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第十一章 帝国編

第二百十九話 ミケの偽物?

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「サトー達にはノースランド公爵と共に、国境で皇女を出迎えて欲しい」

 との陛下の指令により、俺達は王都の北にあるノースランド公爵領に向かうことになった。
 王国の北にある帝国はノースランド公爵領と国境を接している。
 周辺には少数民族の村があり、エルフや天使族に悪魔族もいるという。
 ノースランド公爵は、そんな少数民族を手厚く保護しているという。
 流石ダンディな公爵だけある。

 ということで、今回は俺とミケとララとリリとレイアのメンバーでノースランド公爵領に向かう。
 エステルはフローラ様のブートキャンプから帰ってきていないし、リンは俺が不在の代理を務める。
 ビアンカ殿下は自分の誕生パーティーの準備があるし、来年入園する子達も勉強があるので今回はついていかない。

「「「「行ってきまーす!」」」」

 ミケ達の声でお屋敷を出発し、一路北へ向かう。
 王都からノースランド公爵領に向かう街道の途中には、いくつもの小規模領地が存在する。
 レイアは現地視察も兼ねているので、宿場町に着くたびに色々な事をメモしている。

「お兄ちゃん、この果物美味しいね!」
「桃が売っていたよ!」
「さくらんぼもあった!」

 他の子は、旬を迎えた沢山の果物に夢中になっている。
 夏が近いので、宿場町では北方で取れる果物が沢山売られていた。
 俺も皆のために、果物を買いだめしておく。
 夏野菜もあるな、これも料理に使えそう。
 
 そうしていくつかの宿場町を視察しながら抜けると、段々と畑が広がる光景に変わっていった。
 王国ではどこもそろそろ麦の収穫だから、アルス王子とルキアさんの結婚式はその前にやろうってわけだ。
 ブルーノ侯爵領は麦の一大産地だから、収穫になったら忙しいだろうな。
 そうこうしている内に夕方になったので、近くの宿場町に寄ることに。
 小さな男爵領の宿場町なので、施設も最低限の物しかない。

「「「「ここにする!」」」」

 二軒しかない宿の内、ミケ達が選んだのは昔からありそうな古い宿だった。
 隣は建物も新しくて人も多く入っているが、何故ミケ達はここを選んだのだろうか?

「いらっしゃい。食事かい? それとも泊まりかい?」

 宿は食堂併設なのか、年配の方が集まって食事をしている。
 威勢のいいおばちゃんが接客してくれた。

「えっと、食事と泊まりで。馬も大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。裏庭に厩舎があるからとめておいで」
「有難うございます」
「部屋はどうするんだ?」
「「「「一緒のベットがいい!」」」」
「そうかいそうかい。二階の突き当りならベットが大きいからお勧めだよ」

 宿のおばちゃんは、子ども達にニコニコ笑いながら接客していた。
 年配の方が食べている料理も美味しそうだし、案外当たりかもしれない。
 馬を厩舎に入れて飼い葉と水をやり、回復魔法をかける。
 今日はそんなに爆走していないから、蹄も綺麗だ。
 部屋に荷物を置いてきて食堂に戻ると、料理も用意されていた。

「さあ、沢山お食べ」
「「「「頂きます!」」」」

 子ども達は、早速料理を食べている。
 俺も一緒に食べるが、素朴な田舎料理で中々美味しい。
 子ども達も、夢中になって食べている。
 
「いい食べっぷりだね」
「普段も結構食べまして」

 おばちゃんが子ども達の食べっぷりに笑顔だ。
 体格の割に食べるからな。

「隣の宿は沢山人が入っていましたけど、新しくできたのですか?」
「いや、最近改築した様だよ。何でも王都の勇者様御用達って噂だよ」

 おい、ミケの名前を騙った詐欺商売かよ。
 だから子ども達もこっちを選んだんだ。

「勇者様ってどんな人?」
「あたしゃ一回だけしか見たことないけど、筋肉隆々でスキンヘッドな大男って感じだよ。勇者様は猫獣人の少女って噂だから、おかしいと思っているんだ」
「ふーん、そうなんだ」

