219 / 394
第十一章 帝国編
第二百十九話 ミケの偽物?
しおりを挟む
「サトー達にはノースランド公爵と共に、国境で皇女を出迎えて欲しい」
との陛下の指令により、俺達は王都の北にあるノースランド公爵領に向かうことになった。
王国の北にある帝国はノースランド公爵領と国境を接している。
周辺には少数民族の村があり、エルフや天使族に悪魔族もいるという。
ノースランド公爵は、そんな少数民族を手厚く保護しているという。
流石ダンディな公爵だけある。
ということで、今回は俺とミケとララとリリとレイアのメンバーでノースランド公爵領に向かう。
エステルはフローラ様のブートキャンプから帰ってきていないし、リンは俺が不在の代理を務める。
ビアンカ殿下は自分の誕生パーティーの準備があるし、来年入園する子達も勉強があるので今回はついていかない。
「「「「行ってきまーす!」」」」
ミケ達の声でお屋敷を出発し、一路北へ向かう。
王都からノースランド公爵領に向かう街道の途中には、いくつもの小規模領地が存在する。
レイアは現地視察も兼ねているので、宿場町に着くたびに色々な事をメモしている。
「お兄ちゃん、この果物美味しいね!」
「桃が売っていたよ!」
「さくらんぼもあった!」
他の子は、旬を迎えた沢山の果物に夢中になっている。
夏が近いので、宿場町では北方で取れる果物が沢山売られていた。
俺も皆のために、果物を買いだめしておく。
夏野菜もあるな、これも料理に使えそう。
そうしていくつかの宿場町を視察しながら抜けると、段々と畑が広がる光景に変わっていった。
王国ではどこもそろそろ麦の収穫だから、アルス王子とルキアさんの結婚式はその前にやろうってわけだ。
ブルーノ侯爵領は麦の一大産地だから、収穫になったら忙しいだろうな。
そうこうしている内に夕方になったので、近くの宿場町に寄ることに。
小さな男爵領の宿場町なので、施設も最低限の物しかない。
「「「「ここにする!」」」」
二軒しかない宿の内、ミケ達が選んだのは昔からありそうな古い宿だった。
隣は建物も新しくて人も多く入っているが、何故ミケ達はここを選んだのだろうか?
「いらっしゃい。食事かい? それとも泊まりかい?」
宿は食堂併設なのか、年配の方が集まって食事をしている。
威勢のいいおばちゃんが接客してくれた。
「えっと、食事と泊まりで。馬も大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。裏庭に厩舎があるからとめておいで」
「有難うございます」
「部屋はどうするんだ?」
「「「「一緒のベットがいい!」」」」
「そうかいそうかい。二階の突き当りならベットが大きいからお勧めだよ」
宿のおばちゃんは、子ども達にニコニコ笑いながら接客していた。
年配の方が食べている料理も美味しそうだし、案外当たりかもしれない。
馬を厩舎に入れて飼い葉と水をやり、回復魔法をかける。
今日はそんなに爆走していないから、蹄も綺麗だ。
部屋に荷物を置いてきて食堂に戻ると、料理も用意されていた。
「さあ、沢山お食べ」
「「「「頂きます!」」」」
子ども達は、早速料理を食べている。
俺も一緒に食べるが、素朴な田舎料理で中々美味しい。
子ども達も、夢中になって食べている。
「いい食べっぷりだね」
「普段も結構食べまして」
おばちゃんが子ども達の食べっぷりに笑顔だ。
体格の割に食べるからな。
「隣の宿は沢山人が入っていましたけど、新しくできたのですか?」
「いや、最近改築した様だよ。何でも王都の勇者様御用達って噂だよ」
おい、ミケの名前を騙った詐欺商売かよ。
だから子ども達もこっちを選んだんだ。
「勇者様ってどんな人?」
「あたしゃ一回だけしか見たことないけど、筋肉隆々でスキンヘッドな大男って感じだよ。勇者様は猫獣人の少女って噂だから、おかしいと思っているんだ」
「ふーん、そうなんだ」
ミケがおばちゃんに偽勇者様の特徴を聞いたけど、全くもって似ていない外見だ。
少しは噂に似せた姿にしろよ。
なんだよ、スキンヘッドって。
「偽物ってどんな人だろう」
「髪の毛ないんだよね?」
「ツルツルなんだよね?」
