異世界転生したので、のんびり冒険したい!

藤なごみ

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第七章 ゴレス侯爵領

第百七十八話 最悪なゴミ屋敷

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「エステル様は、何時帰ってこられますか?」
「当分は無理かと。フローラ様から罰掃除を与えられている可能性が高いので」

 今朝のフローレンスさんの治療の際に、エステルの事を聞かれた。
 昨日フローラ様とあっていて、何が起きているかは把握しているという。
 気遣いのできるフローレンスさんだから、エステルの事が気になるのだろう。
 俺としては、エステルの自業自得としか思えない。

 フローレンスさんの治療後に、俺とレイアに助っ人のタラちゃんとホワイトで王城にワープした。
 既に騎士が待っていて、レイアと別れて今日の捜索先であるタヌキ侯爵の屋敷に向かった。

「うーん、臭いよー」

 屋敷に到着すると、既に活動している騎士に混じってエステルがゴミ掃除をしていた。
 顔を布でマスクの様に覆っているが、ここまでくる悪臭に他の騎士も悪戦苦闘している。

「サトーきたか。屋敷に生活魔法をかけてくれ」
「臭いが凄くて堪らんのう」
「臭い、臭すぎる」
 
 軍務卿やビアンカ殿下からもどうにかしてと言われて、ミミは悪臭で顔色が悪い。
 急ぎ屋敷を生活魔法で綺麗にして、念の為に聖魔法で浄化も行った。
 ようやくまともに活動ができるようになった。

「ふー、助かったよ。お母さんから手伝いしろと言われたけど、まさかここまで凄いとは思わなかったよ」

 エステルから助かったと言われたが、こんなの俺でも無理だよ。
 他の屋敷は順調に捜査ができているが、ここだけ著しく捜査が遅れているという。
 理由が理由だけに、これは仕方ない。

「トップの屋敷がゴミ屋敷だから、王城内の控室も誰も文句を言わなかったんだな」
「王都でも有名なゴミ屋敷だし、執事もメイドも次々に辞めていくという。謁見の日にここに騎士が来たが、家族以外は体調悪くて直ぐに搬送されたという」
「というか、この屋敷で平気なタヌキ侯爵の家族っていうのも凄いな」

 庭にどんどんとゴミが詰まった袋が置かれていく。
 よく見ると庭も草ボーボーで、密林の様になっている。
 周辺の屋敷の人は、よく平気だったな。

「ちなみにこの屋敷の左はハゲ伯爵の屋敷で、右隣が元のランドルフ伯爵の屋敷。つまりサトーに渡さられる予定の屋敷だ」
「えー、本当ですか? 浄化までしておいて良かった」

 こんな屋敷が隣にあるなんて、犯罪のリスクしかないよ。
 火事の危険性もあるし、疫病が発生する可能性もある。
 タヌキ侯爵が捕縛されて、本当に良かった。

 庭も草ボーボーなので騎士の人に草刈機とチェーンソーの魔道具を貸したら、喜んで使ってくれた。
 こんな庭の中を捜索したくないよな。
 俺は軍務卿と一緒に屋敷の中に入った。

「うわあ、ゴミで溢れていますね」
「これでも二日間騎士も頑張ったのだが、気の遠くなる量だな」

 軍務卿は騎士に指示を出しているが、綺麗なのは執事やメイドの部屋くらい。
 何せ本命の部屋が、更にゴミだらけなのだから。

「うーん、部屋が綺麗にならない」
「どんどんと袋が一杯になるな」
「汚い、汚過ぎる」

 俺とエステルとビアンカ殿下とミミとで、本命其の一の執務室を片付けているが、とにかくゴミが多い。
 何で執務室に、脱ぎ散らかした服とか食べかすとかあるんだよ。
 執務室なのに、捜査対象の紙類が全然出てこない。
 そして可哀想な事に、今日もまた軍務卿の親戚のメイドさんが連れてこられている。
 
「ビアンカ殿下、手が足らなすぎじやないですか?」
「妾もそう思う。捜索とはいえ、これは余りにも酷すぎる」

 ということで、軍務卿の許可を得てゴレス領から助っ人を投入。

「いやー! 何か踏んだ!」
「僕の鼻が、臭いでおかしくなったよ」
「うー、汚いよー」
「汚すぎるよー」
「メイドでも、こんな部屋を掃除した事はないですよ」
 
 ミケにドラコ、ララにリリにマリリさん。
 人員を追加して掃除するが、とてもじゃないけど終わりそうにない。
 ちなみに警察犬代わりを期待したドラコとベリルだが、既に鼻がおかしくなっているという。

「ちなみに王都の屋敷は、このゴミ屋敷の隣だよ」
「いやー! こんなのが隣なんてやだー!」
「僕も臭いのはやだー」

 隣が俺達の屋敷になると言うと、特に臭いに敏感なのかミケとドラコが過剰な位反応していた。
 ベリルも涙目でキュンキュン言っている。
 俺だってこんなのが隣だなんて嫌だよ。

 その後も頑張って捜索をするが、出てくるのはゴミのみ。
 夕方になったので、今日は終わりにしてまた明日になった。

「うわあ、本当にお屋敷がゴミまみれだよ」
「昨日ミケちゃんが行きたくないと言っていたけど、その気持ちはわかるわ」

 次の日、メンバーを入れ替えて再びタヌキ侯爵のゴミ屋敷へ。
 前日の参加メンバーが今日は嫌だと泣いて言ったので、別のメンバーで。
 マリリさんにも拒否された。
 アメリアとシルク様がポカーンとゴミ屋敷を見ていたが、その気持ちはよく分かる。
 こんなゴミ屋敷の隣になんて住みたくないと、誰もが思っていた。
 ちなみにマシュー君達やフローレンスさんは不参加。
 特にフローレンスさんがこの中で作業したら、絶対に具合が悪くなる。
 そして今日も軍務卿の親戚のメイドさんが参加している。
 三日連続でご苦労様です。

「うーん、今日も臭いよう」
「書類が全くでてこないのう」

 今日も作業前に生活魔法と聖魔法で浄化したけど、それでも臭いがとれない。
 もしかしたら、屋敷ごと臭っているのかもしれない。
 それでもやっと執務室の机が見えてきたので、机の引き出しをあけてみた。

「「「イヤー!」」」

 一斉に悲鳴があがった。俺も嫌だもん。
 机の引き出しをあけたら、ミイラになっていたネズミの死骸が入っていたなんて。
 ネズミの死骸を袋にポイッと捨てたが、書類らしきものはなかった。
 最終的に、執務室には書類はなかった。
 あっても腐っていたか、ネズミに食べられていただろう。
 
 ということで捜査対象其の二。タヌキ侯爵の寝室。

「もうやだよー」
「妾だっていやじゃよ」

 既に部屋に入る前から涙目の、エステルにビアンカ殿下。
 軍務卿の親戚のメイドさんなんて、無表情で何かをブツブツ言っている。
 と、とりあえず部屋をあけよう。

 ガチャ。
 ブーン、ブーン。
 バタン。

 俺は無言で扉を閉めて首を横に振った。
 駄目だ、危険すぎる。
 と、ここで何も知らない軍務卿が登場。

「サトー、早く扉をあけないのか?」

 あー、軍務卿扉をあけちゃ駄目!

 カチャリ。
 ブーン、ブーン、ブーン、ブーン。

「「「「ギャー!」」」」

 俺達は一目散に二階から一気に外まで逃げ出した。
 部屋の中がハエで一杯になっていて、一斉に外に出てきたからだ。
 異変に気がついた他の騎士も外に出ていった。

「ハァハァハァハァ」
「もういやじゃ」
「きゅー、パタ」

 エステルは走り疲れて息が荒いし、ビアンカ殿下は大泣きしている。
 そして軍務卿の親戚のメイドは、庭に出た瞬間気絶してしまった。
 アメリアやシルク様もへたり込んでいる。
 あ、ミミも気絶している。

「薬草屋で殺虫効果のある薬草を、あるだけ買ってこい!」
「すぐ行きます」

 軍務卿は、騎士に薬草屋に向かわせた。
 十分後、ゴミ屋敷の至るところから煙がモクモクと出ていた。
 これでもかという程の、殺虫薬草を燻している。
 火事だと驚いて見に来たところもあったが、正直中を炎魔法で全てを燃やしたい。
 ちなみに女性陣は、全員王城の医務室に運ばれた。
 これについて文句を言う人は誰もいない。むしろ、今までよくやったと言いたい。
 そして、この中で生活をしていたタヌキ侯爵が物凄い化け物に思えてきた。

「王城から煙が見えたから急いで来てみれば、まさかそんな事になっているとは」
「レイアも、こんな所の隣には住みたくない」

 宰相がレイアを連れて慌ててやってきた。
 屋敷街で火事だと思っていたらしいが、それ以上の惨状に目を疑っていた。
 庭はゴミの入った袋の山だし、ようやく綺麗になったとはいえ庭はまだ草が凄い。
 そして極めつけが、大量の殺虫薬草で煙が出ているゴミ屋敷。
 
 一時間後、ようやく煙がおさまったのでレイアに風魔法で換気をしてもらい、再びタヌキ侯爵の寝室へ。
 あたり一面ハエの死骸で凄いことになっている。
 たが、その原因はゴミではなかった。
 机の上にネズミの死骸と、小さな小瓶があった。
 どうもネズミの死骸にハエがたかっていたらしい。

「毒の瓶に痙攣したネズミの死骸」
「これはビルゴと取引した毒で間違いないだろう。ご丁寧に書類も残っている」

 軍務卿と話をするが、これでタヌキ侯爵の罪は確定だ。
 というか、これだけ頑張って何も証拠が出なかったら悲しすぎる。
 俺と軍務卿は急いで庭に出た。
 というのも、この部屋も結局ゴミまみれで長居をしたくないからだ。

「この毒瓶に書類があれば、証拠として十分だろう」
「お願いします。是非そうして下さい」

 宰相は証拠はこれで十分と言っていたが、これ以上の捜索は俺でも心が折れる。
 ちなみに殺虫薬草で屋敷に潜んでいたねずみも大量に死んでおり、それを見たレイアも気絶してしまった。
 軍務卿の判断で、これ以上の捜査は不可能と判断された。
 
 結局女性陣は三日間寝込んでしまった。軍務卿の親戚のメイドには、更に一週間の特別休暇が与えられた。
 個人的には、もっと特別休暇を与えてもいいと思った。

 ちなみにゴミ屋敷は、中身のゴミを焼却して取り壊す事になった。
 大量のねずみがいたために、周辺の屋敷も疫病対策で殺虫薬草を使わないといけなくなった。
 そのために、俺達の屋敷が引き渡されるのは更に遅くなった。
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