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第十三章 王都生活編その2

第二百七十六話 急患

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「あー、今日は動きたくない……」

 連日に渡る救助活動も終わり、今日は一日お休み。
 入園希望者の朝の練習はあったけど、それ以外は特にやることなし。
 生憎の雨降りだけど、子ども達もうちの中で遊んでいるから、余計な気を使わなくてよい。
 ということで、ベットの上でグダグダしています。
 休日の惰眠サイコー!
 お休みなさい。
 ぐー。

「お兄ちゃん、お客さんだよ!」
「ぐはぁ!」

 ミケよ、寝ている所にボディプレスはやめてくれ。
 危うく、朝食べたものが全部出そうだったよ。

「お兄ちゃん、大変大変!」
「大変だよ!」
「急患」
「え? 急患だって?」

 レイアの一言で目が覚めたので、準備して下に降りていく。
 
「悪いな、休暇中に」
「軍務卿、どうしたんですか?」

 一階に降りると、軍務卿がいた。
 今日は、ビンドン伯爵の屋敷の家宅捜索に付き合うと言っていたな。
 何でうちにいるんだろう。

「家宅捜索をしていたら、ビンドン伯爵の孫が俺の所にきてな。孫付きのメイドが体調悪いので見てくれと。それで孫とメイドを連れてきたんだよ」
「分かりました、直ぐにみます」

 お屋敷の玄関には担架を持った兵が数人いたので、搬送は終わったのだろう。
 俺は、そのメイドが運ばれた客室に向かった。

「あ、サトー。ちょうど良かった」
「結構熱があって、あまり良くないの」

 部屋の中にはエステルとリンがいて、更にビンドン伯爵の孫と思われる男の子がポロポロと涙を流しながらメイドの様子をみていた。
 確かこの子はドラコと同じ歳で、何をやってもダメダメだった子だ。
 メイドさんは息が荒く、だいぶ辛そうだ。

「ちょっと診ますね」

 そう言ってメイドさんの診察をする。
 肺の辺に淀みがあるな。
 肺炎を起こしているぞ。

「肺炎を起こしていますね。ちょっと危険な状況です」

 俺がそう言うと、男の子が俺の腕を掴んできた。
 涙で顔がぐしゃぐしゃだ。

「お願い、ナンシーを助けて!」
「分かった。君も落ち着いてね」
「うん……」

 相当焦っているけど、それだけ大事なメイドさんなんだ。
 男の子を椅子に座らせて、俺はメイドさんの治療を開始する。
 だいぶ良くないけど、少しずつ肺の淀みが消えていく。
 それにつれて、辛そうにしていたメイドさんの表情も落ち着いてきた。
 だいぶ魔力を使ったけど、無事に回復できた。

「ふう、肺炎は治療できました。ただ、かなり衰弱しているので絶対安静です」
「ねえ、ナンシーは大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。後は、ゆっくり寝て入れば動けるようになるよ」
「ナンシーを助けてくれて有難う」

 男の子はペコっとオジギをした。
 あれ?
 最初会った時のイメージとだいぶ違うぞ。

「元々その子はそれが素だぞ。両親の前では尊大にしていたけど、そのメイドのお陰で根は素直だ」
「そうなんですね。だからこの子はメイドさんの様子を見て、かなり慌てていたんですね」
「ちなみに暫定の調査結果だが、その子とメイドは何も問題ない。悪いが、少しの間面倒を見てくれないか? 流石に家宅捜索でドタバタしている所に置いておく訳にはいかないしな」
「それだと治りも良くないですしね。暫く預かります」
「頼むわ。服とかは持ってこさせる」

 そう言って、軍務卿は家宅捜索に戻っていった。
 念の為に、この子にも治療をかけておいた。

「そう言えば君の名前は?」
「マイケルです」
「そうか、ちょうどこの部屋はベットが二つあるから、ナンシーさんが治るまで一緒にここにいようね」
「うん……」
「大丈夫だよ、ナンシーさんもきっと良くなるから」

 コンコン。

「簡単な食事をお持ちしました。聞けば、朝から何も食べていないと言うことです」

 フローレンスが食事を持ってきてくれた。
 フローレンスがマイケル君の様子を見てくれるそうなので、後は任せて部屋を出た。

「どうだった?」
「病気は治ったけど、暫くは寝ていないと」
「男の子は?」
「マイケル君は、ご飯食べていないからフローレンスがみているよ」
「それは良かったね!」

 子ども達も心配になったのか、部屋の前で待っていた。
 大丈夫と伝えると、少しホッとしていた。
 うるさくしない様にと子ども達に言って、それぞれの部屋に解散させた。
 雨降りだから、パーティールームで遊んでいるそうだ。
 子ども達を解散させると、フローレンスが食器を持って出てきた。
 食器が空の所を見ると、どうやら全部食べてくれたようだ。
 
