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第四章 ランドルフ伯爵領攻略に向けて

第百五話 掘り出し物

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 昨晩エステル殿下から色々あった割には、平和な朝を迎えた。
 朝食後に、アルス王子からこっそりとすまんと言われた。どうやらエステル殿下は昨夜俺の部屋に向かった後に、アルス王子からお灸をすえられたらしい。
 どうりで、朝食時のエステル殿下がやけに静かだと思ったよ。
 リンさんは、見た目はいつも通りだけど少し気にかけておこう。

 さて、今日は面接をする予定。
 エステル殿下とリンさん達が帰ってきたから、面接官も予定変更になった。
 メイドはケリーさんとマリリさん。文官はルキアさんと俺。兵士はエステル殿下とビアンカ殿下とガルフさん。
 結局、俺は面接官のままだった。
 この道のプロに任せるのならともかくとして、俺は一般人だぞ。

「はいはい。それはいいから、面接始まるまではこの書類をよろしく」
「アルス王子の人使いが荒いよ」

 くそう、本当になんでも屋になりつつあるぞ。
 取り敢えず面接開始の時間まで、頑張って書類整理をしよう。

「終わったー、疲れたよ。でもルキアさんからのリクエストもやらないと」

 書類整理も終わったので、面接の準備に。
 執務室を面接会場にするので、簡単に椅子とかを配置換えする。
 後はルキアさんの希望で、文書を書いたり簡単な計算の問題を作る。
 前世だと小学生レベルの問題だけど、この世界では文官入門の標準らしい。
 と、ここで小さな乱入者が現れた。

「パパ、お仕事終わったからお手伝いする」
「あれ? 炊き出しや治療所はどうした?」
「ケリーおばさんがね、新しい人が手伝うから大丈夫だって」

 レイアが執務室に入ってきたからなんだろうと思ったけど、ケリーさんはさっそくメイド候補生の実地訓練に入るんだな。
 
「ララとリリはどうした?」
「兵士の人の所に行くんだって。難しいのは嫌だとか言っていたよ」
「まあ勉強するよりかは、身体動かす方があっているのだろうな」
「レイアはお勉強も好きー」
「よしよし、レイアは勉強もできてえらいなあ」
「えへへ」

 レイアの頭を撫でてやったら、ちょっと照れながら笑っていた。
 ララとリリも頭は悪くないけど、勉強好きって感じではない。
 レイアは本を読むのも好きだし、知識を得るのが好きなんだろうな。
 レイアが机の上に置いてあったテストを見つけたようだ。

「パパ、この問題は何?」
「このあと面接を受ける人様に作った、簡単なテストだよ」
「ふーん。パパ、レイアもこのテストやっていい?」
「いいぞ。多めに作ってあるし」
「じゃあ、面接する人と一緒にやるー」

 俺とルキアさんの机の横に、レイア用の机をつけてやる。
 そこに扉が開いて、ルキアさんが入ってきた。
 
「あら、レイアちゃんも一緒なんですか?」
「炊き出しのところは、さっそくケリーさんがメイド候補生の実習にするそうで」
「いきなり実践とは、ばあやらしいですね」
「ララとリリはエステル殿下の所に行ったそうなので、レイアだけこちらにきたみたいです」
「レイアも一緒に試験やるよ」
「ふふ、そうですか。では頑張ってくださいね」

 無事にルキアさんの許可も取れたので、そのまま試験をやらせる事に。
 そろそろ時間かなと思ったら、ドアがノックされてマルクさんが入ってきた。
 
「失礼します。面接を受ける方々が揃いました。お時間より早いですがいかがしますか?」
「こちらはいつでも大丈夫ですよ。面接受ける人が良ければ始めましょう」
「かしこまりました。では、お呼びいたします」

 少し早いが面接を開始することに。
 自治組織からの紹介が殆どで、一人だけスラム出身という。
 まあ、入ってきた人で一人だけキョドっていたし、服装も違うのでひと目でわかる。
 十人くらいが室内に入ったところで、ルキアさんが挨拶を始めた。

