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第六章 バーボルド伯爵領

第三百九十一話 暴走した魔法使いを治療します

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 新しい週が始まり、僕たちも新しい一日が始まります。
 お友達になったユキちゃんも、バーボルド伯爵家の皆さんは快く受け入れてくれました。
 普通コボルトは犬型の魔物で二足歩行もするらしいけど、ゴブリンと同じく狡猾な知識を得たり顔も醜くなるそうです。
 でもユキちゃんはとってもキュートなお顔だし、今朝の魔法訓練も頑張ったりととても努力をします。
 やっぱり魔法が使えるのが大きいのかなって、そんな事を思いました。
 そして、シロちゃんとユキちゃんと一緒に馬車に乗って軍の施設内にある事務等に行くと、秘書さんだけでなくマイスター師団長さんとバッツさんも待っていました。

「レオ君、おはよう。その子が噂になっているレオ君が保護したコボルトか」
「マイスター師団長さん、おはようございます。ユキちゃんの事って、そんなに噂になっているんですか?」
「黒髪の天使様は身寄りのない魔物も大切に引き取ったと、教会を中心に街中に広まっているよ」

 マイスター師団長さんがユキちゃんの事を話すと、秘書さんとバッツさんも激しく同意していました。
 しかも事実なので、中々否定しづらいです。
 そして、ユキちゃんはいつの間にか秘書さんに抱っこされてもふもふされていました。
 ユキちゃんの毛並みは、人々を引き付ける魔性のもふもふです。

「さて、本題に入ろうか。実は、あの魔法使いへの対応が決まった。過去にも度々事件を起こしていたので、この事件がトドメになって不名誉除隊処分になった。もちろん本人の弁明も聞いたが、到底受け入れられるものではなかった。本来なら治療をしなくても良いのだが、そこは軍にいる際の最後の手当ということだ」
「ただ、奴が何をしでかすか分からないから、俺もついて行く事になった。他にも、軍の幹部もついていくぞ」

 うーん、思ったよりも大事になっちゃったんだ。
 前に治療した部隊隊長さんも治療の際には参加すると言っていたし、バッツさんも参加するとなると本当に危ない人なんだ。
 僕もシロちゃんも、いつもより気を引き締めたよ。
 そして、みんなで治療施設に向かい、更に多くの人と合流して施設内に入りました。

「あっ、また沢山の人が入院したんですね。今度はユキちゃんもいるので、もっと沢山の人を治療できますよ」
「これでも、私達の予定よりもかなり早く治療が進んでいるんだよ。バッツとの話を次第だけど、午前中は治療して午後から魔石への魔力充填をしてもらおうかとおもっているよ」
「師団長、問題ないぞ。というか、こっちもレオの作業が早くてどうしようかと思っていたんだ」

 マイスター師団長さんとバッツさんの話し合いで、今週は午前中は治療で午後は魔石への魔力充填になりました。
 まだまだ怪我をした人は沢山いるし、僕たちも頑張ろう。
 そして、いよいよあの魔法使いが入院している部屋につきます。
 因みに、ユキちゃんは未だに秘書さんに抱っこされています。

 コンコン。

「入るぞ」

 ガチャ。

 部隊隊長さんを先頭に、僕達は部屋の中にはいりました。
 すると、両手を失った男性が僕達の事を睨んでいます。
 見た目は三十歳くらいで、ぽっちゃりで全ての髪の毛を剃ってありました。
 傷は塞がっているので、動いても大丈夫みたいですね。

「くそー! 俺をこの前の状態で放置しやがって。貴様ら何を考えているんだ! 俺は、かの有名なバッハ伯爵家の人間だぞ!」

 入院していた男性は、マイスター師団長さんを見るやいなや罵声を浴びせていました。
 魔法使いとしてのプライドだけでなく、貴族としてのプライドもあるから余計に面倒くさい事になっているんだ。
 そして、ちょっと気になった事が。

「マイスター師団長さん、成人を過ぎた貴族の人って貴族籍に残るんですか?」
「うむ、レオ君良い質問だ。貴族として残るのは長男のみだ。たまに長男が病弱とかで次男も残るケースはあるが、奴は四男なので全く関係ない。一般人扱いだ」
「なっ、ちびが余計な事を言うな!」

