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第七章 ゴレス侯爵領

第百八十二話 レイアの反撃

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「あらー、よく似合っているわね!」
「「「「えへへ」」」」

 翌朝王城の応接室に向かうと、既に王妃様達が待っていた。
 シルとリーフは、同じく待ち構えていた軍務卿に連れて行かれた。
 ミケ達も早速衣装部屋に連れて行かれて、騎士服に着替えて戻ってきた。
 着替えてきたミケたちをみて、王妃様達は、黄色い声を上げていた。
 剣士タイプと魔法使いタイプの二つに分かれていて、ミケとドラコが剣士タイプでララとリリが魔法使いタイプ。
 リンとオリガとガルフも専用の騎士服を着ているし、シルク様やアメリアにカミラやノラは魔法使いタイプの服を着ている。
 実はアメリアは炎、カミラは水、ノラは風の魔法に適性があり、他にも使える属性があるというので、子ども達と一緒に特訓していた。
 流石にマシュー君達やマチルダには魔法は早いので、基礎の所だけ教えている。
 フローレンスは回復に生活魔法と土魔法の適性があったが、実家が一切魔法を教えなかったのでマシュー君達と一緒に基礎から勉強中。

「ふふーん、どう? サトー。私も新調したのよ」

 エステルも新しい騎士服にしていたが、俺が感想を言う前にフローラ様がぶち込んできた。
 
「素直に新調すればよかったのに。ズボンがキツイと言っていたのだから」
「あー、お母さん言わないで!」

 やっぱりそうだった。
 最近動く以上に、スラタロウのご飯をモリモリ食べていたからな。
 全員原因が分かっていたので、あえてつっこまなかった。

「あの、王妃様。私の服に勲章がついています」 
「私のにもついております」

 ここでオリガとガルフが、渡された騎士服に勲章がついていると言ってきた。
 よく見ると、ララとリリの服にもついているな。
 リンとミケは叙爵時に併せて貰った勲章だけど、他の人のも全く同じものだ。

「元々勲章を与えるのは決まっていたのよ。本当は名誉爵位でも全く問題ないのに、タヌキが騒いでいたから遅れたのよ」
「平民がでしゃばるな。俺の所にもっと爵位をよこせ、だってですよ。話になりませんわ」
「マリリとマルクにも勲章が確定しているから、後で渡しておくわ」
「「勲章を頂き、感謝いたします」」

 おお、ここにもタヌキの被害者がいた。
 でも異様なほどに爵位にこだわるから、確かに爵位をよこせと言ってきそうだ。
 時間ができたらバスク領に行って、関係者に報告させてあげないと。
 着替えも終わったので、早速ミケ達は巡回に向かった。
 ちなみにタラちゃん達獣魔に加えて、馬まで巡回に参加するという。
 正直やりすぎて王都に被害が出ないか心配だ。
 
 そして残ったのが俺とホワイト。ホワイトが残るのも、王妃様のご指名だ。

「では、サトーはこれに着替えてきて」
「あのー、どう見ても修道服にしか見えないですけど」
「どう見ても、修道服ですよ」
「これからサトーは聖女サトーになって、軍病院に入院している人の治療にあたるのよ」

 何で女装を? という疑問を言う間もなく、メイドさんによってあっという間に着替えさせられて化粧をされた。

「ほう、修道女姿もなかなかよいな」
「作戦通り。貴族主義は突然現れた聖女サトーを嫌っている。ここで兵士を治療すれば、聖女の好感度はうなぎ登り」

 そこにビアンカ殿下とレイアが通りかかって、俺の修道女姿を褒めていた。
 というか、俺の女装はレイア発案かよ!

「サトー様、どうぞこちらに」

 そして反論する暇もなく、メイドさん達によって王城併設の軍病院に連れて行かれた。

「皆様、今日は聖女サトー様が皆様の治療に来てくれました」
「「「うおー!」」」

 軍病院に行くと、聖女が来たということで野郎どもからの野太い声が上がった。
 女性は別室らしいので、この歓声が聞こえないことを祈る。

「聖女様、この病院の看護師です」
「宜しくお願いします。それにしても患者が多いですね」
「実はここにいる人の多くが、先の王都での捜索によって怪我した方なのです。どうも一部の屋敷で激しい抵抗があったらしく」

