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第七章 ゴレス侯爵領

第百六十七話 住民との話し合い

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「まさか、ゴレス侯爵領がそんな事になっているとは」
「正直、俺もビックリですよ」

 翌朝、ギース伯爵領にいる人達を迎えに来たときにヘレーネ様と話をしたが、ゴレス侯爵領がまさかそんな事態になっているとは思ってもなかったようだ。

「侯爵がどれだけの金を持っているかによりますが、直ぐに賠償金を払うのは難しいと思います」
「それは致し方ないと。領民が生きられるようにしないとなりませんね。幸い経済は動いていますから、こちらは心配いりません」

 ギース伯爵領は当面大丈夫だし、何かあってもブルーノ侯爵領という存在がある。
 だか、ゴレス侯爵領が立ちいかなくなると、他の小規模領地も立ちいかなくなる。
 俺達は暫くはゴレス侯爵領にかかりきりだな。
 ついでにギース伯爵領で生活物資を買い込み、ゴレス侯爵領へ人々を送っていった。

「これはまた、中々に酷いもんだな」
「全てが上手くいっていない典型例ですね」
「逆に思いっきりやることはできますな」

 ギース伯爵領からゴレス侯爵領に人々を送り届けた後、ビアンカ殿下に連絡があって陛下と閣僚達を迎えにいった。
 皆、ゴレス侯爵領の惨状に目を覆っていた。
 とりあえず、書類が積まれた執務室に集まった。
 そこで陛下から、想定していた最悪の状況がもたらされた。

「ゴレス侯爵達は皆一文無しだった。王都の屋敷にある程度金があるだけだ」
「予想していたとはいえ、最悪の事態ですね」
「どうもワース商会と人神教会に、コンサルティング名目でかなり搾り取られていたようだ。実際には何も行われていなく、放置されていたようだな」

 ワース商会としたら、ゴレス侯爵達はいいカモだったのだろう。
 詐欺ということを、全く見抜けなかったのだから。
 そういう事を含めて、ゴレス侯爵達には統治能力がなかったのだろう。

「とにかく経済をまわさないといけません。幸いにして開発の余地がかなりあります」
「ゴレス侯爵領は林業と鉱山があるはずだから、同時に稼働させよう。予算もある程度検討せんとな」
「後は、できるだけ獣人と人の融和をはかりたいです」

 人神教の為に人と獣人の間で軋轢が生まれている可能性があるので、とにかく両者が上手くいくようにしたい。

「ブラントン子爵領とマルーノ男爵領は、正直な所貴族領として維持できるか難しいです。当面はゴレス侯爵領をメインにして、ブラントン子爵領とマルーノ男爵領はゴレス侯爵領の出張所扱いになります」
「それは仕方ない。元々ゴレス侯爵領からの分家扱いだから、昔に戻ったともいえよう」

 暫くはゴレス侯爵領を中心にして、開発を進めるしかないな。
 陛下と閣僚は会議もあるというので、王都に送っていった。
 これからも、俺はタクシー代わりに色々な人にこき使われそうだ。

 このまま何もしないわけにはいかないので、皆仕事を開始する。
 高く積まれた書類を仕分けるけど、殆どは請願関係。
 街の拡張やスラムの解消に、農地拡張に街道の整備。
 うーん、どれも公共事業の基本だな。

「これだけ請願書があっても、殆ど内容が同じですね」
「どれだけ公共事業をサボっておったか、とても良くわかるのじゃ」
「林業にしても鉱山にしても、道がとにかく悪い。これをどうにかしないといけないですね」
「主要街道は直ぐにとりかかろう。公共事業でできる所と分けて、金もまわさんといけんのう」

 他の所の状況次第だけど、とりあえずこの方針で。
 ブラントン子爵領とマルーノ男爵領は標高が高いから高原野菜とかできそうだし、盆地だからブドウとか桃とかも良さそうだしワインも作れる。
 湖も視察次第だけど、漁業とかもできそうだし観光地にもできるかもしれない。
 勿論元の主産業である林業や鉱山も、もっと発展する可能性がある。
 発展する可能性はありそうだけどなあ。

 お昼になったので、一旦皆ゴレス侯爵領のお屋敷に集合。
 昼食を取りながら各自状況を報告する事に。

「ブラントン子爵領も同じです。特に生活環境の充実が要望されています」
「マルーノ男爵領も同じだねー。こっちは生活環境に街道の改修があったよー」

 リンさんとリーフから報告を受けたけど、どこも似たりよったり。
 どこも、問題の根本は共通か。

「パパ。街の人に聞いたけど、ブラントン子爵領は井戸水大丈夫だから畑はできるよ」
「マルーノ男爵領もそうだよ。畑にできそうな場所もあったよ」
「それは大きいな。畑にできそうな場所が確保できたら、高原野菜を作って大都市に売ろう」
「それは良いアイディアじゃ。夏場は野菜が不足する。いい値段で売れるじゃろう。大商人は専用のマジックバックを持っておる。量も鮮度も問題ないのじゃ」
「よし、ブラントン子爵領とマルーノ男爵領は畑を切り開こう。今のうちに苗を作れば、夏の収穫に間に合うな」