「逆に興味ある」
夕食後、子ども達は偽物勇者様に興味を持ってしまった。
余りにも似ていないというので、会ってみたいらしい。
かくいう俺も、偽物勇者様に会ってみたい。
ということで、隣の宿に行ってみることに。
大きな三階建ての宿だけど、この小さな男爵領で採算性があるか疑問になる。
前世でも田舎の自治体が豪華な箱物を作って失敗していたけど、そんな感じだった。
「今日、勇者様が泊まっているらしいぞ」
「何でも知の令嬢様もいるって噂だ」
街の若者が何かを話しながら、豪華な宿に入っていった。
皆で顔を見合わせた。
まさかレイアの偽物もいるとは。
「レイアの偽物ってどんな感じだろう」
「すごく興味がある!」
「楽しみ!」
「わくわく」
ミケだけでなくレイアの偽物もいるとは。
子ども達のテンションは更に上がっていった。
俺もちょっとドキドキしている。
「いらっしゃいませー」
宿に入ると、一階は若者が多くいてバーの様な雰囲気だった。
お客の目当てはやはり勇者様と知の令嬢らしく、今か今かと現れるのを待っていた。
「おお、やってきたぞ」
「やはり、勇者の名にふさわしい肉体だ!」
まず偽勇者様が出てきた。
筋肉隆々のスキンヘッドで傭兵上がりに見える。
見た目はすごく強そうだけど、ミケの要素が全く無い。
「おお、知の令嬢が現れたぞ」
「美しい……」
そしてレイアの偽物も現れた。
うーん。確かに綺麗だけど、銀座のバーのママって感じだ。
偽勇者様は筋肉自慢を始めたが、これが思いのほかお客に受けていた。
子ども達もパフォーマンスにキャッキャしている。
芸人としてはそれなりに腕があるかもしれない。
そして自称知の令嬢は、完全にホステスだな。
お酒を注がれた若者が、自称知の令嬢を見てデレデレしている。
うーん、二人の名を騙っているので場合によっては捕縛することも考えたけど、何だかこれも悪くはないと思った。
とりあえず話だけでも聞いてみよう。
場も十分に温まり、二人も引っ込んで若者も各自でお酒を飲んでいたので、宿の人っぽい人に声をかけた。
「あの、すみません」
「はい、何でしょうか?」
「先程のお二人に、取材させて欲しいのですが?」
「ええ、良いですよ」
俺がキッチリした服を着ていたのもあってか、本当の取材と勘違いした宿の人が快諾してくれた。
「すみません、突然お願いして」
「いえいえ、王都の方が取材に来るなんて、こんな田舎では滅多にありませんので」
控室に案内してくれたので、俺だけでなく子ども達も同席した。
子ども達は余程筋肉芸が面白かったのか、スキンヘッドに目をキラキラさせていた。
「最初にお断りします。私達は貴族です」
「えっ、貴族様ですか?」
応対してくれた宿の主人は、かなりビックリしていた。
まさか貴族だとは思わなかったのだろう。
「ミケだよ!」
「ララです」
「リリです」
「レイア」
子ども達が先に自己紹介を始めてしまった。
ミケとレイアは貴族証も出している。
宿の主人と偽物二人は、目の前の子どもの正体に気がついたようだ。
顔が青くなり、言葉もなく子ども達を見つめていた。
「その、そういう事です。俺はライズ伯爵。聖女部隊と言えばおわかりになるかと思いますが」
そして、俺の正体を明かすと宿の主人はいきなり土下座をしてしまった。
「申し訳ございません。どうかお許しを」
「親父が悪いんじゃねえ、俺等も一緒だ」
「そうだよ、死ぬときは一緒だよ」
えーっと、突然の修羅場に俺達はポカーンとなってしまった。
子ども達もあ然としている。
とりあえず落ち着いて貰おう。
「お恥ずかしい所をお見せして、大変申し訳ございません」
「いえいえ、俺達も紹介の仕方が悪かったです。別に取り締まりにきているし訳ではありませんので」
「そう言って頂けると助かります」
ようやく落ち着いてくれた宿の主人から、色々話を聞いた。
何でも、前から集客を上げるために改装を計画していたらしい。
そこに現れたのがワース金融という金貸し。
大陸随一という触れ込みの元、ついお金を借りてしまったという。
宿は無事に改装出来たが、そこに蛇のように絡みつくワース金融。
法定の利息を完全に無視した利息を請求し、どんどんと運転資金がなくなっていく。
