異世界転生したので、のんびり冒険したい！

第六章 叙爵と極秘作戦

第百五十四話 ヘレーネの初陣

「お嬢様、準備ができました」
「馬の準備もできております。賢い馬で素晴らしいです」

　私へレーネは今、初めての初陣に向けて準備をしている。
　王都からきてくれた執事にメイド長のおかげで、すんなりと鎧などの準備ができた。
　昨日朝にあったゴレス侯爵家からの人員を含む我がギース伯爵領への襲撃は、とてつもない被害を生み出した。
　両親と兄夫婦は無惨にも殺害され、我が家で残されたのは私と幼い兄の子のノアのみ。
　私も襲撃犯に殺害されようかというところで、学園の同級生であったエステル様に救われた。
　命は助かっても、今でも襲撃犯に殴られた感触をゾッと思い出す事がある。
　エステル様達の活躍によって、襲撃犯は撃退された。
　今朝、私の婚約者のダニエルとアイザック伯爵が駆けつけてくれた。
　更に陛下に王妃様に各閣僚と、何だかものすごい偉い人が次々にやってきた。
　戸惑う私を横目に、皆様安置所の両親や兄夫婦に冥福を捧げてくれて、非道な行いに憤ってきた。

　そんな中、発覚した二回目の襲撃計画。
　私はお飾りだけど、市内警護に巡回の任ををしっかりとやらないといけない。

「ヘレーネ、気を張らないで。僕もいるから」
「ありがとう、ダニエル」

　ダニエルは見た目は大人しそうだけど、本当は心のしっかりした男の子。
　昔から一緒にいるけど、いつも私のことを心配してくれる。

「昔から本当に仲良いね」
「本当ですね」

　エステル様とリン様も、昔から私のことを良くしてくれている。
　特にエステル様は、王族なのに本当に良くしてくださる。
　私が軍で治療をする時も、いつも褒めてくださる。
　そんなエステル様の役に立ちたいと、私も魔法の勉強を頑張ってきた。

「さて、市内を巡回してこよう」
「はい」

　ダニエルが声をかけて、馬を歩かせる。
　馬には私とダニエルの二人で乗っている。
　馬の両脇を、エステル様とリン様が固めている。
　私なんかには勿体ない位の護衛だけど、ここは素直にお願いしよう。

「この馬には乗っていれば絶対に安全だから」
「安心してくださいね」

　エステル様とリン様が、私とダニエルは馬に乗っていれば安全だと言っていた。
　私は最初理解できなかったが、直ぐに安全という言葉を実感した。

　まずは教会に向かうということで、馬を進めている。
　と、どこからか複数の矢が飛んできた。
　危ないと思ってつい目をつぶってしまったが、私には何も起こらなかった。
　馬のそばには、地面に落ちている矢が沢山あった。

「ヘレーネ、馬が魔法障壁を使って矢を防いだよ」
「え？　そんな事が？」

　私にはにわかに信じられなかったが、馬はこちらを振り向きニャっと笑っていた。

「ヘレーネ様を襲った襲撃者を捕えよ」
「はっ」

　エステル様の指示によって、直ぐに襲撃犯が確保された。
　エステル様の従魔も活躍している。探索能力が凄いらしい。

「ヘレーネは私にはできない回復魔法があるよ」
「そうそう。この後の教会では、きっと役に立ちますよ」

　私には私だけにしかできない事がある。
　そう言ってくれて、少し自信が出たのかもしれない。
　教会について、私は怪我をした人の治療を頑張った。
　まだまだ多くの人が、治療を必要としている。
　サトー様の従魔のネズミが、フル回転で治療をしてくれている。
　一生懸命に治療をおこなう白いネズミは、私から見ても練達の魔法使いに見える。
　私も負けないように頑張ろう。

「お嬢様、王妃様達が戻られました。無事に討伐できたということです」
「ありがとう、私もお屋敷に戻ります」
　
　教会で治療をしている内に、森の方で対応していた王妃様達が戻ってきたという。
　早い帰りに不安を抱きつつ、無事に討伐できたという言葉を信じて屋敷に戻ることにした。

「おお、総大将のお帰りか」
「陛下、遅くなり申し訳ありません」
「いやいや、人々の信頼を得るのも大事な仕事だ。それにこちらが早く終わりすぎた」

　お屋敷に戻ると、陛下も既に戻っていた。
　話を聞く限り、ルキア様率いるブルーノ侯爵家騎士団で千の魔獣を討伐したという。
　しかもほぼ無傷の状態で帰ってきた。
　お屋敷の庭では沢山の人が治療を受けているが、全て魔獣から人間に戻った人だという。
　あまりの人の多さにビックリしつつも、無事に治療できたことにホッとしている。

「ノア様、お姉様が帰ってきましたよ」
「あうー」

　リン様のお付きのメイドであるマリリさんが、ノアを連れてきてくれた。
　まだまだ小さなノアが大きくなるまで、私も頑張ろうと心に思ったのだった。