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第二章 バスク子爵領

第四十四話 指名手配

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「サトー殿!」
「サトーよ、大丈夫か?」
「テリー様、ビアンカ殿下。ゴブリンの対応をお任せしていたのに申し訳ありません、敵にしてやられました」
「仕方ないのじゃ。陽動の陽動を仕掛けてくるとは思わないのじゃ」
「うむ、その中でよく敵将の対応をしていたと思うぞ」

 テリー様とビアンカ殿下が収容所に駆けつけた。どちらもゴブリンと戦っていたのか、服の所々が汚れていた。
 テリー様とビアンカ殿下は、真っ黒に焦げてしまった収容所を眺めながら俺の対応を労ってくれたが、俺の中では未だ悔しさが残っていてぎゅっと拳を握った。

「サトー……」
「リーフ、もう大丈夫だよ。だが、どうしても悔しさは残るかな」

 リーフが俺が拳を握ったのを気にしてくれたが、やはり悔しさは残るものだ。
 この悔しさは当分の間残りそうだ。
 辺りを見渡すと、ゴブリンとの戦闘は終わり今は騎士や守備兵が後始末に追われている。
 また怪我した人は、ルキアさんなどが治療を行なっている。
 見た感じは重傷者はいないようだ。
 
「……うぅ……」
「あれ? リーフ、何か言った?」
「何も言っていないよー」
「じゃあ何だろう?」

 そんな光景をていたらふと、どこからかすかな声が聞こえてきた。
 小さい声だったので、リーフかと思ったけどそうではないようだ。

「……うぁ……」
「あ、確かに聞こえたよー。誰の声だろうー?」

 再度声がしたようで、今度はリーフにも聞こえた様だ。
 ……もしかして。

「おや、サトーよ? 何かあったのか?」
「サトー殿、そんなに急いでどうしたのか?」

 ビアンカ殿下とテリー殿が俺が急いでいる様子を見て何かを言うが、それ無視する。
 行き先は収容所の中。魔道士の攻撃で既に鍵は壊れていたのでそのまま中に入る。
 ……うわ、肉が焦げた様な物凄い匂いだ。

「……ぁぁ……」

 聞こえた、下の方だ。
 うわあ、この焦げた状態の者を退けないといけないのか。
 無心だ無心。
 黙々と作業を行うと……いた! 微かに息をしている少年が。
 回復魔法をかけるが、受けたダメージが大きいのか効果はない。

「……ぼ……ぼ……」
「どうした? 何かあるのか?」
「…………」

 少年は微かな声で何かを訴えてきた。
 息をひそめて耳を澄ませて声を拾う。そう、何でもいいので情報を拾うんだ。

「…………」

 少年は最後の力を振り絞って、途切れ途切れだけど何かを発声した。
 聞き漏らさないように、顔を近づけて一生懸命に聞く。
 
「あ、お兄ちゃん。真っ黒だよ!」
「サトーさん、大丈夫ですか?」

 収容所の中から出てくると、そこにはミケとリンさんが待っていった。
 どうも中で色々していたら、そこら中真っ黒になった様だ。
 ミケもリンさんも、真っ黒になった俺にびっくりしている。

「ほほ、サトーよ。良い顔になったのう」
「はは、真っ黒になりましたからね」
「違うのじゃ。先程と比較しても良い目になっておるぞ。何か掴んだか?」
「ビアンカ殿下、早速ですがお願いした事があります。少し急ぎたいので」
「うむ、ここからはスピード命じゃ。敵は目的を成功させたと持っているからな。今度はこちらが裏をかいてやろうぞ」

 ビアンカ殿下は俺が何か見つけたのが分かった様だ。
 敵の裏をかくにも、急いでこの後のアクションを起こさないと。
 でもその前に生活魔法で体を綺麗にしないと。

「あ、いつものお兄ちゃんになった」
「でも流石に匂いは残っちゃっていますね」

 見た目は綺麗になっているが、どうしても匂いが残ってしまった。
 まだまだ俺も生活魔法の習熟度が高くないなあ。

「父上、ゴブリンの後始末が完了しました」
「そうか、ご苦労。さて、この収容所も対応しないとな」
「遠くからでもかなりの魔力を感じました。今回は相手にしてやられました」
「うむ。だが、我々もこれで終わりではない。これからの対策を考えないとな」