「私はブルーノ侯爵家のルキアです。皆様、この度は文官の募集に申し込みいただきありがとうございます。人種や出身を問わず優秀な人材を求めております。どうぞよろしくお願いします」

 ルキアさんの挨拶の後、早速筆記試験が開始された。
 試験会場内をペンが走る音が響く。
 レイアも一緒になって問題を解いていく。

「パパ、終わった」
「え? もう終わったの?」
「うん」

 何と一番最初に終わったのはレイアだった。
 とりあえず、レイアから解答用紙を受け取っていく。
 他の人も少しずつ終わってきたようだ。
 あと五分くらいで終了という所で、一人を除いて全員退出している。
 残っているのはスラム出身という人だが、監視をしつつ問題を見ると全て解き終わっていてもう一度見直しをしているようだ。
 うむ、こういう慎重さはなかなかポイント高いな。

「時間です。採点を行いますので一度退出してください」

 俺が時間の合図をしたので、残っていた一人も退出した。
 さて、急いで採点を行わないと。
 
「お、まじか。レイア満点だぞ」
「やった!」

 最初に終わったレイアの採点を行うと、何と満点だった。
 少し引っかけ問題も作ったのだが、途中式も問題ない。
 その他の人の採点を行うが、引っかけ問題に見事に引っかかっている。

「ルキアさん、レイアが一番で満点以降は見事に引っかけ問題でダメになっていますね。計算は早いのですが、ちょっと問題ですね」
「うーん、各村への派遣などは問題ないですけど、内政を任せるとなるとちょっと心配ですね」
「内政では数字は確実性が欲しいですから。お、最後に満点が出たぞ」
「スラムから応募してきた人ですね。再計算もしていたのは好印象でしたし」

 結局満点は、レイアとスラムから応募した人だけだった。
 その後面接になったが、とりあえずは無難な受け答えだった。
 そして、最後にスラムからの応募者となる。

「どうぞ、お座りください」
「へい……」

 ルキアさんに着席を促されていすが、ガチガチに緊張している。
 リラックスリラックス。

「では、トムさん簡単な経歴を話してください」
「へい、あっしはブルーノ侯爵領の外れの村の生まれです。商会で働いておりましたが、以前街の商会から獣人を一掃する事があり、それ以後は日雇とかで食いつないでました」

 ということで、面接の最後に犬獣人のトムさんの面接が始まった。
 ちょっと栄誉が足らないのか痩せ気味だけど、これは少しずつ回復していくしかないな。
 しかしながら、またあの領主夫人の被害者がここにも。
 そこまでして人間優遇して、どうするんだよ。

「商会ではどのような仕事をしていましたか?」
「へい。大抵の仕事はやっておりました。仕入れから帳簿などもやっています」
「テストも随分と丁寧に計算していましたが、それも教わったことですか?」
「へい。商会の旦那より、数字は正確性が命だと教わりました」

 随分といい人に教えてもらったんだな。
 他の人は少しスピード命ってところもあったけど、この人は違うな。

「文書とかも大丈夫ですか?」
「へい。仕入れのことなどで、別の商会と手紙のやり取りをしておりました。そのくらいなら問題ありません」

 ほー、これは掘り出し物かもしれない。
 貴族の文書なんて俺も知らないし、そこは後からでも覚えられる。

「トムさん。このお屋敷で働くとなると新しいことも沢山覚えます。それについては大丈夫ですか?」
「へい、あっしは勉強は苦にならないので」

 ルキアさんの質問にも答えていたけど、緊張はほぐれたみたい。
 勉強する意欲もあるとなると、ほぼ決定かも。

「ルキアさん。俺は結構いい人材かと思います」
「わたしも同感です。基礎はできておりますので、すぐにでも働いてもらいたいです」
「働きながら研修でも良さそうですね。服とかはあります」
「大丈夫です。お恥ずかしい話、前執事の服が沢山ありまして。見た目はサイズも同じかと」