仕方なく始めた主人の息子と娘のショーがヒットし、何とか食い扶持を保てているという。
「しかし、奴らは最近は夜ごと売上金を持っていってしまい、もう限界なんです」
宿の主人は号泣している。
これはかなり悪どい金貸しだな。
ミケ達もかなり怒っている。
「レイア、確かワース金融ってこの間規制したよな?」
「ワース商会の派生会社。最近奴らは金貸しに力を入れている」
うーん、奴らはゴキブリみたいに本当にしつこいな。
せっかくワース商会を王国から駆逐したのに、看板替えて営業するなんて。
ここで、どう見ても盗賊な男を引き連れたワース金融のやつだと思われるのが、遠慮なく控室に入ってきた。
「おい、親父。金はできたか?」
「おかしいですよ。既に今月分は払ってあります」
「ふん、そんなのどうでもいい。また売上金貰っていくぞ」
「それは勘弁を。仕入れができなくなる」
「なら娘を連れて行くだけだな」
前世の時代劇の一コマを見ている様だな。
目の前にいるのは、それ以上の悪人だけと。
ニヤニヤしている男の前に、ミケ達がいた。
あ、これは完全に怒っているな。
怒のオーラが溢れ出ている。
「「「「やっつける!」」」」
「あ、なんだ? チビはあっち……、ぶげら!」
あっという間に、ミケ達にノックアウトされたワース金融の一味。
そのまま縄で縛って、王都にワープして騎士団に引き渡してきた。
戻ると、ミケが何か書類を書いていた。
書いた書類を主人に渡していた。
「これを王都の財務局に出して。今までのお金が精算されるから」
「有難うございます。有難うございます」
不正な借金に違法な取り立てだったから、財務局で色々対応してくれる。
レイアの名前も書いてあるから、大丈夫だろう。
宿の主人は、また号泣しながらレイアに感謝していた。
「後は二人のプロデュース」
「私達のですか?」
「そう」
レイアはそのまま、スキンヘッドに話しかけた。
「そのままレイア達の名前を使うのは駄目だから、少し変える」
「例えば?」
「勇者公認の筋肉芸とか」
「それなら全然オッケーだよ!」
「本当に面白かったし」
「お姉さんもちょっと変えれば大丈夫だよ!」
子ども達も少し名前を変えれば大丈夫と、太鼓判を押した。
実際に中々の物だし、類似商法なら問題ない。
子ども達も、一緒になってアイデアを出していた。
この分ならもう大丈夫だろう。
「あら、遅かったじゃない。随分とゆっくりね」
宿に戻ると、おばちゃんが迎えてくれた。
こちらの食堂も残っている人はちらほらなので、食堂もおしまいなんだろう。
おばちゃんに挨拶をしながら、部屋に戻った。
「済まない、助かる……」
翌朝、ここの領主である男爵に話をしにいった。
迎えてくれた男爵は、げっそりとかなりやつれていた。
急いで治療して話を聞くと、この領主もワース金融の魔の手に侵されていた。
支払いの心労で胃が痛いという。
昨日捕まえたのが取り立てに着ていたというので、この領主も併せて財務局に連絡した上で軍の派遣を要請した。
この男爵では、手におえないのは目に見えていた。
「人神教国が何か企んでいるのか」
「分からない。でも暫くは注視しないと」
ノースランド公爵領へ馬車を走らせながら、レイアと話をした。
闇金に手を出しているのは間違いなさそうなので、王城に戻ったら関係者と協議をしないと。
ちなみに男爵領は勇者公認の筋肉芸が大ヒットし、沢山のお客が訪れる様になった。
との陛下の指令により、俺達は王都の北にあるノースランド公爵領に向かうことになった。
王国の北にある帝国はノースランド公爵領と国境を接している。
周辺には少数民族の村があり、エルフや天使族に悪魔族もいるという。
ノースランド公爵は、そんな少数民族を手厚く保護しているという。
流石ダンディな公爵だけある。
ということで、今回は俺とミケとララとリリとレイアのメンバーでノースランド公爵領に向かう。
エステルはフローラ様のブートキャンプから帰ってきていないし、リンは俺が不在の代理を務める。
ビアンカ殿下は自分の誕生パーティーの準備があるし、来年入園する子達も勉強があるので今回はついていかない。
「「「「行ってきまーす!」」」」
