異世界転生したので、のんびり冒険したい!

藤なごみ

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第十一章 帝国編

第二百二十六話 ソフィー皇女が王国に来た理由

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 コンコン。

「ソフィー、入ってもいい?」
「どうぞ」
 
 エステルが、部屋で休んでいるソフィー皇女に声をかけた。
 エステルと俺の他に、リンとフローレンスが部屋に入る。
 部屋を訪れるには、人数が少ない方が良いだろうとの事になった。
 許可の声を聞いてから部屋の中に入ると、ベットサイドに腰掛けているソフィー皇女の姿があった。
 オーウェン皇子とベラ皇女は、ベットの中ですやすやとお昼寝中。
 朝から色々あった上にお腹も一杯になったので、眠くなったのだろう。
 ソフィー皇女はそんな二人の頭を撫でながら、こちらを向いていた。

「お腹一杯になったのかな?」
「そうですわね。それに初めての国外と言うのもあって、緊張していたのかもしれません」

 少し笑顔になったソフィー皇女が、エステル殿下に話しかけていた。

「エステル王女。今回の件をお聞きしたいのですよね」
「まあね。でも、無理にとは言わないよ」
「いえ、いずれは話さないといけない事ですから」

 という事で、フローレンスに紅茶を入れてもらい、話をする事に。
 紅茶を一口飲んでから、ソフィー皇女は話し始めた。

「先ず、帝国の現状についてお話します」
「第一皇妃と第二皇妃の勢力争いという話しだったっけ?」
「今はその状況が変わりました」

 陛下からの話から変わっているのか。
 一体どんな話なのだろうか。

「始めに伝えますが、私達皇帝の一族は皆仲が良いです。第一皇妃様も第二皇妃様も、勿論母も仲は良いです。皇妃様の実家同士が、争っている状態でした」

 前世のドラマや小説にもあったけど、次期皇帝の親類となって大きな力を得る。
 帝国でもやはりあったか。

「実は第三の勢力が出てきました。新興の内務大臣の勢力です。恐らく二つの勢力争いをして疲弊したところを、一気に落とそうとする気かと」
「元々この第三勢力が本命だったのかもしれないですね。そして、裏には全て人神教国が繋がっていると」

 ソフィー皇女は頷いた。
 人神教国はどの勢力に転んでもうまみがあるのか。
 
「そして、一ヶ月前に事件が起きました。父上と兄二人の食事に毒が盛られ、意識不明になってしまったのです」
「「「!」」」

 これには、俺達もビックリ。実力行使に来たのか。
 これはどう考えても、内務大臣の勢力が関係している。
 しかも毒を使うあたり、人神教国で間違いなさそうだ。

「現職の皇帝、そして次期皇帝候補の兄達の意識がないため、政局は混乱の極みにあります。ただ、内務大臣は殺すつもりで毒を盛ったようですが、皇族一族は帝国の北にある白龍の血を継いでいるといわれていて毒に強く、何とか持ちこたえています」
「そして今度は、唯一元気なオーウェン皇子をターゲットにしたわけか」
「はい……」
「ソフィー……」

 ソフィー皇女はもう涙が止まらなくなり、固く拳を握りしめている。
 そんなソフィー皇女の背中を、エステルが優しく撫でていた。
 人神教国が、とうとう実力行使に出てきたとは。
 ソフィー皇女は涙を拭いて、改めて話しだした。

「私が王国に来た目的は三つあります。一つ目はオーウェンとベラの身の安全の確保。二つ目は毒の治療のために、王国に現れたという救国の聖女様にお会いする事。三つ目は白龍王様の支援を得たいので、赤龍王様もしくは海龍王様にお会いしたいのです」
「そ、そうなんだ」
「白龍王様は未だに大きな影響力を持っております。または父上だけでも目覚めれば、状況は大きく変わるかと。しかしどうやって探せばいいか全く分からず、王都に行けば聖女部隊というものがあると聞いたので何か分かればと」