 おーい、これもタヌキ侯爵のせいかよ。
 激しい抵抗がある所なんて限られるし、間違いなくタヌキ侯爵とハゲ伯爵の所は含まれているだろう。

「幸いにして手足の切断までの怪我人は折りませんが、重度骨折や指を失った者が数多くおります」
「分かりました。ちなみにこの病院の方全てを治療しても宜しいでしょうか?」
「え、ええ。もし可能なら。しかし軽傷者も数多くおり、また謎の悪臭によって感覚器官がやられている人もおります」

 タヌキ侯爵のゴミ屋敷なら、感覚器官がおかしくなっても仕方ない。
 俺も二、三日食事が喉を通らなかったし。

「これからエリアヒールをかけるから、その後は手分けして治療しましょう」
「チュー」

 先ずは生活魔法と聖魔法で建物全体と中にいる人を浄化して、状態異常回復と広範囲回復をかける。
 というのも、怪我人が多くて衛生的にもあまり良くなく、臭いもしているからだ。
 ということで、ちゃちゃっとやりましょう。

「「おお! さすが聖女様」」
「何という魔法なのだろうか。ここまで広範囲の魔法は見たことがない」

 流石に三階建ての建物を、一気に浄化してさらに中にいる人に回復魔法をかけるのはしんどい。
 でも、これで軽傷者は治ったはずだ。

「おお、手が動くぞ!」
「臭いが感じられる!」

 あー、嗅覚がおかしくなったのか。
 あんな悪臭なら嗅覚がおかしくなるのも当然だな。

「さて、次は個別に治療しましょう。このねずみも練達の魔術師ですので、重傷者にも治療ができます」
「チュー」
「はあ……」

 未だにポカーンとしている看護師さんを促して、ホワイトと手分けして治療を始める。
 
「おや、骨折以外にも右目が悪いですね?」
「流石聖女様、お見通しで」
「ついでに目も治療しますね」
「おお、目が! 目が見えるぞ!」

 と、こんな感じで怪我人の治療をしていく。
 治療対象の人数も多いしミケ達の巡回もあるので、三日間かけて軍病院の人を治療した。

 一週間後、陛下の執務室では宰相とレイアとビアンカが陛下に対して報告を行っていた。

「予想通り」
「いや、予想以上じゃろう」
「間違いない、予想を遥かにこえておる」

 レイアは予想通りと言っていたが、ビアンカと陛下は呆れた感じで返答していた。
 サトーの軍病院への慰問と治療は、たった三日間で重傷の兵が訓練に復帰したのもあって高く評価されていた。
 シルとリーフが無理をしない範囲での訓練をしていたので、兵の修練度も上がっていった。
 そして一番の成果を上げたのが、街の巡回部隊。
 子ども独自の感性に獣人の直感もあったのか、次々に犯罪者を捕まえていった。
 貴族主義の連中とは関係ない犯罪者も含まれていたが、そこは全く問題ない。
 一番の功績は、スラムを根城にしていた中規模の犯罪者集団を一網打尽にした事だろう。
 刃向かってきた者は馬に蹴り飛ばされて、アルケニー達によりあっという間に捕縛された。
 この中規模犯罪者集団の捕縛により、犯罪組織と繋がっている貴族も新たに判明した。
 ついでといった感じで、疫病の元になりそうなネズミやその他害虫を駆除し、生活困窮者には治療もしている。
 ミケ達は聖女部隊と名付けられて、街の中で大人気となっていた。
 そして、これらの作戦を立案したレイアの評価も高かった。

「パパ達ならこのくらいは当然。まだ一週間ある。今度は教会と組んで、聖女サトーの炊き出しをやる。そこにあえてフローレンスとマチルダも参加させる」
「成程、貴族主義の犠牲になりながら聖女に保護された子どもも参加すると。これは中々の作戦ですな」
「更にタラちゃん達とサファイアとショコラに、怪しい商会やお店を監視させている。多少の悪なら許すけど、極悪人は潰す」
「潰すとは、中々穏やかではないのう」

 ビアンカは苦笑しているが、レイアは至って真面目だった。
 というのも、レイアは謁見の間でタヌキ侯爵に突き飛ばされて怪我をしたので、タヌキ侯爵に対してかなり怒っていた。
 これはレイアなりの反撃でもあった。
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