ミケ達の声でお屋敷を出発し、一路北へ向かう。
王都からノースランド公爵領に向かう街道の途中には、いくつもの小規模領地が存在する。
レイアは現地視察も兼ねているので、宿場町に着くたびに色々な事をメモしている。
「お兄ちゃん、この果物美味しいね!」
「桃が売っていたよ!」
「さくらんぼもあった!」
他の子は、旬を迎えた沢山の果物に夢中になっている。
夏が近いので、宿場町では北方で取れる果物が沢山売られていた。
俺も皆のために、果物を買いだめしておく。
夏野菜もあるな、これも料理に使えそう。
そうしていくつかの宿場町を視察しながら抜けると、段々と畑が広がる光景に変わっていった。
王国ではどこもそろそろ麦の収穫だから、アルス王子とルキアさんの結婚式はその前にやろうってわけだ。
ブルーノ侯爵領は麦の一大産地だから、収穫になったら忙しいだろうな。
そうこうしている内に夕方になったので、近くの宿場町に寄ることに。
小さな男爵領の宿場町なので、施設も最低限の物しかない。
「「「「ここにする!」」」」
二軒しかない宿の内、ミケ達が選んだのは昔からありそうな古い宿だった。
隣は建物も新しくて人も多く入っているが、何故ミケ達はここを選んだのだろうか?
「いらっしゃい。食事かい? それとも泊まりかい?」
宿は食堂併設なのか、年配の方が集まって食事をしている。
威勢のいいおばちゃんが接客してくれた。
「えっと、食事と泊まりで。馬も大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。裏庭に厩舎があるからとめておいで」
「有難うございます」
「部屋はどうするんだ?」
「「「「一緒のベットがいい!」」」」
「そうかいそうかい。二階の突き当りならベットが大きいからお勧めだよ」
宿のおばちゃんは、子ども達にニコニコ笑いながら接客していた。
年配の方が食べている料理も美味しそうだし、案外当たりかもしれない。
馬を厩舎に入れて飼い葉と水をやり、回復魔法をかける。
今日はそんなに爆走していないから、蹄も綺麗だ。
部屋に荷物を置いてきて食堂に戻ると、料理も用意されていた。
「さあ、沢山お食べ」
「「「「頂きます!」」」」
子ども達は、早速料理を食べている。
俺も一緒に食べるが、素朴な田舎料理で中々美味しい。
子ども達も、夢中になって食べている。
「いい食べっぷりだね」
「普段も結構食べまして」
おばちゃんが子ども達の食べっぷりに笑顔だ。
体格の割に食べるからな。
「隣の宿は沢山人が入っていましたけど、新しくできたのですか?」
「いや、最近改築した様だよ。何でも王都の勇者様御用達って噂だよ」
おい、ミケの名前を騙った詐欺商売かよ。
だから子ども達もこっちを選んだんだ。
「勇者様ってどんな人?」
「あたしゃ一回だけしか見たことないけど、筋肉隆々でスキンヘッドな大男って感じだよ。勇者様は猫獣人の少女って噂だから、おかしいと思っているんだ」
「ふーん、そうなんだ」
ミケがおばちゃんに偽勇者様の特徴を聞いたけど、全くもって似ていない外見だ。
少しは噂に似せた姿にしろよ。
なんだよ、スキンヘッドって。
「偽物ってどんな人だろう」
「髪の毛ないんだよね?」
「ツルツルなんだよね?」
「逆に興味ある」
夕食後、子ども達は偽物勇者様に興味を持ってしまった。
余りにも似ていないというので、会ってみたいらしい。
かくいう俺も、偽物勇者様に会ってみたい。
ということで、隣の宿に行ってみることに。
大きな三階建ての宿だけど、この小さな男爵領で採算性があるか疑問になる。
前世でも田舎の自治体が豪華な箱物を作って失敗していたけど、そんな感じだった。
「今日、勇者様が泊まっているらしいぞ」
「何でも知の令嬢様もいるって噂だ」
街の若者が何かを話しながら、豪華な宿に入っていった。
皆で顔を見合わせた。
まさかレイアの偽物もいるとは。
「レイアの偽物ってどんな感じだろう」
「すごく興味がある!」
「楽しみ!」
「わくわく」
ミケだけでなくレイアの偽物もいるとは。
子ども達のテンションは更に上がっていった。
俺もちょっとドキドキしている。
「いらっしゃいませー」