 俺とルキアさんが話しているのをトムさんは不安に感じでいるようだが、こちらは掘り出し物を見つけて好感度も高い。

「トムさん、失礼ですがご家族の方はおりますか?」
「へい。女房と三歳になる息子がおります。女房は病気で寝込んでおりましたが、お屋敷より派遣された方の治療を受けて良くなりました」
「それは良かった。奥さんはまだ動けないのですか?」
「へい。だいぶ良くなりましたが、もう少し治療が必要だと。しかし小さなネズミが回復魔法を使った時には、驚いて腰をぬかしそうでした」
「お子さんは、今は誰が面倒を見ていますか?」
「女房が動けない分、あっしが面倒をみています」

 奥さんが動けなくて、その代わりに子どもの面倒をトムさんが見ていたんだな。
 それとホワイトの治療班が、いい仕事したらしいな。後で褒めてやろう。

「ちなみにトムさん、奥さんは何か仕事をしていましたか?」
「商会とかでメイドみたいな事はやっていました。家事は一通りできると思います」
「ルキアさん。トムさんの奥さんだから、悪い人ではない気がします」
「わたしも同感です。ばあやの面接は受ける必要があるかと思いますが」

 ケリーさんの面接を受けるにしても、まずは奥さんの治療が必要だな。

「トムさん。わたしはあなたにここで働いてほしいと思っております」
「え。本当ですか、ルキア様」
「はい。幸いにして使用人の部屋も空いておりますし、お子さんは今見ている子どもと一緒に見ることができます。奥さんにも良くなってもらって、このお屋敷で共に働いてもらいたいと思っています」
「ありがとうございます。ありがとうございます」

 トムさんは号泣しているけど、こちら側もそれだけ見込みがあると思っているし、能力もあると思っている。
 トムさんは、一度帰って奥さんに報告するそうだ。
 明日朝またお屋敷にきてもらう事になって、本日は解散となった。

 夕食時にそれぞれの面接結果を話ししていたが、どこも成果は出ていたみたいだ。

「兵士の方は、鍛えればものになるかな。魔法部隊もできそうだよ」
「騎士だけでなく魔法部隊もあるとは、結構な収穫ですね」
「どうも、基礎訓練のメニューをシルとリーフが考えていたよ」
「エステル殿下、シルとリーフがやり過ぎないように見てやってください」

 いい人材がいても、訓練のやりすぎはダメだ。
 シルとリーフは地獄の特訓を考えるし、誰がストッパーにならないと。
 そこは、エステル殿下に期待するしかないな。

「サトーの方はどうだった?」
「一人即戦力がいました。後は研修を受けながらですね」
「サトーのお墨付きなら問題ないだろう」

 アルス王子からこちらの面接結果を聞かれたが、トムさんは掘り出し物だったな。
 他の人も優秀ではあるので、これからの頑張り次第で良くなりそうだ。

「パパ、あの犬獣人の人?」
「そうだよ。よく分かったね」
「何となく。あの人なら大丈夫だと思った」

 一緒にテスト受けたレイアも、トムさんの事を見抜いていたようだ。

「レイアとその一人以外満点が取れぬテストとは、サトーも中々にやるのじゃな」
「といっても、分かりやすい引っかけ問題でしたよ。現にビアンカ殿下も満点じゃないてすか」
「妾にとっては、あのくらいは朝飯前じゃ」

 どうも俺が鬼畜問題を作ったと話になり、何人かが問題にチャレンジしていた。
 アルス王子とビアンカ殿下は、余裕で満点を取っていた。
 それに対してエステル殿下は、見事に引っかけ問題に引っかかっていた。
 点数自体は悪くはないのは、王族の教育の賜物なんだろう。

「レイア、明日もしトムさんの奥さんがきたら治療してくれるかな?」
「レイア頑張る」
「ララも」
「リリも頑張る!」

 トムさんの奥さんの事は、俺も見るけど子ども達も治療頑張るつもりらしい。
 子ども達には、トムさんの息子とも仲良くしてほしいな。
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