 ゴブリンの後始末が完了したとラルフ様がテリー様に報告を行いにきた。
 同時に黒焦げになった収容所を見て、改めて相手への対策を練り直す必要性を感じていた。

「バスク卿にラルフよ。妾とサトーはアルフお兄様に至急報告しなければならない。急ぎバスクの屋敷に向かう」
「うむ、これだけの事があったのだ。事は急ぎでしょう。リンよ、お二人の案内をしなさい」
「分かりました、お父様」
「テリー様、ラルフ様。申し訳ありませんが後をお願いします。炊き出しや治療所などはルキアさんがいますので大丈夫かと思いますが」
「サトー殿、ここの事は我々に任せよ。そなたが出来る事を精一杯行うのだ」

 おお、テリー様カッコイイ。胸を叩いて任せろと言い切った。
 この様な人が現場にいると頼もしいな。

「ミケ、テリー様とラルフ様の言うことをちゃんと聞くんだよ」
「うん! ミケも頑張るからお兄ちゃんも頑張って」

 テリー様とラルフ様に現場を任せ、ミケにも言い聞かせてビアンカ殿下とリンさんと共に現場を後にしお屋敷に急ぐ。
 急ぎながら周りを見渡していると、攻撃を受けての難民の混乱も収まった様だ。
 この分なら暫くの間は大丈夫だろう。 
 さて、ここからはスピード勝負だ。

「サトーさん、何か分かったのですか?」
「はい、この難民問題はやはり事前に闇ギルドによって仕組まれていました」
「やはりそうですか」
「それにあの魔道士以外にも、この難民問題に絡んでいた闇ギルドの人間が絞り込めそうです。アルス王子にはその人物の確認も併せて行ってもらいたいです」
「サトーよ、既にアルスお兄様にその者の情報を渡しているのじゃろ?」
「流石はビアンカ殿下です。実はバルガス領を出発する際に、アルス王子と握手する際にそっと紙を渡しました」
「ふむ。となると、あの場にいた者の中に闇ギルドの人間が?」
「え? あの見送りした人の中にですか?」
「はい、間違いないでしょう」

 ビアンカ殿下とリンさんとお屋敷に向かって走りながら状況を説明する。
 リンさんは、バルガス領で見送ってくれた人の中に、闇ギルドに絡んでいる人がいる事が信じられない様だ。
 だが、おそらく間違いないだろう。
 この世界に来て未だ日は浅いが、その中で出会った人の裏の姿を知ってしまう事にもなる。
 この世界で生きていくためには仕方ないのかもしれないが。

「お嬢様、お早いお帰りで。どうかされましたか?」
「急ぎの事があります。私の部屋にビアンカ殿下とサトー様をご案内します」
「え? 殿方をお嬢様のお部屋にですか?」
「ビアンカ殿下もおりますので、何も問題は起きません」
「分かりました」
「あと、お風呂を早めに準備してください」
「かしこまりました、お嬢様」

 お屋敷につくと、出迎えてくれたメイドさんが予定より早い帰りに驚いていたが、それ以上に未婚の女性の部屋に男性が入る事にびっくりしていた。
 だが、今はそんな事を言ってられない。
 あと、さりげなくお風呂の準備と言ってくれたのは感謝だ。

「リン様、今まで気を失っていて申し訳ございません」
「リン、何かあったの?」

 お屋敷の中からオリガさんとマリリさんが出てきた。
 二人とも気がついて少し経っているのか、顔色もだいぶ良くなり動きも問題なさそうだ。

「オリガさん、マリリさん、気がついて良かった。この後、私の部屋でビアンカ殿下とサトーさんと急ぎアルス王子殿下に連絡を行います。詳細は後ほど話しますが、先ずはこの部屋に誰も近づかないように警備をお願いします」
「リン様、分かりました。重大な事があったのですね」
「リン、男の人を部屋に招くなんて中々やるじゃない。私は外で誰も覗けないようにする」
「マリリさん、もう……」

 マリリさんに冷やかされて赤くなるリンさんだったが、そこは幼なじみ。細かい事は聞かなくても直ぐにそれぞれ行動に移った。

「そうか、ここはリンとサトーを二人っきりにすればよかったのじゃな」
「ビアンカ殿下まで何をおっしゃっているのですか! ごほん、失礼しました。こちらが私の部屋になります。オリガさん、後はよろしくお願いします」
「リン様、任されました。ビアンカ殿下、サトー様、リン様をよろしくお願いします」

