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第二章 バスク子爵領

第五十三話 新しい助っ人?

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「うー、少し眠いよ……」
「ミケ、もうちょっと寝て良いんだぞ」
「サトーさん、ミケちゃん。昨日はお母様がすみませんでした」
「いえいえ、結果的にはタラちゃんも喜んでいましたし」

 タラちゃん達がアルケニーに進化した事で、エーファ様とサーシャさんの服飾意欲に火がつき、あっという間に作った服を次々を着せるファッションショーが、何と夜遅くまで行われていた。
 その為に今朝はみんな寝不足状態。着せ替え人形となっていたタラちゃん達はカゴの中で熟睡中。
 ちなみに現在着ている服は、タラちゃんがシスター服でベール付きだ。ポチが半袖のメイド服で、ホワイトブリムも付けている。フランソワは執事服で手袋付き。
 エーファ様とサーシャさんはやりきった感があり、今朝あったが寝不足なのにお肌がツヤツヤしている。ちなみにまだまだ服は作るそうで、ミケだけでなくリーフの服も製作中らしい。
 流石にビアンカ殿下の服は作っていなかった。

 今朝の特訓はみんな寝不足ということで、魔力循環訓練だけに。この状態でバレット型魔法が当たったら大怪我になりそうだ。
 ガルフさんとマルクさんも今日から正式に訓練に参加。二人とも制御の腕輪を付けて、体の感覚が制限されている事に驚いている。
 魔法剣の柄は、ガルフさんが片手剣タイプでマルクさんが短刀タイプ。早速魔法剣を発動しているあたり、マルクさんの魔法センスはかなりの物がありそう。
 さて、俺は魔力循環の続き。昨日リーフにも話したが、どうも何かが詰まっている感じがする。ということで、今日はマンツーマンでルキアさんの指導を受ける事に。

「サトー様、昨日魔力が詰まっている感じがすると言っていましたが、その感覚は正しいのだと思います。サトー様の魔力が大きいので、今まではなんとか魔法が使えていたのでしょう」
「へえ、魔力が詰まるという事があるんですね」
「実際には最初は殆どの人が詰まっている状態なんですよ。それが魔力の循環訓練を行なっていく内に徐々になくなっていきます。しかし稀に頑固な魔力の詰まりが出来ている事があって、恐らくサトー様の場合はこれに当てはまるのかと」

 Oh、俺の魔力が頑固な物で詰まっているのか……
 前世のお風呂のCMの様に何かしないと、この頑固なのが取れないのか。

「方法としては幾つかありますが、一番早いのが他の人と一緒に魔力の循環を行う事です。自分一人の魔力ではうまく詰まりが取れないので」

 ということで、ルキアさんと手を繋いで魔力の循環訓練を行う。
 初めて魔力を起こしてもらった時の様だ。
 しかしながら美女と手を繋ぐのは緊張する。
 いや、ルキアさんは純粋にやってくれているのだ。目をつぶって無心だ無心。

「じゃあ魔力を流すのでリラックスしてください。うーん、なかなか硬いですね……」

 ルキアさんと輪になる様に手を繋いで魔力の循環を行うが、固まった所が中々翌ならない。

「私一人では無理そうですね。マリリさん、一緒に手伝ってもらえますか?」
「はいルキア様。流石サトーさん、美女一人では物足りないですか」

 ルキアさんが一人ではダメだと判断したので、助っ人にマリリさんも入る事に。
 マリリさんが何か言ってるが、ここは無視しておこう。

「ではまた魔力を流しますね。うーん、もう少しなんですけど」
「流石はサトーさん。まるで煩悩の様な頑固さですね」

 おお、二人がかりでもダメですか。流石に頑固に詰まっているだけある。
 そしてマリリさん、魔力詰まりを煩悩に例えないでください。

「じゃあ、今度はミケも入る!」
「ミケ様なら魔力循環も上手なので問題ないでしょう」
「美女二人に飽き足らず幼女にまで手を出すとは。流石はサトーさん、鬼畜ですね」

 今度はミケも参加して三人がかりで魔力詰まりをとる事に。本当に頑固過ぎて凹んでくる。
 マリリさんが何か言っているけどツッコむ気力がない。

「うーん。お、何かボロボロと剥がれていくよ」
「流石はミケ様ですね、魔力操作が上手です。この分なら後少しですね」
「私もここまでの頑固さは初めて経験します。一体なんでここまで固まったのでしょうかね」

 ミケも間に入って魔力循環を行うと、固まった所が少しずつ剥がれていく感覚が。魔力も身体中にうまく循環出来る様になってきた。
 しかし三人がかりでないとダメな魔力詰まりって、どんだけ頑固なのだろう。
 このままの状態で魔力を流し続けると、詰まりが完全に取れた感覚があった。