「フローレンス、どうだった?」
「食事は綺麗に食べてくれました。どうやら、暫くは食べる量が減っていた様で」
「家宅捜索を受けている中では、ゆっくりと食事を取れないですよね」
「ええ。その後、感情が爆発したのか、私に抱きついてわんわん泣き始めて。抱きしめてあげていたら、泣きつかれて寝てしまいました」
「マイケルも疲れているんでしょうね。さっきマイケルも治療したら、風邪っぽかったので。二人とも暫くはゆっくりさせておきましょう」
「それがいいですね」

 心身の疲れがあるのだろう。
 食事もとったし、ゆっくりとさせておこう。
 しかし、個人的にはフローレンスの立派なお胸に抱かれるのは羨ましいぞ。

「ということで、暫くの間二人を療養目的で預かります。二、三日はゆっくり養生させて上げてください」
「「「はーい」」」

 昼食の時に、皆に説明をしておいた。
 ナンシーさんは当分絶対安静安静だし、マイケル君も二、三日は安静にしないと。

「ドラコ、もしマイケル君が朝訓練に参加しようとしても、暫くは見学だな」
「了解だよ。他の人にも伝えておく」

 これで、もしマイケル君が朝訓練に参加しようとしても、無理をさせないで済む。
 後は、当人達の回復次第だな。

 兵が着替えを持ってきてくれたので、二人の寝ている部屋に置いておく。
 足りなければ足せば良いわけだし、そこは気にしないでおこう。
 兵と一緒に来た軍務卿が、色々と話をしてくれた。
 
「あと一週間は捜索しないとならないが、罪を受ける対象は絞り込めた」
「やはり、これだけの犯罪規模になると、捜査も時間がかかりますね」
「ああ。陛下にも報告してあるが、ビンドン伯爵家はあの子どもを除いて全員有罪だな。勿論伯爵夫人に嫡男夫人も含む」
「また随分とやらかしましたね」
「各部屋から沢山の宝石と美術品が出てきた。だいぶ昔から横領があったのたろう。メイドへの虐待も発覚したので、これから連れてくる」
「連れてくるって、どこにですか?」
「勿論ここにだ。ミミの善悪検査で、大丈夫と判断された人物だ」
「いや、そういう事ではないのですが……」

 追加のメイドさんが来るので、空いている侍従用の部屋を準備した。
 連れてこられたメイドさんは五人で、全員ムチで叩かれた様な跡があった。
 家人による侍従虐待は禁止されているので、勿論この件も罪に追加されるという。
 ムチで叩かれた跡がケロイド状になっているので、何回かに分けて治療しないといけない。
 更に満足な食事も取れてなかったので、温かい食事も出した。
 メイドさん達も疲れていたのか、治療と食事をとったら直ぐに寝てしまった。

「メイドさん寝ちゃった?」
「寝ちゃったよ。だからうるさくしないでね」
「分かった。図書室で絵本読んでいるよ」

 子ども達も、メイドさんに気を使っている。
 今は元気になったけど、あの子ども達もつらい目にあったからな。

 夕方になって、マイケル君とナンシーさんが目を覚ましたと連絡があったので、二人のいる部屋に入った。
 部屋に入ると、ナンシーさんに抱きついてわんわん泣いているマイケル君と、少し困った顔をしながらマイケル君の頭を撫でているナンシーさんがいた。

「ナンシーさん、目が覚めたのですね。診察しますね」
「サトー様。色々と有難う御座います。それから、私の事はナンシーと呼んでください」

 そういう事なので、ナンシーと言い方を変えながら診察をした。
 まだ少し肺に影があったので治療を行い、併せてマリリさん特製のポーションを飲んで貰った。
 生活魔法で、ナンシーの体を綺麗にしておく。
 これで明日の朝にはだいぶ良くなっているはずだ。

「マイケル君、ナンシーはもう山を越えたよ。後はしっかり休めば元気になるから」
「本当ですか?」
「本当だよ。だからマイケル君も、しっかりと休んで元気にならないとね」
「はい!」

 夕食はこの部屋でナンシーと一緒に食べたいと言うことなので、食事を運んで貰った。
 スラタロウ特製の、体に優しい栄養満点の食事だ。
 マイケル君は、料理の美味しさにビックリしつつ全部食べてくれた。 ナンシーはお粥だけど、こちらも完食したようだ。
 二人とも、食事をとったらすぐ眠くなって寝てしまった。
 今日は、ゆっくりと休んでほしい。

「サトー、二人はどうだった?」
「ご飯食べたら、また寝たよ」
「そっか。それなら良かった」

 ドアをあけると、エステルが待っていてくれた。
 朝の危ない状態をみているから、心配なのだろう。
 食器を片しながら食堂に向かった。

「お兄ちゃん、どうだった?」
「もう大丈夫だよ。ご飯食べたら、直ぐに寝ちゃった」
「そっか、それなら良かった」
  
 食堂に行くと、子ども達が色々と聞いていた。
 俺が大丈夫だと教えたら、ホッとしていた。
 今日は、子ども達に色々と気を使わせてしまったな。
 明日仕事の時に、宰相に色々報告しよう。
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