宿に入ると、一階は若者が多くいてバーの様な雰囲気だった。
お客の目当てはやはり勇者様と知の令嬢らしく、今か今かと現れるのを待っていた。
「おお、やってきたぞ」
「やはり、勇者の名にふさわしい肉体だ!」
まず偽勇者様が出てきた。
筋肉隆々のスキンヘッドで傭兵上がりに見える。
見た目はすごく強そうだけど、ミケの要素が全く無い。
「おお、知の令嬢が現れたぞ」
「美しい……」
そしてレイアの偽物も現れた。
うーん。確かに綺麗だけど、銀座のバーのママって感じだ。
偽勇者様は筋肉自慢を始めたが、これが思いのほかお客に受けていた。
子ども達もパフォーマンスにキャッキャしている。
芸人としてはそれなりに腕があるかもしれない。
そして自称知の令嬢は、完全にホステスだな。
お酒を注がれた若者が、自称知の令嬢を見てデレデレしている。
うーん、二人の名を騙っているので場合によっては捕縛することも考えたけど、何だかこれも悪くはないと思った。
とりあえず話だけでも聞いてみよう。
場も十分に温まり、二人も引っ込んで若者も各自でお酒を飲んでいたので、宿の人っぽい人に声をかけた。
「あの、すみません」
「はい、何でしょうか?」
「先程のお二人に、取材させて欲しいのですが?」
「ええ、良いですよ」
俺がキッチリした服を着ていたのもあってか、本当の取材と勘違いした宿の人が快諾してくれた。
「すみません、突然お願いして」
「いえいえ、王都の方が取材に来るなんて、こんな田舎では滅多にありませんので」
控室に案内してくれたので、俺だけでなく子ども達も同席した。
子ども達は余程筋肉芸が面白かったのか、スキンヘッドに目をキラキラさせていた。
「最初にお断りします。私達は貴族です」
「えっ、貴族様ですか?」
応対してくれた宿の主人は、かなりビックリしていた。
まさか貴族だとは思わなかったのだろう。
「ミケだよ!」
「ララです」
「リリです」
「レイア」
子ども達が先に自己紹介を始めてしまった。
ミケとレイアは貴族証も出している。
宿の主人と偽物二人は、目の前の子どもの正体に気がついたようだ。
顔が青くなり、言葉もなく子ども達を見つめていた。
「その、そういう事です。俺はライズ伯爵。聖女部隊と言えばおわかりになるかと思いますが」
そして、俺の正体を明かすと宿の主人はいきなり土下座をしてしまった。
「申し訳ございません。どうかお許しを」
「親父が悪いんじゃねえ、俺等も一緒だ」
「そうだよ、死ぬときは一緒だよ」
えーっと、突然の修羅場に俺達はポカーンとなってしまった。
子ども達もあ然としている。
とりあえず落ち着いて貰おう。
「お恥ずかしい所をお見せして、大変申し訳ございません」
「いえいえ、俺達も紹介の仕方が悪かったです。別に取り締まりにきているし訳ではありませんので」
「そう言って頂けると助かります」
ようやく落ち着いてくれた宿の主人から、色々話を聞いた。
何でも、前から集客を上げるために改装を計画していたらしい。
そこに現れたのがワース金融という金貸し。
大陸随一という触れ込みの元、ついお金を借りてしまったという。
宿は無事に改装出来たが、そこに蛇のように絡みつくワース金融。
法定の利息を完全に無視した利息を請求し、どんどんと運転資金がなくなっていく。
仕方なく始めた主人の息子と娘のショーがヒットし、何とか食い扶持を保てているという。
「しかし、奴らは最近は夜ごと売上金を持っていってしまい、もう限界なんです」
宿の主人は号泣している。
これはかなり悪どい金貸しだな。
ミケ達もかなり怒っている。
「レイア、確かワース金融ってこの間規制したよな?」
「ワース商会の派生会社。最近奴らは金貸しに力を入れている」
うーん、奴らはゴキブリみたいに本当にしつこいな。
せっかくワース商会を王国から駆逐したのに、看板替えて営業するなんて。
ここで、どう見ても盗賊な男を引き連れたワース金融のやつだと思われるのが、遠慮なく控室に入ってきた。
「おい、親父。金はできたか?」
「おかしいですよ。既に今月分は払ってあります」
「ふん、そんなのどうでもいい。また売上金貰っていくぞ」
「それは勘弁を。仕入れができなくなる」
「なら娘を連れて行くだけだな」
