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第七章 ゴレス侯爵領

第百七十話 不穏な話

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「スラタロウ、今日はスイーツを多めに」

 今日は王妃様達が昼食を食べにくるので、スラタロウにスイーツ系を多めにリクエスト。
 スラタロウは体を揺らしながら、分かってるぜみたいな反応をしていた。
 ぶどうとかいちごを用意していたので、フルーツを使った物になりそうだ。

 さて、今日はあいにくの雨なので屋敷内で作業する。
 新しく採用された文官も仕事を始めたので、書類関係はお任せしてビアンカ殿下とレイアとリーフとで街の開発図を纏めることにする。
 既に大体の構図は纏めてあるので、それを地図に落とし込んでいく。
 時々文官からも意見を聞きながら、どんどんと書き込んでいく。
 大体の開発計画が落とし込まれた所で、王妃様達を王城に迎えに行った。

「それで、今日は兄上の奥方と息子がゲストというわけじゃな」
「そうそう。ルイのところは妊娠中だから連れてこれないけど、せっかくのごちそうだからね」

 ということで、王妃様にフローラ様とライラック様に加えてゲストがお二人。
 どうも事前にビアンカ殿下のところにフローラ様から連絡がいっていた様で、スラタロウも子ども向けの料理を準備していた。
 
「初めまして。ジョージの妻のステラですわ。この子は息子のウィリアムです」
「ウィリアムでちゅ。よろちくおねがいしましゅ」

 金髪のウエーブが腰まであるほんわかとしたステラ様と、たどたどしい言葉で挨拶をするお母さんにそっくりのウィリアム様。
 特に幼いながらも一生懸命喋るウィリアム様に、女性陣一同メロメロにされている。

「ウィリアムくん、僕はマシューだよ。この子は、ニー。ご飯まで一緒に遊ぼう!」
「うん!」

 早速マシューくん達がウィリアム様の手を引きながら従魔達のところに連れていき、一緒に遊び始めた。
 子供同士、仲良くなるのが早い。
 シルとかも一緒だけど、怖がらずにボール遊びや追いかけっこを始めた。

「あらあら、ウィリアムがあんなにはしゃいでいるなんて」
「歳の近い子は周りにいないから、余計に楽しいのでしょうね」
「ルイのところも子どもが生まれたら、こんな感じで賑やかになるのかな?」
「早く、他の孫も可愛がってみたいわ」

 ウィリアム様が元気よく遊んでいる姿に、母親であるステラ様は勿論のこと王妃様やフローラ様にライラック様も目尻を下げている。
 普段は王城の中で大事に育てられている分、今日は思いっきり遊ばせてあげたいのだろう。

「そーれ、こっちだよ」
「こっちこっち!」
「ああ、捕まっちゃった」

 ミケやララ達も追いかけっこに参加して、ウィリアム様と一緒に遊んでいる。
 子どもに好かれるというエステル殿下も参加しているが、改めて子どもっぽいと思ったのは俺だけでないはず。

 そうこうしている内に今日の料理が出来上がったようだ。
 今日のスラタロウの逸品は、野菜ときのこをふんだんに使ったオーク肉のドリアと、野菜サラダ。
 そしてデザートに、フルーツたっぷりのタルトがついている。
 
「おかあしゃま、おいしいー!」
「良かったわね。一杯食べるのよ」
「うん!」

 スラタロウの昼食はウィリアム様や王妃様達にも大好評で、特にデザートはお持ち帰りのリクエストも出た。
 今日は不在のルイ様の奥様の分も含めて、帰りまでに用意することになった。

「相変わらず、スラタロウの料理は美味しいわね」
「私も初めて食べましたが、スライムがこんなにも美味しい料理を作るなんて信じられないですわ」
「お口にあったようでして、何よりです」

 既にスラタロウの料理を食べたことのある王妃様達は勿論のこと、初めてスラタロウの料理を食べたステラ様にも満足して貰った様だ。
 ちなみにウィリアム様は遊んで疲れた上にお腹が一杯になったので、マシュー君達と一緒にシルを枕にして夢の中へ。
 そんな孫の顔を見ている王妃様が、何かを考え込んているような表情を見せていた。

「王妃様、難しい顔をしてどうされましたか?」
「ふう、サトーには直ぐにバレてしまうわね。まあ、色々あったのよ」
「ここは深く突っ込まない方がいいですか?」
「いえ、むしろサトーも巻き込まれる可能性があるから知っておいた方がいいでしょう」

 王妃様は少し難しい表情を浮かべながら話し始めた。

「簡単に言うと、ウィリアムの婚約者にあのタヌキオヤジが孫娘を勧めてきているの。しかもかなり強引にね」
「もしかして、あの貴族主義の侯爵ですか?」
「ここのところ人神教国絡みで貴族主義の連中が色々やらかしているからね。何とか勢力を取り戻そうとしているみたい」
「そういえば、ゴレス侯爵とかも貴族主義でしたね」

 将来の王様の義理の父親になれば、それだけ周りに与える影響力も大きくなる。
 ここのところの貴族主義勢力の失態を挽回しようと考えているのか。
 国の事はどうでも良くて、自分達の事しか考えてないんだな。
 そんな魂胆が見え見えだから、王妃様もため息をつくのだろう。

「最近は貴族として全く成果を出していないので、爵位だけで選ばれる事はまず無いし、私もジョージもステラも承諾するわけが無いですわ」

 名ばかり貴族になりかけているところから、二代後の王候補の妻にはできないな。
 陛下はともかくとして王妃様が拒否しているのだから、無理な話だろう。
 となると、なんとかして功績をあげようとするのでは?

「もしかしてその侯爵達は、無理矢理成果を出そうとしているのでは?」
「正解。どうもタヌキオヤジ達は、サトー達が領地の復興をしているのが気に入らないらしいの。たかが子爵如きが上級貴族の侯爵領の復興をするなんてだって」
「しかし、ブルーノ侯爵領やランドルフ伯爵領の時は何も言わなかったですよね?」
「それはアルスが先頭に立っていたから。今回は王族もエステルとビアンカだし、貴族主義の連中は女子が内政に絡んでいるのを極端に嫌うから攻撃材料にしているの」

 うわあ、面倒くさい絡み方をしてきそうだ。
 その人の能力云々ではなくあくまでも爵位でしか判断しないから、考え方が極端に狭いんだ。
 
「既に人神教国とは停戦状態で戦功は望めない。サトー達にお願いしている王都の防壁作りとかは、普通の上級貴族ですら難しい。なので、ゴレス侯爵領と言うわけ。盗っ人猛々しいとはこういうことね」
「ゴレス侯爵領に偵察部隊を送り込んでいるというし、警戒する事に越した事はないわ」
「何かしらの方法でサトーに絡んでくると思うから、十分に気をつけた方がいいわよ」
「私もウィリアムの嫁に、侯爵の孫はゴメンだわ。でも、本当にしつこいから」

 王妃様達は次々に愚痴をこぼしているし、エステル殿下やビアンカ殿下の覚えも悪い。
 当分は警戒した方がいいだろう。
 王妃様達はこの後用事があるということで、王城に送り届けた。

「サトー、奴らはしつこい。自分達の為なら妨害も平気でしてくる。警戒することに越したことはないぞ」「王妃様があれだけ言うと言うことは、余程の相手なのでしょうね」

 ビアンカ殿下とため息をつきながら話をしていた。
 当面は街の巡回も増やさないといけないな。
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