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第七章 ゴレス侯爵領

第百六十四話 ゴレス侯爵領への道中

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「では、我々もブルーノ侯爵領へ帰還します」
「道中、どうぞお気をつけて」

 翌朝、ヘレーネ様達に見送られながらブルーノ侯爵騎士団が帰っていった。
 今回の人神教国との争いで、ブルーノ侯爵騎士団は間違いなく武功をあげている。
 救護班とあわせて、周辺の領への影響力は増すだろう。
 ルキアさんの評価も上がるし、いい事だな。

「俺達も、そろそろ向かいます」
「サトー様は命の恩人です。サトー様が駆けつけてくれなければ、ギース伯爵領はきっと全滅していたでしょう」
「結構ギリギリのタイミングでしたからね。ゴレス侯爵領についたらまた戻ってきます」

 人数が増えたので、馬車は二台で行くことに。
 俺は、強制的に子ども達の集まっている馬車に決まっている。
 ミケにララ達に、ドラコとマシュー君達。
 クロエとシルク様も同じ馬車に乗る。
 ちなみに、ガルフさんとマルクさんは既に御者台でスタンバイ済み。
 女性集団の圧力から逃げたな。

「「「「行ってきまーす!」」」」

 ミケとララ達の掛け声で、ゴレス侯爵領への道中がスタート。
 探索にも特に引っかかるのはないし、平和そのもの。
 お天気も良く馬車の振動も心地よいのか、いつの間にかマシュー君達はニー達を抱いたまま夢の中へ。
 それでもミケ達はワイワイ騒いでいたが。

「クロエ、そう言えば貴族の令嬢なんだって?」
「黙っていて申し訳ありません。貴族と名乗るのも恥ずかしいところです。貴族主義をこじらせた両親で、政略結婚にも使えない役立たずと捨てられました」
「そんな、酷い」

 シルク様もまさかそこまで酷いとは思ってなかったのだろう。
 物凄くビックリしていた。

「私は貴族として失格だと、無一文でギース伯爵領に追いやられました。ギース伯爵領の方々は私の事を良くしてくれましたが、段々と病は重くなっていきました」
「そこでゴレス侯爵と人神教国からの襲撃があり、たまたま治療にあたっていた俺が病も治したと」
「はい、こうして生きていられるのはサトー様のおかげです。もう、実家には帰りたくありません」
「クロエさん、かわいそう」

 涙ながらに気持ちを吐露するクロエを、シルク様が抱きしめていた。
 今まで溜め込んでいた絶望や失望が、一気に爆発したのだろう。

「もう大丈夫だよ。お兄ちゃんがいるし、何ならミケも面倒を見てあげる!」
「ふふ、そうですね。ミケちゃんも貴族当主でしたね」
「意外とミケはお金持っているよ。養う事もできるよ!」

 ここで、ミケも話に加わってきた。
 俺とともにクロエの面倒を見る言ってきた。
 ミケよ、財力以前にお前も未成年だから俺の保護下だろうが。
 それでも少しは気持ちが穏やかになったのか、クロエも笑う余裕がでてきた。

「成程、そんな事があったとはのう」
「酷い話だね」

 昼食時に馬車の中の話をしていたら、エステル殿下が憤っていた。

「貴族主義の連中にとっては、娘は政略の道具にすぎん。使えないと分かると捨てるという事は、今までもよくあったのじゃ」
「とはいえ、治ったとなるとと言うわけですね」
「妾も聞いたが、クロエの所は男爵にすぎぬ。王族の後ろ盾があって子爵のサトーには手を出せぬ。念の為にタヌキにも話をしておこう」

 タヌキって、確か貴族主義の親分でエステル殿下と俺の婚約に反対した人物。
 成程、毒をもって毒を制すと言うわけか。
 
「父上に連絡しておこう。こういうのは早めに対応したほうがよい」
「そうだね。ビアンカちゃんよろしくね」

 ビアンカ殿下が早速陛下に報告している間に、こちらは皆で出発の準備。
 他のメンバーは変わらないが、俺だけ馬車移動。
 エステル殿下やリンさんの乗っている馬車に乗ることに。
 この中だと、アメリア様とかが初めて一緒の馬車になるのか。
 コッソリと御者台に……
 駄目だ、既にガルフさんが譲らないって感じでどんと座っている。
 諦めて馬車の中に入っていった。

「サトー、いらっしゃい」

 エステル殿下に迎えられたら、中ではお菓子パーティーをしていた。
 昼食食べたばっかりなのに、よくお腹に入るよ。

「サトー様、この馬車とても速いですね」
「ああ、馬がちょっと特別なので」

 アメリア様達は、どうも馬車の進む速度に驚いているらしい。
 そりゃ身体強化する馬なんて他にいないし、何故かスタミナもあるんだよな。
 話し終えると、アメリア様はぼーっと前を見ていた。
 よく見ると、カミラ様とノラ様も同様だった。
 領地の事が心配なんだろう。

「皆さん、領地の事が不安ですか?」
「はい、今は統治するものがいません。どうなっているか全く分かりませんので」
「私の所も同じです。両親も捕まっていますし、兄も魔獣になってますから」
「皆さんと同じです。ゴレス侯爵に従っていたので、他に頼る所もありません」

 男子の殆どか魔獣になったか捕らえられている。
 残ったのは、マシュー君達のような小さい子のみ。
 ランドルフ伯爵領の様に方針が決まっていればいいが、急な事だから方針なんてあってないものだろう。

「父上は後任が決まるまで、どうせサトーに任せるじゃろう。手が空いていて内政を直ぐに任せる貴族や官僚などそうはいない」
「ですよねー」

 何だかそんな気がしてならないのは、どうも俺だけではないようだ。
 リンさんも頷いているし、エステル殿下も苦笑い。
 暫くはしょうがないけど、後釜は決めてほしい。

 今日は子ども達もいるので、早めに野営地を決めた。
 ビアンカ殿下が防壁作りの応用でお風呂を作ったので、野営なのにのんびりできる。
 子ども達や御者をしてくれたガルフさんとマルクさんもいるので、俺は一番最後にゆっくり入る。
 あー、星を見ながらお風呂に入るのもいいな。
 と、思っていたのも僅かな時間だった。

「お兄ちゃんとお風呂に入る!」
「ララも入る」
「リリも」
「レイアも」
「ちょっと。飛び込むな、暴れるな」

 子ども達がいきなりお風呂に入ってきたので、いつもの賑やかな状態になってしまった。
 ちなみにドラコは既に夢の中で、馬車旅が初めての人も眠っていた。
 明日には無事にゴレス侯爵領に着けばいいな。
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