「ふー、これでもう大丈夫ですね。やはりサトー様の魔力は強い分、固まりも強かったのでしょうね」
「ルキアさん、ありがとうございます。ミケもありがとうね。なんだかスムーズに魔力が流れます」
「確かにお兄ちゃんの魔力は強いね」
「ふう、婚約者の目の前で別の殿方と手を繋ぐとは。あいた」
「その辺にしておきなさい、マリリ」

 ミケの頭を撫でながらルキアさんにお礼をした。ルキアさんはこれだけ固まっているのは魔力が強いせいだと仮説を立てていた。
 それにしても、体の中の魔力の流れがスムーズに感じて心地よい。
 ちなみにマリリさんはさらに何かを言おうとして、マルクさんに軽く頭を叩かれていた。

「やっとサトーも魔力操作から魔法剣に移れるねー。ちなみにガルフはもう魔力操作合格だよー」

 リーフさんよ。折角魔力操作が上手くいって気分がいいのに、気持ちを落ち込ませるような発言はやめてもらいたい。

 朝食後にみんなで難民キャンプへ。
 ちなみにシルとリーフはまたテリー様の元へ。何をやっているかを聞くと、「秘密」と言ってはぐらかしてくる。
 そしてやはりお土産を要求してくるあたり、この二人はちゃっかりしている。

「さてサトーよ。今日明日は薬草取りをメインに行いたいのだが良いか?」
「はい、実は俺もそう思っていました。ブルーノ侯爵領とランドルフ伯爵領への街道は、王都に向かう街道と違って魔物討伐がメインになる気がします」
「うむ、妾もそう思ったのじゃ。なら出来る限りの事を今の内に行おうと思ってのう」
「タラちゃん達が進化したので、より一層薬草取りは効率上がると思います。昨日薬草取りのカゴを買いましたが、念の為にもう少し買っておきましょう」
「そうじゃのう。ついでにフランソワ達の移動用のバスケットもしくはリュックも買っておこう。アルケニーは流石に街中では目立つのじゃ」

 ビアンカ様と今日明日の予定を話すついでに、従魔の移動手段について話した。
 アルケニーになったタラちゃんを含め、特に移動中は外の視線にさらさない様にしないと行けない。
 今は薬草取りのカゴにタラちゃん達にホワイトやスラタロウも入っているのでぎゅうぎゅう詰めだ。もう少し大きめのバスケットとかが欲しい。
 幸いにしてそれぞれ重さが無いので、持ち歩いても疲れないのが助かる。
 ちなみにタコヤキは、マリリさんががっしり腕に抱いている。常に一緒にいたい様だ。
 ハミングバードのヤキトリとサファイアは、それぞれの主の肩にとまっている。

 難民キャンプに到着すると、早速昨日作った大きな冷蔵箱を確認する。
 見た感じ問題はなく、中に保管した野菜も問題はなさそうだ。
 
「ふむ、問題なさそうじゃのう。念の為にもう一棟建てるとするかのう」

 ということで、ビアンカ殿下とスラタロウが追加の冷蔵箱を作っていく。昨日作っただけあって、あっという間に完成。
 そこに明日以降の食糧をアイテムボックスから出していく。
 主な管理は氷の補充と盗難対策でこれは守備兵の人で対応出来るし、定期的な食料の補充も商人経由で大丈夫だ。
 
 その後、ビアンカ殿下とスラタロウは子ども達との約束を守る為に、空いているスペースに遊具を作り始めた。
 なになに? 滑り台にジャングルジム、一本橋にうんていにブランコ。
 他にも縄を切って縄跳びの紐を作ったり、魔物の皮を縫い合わせてボールを作っていた。ちなみにボールの縫い合わせはフランソワとポチが活躍していた。

「「「わーい!」」」

 難民は獣人が多いので、子どもでも身体能力が高い。直ぐに色々な遊びを始めた。
 何故かミケが先頭切って遊んでいるが。
 うん、子どもは元気が一番だ。

 フランソワとポチは炊き出しの準備でも、ちょこまかちょこまかと動いていた。
 災厄の魔物であるアラクネの幼生体なので普通は恐れられる存在なのだが、エーファ様とサーシャさん作成の服がまるでコスプレの様で、特に女性兵と子ども達はほっこりしていた。

「はーい、次の人」

 ポチはルキアさんとホワイトと一緒に治療にあたっている。実はポチには回復魔法属性があった。ホワイトと一緒になって治療を行なっている。
 ホワイトもいつの間にかマントと羽織っている。これもエーファ様とサーシャ様の作品らしい。
 小さなネズミの魔法使いとアルケニーのシスターの治療所は、相変わらずの賑わいだった。

「リンさん、ビアンカ殿下。この分なら予定通り明日から守備兵に引き継げますね」
「はい、ここまではなんとか順調ですね」
「人間主義の怪しいのもおるが、今の所はおとなしい。騎士や守備兵で足りるじゃろう」

