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第二章 バスク子爵領

第五十一話 大きな冷蔵箱

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「主人、気をつけるのだぞ」
「サトー、いってらっしゃいー。お土産よろしくー」

 朝食後にシルとリーフに見送られて、ガルフさんとマルクさんを連れて先ずは難民キャンプへ。
 今は俺達が難民向けの炊き出しを行なっているけど、その内騎士や守備兵の人とやもしくはお屋敷のメイドさんとかに引き継がないと。

「ビアンカ殿下にリンさん。今俺たちが炊き出しを行なっていますが、その内にバスク領の方に引継がないといけないですよね」
「ギルドで色々調査を行なっておるが、妾達も調査に注力せねばならぬ。その為にも早い事バスク卿で難民関連を対応出来るようにしないといかんのじゃ」
「お父様もお兄様も今はやるべき事で手一杯です。物流だけでも回復すれば大分変わると思います」
「その為にも、今日の魔物の調査とかは重要ですね」

 先ずは王都に向かう街道沿いの薬草取りと魔物の調査討伐。
 ここでの状態が基準となって、ブルーノ侯爵領やランドルフ伯爵領の街道の治安レベルがわかる。
 街道に出る数が少ないだけで、実は魔物がウヨウヨいるとかそうならない事を祈りたい。
 ちなみにガルフさんとマルクさんとも話をしたいのだが、今はミケが中心となって他の女性陣と話しているので、王都に向かう街道に行く際に話す事にしよう。

 なんだかんだ話している内に難民キャンプに到着。
 オリガさんとガルフさんが早速同僚に話しかけて、今朝までの状況の確認を始めた。
 こちらはアイテムボックスから食材を出して、炊き出しの準備。今日はスラタロウが調理担当の様だ。
 今日はオーク肉を使っての肉煮込みの様だ。
 スライムが魔法を駆使して調理する様子に、またもや子どもが集まってきている。

「いやあ、訓練の時にも拝見しましたが、とてもスライムが行う魔力操作とは思えないですね」
「タコヤキはまだこのレベルに達していないので、ちょっと悔しいです」
「いや、マリリのスライムも大概だと思いますよ」

 配膳で配る食器などを準備しながら、マルクさんとマリリさんがスラタロウの調理風景を見ているが、確かに通常のスライムとは魔法を扱うレベルが明らかに違う。
 スラタロウといい、タコヤキといい、一体なんだろうな。

 調理スペースの横では縮小された簡易的な治療所で、ルキアさんとホワイトが治療にあたっていた。
 最近は特に子どもの怪我が多いがこれは走り回ったりして転んで出来た物なので、当初よりも元気になってきた証拠とも言える。
 相変わらず治療所のマスコット的存在のホワイトは、せっせと治療と行なっては頭を撫でられていた。
 今朝の訓練を乗り越えたおかげか、小さい尻尾がゆらゆら揺れていてご機嫌だ。
 炊き出しと治療所の様子を眺めていたら、リンさんとビアンカ殿下が俺に声をかけてきた。

「サトーさん。今この難民キャンプの指揮官に話をしたところ、明後日から調理要員を出してくれるそうです」
「既にラルフから指示が行っている様じゃのう。スムーズに話が纏まったのじゃ」
「そうですか、それはよかった」

 テリー様とラルフ様が既に動いてくれているので、調理要員の件は問題なさそうだ。
 だが、どうも別の問題があるらしい。

「後は、どの様にして食料を保管するかですね」
「食料を冷蔵する魔導具は存在しておるが、王城などで使う高級品じゃ。何か簡易的な方法があればよいが」

 難民の数が多いので、使用する食料も量が多くなる。
 しかも天気が熱い訳ではないが、寒くもないので特に肉は腐りやすい。
 だが一時的な事なので、王城で使う様な大層な魔導具は使えない。
 何かいいアイディアないかな……

「アイディアの一つには冷蔵箱の様な物を作る事ですね。ただ、氷の製作と溶けた水の排水がありますが」
「冷蔵箱は普通は木で出来ていますからね。我が家にあるのもそうです。氷は水魔法使いの方が出来ますが、問題はどうやって保管する所を作るかですね」