 やっぱり叫んでいる人は一般人扱いになっていたんだ。
 それでも、貴族として育ったプライドがあるんだね。
 ここで、マイスター師団長さんがとある提案をしてきました。

「レオ君、相手の魔力を奪う魔法は使えるかな?」
「あっ、はい。魔力ドレインという魔法が使えます」
「うむ、では治療前に奴の魔力を奪ってくれ」

 先に治療したら、魔法を放ってくる事も考えられますね。
 といっても、別に拘束されていても魔法は放てるけどね。
 怪我をした魔法使いは、そういう事を知らないんだ。
 では、早速魔力を奪っちゃいましょう。

 シュイーン、ぴかー!

「がっ、くそ、魔力が無くなっていく……」

 僕が魔力ドレインを放つと、怪我をした魔法使いはすぐに魔力を失いました。
 うーん、訓練途中のユキちゃんの方が全然魔力を持っているよ。
 すると、兵が怪我をした魔法使いの足にリングみたいな魔導具を取り付けました。
 そして、マイスター師団長さんが冷静に話し始めました。

「この魔導具は魔法使い特有のもので、現在保有している魔力以上は回復させないものだ。いまお前の魔力はゼロだから、今後もゼロから魔力は回復しないだろう。なお、この魔導具はお前には取り外し不可だ」
「なっ、どういう事だよ! こいつを外しやがれ!」

 処分された魔法使いが暴れないようにする為に開発された魔導具らしく、この手の魔導具はまだ開発途中らしいです。
 でも、目の前にいる魔法使いは既に魔力が空っぽなので効果抜群です。
 更に魔法使いは、後ろ手に拘束されました。
 魔法使いはジタバタともがくけど、屈強な兵の力にはかないません。

「レオ君、治療してくれ。待たせて済まなかったね」

 そして、ようやく治療する事になりました。
 僕とシロちゃんは念の為に魔力を溜めていたので、直ぐに治療を開始します。

 シュイン、シュイン、シュイン、ぴかー!

「な、何だこの魔法陣の数は……」

 魔法使いは、自身の周りに現れた数多くの魔法陣に度肝を抜かれていました。
 おや? 内蔵も悪いけど、これは……

「えっ、どういう事だ? 手が生えているぞ!」
「お前は常日頃から黒髪の魔術師なんてチョロいと言っていたが、これがお前と黒髪の魔術師の圧倒的な力差だ。魔法使いとして比較するだけ無駄なレベル差だ」
「ぐっ、くそー!」

 マイスター師団長さんが魔法使いに冷酷に事実を突きつけていたけど、それでも魔法使いは頑なに認めていなかった。
 でも、僕は別の方に意識が向いていました。

「マイスター師団長さん、あの魔法使いのお腹に沢山悪い物があって、僕とシロちゃんの魔法では完治出来ませんでした」
「そうか、両手を再生するレベルの回復魔法でも奴の内蔵は回復しなかったか。奴は大酒飲みでタバコも大量に吸うから、若くして病気になるのではと注意したんだがな」
「はっ、へっ?」

 病気の話になった瞬間、魔法使いの表情が固まってしまいました。
 バッツさんが指摘してもお酒とタバコを止めなかったというレベルだから、体中が病気になっちゃったんだ。

「お前は、これから数年間の強制労働刑になる。まあ、レオ君の魔法で治療しきれないレベルの病気だ、刑期終了までに体が持つか分からんがな。連れて行け!」
「「「はっ」」」
「おい、どういう事だ! おい!」

 魔法使いは喚きながら激しく抵抗したけど、複数の兵によってあっという間に連行されていった。
 そして、ちょっと複雑な表情を皆がしていました。

「既に奴の屋敷には連絡してあり、一族の恥だから遠慮なく処分してくれと言われていたんだよ。しかし、レオ君でも治せない病気だと、治療しなければ近いうちに死んでいただろうな」
「その辺りも含めて、もう一度バッハ伯爵家に連絡します」

 マイスター師団長さんの呟きを聞いた秘書さんが、ユキちゃんを抱っこしたまま色々とメモを取っていました。
 僕とシロちゃんも、やっぱり魔法は完璧ではないと改めて思いました。
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