 ミケがおばちゃんに偽勇者様の特徴を聞いたけど、全くもって似ていない外見だ。
 少しは噂に似せた姿にしろよ。
 なんだよ、スキンヘッドって。

「偽物ってどんな人だろう」
「髪の毛ないんだよね?」
「ツルツルなんだよね?」
「逆に興味ある」

 夕食後、子ども達は偽物勇者様に興味を持ってしまった。
 余りにも似ていないというので、会ってみたいらしい。
 かくいう俺も、偽物勇者様に会ってみたい。
 ということで、隣の宿に行ってみることに。
 大きな三階建ての宿だけど、この小さな男爵領で採算性があるか疑問になる。 
 前世でも田舎の自治体が豪華な箱物を作って失敗していたけど、そんな感じだった。

「今日、勇者様が泊まっているらしいぞ」
「何でも知の令嬢様もいるって噂だ」

 街の若者が何かを話しながら、豪華な宿に入っていった。
 皆で顔を見合わせた。
 まさかレイアの偽物もいるとは。

「レイアの偽物ってどんな感じだろう」
「すごく興味がある!」
「楽しみ!」
「わくわく」

 ミケだけでなくレイアの偽物もいるとは。
 子ども達のテンションは更に上がっていった。
 俺もちょっとドキドキしている。

「いらっしゃいませー」

 宿に入ると、一階は若者が多くいてバーの様な雰囲気だった。
 お客の目当てはやはり勇者様と知の令嬢らしく、今か今かと現れるのを待っていた。

「おお、やってきたぞ」
「やはり、勇者の名にふさわしい肉体だ!」

 まず偽勇者様が出てきた。
 筋肉隆々のスキンヘッドで傭兵上がりに見える。
 見た目はすごく強そうだけど、ミケの要素が全く無い。

「おお、知の令嬢が現れたぞ」
「美しい……」

 そしてレイアの偽物も現れた。
 うーん。確かに綺麗だけど、銀座のバーのママって感じだ。
 
 偽勇者様は筋肉自慢を始めたが、これが思いのほかお客に受けていた。
 子ども達もパフォーマンスにキャッキャしている。
 芸人としてはそれなりに腕があるかもしれない。
 そして自称知の令嬢は、完全にホステスだな。
 お酒を注がれた若者が、自称知の令嬢を見てデレデレしている。
 うーん、二人の名を騙っているので場合によっては捕縛することも考えたけど、何だかこれも悪くはないと思った。
 とりあえず話だけでも聞いてみよう。

 場も十分に温まり、二人も引っ込んで若者も各自でお酒を飲んでいたので、宿の人っぽい人に声をかけた。

「あの、すみません」
「はい、何でしょうか?」
「先程のお二人に、取材させて欲しいのですが?」
「ええ、良いですよ」

 俺がキッチリした服を着ていたのもあってか、本当の取材と勘違いした宿の人が快諾してくれた。
 
「すみません、突然お願いして」
「いえいえ、王都の方が取材に来るなんて、こんな田舎では滅多にありませんので」

 控室に案内してくれたので、俺だけでなく子ども達も同席した。
 子ども達は余程筋肉芸が面白かったのか、スキンヘッドに目をキラキラさせていた。

「最初にお断りします。私達は貴族です」
「えっ、貴族様ですか?」

 応対してくれた宿の主人は、かなりビックリしていた。
 まさか貴族だとは思わなかったのだろう。

「ミケだよ!」
「ララです」
「リリです」
「レイア」

 子ども達が先に自己紹介を始めてしまった。
 ミケとレイアは貴族証も出している。
 宿の主人と偽物二人は、目の前の子どもの正体に気がついたようだ。
 顔が青くなり、言葉もなく子ども達を見つめていた。
 
「その、そういう事です。俺はライズ伯爵。聖女部隊と言えばおわかりになるかと思いますが」

 そして、俺の正体を明かすと宿の主人はいきなり土下座をしてしまった。

「申し訳ございません。どうかお許しを」
「親父が悪いんじゃねえ、俺等も一緒だ」
「そうだよ、死ぬときは一緒だよ」

 えーっと、突然の修羅場に俺達はポカーンとなってしまった。
 子ども達もあ然としている。
 とりあえず落ち着いて貰おう。

「お恥ずかしい所をお見せして、大変申し訳ございません」
「いえいえ、俺達も紹介の仕方が悪かったです。別に取り締まりにきているし訳ではありませんので」
「そう言って頂けると助かります」