 昔の映画とかであった冷蔵箱がこの世界にはあったのだが、問題はどうやって大きな物を作るかだ。

「一時的であればこの間の収容所の様な物でよいじゃろう。魔力操作訓練の結果を発揮する場じゃ」

 と、ここでビアンカ殿下が簡易的なものであれば土魔法で作ると言ってきた。
 だが、ある程度気密性も必要だし、果たして上手くいくか。

 ということで、調理が終わったスラタロウと共に調理場の横で大きな冷蔵箱の製作を開始する。
 スラタロウに事情を説明した所、新たな施設を作れるという事でやる気満々だった。
 既にビアンカ殿下とスラタロウの間で何か話をしている。
 周りにはスラタロウの魔法が観れるという事で、メンバーだけでなく子どもも沢山集まってきた。

「ふむ、先ずは外装を作るとするかのう」

 と言って、ビアンカ殿下が圧縮した土壁を作成して簡易的な外装を作成する。
 大きさはこの間の収容所よりかは大きく、大体三十畳くらい。
 この大きさの建物があっという間に出来たので、既に子ども達は大喜びだ。

「ふふふ、ここからが腕の見せ所じゃ。いくぞ、スラタロウ」

 と、スラタロウと合作で何かを行う様だ。
 だが、外観は全く変わらない。
 しかしビアンカ殿下とスラタロウは仕事をやり切ったスッキリ感で汗を拭っていいた。

「ビアンカ殿下、何をされたのですか?」
「サトーよ、中を見てみるがよい」

 ビアンカ殿下に言われて建物の中に入って見ると、壁が厚くなっていた。
 これはもしかして……

「ビアンカ殿下、もしかして断熱材ですか?」
「直ぐに分かってしまったか。もう少し悩むかと思ったのじゃぞ」
「いえいえ、とてもびっくりしていますよ」

 ビアンカ殿下は直ぐに俺が分かった事に不満気味だが、それでも俺はびっくりしている。

「普通の冷蔵箱は木の内側に金属をつけるが、ここでは生憎出来ない。そこで硬い土の壁を二つ作り、その間に空気を含んだ柔らかい土を入れたのじゃ。これなら少しは冷蔵箱の代わりになるじゃろう。ちなみに床も同じ様に加工しておるのじゃ」
「いや、十分な性能かと……後はこの中に水魔法で作成した氷を詰めていく訳ですね」
「ふふふ、それは見てのお楽しみじゃ」

 何か悪巧みをする笑顔を俺に見せながら、建物の中に入るビアンカ殿下とスラタロウ。この二人は一度凝り出すと止まらないからなあ。
 こちらの心配を無視して、ビアンカ殿下とスラタロウはどんどん改造を始めていく。
 硬化した土魔法で氷を置く所を作成し(水で濡れても大丈夫!)、排水用の溝を作成。
 明かり取りの穴を最小限にし、水魔法で作成した氷で穴を埋めていく。
 正直これだけの断熱素材なら、多少の暑さでも大丈夫の気がするが、どんどん改造されていきあっという間に大きな冷蔵箱の完成。
 中も冷えてきたので、早速野菜とかをアイテムボックスから取り出して順に並べていく。
 テストも兼ねて、先ずは少量から。

「「「おお、冷たい!」」」

 ミケと子ども達は、大きな冷蔵箱の中が冷たくてはしゃいでいる。
 そりゃ短時間でこんな物が出来れば大喜びだろう。
 ただし、残念ながらここは遊び場ではない。

「ミケちゃん、それにみんなも。ここはお野菜とかを保管する所だからね。中で遊んじゃダメだよ」
「「「えー」」」

 リンさんがミケと子ども達を注意するが、せっかくの遊び場が使えなくて不満気味の様だ。
 特にミケよ。何で先頭に立って不満を言うのかね。

「ふむ、では明日は何か遊具を作るとするかのう」
「「「やったー!」」」

 ビアンカ殿下の提言に再度歓声を上げるミケと子ども達。
 でもミケさんはお仕事もありますからね。
 
 作成した冷蔵箱は守備兵の人が監視してくれるので、間違って子ども達が入らないようにお願いして、俺達は一路冒険者ギルドへ向かう事に。
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