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第十三章 王都生活編その2

第二百七十八話 ビンドン伯爵家に対する沙汰其の一

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「おお、着飾ると随分見違えたな」

 二人が謁見用の服に着替えると、普段の印象とは随分と違って見える。
 特にナンシーは、普通に貴族の令嬢に見える。
 服はシルク様の物がピッタリだったので、それを借りた。
 髪も編み込んでいて、印象が変わって見える。

「サトー、どこまで話を聞いている?」
「沙汰の内容は全く聞いていないんだ」
「ふーん、でも捜索は続いているんだよね?」
「何か急ぎの事でも出たのだろう」

 今日はレイアに加えてエステルも同行する事に。
 判決内容は俺も全く聞いていないので、正直何も分からん。
 
「では、行ってきます」

 準備が整ったので、皆を連れていつもの控室にワープする。
 すると、またもやお菓子を食べている陛下と宰相がいた。
 いきなり目の前に偉い人がいて、マイケル君とナンシーはガチガチに緊張してしまった。
 
「これから頭を使うから、栄養補給だ」
「ちなみに閣僚も集まる予定だ」
「それにしても、食べすぎじゃないですか?」
「それに二人が緊張しているよ」

 いつもの事に俺達は慣れているが、まだ二人は緊張しっぱなしだ。
 とりあえず座るように言われたので皆で座るが、二人は目の前の紅茶も飲めない程だ。

「まあ、先に顔を合わせておいて緊張をほぐそうと思ってな」
「お父さん、完全に逆効果だよ」
「ハハハ、二人はこれから沙汰を言い渡されるからな」
「とりあえず、紅茶を飲みましょう」

 紅茶を一口飲んで、二人はやっと一息ついた様だ。
 少し緊張も解れた様だ。

「先に少しネタばらしをしておくが、今回二人を呼んだ件は横領とは全く関係ない。だが、急ぎ話をしないといけないのでな」
「そんな急ぎの事なんですね」
「そうだ。時間の様だから、残りは謁見の間でな」

 そう言って、陛下と宰相は部屋を出ていった。
 俺達も、係に連れられて謁見の間に向かった。
 急ぎの件って何だろう?

「それでは、ビンドン伯爵家に対する沙汰を言い渡す」

 謁見の間についた俺達は、陛下と閣僚がいる前で沙汰を聞くことに。
 陛下からバトンタッチを受けた宰相が、内容を話し始めた。

「一件目は戸籍不法登録が発覚した。ナンシーはビンドン伯爵家次男の娘である事が確定。また年齢も訂正し、今年九歳になる年齢とする」

 これは事前に聞いてから何も問題ない。
 マイケル君とナンシーは、かなり驚いた顔をしている。
 そりゃ、ナンシーが実はマイケル君のいとこだったって事なのだから。

「二つ目なのだが、こちらが急ぎの件だ。ビンドン伯爵の屋敷を捜索中に、大量のネズミがいることが分かった。また、ナンシーや侍従が病気になったのも関連が疑われる」

 おいおい、マジですか。
 それは確かに急ぎの案件だぞ。
 公衆衛生管理違反は、死刑にもなり得る重罪だぞ。
 あのたぬき侯爵の時も、公衆衛生管理違反で判決死刑だったし。
 エステルはあのゴミ屋敷を思い出したのか、とても嫌な顔をしている。

「物品の押収を進め、屋敷の中が空になったのを確認してから徹底的にネズミの駆除を行う事になる。そのために駆除が完了するまで無期限で屋敷を押収し、その間はライズ伯爵にて引き続き保護を継続する」

 うん、これは確かに至急案件だわ。
 俺だって、そんな屋敷に住みたくないわ。
 公衆衛生上、完全にアウトだ。

「ビンドン伯爵家に対する沙汰は、捜査結果を受けて改めて発表する」

 これで謁見は終了。
 先程の控室に、皆で移動する。

「まず先に、ナンシーの事を話すか」
「ナンシーは次男とメイドの間にできた子だ。これは次男が自供している」
「つまり、二人はいとことなる」

 中々事情が飲み込めない二人だ。
 いきなり自分付きのメイドが、実はいとこだったなんて受け入れられないだろう。

「別に、ナンシーはマイケルの専属侍従を辞める必要はない。だが、学園に通って色々な知識を身に着けることは必要だ。二人とも、サトーの所で入園前の勉強をしっかりとやるのだぞ」
「「はい」」

 この件は、少し時間を置いて理解する事が必要だ。
 そして、話は屋敷の事に移った。

「お父さん、もしかしてたぬき侯爵の様なゴミ屋敷?」
「そこまでは行っていない。だけど不衛生であるのは間違いない」

 不衛生であるのは間違いないんだ。
 もしかして、もしかすると。

「サトー達には、前の様に燻す用の薬草を採取してほしい」
「もしかして、その後始末も」
「状況次第だが、その可能性もある」

 エステルとレイアは、再びのゴミ屋敷対応にげんなりした表情をしている。
 俺だって嫌だけど、今回はうちで預かっている子のうちだからな。

 話し合いが終わったので、マイケル君とナンシーとエステルをうちに送っていった。
 直ぐに帰ってきて、俺とレイアは仕事を開始する。
 救助活動中に溜まった書類も片付いたし、少しスッキリ。

「流石にサトーは仕事が早いな。追加だ」
「宰相……」

 今日も夕方まで仕事がたんまり。
 汗水垂らして仕事をこなす。
 そしてようやく終業。
 今日も疲れたと、愚痴をこぼしながらうちに帰宅する。

「おや? 何だか皆ドタバタしている?」
「何だろう?」
  
 メイド達がせわしなく動いている。
 向かう先は二階のパーティールーム。
 まさか。

「サトー、遅いぞ」
「もう食べてますよ」

 そう、うちでマイケル君とナンシーやメイド達を預かることになったので、恒例となっている歓迎パーティーが開かれていた。
 こうなるだろうと思っていたのか、既に陛下や王妃様達も飲み食いしている。
 後で、閣僚なども来るという。
 昼間色々あったばかりなのに、いきなり主役になっているナンシーは特に戸惑っていた。
 それでも料理は美味しいと言ってくれたし、他の人とも会話が弾んでいる。
 今はこうして、楽しんで貰わないと。
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