前世の時代劇の一コマを見ている様だな。
目の前にいるのは、それ以上の悪人だけと。
ニヤニヤしている男の前に、ミケ達がいた。
あ、これは完全に怒っているな。
怒のオーラが溢れ出ている。
「「「「やっつける!」」」」
「あ、なんだ? チビはあっち……、ぶげら!」
あっという間に、ミケ達にノックアウトされたワース金融の一味。
そのまま縄で縛って、王都にワープして騎士団に引き渡してきた。
戻ると、ミケが何か書類を書いていた。
書いた書類を主人に渡していた。
「これを王都の財務局に出して。今までのお金が精算されるから」
「有難うございます。有難うございます」
不正な借金に違法な取り立てだったから、財務局で色々対応してくれる。
レイアの名前も書いてあるから、大丈夫だろう。
宿の主人は、また号泣しながらレイアに感謝していた。
「後は二人のプロデュース」
「私達のですか?」
「そう」
レイアはそのまま、スキンヘッドに話しかけた。
「そのままレイア達の名前を使うのは駄目だから、少し変える」
「例えば?」
「勇者公認の筋肉芸とか」
「それなら全然オッケーだよ!」
「本当に面白かったし」
「お姉さんもちょっと変えれば大丈夫だよ!」
子ども達も少し名前を変えれば大丈夫と、太鼓判を押した。
実際に中々の物だし、類似商法なら問題ない。
子ども達も、一緒になってアイデアを出していた。
この分ならもう大丈夫だろう。
「あら、遅かったじゃない。随分とゆっくりね」
宿に戻ると、おばちゃんが迎えてくれた。
こちらの食堂も残っている人はちらほらなので、食堂もおしまいなんだろう。
おばちゃんに挨拶をしながら、部屋に戻った。
「済まない、助かる……」
翌朝、ここの領主である男爵に話をしにいった。
迎えてくれた男爵は、げっそりとかなりやつれていた。
急いで治療して話を聞くと、この領主もワース金融の魔の手に侵されていた。
支払いの心労で胃が痛いという。
昨日捕まえたのが取り立てに着ていたというので、この領主も併せて財務局に連絡した上で軍の派遣を要請した。
この男爵では、手におえないのは目に見えていた。
「人神教国が何か企んでいるのか」
「分からない。でも暫くは注視しないと」
ノースランド公爵領へ馬車を走らせながら、レイアと話をした。
闇金に手を出しているのは間違いなさそうなので、王城に戻ったら関係者と協議をしないと。
ちなみに男爵領は勇者公認の筋肉芸が大ヒットし、沢山のお客が訪れる様になった。
55
お気に入りに追加
3,210
あなたにおすすめの小説
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
異世界に転生したら、いきなり面倒ごとに巻き込まれた! 〜仲間と一緒に難題を解決します!〜
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
異世界転生した主人公が、仲間と共に難題に巻き込まれていき、頑張って解決していきます
詳細説明
ブラック企業に勤めているサトーは、仕事帰りにお酒を飲んで帰宅中に道端の段ボールに入っていた白い子犬と三毛の子猫を撫でていたところ、近くで事故を起こした車に突っ込まれてしまった
白い子犬と三毛の子猫は神の使いで、サトーは天界に行きそこから異世界に転生する事になった。
魂の輪廻転生から外れてしまった為の措置となる。
そして異世界に転生したその日の内に、サトーは悪徳貴族と闇組織の争いに巻き込まれる事に
果たしてサトーは、のんびりとした異世界ライフをする事が出来るのか
王道ファンタジーを目指して書いていきます
本作品は、作者が以前に投稿しました「【完結済】異世界転生したので、のんびり冒険したい!」のリメイク作品となります
登場人物やストーリーに変更が発生しております
20230205、「異世界に転生したので、ゆっくりのんびりしたい」から「異世界に転生したら、いきなり面倒ごとに巻き込まれた!」に題名を変更しました
小説家になろう様にも投稿しています
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる