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第十五章 人神教国

第三百二十二話 試食会と全方向モフモフ

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 色々とあった翌日の朝、俺は早速昨日保護した女性の元にいく。

「今日も全力パワー!」
 
 うーん、最低でも一週間は全力治療が必要だな。
 特製ポーションと水分をとってもらって、侍従に後をお願いする。

 今度はチナさんの部屋に移動。
 チナさんが保護したライリーの治療を行う。
 ライリーは随分とチナさんに懐いた様で、一緒に寝ているという。

「うーん、もう少し治療が必要ですね」
「栄養失調の改善も必要ですし、ゆっくりと焦らずですね」

 やはり栄養失調の影響がまだあるので、ライリーも暫くはベットに寝て養生することになった。
 食事は取れるのだが、少しずつ回数を増やして対応する。
 胃が小さいから、一度に沢山は食べられない為だ。
 二人の事は、スラタロウが料理人と共に色々と食事を考えてくれている。
 収穫祭までには、二人とも元気になって欲しい。

「ふー、朝から疲れた」
「お疲れ様です、サトー様」

 食堂に着くと、フローレンスがお茶を入れてくれた。
 外では入園希望者の訓練が再開されていて、元気な声が庭に響いている。
 そんな様子を見ていると、後ろからフローレンスに抱きしめられた。
 座っているから、後頭部に二つの偉大な膨らみがあたっている。
 というか、包まれている。
 そして直ぐに離れていった。

「昨日、エステル様やリン様がサトー様に抱きついたというので私も……」
「アチャー、あいつらバラしたのかよ」
「いえ、マリリさんが。ララちゃんとリリちゃんを使って、実演までしていましたよ」
「おい、何やってるんだよ。あの駄メイドは!」

 少し頬が赤いフローレンスが、色々と裏話を話してくれた。
 くそう、あの時ニヤニヤしていたからな。
 
 朝食を食べて今日も、レイアとともに王城に出勤。
 昨日人神教国と色々あって転生者ということもバレたけど、そんな事は関係なく早速難題が待っていた。 政務は、俺の意見を聞いて待ってくれない。

「サトー、難民となっている元人神教国の住民の扱いを決めないとならない」
「特に国境付近は千人近いですよね。出来れば、一箇所に纏めて管理したいです」
「先日の火山噴火で、避難民が使用した簡易住宅が空いている。一箇所の方が警護もしやすい」
「名簿や今後の希望とかも、難民毎に纏めないといけないですね」

 難民の対応はこれでいいのだが、受け入れ準備もあるので移送は三日後の予定。
 各部局では念の為にと準備がされていたので、直ぐに動き始めた。

 今回の戦闘で収穫にも影響が無かったので、収穫予想もそのまま。
 火山噴火の被害の大きかった四領地でも、試験作付けが行われているという。
 この冬は麦の種まきは行わず、来年春から農業を再開する予定。
 
 後は、北方の未開地の開拓か。
 うまく行けば、ここに旧人神教国の難民を住まわす事ができるかも。
 そんな事を考えつつ、一旦お昼休みに。

「よう、サトーよ。早速大変だな」

 今日もいつも通りに執務スペースの端っこでレイアとお弁当を食べていたら、内務卿が自分のお弁当を持ってきてこちらまできた。

「こんにちは、お元気になったんですね」
「はい、その節は色々と有難う御座いました。今日はお礼もこめて少し持ってきました」

 人神教国の暗殺者に襲われていて大怪我を負った内務卿の娘さんも、内務卿と一緒にやってきた。
 足取りも問題なさそうでよかった。

「私の作ったもので恐縮ですが」
「いえいえ、とても美味しいですよ」
「そうですか、良かった」
 
 普段スラタロウの料理を食べて舌が肥えてしまったが、普通に美味しい。
 こちらもスラタロウの料理をおすそ分け。
 内務卿の娘さんがスラタロウの料理を食べた瞬間、カッと目を見開いた。

「こ、これがあの伝説のスライムの料理。こんなに美味しいのは初めてです」

 内務卿も思わずウンウンと唸っているけど、本当にスラタロウの料理は美味しいよね。

「で、レイアよ。そのデザートは何だ?」

 レイアが、俺の弁当にはなかったケーキの様な物を食べている。
 
「スラタロウの試作品」
「試作品?」
「そう。はい、お姉ちゃんも」
「有難う御座います。うわあ、とても美味しいですよ」

 レイアの弁当に入っていたのは、スラタロウが作ったというケーキ。
 内務卿の娘さんも、少し分けて貰って美味しそうに食べている。

「おい、レイア。俺のは?」
「パパのはない」
「何で!」
「大丈夫。今夜、試食会をするから」

 試食会?
 これは恐らく、昨日ミケが話をしていた猫カフェに繋がるな。
 
「お姉ちゃんもくる? スイーツ食べ放題」
「是非とも行かせて下さい!」
「一名様ご案内」

 そして早速スラタロウの料理の虜になった内務卿の娘さんが、鼻息荒く握りこぶしを作っている。
 内務卿も、思わず苦笑する程の力説っぷりだ。

 そして夕方になると、うちに続々と人が集まってパーティールームに消えていく。
 どう見ても女性ばっかりだ。

「あれはヤバい。お菓子の王国になっている」

 ちらりとパーティールームを見てきた、食いしん坊エステルのテンションが爆上がり。
 それを聞いた子ども達も、一斉にパーティールームを見に行った。
 直ぐに戻ってきて、キャーキャーはしゃいでいる。