 リンさんもビアンカ殿下も大丈夫だと判断してくれた。
 襲撃とかあったけど、難民キャンプも何とかひと段落だ。
 明日も念の為に午前中様子を見に来ることにして、難民キャンプを後にする。

 冒険者ギルドでの手続きを終え、市場に到着。
 薬草取りのカゴを買いつつ、大きめのバスケットを購入。
 タラちゃん達はバスケットを気に入った様で、早速新しいバスケットに入って敷いておいたタオルに包まり始めた。スラタロウもホワイトもバスケットの中に入ってこ満悦だ。

 そのままみんなでワイワイ話をしながら、王都への街道沿いの森に到着。
 早速昨日と同じ分担で、薬草採取を始めるが……

「お兄ちゃん、新しいカゴちょうだい」
「サトーさん、こちらにもお願いします」

 進化したタラちゃん達がかなり張り切っている様で、昨日よりもハイペースで薬草が集まっていく。結構な数のカゴを購入したのに、あっという間に採取した薬草で一杯になっていく。

「マルク。昨日も見ましたが、薬草ってあんなに簡単に集められる物でしたっけ」
「小さな子どもでも薬草は取れますが、大量には無理ですね」
「ですよね……」

 ガルフさんとマルクさんは周囲の警戒をしつつ、採取されていく大量の薬草に驚いていた。
 周囲もそんなに強くない魔物しか出て来ない為、適度に襲ってくる魔物を討伐していく。
 ここは大人の冒険者とセットなら、子どもでも薬草取りが出来そうだ。
 もしくは初心者の冒険者の腕ならしにはいいのかもしれない。

「サトーよ、妾にも新しいカゴをくれ」
「サトー様、私にもお願いしますわ」

 はいはい、直ぐに出しますよー。

「今日も一杯薬草取れたね!」
「大量じゃのう」
「これなら、明日頑張れば暫くは大丈夫ですね」

 今日も大量に採取してカゴがなくなってしまったので、夕方前にギルドに薬草を納品。明日で薬草は当分大丈夫だろう。
 帰りにリーフ達のお土産を買ってお屋敷へ向かう。

「皆さん、お帰りなさいませ」

 お屋敷の玄関に入ると、そこにはサーシャさんが待っていた。

「さあ、タラちゃん達を預かりますね」

 とっても良い笑顔でミケからバスケットを受け取って、お屋敷の奥に向かっていく。あれは新しい服が完成したから、タラちゃん達を着せ替え人形にするつもりだな。

「あの……お母様が申し訳ありません」
「あはは、まあ楽しい分ならいいですよ」

 リンさんが母親の暴走を詫びてくるが、まあ何か被害が出ている訳ではないからいいか。
 各自部屋に戻って着替えて夕食タイム。

「おおサトーよ、先程お兄様から連絡があってのう。お兄様は一度バルガス領から王都に戻るそうじゃ」
「王都に戻るということは、王都の貴族のお屋敷も捜索の対象になるかもしれませんね」
「サトーの予測が正しいのじゃ。これから王都で情報を収集するそうじゃ。なので、代わりの者をバスク領に送るそうじゃ。もうバスク卿には話をして部屋を抑えてもらった」

 アルス王子はそうなると王都での活動が中心になるのかな。
 しかし代わりの人って誰なんだろう。

「ビアンカ殿下、こちらに来る方はわかっているのですか?」
「うむ、妾の一つ上のお姉様でエステルお姉様じゃ」
「え、ビアンカ殿下。エステル殿下ってあのエステル殿下ですか?」
「そうじゃ。おお、リンは王都の学園では同年代であったのう」
「同じクラスでした。そうですか、エステル殿下が助っ人ですか」

 今度はビアンカ殿下の一つ上のお姉さんで、なんとリンさんのクラスメイト。
 でも、リンさんが助っ人がエステル殿下だと聞いた瞬間の反応がとっても気になる。

「リンさん、エステル殿下とはどんな方ですか」
「うーん、そうですね。容姿端麗で皆に優しく可愛いものが好きなのですが、特記すべきは剣の腕ですわ。後は何というか、王家の方ですが行動力に溢れているというか……」
「そういえば、エステルお姉様は既に王都から早馬でこちらに向かっておるという。しかも護衛は誰もつけておらんとあったのう。まあ、エステルお姉様の実力なら盗賊なんぞ一捻りじゃ」

 何だろう。綺麗だけど残念系の匂いがする。
 ミケと顔をあわせたら、暴走する予感がしてならない。

「明日朝には到着するとお兄様から連絡があったのじゃ。顔を合わせればよくわかるのじゃ」

 ビアンカ殿下から、有り難くない情報がもたらされた。
 明日は大人しく薬草採取に励む予定が、何やら嵐の予感しかしないぞ……

 ちなみに今日は流石にタラちゃん達は早めに切り上げてもらったらしいが、それでも着せかえ人形になって疲れていたのか直ぐに寝てしまった。
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