 ようやく落ち着いてくれた宿の主人から、色々話を聞いた。
 何でも、前から集客を上げるために改装を計画していたらしい。
 そこに現れたのがワース金融という金貸し。
 大陸随一という触れ込みの元、ついお金を借りてしまったという。
 宿は無事に改装出来たが、そこに蛇のように絡みつくワース金融。
 法定の利息を完全に無視した利息を請求し、どんどんと運転資金がなくなっていく。
 仕方なく始めた主人の息子と娘のショーがヒットし、何とか食い扶持を保てているという。

「しかし、奴らは最近は夜ごと売上金を持っていってしまい、もう限界なんです」

 宿の主人は号泣している。
 これはかなり悪どい金貸しだな。
 ミケ達もかなり怒っている。

「レイア、確かワース金融ってこの間規制したよな?」
「ワース商会の派生会社。最近奴らは金貸しに力を入れている」

 うーん、奴らはゴキブリみたいに本当にしつこいな。
 せっかくワース商会を王国から駆逐したのに、看板替えて営業するなんて。
 ここで、どう見ても盗賊な男を引き連れたワース金融のやつだと思われるのが、遠慮なく控室に入ってきた。

「おい、親父。金はできたか?」
「おかしいですよ。既に今月分は払ってあります」
「ふん、そんなのどうでもいい。また売上金貰っていくぞ」
「それは勘弁を。仕入れができなくなる」
「なら娘を連れて行くだけだな」

 前世の時代劇の一コマを見ている様だな。
 目の前にいるのは、それ以上の悪人だけと。
 ニヤニヤしている男の前に、ミケ達がいた。
 あ、これは完全に怒っているな。
 怒のオーラが溢れ出ている。

「「「「やっつける!」」」」
「あ、なんだ? チビはあっち……、ぶげら!」

 あっという間に、ミケ達にノックアウトされたワース金融の一味。
 そのまま縄で縛って、王都にワープして騎士団に引き渡してきた。

 戻ると、ミケが何か書類を書いていた。
 書いた書類を主人に渡していた。
 
「これを王都の財務局に出して。今までのお金が精算されるから」
「有難うございます。有難うございます」

 不正な借金に違法な取り立てだったから、財務局で色々対応してくれる。
 レイアの名前も書いてあるから、大丈夫だろう。
 宿の主人は、また号泣しながらレイアに感謝していた。

「後は二人のプロデュース」
「私達のですか?」
「そう」

 レイアはそのまま、スキンヘッドに話しかけた。

「そのままレイア達の名前を使うのは駄目だから、少し変える」 
「例えば?」
「勇者公認の筋肉芸とか」
「それなら全然オッケーだよ!」
「本当に面白かったし」
「お姉さんもちょっと変えれば大丈夫だよ!」

 子ども達も少し名前を変えれば大丈夫と、太鼓判を押した。
 実際に中々の物だし、類似商法なら問題ない。
 子ども達も、一緒になってアイデアを出していた。
 この分ならもう大丈夫だろう。

「あら、遅かったじゃない。随分とゆっくりね」

 宿に戻ると、おばちゃんが迎えてくれた。
 こちらの食堂も残っている人はちらほらなので、食堂もおしまいなんだろう。
 おばちゃんに挨拶をしながら、部屋に戻った。

「済まない、助かる……」

 翌朝、ここの領主である男爵に話をしにいった。
 迎えてくれた男爵は、げっそりとかなりやつれていた。
 急いで治療して話を聞くと、この領主もワース金融の魔の手に侵されていた。
 支払いの心労で胃が痛いという。
 昨日捕まえたのが取り立てに着ていたというので、この領主も併せて財務局に連絡した上で軍の派遣を要請した。
 この男爵では、手におえないのは目に見えていた。
 
「人神教国が何か企んでいるのか」
「分からない。でも暫くは注視しないと」

 ノースランド公爵領へ馬車を走らせながら、レイアと話をした。
 闇金に手を出しているのは間違いなさそうなので、王城に戻ったら関係者と協議をしないと。
 ちなみに男爵領は勇者公認の筋肉芸が大ヒットし、沢山のお客が訪れる様になった。
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