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第五章 シークレア子爵領

第三百三十九話 お手紙を出しにお屋敷に行きます

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 翌朝、僕はキチンとした服を着て予定通りナディアさんと一緒に子爵家のお屋敷に向かいます。

「き、緊張するわ……」
「大丈夫よ。領主様はとても良い人だから、何も問題ないわよ」
「で、でも、粗相したらどうしよう……」

 朝からナディアさんは、ずっとそわそわとしていました。
 セルゲイさんとアンジェラさんはとても良い人だから、特に問題ないと思うけどなあ。

「ザンちゃんが会って問題なかったのだから、ナディアちゃんなら大丈夫よ」
「うん、それを聞いたらだいぶ安心した。あのお兄ちゃんが大丈夫なら、私でも大丈夫かな」

 うん、この場にザンギエフさんがいなくて良かったよ。
 この母娘の話を聞いていたら、間違いなくショックを受けていたね。
 ナディアさんの気持ちも盛り返したところで、宿からお屋敷に向けて出発です。

「うーん、今日は雨が降りそうですね」
「ちょっと天気が悪いわね。風も冷たいし、気をつけないと」

 空はどんよりと曇っていて、今にも雨が降りそうです。
 これは、早めに手紙を渡して帰らないと駄目だね。
 僕とナディアさんは、少し早足でお屋敷に向かいました。

「おはようございます。今日は、セルゲイさんとアンジェラさんにご用があってきました」
「やあレオ君、おはよう。確認してくるから、少し待っていてね」

 何回もお屋敷に行っているので、顔見知りになった門兵さんに面会のお願いをしました。

「いやあ、普通の人はこんなに気軽に門兵と話せないわよ」
「そうですか? 皆さんとっても良い人ですよ?」
「あのね、そういう意味じゃないのよ……」

 ナディアさんは、ちょっと不思議顔の僕とシロちゃんを見て苦笑していました。
 うーん、今まであったどのお屋敷の門兵さんも、とても良い人だと思ったけどなあ。
 そんな事を思っていたら、門兵さんが門に戻ってきました。

「レオ君、お待たせ。お館様とお嬢様は残念ながら忙しくて会えないけど、イレーナ様がお会いになるそうよ」
「セルゲイさんとアンジェラさんは、とっても忙しいですもんね。宜しくお願いします」
「分かりました。では、応接室に案内します」

 僕とナディアさんは、門兵さんの案内でお屋敷の応接室に向かいます。
 そういえば、お屋敷に入ったらナディアさんが緊張してきちゃったよ。
 イレーナさんもとっても良い人だから、全然問題ないと思うよ。

 コンコン。

「失礼します。レオ君とお連れの方を連れてきました」
「入って頂戴」

 お屋敷に入ると、侍従の人が応接室にいるイレーナさんに僕たちの来訪を告げました。
 あらら、更にナディアさんが緊張してきちゃったよ。
 ドアが開いて、僕たちは応接室に入りました。

「いらっしゃい、レオ君、シロちゃん」
「イレーナさん、突然お邪魔してすみません」
「ふふふ。レオ君とシロちゃんは、いつでも我が家に来て良いのよ」

 イレーナさんは、ニッコリとして僕たちを出迎えてくれました。
 すると、緊張しながらナディアさんが自己紹介を始めました。

「は、は、は、初めまして。や、宿の娘の、な、ナディアといいます」
「あら、ご丁寧にどうもね。でも、実は初めてではないのよ。オリガさんが、まだ赤ちゃんのあなたを連れて来たことがあるのよ」
「えっ! お母さんが、ですか?
「そうよ。女の子が生まれたって、とても喜んでいたわ」

 おお、衝撃の事実です。
 というか、オリガさんって本当に顔が広いんだね。
 挨拶も終わったので、ソファーに座って本題に入ります。

「あの、今日はお手紙を届けて欲しくてお願いに来ました」
「ええ、話は聞いているわよ。全ての封筒を出して頂戴」
「えっ、全てですか?」
「ええ、全てよ。レオ君が送りたいという、全ての封筒ね」

 イレーナさんに言われて、僕とシロちゃんは封筒を全て出しました。
 基本的に、宛先ごとに纏めてあります。

「あら、とってもいい封蝋がしてあるわね。この封蝋があれば、レオ君とシロちゃんが送ったって直ぐに分かるわ」
「この街の職人さんが作ってくれました。とっても良い出来で、僕もシロちゃんも大満足です」
「ふふ、黒髪の天使様が大喜びするスタンプを、我が領の職人が作ったなんて。ちょっとした自慢になりますわね」

 イレーナさんは封筒にしてある、オリジナルスタンプを見て満足そうに頷いていました。

「うん、全て宛先は問題ないわ。私たちも手紙を出す用事があるから、纏めて全部出すわ」
「ええっ! あの、良いんですか?」
「ええ、全く問題ないわ。でも、お駄賃の代わりにちょっとレオ君にお願いしたい事があるのよ」

 書いた手紙を全て送ってくれるのはありがたいけど、イレーナさんのお願いって一体何だろう?

「実は、まだ明かせないのだけど夏頃にとある人が我が家にやってくるのよ。出迎えの時に、レオ君も一緒にいて欲しいのよ」
「そのくらいでしたら、全然大丈夫ですよ」
「ふふ、ありがとうね。そのタイミングになったら、また教えるわ」

 どんな人か分からないけど、お出迎えだったら全然問題ない。
 この前も、海軍総司令官のビクターさんをお出迎えしたばっかりだもんね。
 因みに、テーブルの上に出した封筒は、直ぐに執事さんが持っていきました。

「じゃあ、少し私とお喋りしましょう。もう少しすれば、セルゲイとアンジェラのお仕事も一息つくはずよ」
「あ、あの。雨が降りそうなので、これで失礼……」
「あっ、そうそう。雨が降ったら、馬車で宿まで送るわね」

 そして、帰ろうとするナディアさんを、イレーナさんがさらりと笑顔でとめちゃいました。
 結局、お仕事が終わったセルゲイさんとアンジェラさんが合流してお喋りするだけでなく、昼食まで頂いて馬車で送って貰いました。
 宿に帰ると、ナディアさんはお姫様の気分になったと疲れた表情で呟いていました。
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