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第一章 新人冒険者

第十八話 パンチの効いた司祭様

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 午後は、予定通り教会での治療を行います。
 教会が食堂兼宿の隣にあるので、移動はとっても楽ちんです。
 私は、教会前で掃除をしているシスターさんに話しかけました。

「すみません、午後からの治療を行う依頼を受けた冒険者のマイです」
「ああ、お話は伺っていますよ。中へどうぞ」

 シスターさんは、わざわざ作業をしている手を止めて私とグミちゃんを教会の中に案内してくれました。
 とっても感じのよいシスターさんですね。

「えーっと、どこかな? シスターシルク様、どこにおりますか?」
「はいはい、私はここですよ」

 シスターさんがある人の名前を呼ぶと、祭壇を掃除している年配のシスターさんが顔をあげました。
 あの年配のシスターさんが、今回の治療の依頼主なのかな?
 私は掃除をしていたシスターさんと別れて、年配のシスターさんのところに行きました。
 すると、年配のシスターさんがいきなり私にぶちかましてきました。

「おや、可愛らしい男の子が来たわね」
「あの、私は女の子なのですが……」
「ほほほ、分かっているよ。ちょっとした冗談じゃよ」

 この年配のシスターさん、ニコニコしながら凄い事を言ってくるよ。
 でも悪意がないと分かっているので、私も苦笑しながら返答しました。
 しかし、年配のシスターがこの後話した内容に私とグミちゃんは更にビックリしちゃいました。

「私が教会の責任者、シルクじゃ。司祭を仰せつかっておるぞ」
「ご丁寧にありがとうございます。私はマイで、このスライムはグミちゃんです」
「礼儀正しい子じゃ。それに、お主の事は息子から聞いておるぞ。息子は、この街のギルドマスターなんじゃ」

 ええっ、あの筋肉がガチムチのギルドマスターがこのシルクさんの息子さん?!
 私はシルクさんと握手しながら、思わず固まってしまいました。
 目の前でニコニコしている小柄な老人と、背の高いギルドマスターが全く結びつかない。
 そして、シルクさんは握手をしたまま更に私がビックリする事を言ってきました。

「ふむ、お主は膨大な魔力をもっているのう。私とは大違いじゃ」
「えっ、シルクさんは魔法が使えるんですか?」
「ほほほ、簡単な治癒魔法だけじゃ。でも、長年の経験で相手の魔力がどのくらいあるかは分かるぞ」

 シルクさんはしてやったりの表情をしていたけど、結構凄い人なのは間違いない。
 ともあれ、挨拶は終わったのでさっそく治療をする事にしました。
 私とグミちゃんは、シルクさんと一緒に教会内を移動します。
 そして、教会の入り口付近にやってきました。

「いつも、入り口から右手にある部屋で治療を行っているぞ。天気が良くて気温も心地よい時は、教会の外で行う事もある。今日は初日だから、ここで治療を行うぞ」

 という事で、私達は机と椅子だけが置いてある簡素な部屋で治療を行う事にしました。
 対面で治療を行うので、椅子を向かい合わせに移動します。
 すると、さっそく小さな子どもを連れたお母さんがやってきました。

「こんにちは。無料奉仕の日なので来ました。あら、今日はシスターシルクが治療をするのではないんですね」
「元気そうじゃのう。今日は、治癒魔法が使える冒険者に治療を依頼したのじゃよ」

 お母さんとシルクさんが仲良さそうに話をしている間に、私は目の前に座った女の子の治療を始めます。
 女の子は五歳くらいで、かさぶたができているけど派手に両膝を擦りむいた痕がありました。
 おしとやかというよりも、元気いっぱいって感じの女の子ですね。

「こんにちは。お膝どうしたのかな? 転んじゃった?」
「うん、走っていたら転んじゃったの」

 かさぶたができつつあるけど、ここは直ぐに治療をした方が良さそうです。
 私は、女の子に軽く魔法を流しました。

「あら、肘も怪我をしているね。転んじゃった時に一緒に怪我しちゃったのかな?」
「そうなの、一緒に怪我しちゃったの」

 元気いっぱいって証拠だけど、この頃の子どもは転びやすいからね。
 私は、女の子に聖魔法の回復魔法をかけました。

 シュイーン、ぴかー。

 私が回復魔法をかけると、女の子の両膝にできていた怪我の痕は綺麗さっぱり無くなりました。
 うんうん、良い感じに治療できた。

「わあ、痛くないよ。お姉さん、ありがとー」
「今度は転ばない様に、気を付けて遊ぶんだよ」
「うん!」

 こうして、最初の患者の治療はあっという間に完了しました。
 しかし、もう一方は話が止まりません。

「最近旦那の帰りが遅いんですよ。また飲み歩いているんじゃないかって、結構心配しているんですよ」
「あらあら、それは困ったわね。そういう時は、娘から父親に聞くのが効果的よ」
「流石はシスターシルクですわ。さっそく今夜娘から旦那に質問させますわ」

 人生相談というか、悩みを聞くのもシスターの一種の仕事みたいです。
 でも良いタイミングで話を切り上げないと、女の子が暇そうにしちゃいますよ。
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