「はーい、最後のケーキですよ。準備ができたから、皆で行きましょうね」
「「「やった!」」」

 マリリさんが最後のデザートを持っていくと、喜びのポーズをしながら子ども達がマリリさんの後についていく。
 パーティールームに行くと、集まっているのは女性陣ばかり。
 王妃様達に王太子妃様は勿論のこと、各閣僚の奥様に娘さん達。
 昨日の戦闘で助けて貰った、龍王妃の皆さん。
 勿論、内務卿の娘さんも混じっている。
 流石にスイーツ食べ放題だからなのか、大人の男性陣はお菓子大好きの陛下だけだった。
 そして、その中に異色の存在が。
 バハムートよ、何故お前が混じっている。
 器用に皿とフォークを摘んで、子ども達と共にウキウキとしている。
 そういえば、この間もアイスを器用に食べていたな。
 全員が揃った所で、王妃様が挨拶をした。
 
「皆さんこんばんは。長く続いた人神教国との争いも終わり、いよいよ国内の充実をはかる事となります」
「しかし、必ず社会弱者は発生します。その対策の為に、教会と連携をして新たな寡婦や孤児対策を始めます」
「サトーが提案したおにぎり屋は繁盛していますが、別の視点から新たに支援を始めようと思います。それがモフモフカフェです。内容は検討中ですが、動物と触れ合いながら過ごせるカフェとなります」
「本日は皆さんに、お店で出す予定のスイーツを試食してもらいます。どれもスラタロウが考案した、誰でも簡単に作れるスイーツです。味とかをしっかりと判断して頂きたいのです」

 王都に出したおにぎり屋は、めちゃくちゃ大繁盛。
 ちょうど防壁工事も重なったので、労働者が沢山お店に押し寄せた。
 中には労働者や兵と結婚した店員もいるので、結構効果もでている。
 当分は工事も続くので、客足は途絶えないだろう。
 今度は、少しコンセプトを変えた支援となるという。
 成程、カフェだから男性が苦手な女性でも安心と言うわけだ。
 ミケの話を聞いた王妃様の趣味丸出し案だったらちょっと考えたけど、これだと中々意見が言い難い。

 そして、早速スラタロウ作成のスイーツに人が群がる。
 お店では素人が作るかもしれないが、そこはスラタロウクオリティ。
 俺も幾つか食べたが、本当に美味しい。
 スイーツの側には紙が置いてあり、食べた意見を書くようだ。
 ボリュームとか甘さとか、色々と書かれている。
 そして、バハムートもスイーツを食べたら器用にペンを持って紙に意見を書いていった。
 バハムート、いつの間に文字を書けるようになったの?
 そしてバハムートは、そのまま奥様方とスイーツの意見交換をしている。
 奥様方も、普通にバハムートと話をしているぞ。

「サトー、スイーツ食べないの?」
「良かった。平常がやってきた」
「何のこと?」

 俺の所に、両手に沢山のスイーツを乗せた皿を持つエステルがやってきた。
 バハムートに注目しすぎて、我を忘れていた。
 エステルから少しスイーツを貰い、子ども達の方を見た。
 ライリーも、小さくカットされたスイーツを美味しそうに食べている。
 人神教国で甘い物なんて、絶対になさそうだからな。
 王太子妃様と一緒に来ていたウィリアム様も、美味しそうにケーキを食べていた。
 
「お兄ちゃん、ここでモフモフを再現する!」
「再現? うちに猫はいないぞ」
「だから、他ので試すの!」

 ミケがモフモフを再現するという事で連れてこられたのは、スイーツをお腹一杯に食べて満足している内務卿の娘さん。
 ミケに連れられて、ソファーに座ってもらった。
 膝の上にタオルを敷いて、準備万端。
 内務卿の娘さんの両サイドに、お風呂で洗って綺麗になったモッフモフのベリルとフウがピタリと寄り添う。
 更に膝のタオルの上に、チッチがやってきてコロンとした。
 トドメに肩にショコラがやってきて、体をスリスリ。
 内務卿の娘さんは全方向からのモフモフに、チッチを撫でながらとろける様な表情になった。

「ふふふ、これがモフモフだよ!」
「全方向モフモフ、なんて恐ろしい」
「こんなの、絶対に抗えないわ」

 次々と、うちの従魔を使ったモフモフタイムが始まった。
 シルを抱きしめてみたり、ニー達ニードルラットの針を触ってみたりしていた。
 意外と好評だったのが、スライム軍団に囲まれること。
 モフモフとは違った、ポヨポヨが気持ちいいらしい。

「ふふふ、これは絶対に成功する」
「そうよねレイアちゃん。早速計画を進めないと」

 スイーツの美味しさに加えてモフモフの虜になっている奥様方を見て、レイアと王妃様はモフモフカフェが絶対に成功すると確信していた。
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