蹴ってきました。
 僕は、咄嗟に魔法障壁を展開します。

 バシッ!

「いてー! テメー、何しやがる!」

 魔法障壁を思いっきり蹴っ飛ばしたので、痛さのあまり床に転げています。
 でも、僕は魔法障壁を展開したままにしておきます。

 シャキーン。

 何と、残りの二人が剣を抜いたのです。
 しかも目が血走っていて、とても怖い表情をしています。

 バキーン、バキーン。

「おいこら、この壁を消しやがれ」
「テメーはさっさと死んでいろ!」

 魔法障壁に何回も剣を振り下ろすので、僕は怖くなって思わずしゃがみ込みました。
 しかし、直ぐに二人の動きが止まりました。

 シュイーン、バシン、バシン!
 ズドーン。

「「うがー!」」

 シロちゃんとユキちゃんが、僕に剣を振り下ろしている二人を吹き飛ばしました。
 僕がゆっくりと顔を上げると、更に沢山の兵が三人を取り囲んでいました。

「おい、お前らなんてことをするんだ!」
「訓練サボって子どもを虐めるとは良い度胸だな」
「こいつら、武器の使用規定違反だ。拘束しろ!」
「「「がっ、くそ、俺等が被害者だ」」」

 僕は、ソース塗れの顔を上げて事の成り行きを見ていました。
 すると、マイスター師団長さんとコレットさん、それにバッツさんがかなり慌てた表情で僕達のところにやってきました。

「おい、コイツラを懲罰房に入れろ。治療はそれからだ」
「ああ、レオ君大丈夫? こんな目に合うなんて」
「いきなり剣でぶっ叩かれたんだ。他のも、えらいことになっているな」

 コレットさんが僕の顔を拭いてくれたけど、僕はまだ床にぺたんと座り込んでいました。
 そして、僕の事をシロちゃんが治療してくれました。
 でも、服もシロちゃんやユキちゃんの汚れも生活魔法では取れなさそうです。

「おい、何でガキが優遇されているんだよ!」
「優遇するなら、俺達を優遇しろ!」
「俺等は貴族の子弟だぞ!」

 拘束されても、三人組はギャーギャーと騒いでいました。
 すると、マイスター師団長さんが怒りを抑えられない表情をしていました。
 あんなに怒った表情は、セルカーク直轄領で見て以来だよ。

「お前ら! 国民を守るべき兵が、小さな子どもを蹴り剣を叩きつけるとはどういう事だ!」
「「「ひっ……」」」
「厳しい処罰は免れないと思え。連れて行け!」
「「「はっ」」」

 食事を食べ終えた兵が、なおももがく三人組を連行していった。
 僕は、その様子をぽかーんとしながら見ていた。
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