 レイアとミケからの報告はありがたい。
 高原野菜が売れれば、農家にとって新たな収穫になる。
 
「盆地なので寒暖差があるから、芋とかも甘く仕上がりますよ」
「サトー、それもやろう! 前に出た甘いお芋って、本当に美味しいの!」
「後は来年以降に収穫になりますが、ブドウとか桃なども美味しくなります。ブドウはワインにもできるので、ここの木材の消費にピッタリです」 
「ブドウなら、植え付けが間にあるじゃろう。ワイン工場は後で作ればよいし、雇用も生み出すじゃろう」

 ゴレス侯爵領も盆地を活かした作物が作れるし、鉱山があるから冬期も仕事ができる。
 この案で事業計画を作ろう。というか、レイアが既にやる気満々だ。

「午後にでも早速各地の有力者を集めよう。こういうのは早い方が良いのじゃ」
「できれば獣人も呼びましょう。林業や鉱山の関係者も勿論ですね」

 こういうのは早い方が良いということで、早速各地の有力者をゴレス侯爵領に集めて会議を始める。
 最初にこれまでの経緯を話さないといけないだろう。

「妾はビアンカ王女じゃ。此度のゴレス侯爵の反乱に伴い、暫定で王国が直接統治する事になった」
「反乱って、何かあったんですか? ワース商会と人神教会が何かやっているのは知っておりましたが」
「ゴレス侯爵にブラントン子爵とマルーノ男爵が人神教国と結託し、ギース伯爵領を襲撃し領主と嫡男を殺害。ギース伯爵領を人神教国と共に乗っ取ろうとしたのじゃ」
「まさかそんな事が」
「しかもこの領の兵などを魔獣にし、更にギース伯爵領へ襲撃を加えた。しかしその企みは全て防がれ、ゴレス侯爵、ブラントン子爵、マルーノ男爵は拘束され王都に送られておる」

 皆あ然としていた。
 いきなり集められたと思ったら、領主が反乱を起こして捕まったと言われたのだから。
 そんな中、スラム代表の犬獣人のオヤジが笑い始めた。

「くくく、前から人神教を信じて信用ならん領主だったがとうとう天罰が下ったか」
「しかも領主はそこにおる猫獣人のリンドウ男爵に捕縛され、頼みの綱だった魔獣の集団もブルーノ侯爵騎士団の獣人部隊に全滅させられたのじゃ」
「ははは、何か? 嫌っていた獣人にトドメをさされたってわけか。こりゃ傑作だな」

 獣人代表は、今までの鬱憤が溜まっていたのか笑いが止まらなかった。
 俺もその気持ちが良くわかる。

「残されたのは、こちらにおるアメリアとマシュー、カミラとジョン、ノラとルークスのみ。しかも無理矢理魔獣にされた所を何とか助け出せたのじゃ」
「自身の子どもや孫まで魔獣にするとは、何ともやりきれないですね」
「陛下である父上も相当怒っておった。裁判はこれからじゃが、厳罰は逃れまい」
 
 領主の末路予想に一同頷いていた。
 擁護する声が出なかったので、人望もなかったのだろう。

「当面は沙汰が出るまで、妾達が代理統治する事になるじゃろう。既に大量に放置されておった請願書も確認しておる。そこで事業案を発表したいのじゃが、その前に確認がある」
「王女様、何でしょうか?」
「領主の事は抜きにして、住民同士で人と獣人で仲間外はあるか?」
「私達は、獣人の方々がいないと事業が成り立ちません。嫌うとかは決してありません」
「俺達が働けない時も援助してくれたからな。一部は反感しているのはいるだろうが、仕事があって銭が入るなら関係はないな」

 良かった、一番の問題になるだろう住民同士のいざこざがなかった。
 やはり住民は、アホな当主には従っていなかった。
 というか、ブルーノ侯爵領でもそうだったけど、人神教は住民まで広がってなかった。
 そこが人神教国の大きな失敗だろう。

「なら今後の予定に移ろう。まずは各地の街道の拡張と修繕。それとブラントン領とマルーノ領では畑作の準備をし、高原を利用した作物を作る。勿論、ゴレス領でも耕作地を急いで造成する。まずは芋とブドウで、ゆくゆくは果樹も考えておる」
「成程、各地の特性を考えた作物を作るのですね」
「明後日に王都から王室御用達の商人がくる。そこで事業の可能性を探り、正式に決める予定じゃ。街道工事は直ぐに始める。スラムの代表、大丈夫か?」
「ふふ、俺等は直ぐにでも動ける。力仕事なら任せな」

 ビアンカ殿下、わざとスラム代表を煽ったな。
 スラム代表もそれが分かっているから、ニヤリとしている。

「勿論文官やメイドに騎士も募集する。人種や出身は問わぬ。ヤル気のあるものを希望する」
「それは俺等獣人でも、頭のいいヤツは文官になれるというわけか?」
「そうじゃ。現に同じ対応をしたブルーノ侯爵領では、筆頭文官はスラム出身の獣人じゃ」
「いいね、仲間内に声をかけとくよ」

 いい感じになってきた。
 やはり直接顔を合わせて話をすると、物事が早く進んでいく。
 力自慢の獣人は明日朝に屋敷前に集合し、それ以外は明後日の午後に集まって会議する事が決定。
 まずは公共工事で、少しでもお金がまわるようにしないと。
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