小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ

文字の大きさ
上 下
119 / 584
第四章 サンダーランド辺境伯領

第二百十四話 男爵夫人様の会心の一撃

しおりを挟む
 バン!

「……ざけるな」
「えっ?」

 男爵様が急に立ち上がったかと思ったら、下を向いて何かブツブツと喋っているよ。
 こ、これはまずい展開かも。
 僕は念の為に、魔法障壁を張る準備をしました。

「ふざけるな! たかが平民のガキのクセして、貴族当主たる儂に歯向かうな!」

 うわ!
 男爵様は目をかっと開いて、ツバを飛ばしながら僕に怒鳴りつけてきたよ。
 これは本当にまずいと思って、シロちゃんを抱きかかえながら僕の前に魔法障壁を張りました。

「このチビが! 思い知らせてやる!」

 男爵様は右の拳を振りかざしてきたので、僕は魔法障壁を展開したまま思わず目を閉じちゃいました。

 バチコーン!

「えっ?」

 そして、物凄い大きな音が聞こえてビクッてなっちゃったけど、魔法障壁には全く衝撃がなかったので僕とシロちゃんは恐る恐る目を開けました。

「ぶほっ……」
「あなた、いい加減にして下さい!」

 目を開けた先には、鼻から血を垂らして崩れ落ちている男爵様と、立ち上がって怒り心頭の男爵夫人様がいました。
 男爵夫人様が拳を振り抜いていたので、あの大きな音は男爵夫人様が男爵様の顔面を殴り飛ばした音みたいです。

「大した統治も出来ないのに、何が貴族当主ですか! レオ君には大物貴族が付いているから、無理を言うのは止めてくださいと言いましたよね?」
「いや、その……」
「いきなり喧嘩腰に話を始めて、断られたら小さい子を殴ろうとする。あなたは、貴族以前に人として最低ですよ!」
「その……」

 うわあ、美人が怒るのって本当に怖いよ。
 男爵様は男爵夫人様のあまりの迫力にビビっているけど、僕もシロちゃんを抱きながらブルブルと震えています。

「フランソワーズ公爵家とマリアージュ侯爵家が本気を出したら、我が家なんか簡単に潰されます。それを分かっているのですか?」
「うっ、うう……」
「あなたは、既に執行猶予の身なのを忘れていたみたいですね。連れて行って下さい」
「はっ」
「ちょっと、謝る、うわあー!」

 目の前で繰り広げられている一方的な夫婦喧嘩に、僕とシロちゃんはポカーンとしちゃいました。
 そして男爵様は、執事さんと部屋に入ってきた沢山の人によって応接室の外に連れ出されました。
 あまりの展開に、頭の処理が追いついていないよ。

「さて、レオ君」
「ひ、ひゃい!」
「この度は、男爵がとんでもない事をして大変申し訳ありません。深く謝罪いたしますわ」

 男爵夫人様に急に名前を呼ばれちゃったので思わず声が裏返っちゃったけど、男爵夫人様が頭を下げて謝罪してくれたので、段々と落ち着きを取り戻しました。

 ぐー。

「あっ!」

 ホッとしちゃったのもあるのか朝食を食べていないのもあるのか、思わずお腹がなっちゃいました。
 恥ずかしくなって顔が真っ赤になった僕に、男爵夫人様が話しかけてきました。

「レオ君、もしかして朝食を食べていないの?」
「あっ、はい。急ぎと聞いたので……」
「レオ君はまだ体が小さいのだから、しっかりと食事を食べないと。食堂で話をしないとね」

 という事で、話の続きは食堂でする事になりました。
 でも、その前にやる事があります。
 僕は男爵夫人様の手を包み込む様に、魔力を込めました。

 キラーン。

「殴った手が赤く腫れていましたよ。無理は駄目です」
「ふふ、これは私への戒めだと思っていたのですが一本取られましたわ」

 何となくお互いの雰囲気も明るくなり、僕もちょっと安心しました。

「改めて。レオ君、夫が大変申し訳無い事をしたわ。深く謝罪いたします」
「謝罪は受け取ります。どうか顔を上げて下さい」
「ありがとう」

 とっても美味しいパンケーキをシロちゃんの分も出してくれた後、改めて男爵夫人様から謝罪を受けました。

「レオ君、悪いけど夫の出身である子爵領に経緯を話さないとならいの。レオ君の次の目的地でもあるから、一緒に行きましょう」
「えっ、良いのですか?」
「良いも何も、こちらが全面的に悪い事だわ。賠償も含めて、色々と話をする事になるわ」

 何だか話が大きくなって来ちゃったけど、ここはキッチリと話をつけた方が良さそうだね。
 僕は冒険者服に着替えて、男爵夫人様と一緒にお隣の子爵領に向かう事になりました。

「お母様、お出かけですか?」
「ええ、お隣のお祖父様の所に行ってくるわ。帰りは、明日になるわ」
「お母様、気をつけて行ってきて下さい」

 玄関では、男爵夫人様の息子さんが挨拶をしてきました。
 年齢は十歳くらいだと思うけど、金髪でハキハキしていてとっても頭が良さそうだよ。
 言い方が悪いけど、間違いなく男爵様ではなくて男爵夫人様に似ているね。

「そして、この子があの有名な黒髪の魔術師のレオ君よ」
「初めまして、レオです」
「うわあ、本当に黒髪の小さな男の子なんだね!」

 男の子は僕の二つ名を聞くと、興奮したように握手をしてくれました。
 シロちゃんとも握手をしてくれたので、やっぱり男の子は良い人ですね。
しおりを挟む
感想 151

あなたにおすすめの小説

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ
ファンタジー
※2025年2月中旬にアルファポリス様より第四巻が刊行予定です  2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。 高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。 しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。 だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。 そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。 幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。 幼い二人で来たる追い出される日に備えます。 基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています 2023/08/30 題名を以下に変更しました 「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」 書籍化が決定しました 2023/09/01 アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります 2023/09/06 アルファポリス様より、9月19日に出荷されます 呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております 2024/3/21 アルファポリス様より第二巻が発売されました 2024/4/24 コミカライズスタートしました 2024/8/12 アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です 2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。