 ビアンカ殿下にも茶化されてしまったが、オリガさんにドアの外の警護を任せてビアンカ殿下と共にリンさんの部屋に入ります。
 リンさんの部屋は流石貴族の娘といった所だ。カーテンやベットの素材などは淡い色が使われ、派手さはないが随所に品の良い調度品が使われている。
 剣士らしく剣もあったが、お人形やぬいぐるみに花とかもある所は女性らしさを感じた。

「さてサトーよ。リンの部屋を見渡すのも良いが、先に仕事を済ませてしまおうぞ」
「サトーさん……」
「ビアンカ殿下が変な事を言うから、リンさんが真っ赤っかになっちゃったではないですか! ったく……。リンさん、紙とペンはありますか?」
「こちらをお使い下さい」
「ありがとうございます。うーんと、こんな感じかな。ビアンカ殿下、こんな感じでアルス王子に連絡していただけますか?」
「ふむ、この内容ならそのまま送っても問題なかろう。署名は妾の者を追加しておく。リンよ、何か疑問点はないか?」
「ビアンカ殿下拝見いたします。……え? サトーさん、この内容は本当なのですか?」
「はい、恐らく間違いないかと」
「サトーさんが言うのなら本当かと思いますが……。しかし私はちょっと信じられません」
「妾はこやつらを以前から少々怪しんでおった。だからサトーから話があった際には特には驚かなかったのじゃ」
「点と点が線で結ばれたら、もうこの人達しか怪しい人はおりませんでした。ビアンカ殿下、アルス王子に連絡をお願いします」
「うむ、すぐ送るのじゃ」

 リンさんの部屋にあるソファーに皆で座り、アルス王子に送る内容を作成する。
 ビアンカ殿下とリンさんと三文芝居を行いながら、アルス王子に送る内容を確認してもらった。
 リンさんは物凄く驚いていたが、ビアンカ殿下は怪しんでいたんだ。
 ビアンカ殿下は早速例のFAXに似た魔道具でアルス王子に連絡をしていた。

「うむ、後はどの位でお兄様から返信があるかじゃな」
「直ぐに返信頂けると良いですわね」
「まあ、アルス王子も事件の対応でお忙しいから……あれ? ビアンカ殿下、アルス王子より連絡きていませんか?」
「本当じゃのう。うむ、これは先ほどの件とは別でのお兄様からの連絡じゃな。それにサトーよ、面白い事が書いてあるぞ」
「どれどれ……。あー、この展開は実は予想していたのですが、逆にこれで犯人が確定ですね」
「サトーさん、私にも見せて下さい。……、先程の収容所の件と同じなんですね」
「しかもこの施設に入る関係者は限られていると言う事じゃ。もう確定じゃろう」

 ビアンカ殿下が連絡してから直ぐにアルス王子から連絡が入った。
 先程の件とは別で、アルス王子としても急ぎの案件だったのだろう。
 送られてきた内容はこんな感じだった。

 先程、バルガス領内の冒険者ギルドで収容していた事件の関係者が毒殺された。
 昨日の各所襲撃事件の関係者も併せて殺害されている。
 ただし、バルガス邸にて収容している関係者は問題なし。
 そして毒殺後にある冒険者グループが所在不明となった。
 バルガス領の門から出た履歴もない。

 ギルド内の事件の関係者が毒殺されたが、バルガス邸の関係者は無事。
 つまり毒殺を仕掛けたのはギルドの関係者であると言うこと。
 しかも事件の関係者に接触出来る冒険者は限られている。
 ギルドマスターと副マスターに職員以外だと、接触したのはこの冒険者しかいない。

「お、お兄様から返信があったのじゃ。先程の件も含めて返信のはずじゃが……。流石はお兄様、仕事が早い。既に父上の承認と王都のギルドグランドマスターの承認も取ったか」
「もしかしたら、昨日アルス王子に情報を渡した時点で動いていてくれたかもしれません」
「私もあの人に対する気持ちを切り替えないといけませんね」

 既に下準備も完了していたのだろうか、スピードを持って決定した様だ。
 アルス王子からの連絡にはこう書かれてあった。

 冒険者ビルゴならびにその仲間の冒険者ライセンスを剥奪、併せて全国に指名手配とする。
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