 ソフィー皇女は俯いてしまった。 
 聖女と龍王の居場所を探す方法が無いと思っているのだろう。
 俺達は顔を合わせて、軽く相談した。
 先ずは関係者を呼んでこよう。

「成程、そのような背景があったとは」
「色々隠していて申し訳ございません」
「いや、そのような事情ならしかたあるまい」

 ソフィー皇女が情報を隠していた事を陛下に謝罪するが、この場はしょうがない。
 さて、どうやって色々話そうか。
 と、ソフィー皇女の視線がドラコ達の方を向いている。

「あれは、もしかして龍ですか?」
「そうですよ、子どもの龍は我が家に逗留していて、大きいのが母親になります」
「私、龍は初めてみました」
「あれ? 先程の食堂でも一緒に食事を食べていましたよ」
「すみません、緊張していてあまり覚えてなく」

 先程は襲撃があった直後だからね。気を張っていたのだろう。
 という事で、ドラコ達を呼び寄せた。

「こちらがうちに逗留している子達です。髪が赤いのがドラコ、白いのがシラユキ、青いのがルシアです。船が襲撃あった時に、救助活動もしています」
「そうですか、危ない所を助けて頂き有難うございます」
「それで大人の方ですが、赤い髪の方がドラコの母親でシラユキの血縁の方になり、青い髪の方がルシアの母親になります」
「ドラコの母親です。赤龍王妃でもあるな。しかし、とんでもない奴らだな。こんな小さい双子を殺そうとするなんて」
「ルシアの母親だ。海龍王妃もやっている。さっきは派手にドンパチやっていたけど、そんな裏があったとは」
「え、赤龍王妃様に海龍王妃様?」

 あ、ソフィー皇女の目が点になった。
 探していた人物の関係者が、いきなり目の前に現れたのだから。

「ドラコとシラユキを連れていけば大丈夫だろう。シラユキは白龍王の血縁だし、ちょうど両親が白龍王の所に旅行に行っている」
「うちも旦那に言っておくよ。それにルシアがいれば、白龍王も分かるだろう」
「あ、有難うございます」

 課題の一つが一気に解決してしまったので、ソフィー皇女は呆気に取られていた。
 まあ、ドラコの父親には合わせられないからちょうど良かったのかもしれないな。
 そして、エステルが気まずそうにソフィー皇女に話しかけた。

「ソフィー、呆気に取られている所悪いけど、実は私達が聖女部隊なの」
「え、えー!」

 今度はビックリをして叫び声を上げたソフィー皇女。
 エステルが証拠として聖女部隊の紋章が刻印された剣を見せると、ソフィー皇女は剣を持ちながら開いた口が塞がらなかった。

「ちなみに勇者ミケと知の令嬢って知っている?」
「勿論、聖女様と共に様々な武功を打ち立て、各地の復興をなし得たという」
「ここにいるミケとレイアが、その勇者と知の令嬢なの」
「ということなの! 悪い人はやっつけるよ!」
「王国の事を色々話す。その代わりに帝国の事も話して」
「はっ? え?」

 目の前に現れた小さな勇者と知の令嬢に、ソフィー皇女はわけが分からずにいる。
 聖女部隊と勇者に知の令嬢までいるとなると、ここに聖女がいるはず。
 でもその正体が俺だと分かったら、ソフィー皇女が受け止めきれないかも。

「そ、それでは、もしかしたら聖女様もこの中に?」

 恐る恐るソフィー皇女が聞いてきたら、皆が一斉に俺の方を指さした。

「は、え? サトー様は男性ですよ?」
「ソフィー、実は聖女はサトーが女装した姿の」
「え、え? それでは、聖女様はサトー様?」
「そうだよ。龍が侵された毒も解毒したことあるから、今回も大丈夫だよ」
「は、はあ」

 あ、とうとう脳処理のキャパシティを超えたのか、ソフィー皇女が固まってしまった。
 他の人は仕方ないなという表情だ。
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