異世界転生したので、のんびり冒険したい!

藤なごみ

文字の大きさ
上 下
31 / 394
第一章 バルガス公爵領

第三十一話 残された命

しおりを挟む
 さて、ビアンカ殿下とフランソワとスラタロウのトリプルサンダーで容疑者は無力化出来たが、こちらは体がまだ動かない。相当強力なエリアスタンだったみたいだ。

「フランソワ、念のためにあやつを糸で縛っておけ」

 ビアンカ殿下はまだ周りが動けないとわかっている様で、念のために容疑者を縛るようフランソワに言っていた。
 しかし、今回はビアンカ殿下大活躍だったな。
 こっちも今後はスタン対策を考えないと行けない。

「お父様? さっきの大きな音は……。ええ! みなさん大丈夫ですか?」

 さっきのトリプルサンダーの音にびっくりしたのでしょう。
 サリー様がお屋敷から裏庭に顔を出し、そしてこの惨状にびっくりしています。

「おお、サリーか。尋問でちと色々あってな。皆は痺れているだけだから大丈夫じゃ」
「そうなんですね。あの魔物は……」
「あやつのことは大丈夫じゃ。拘束もしているので問題はないぞ」
「そうですか。よかった」

 ビアンカ殿下がサリーに状況を説明している。
 うん、初見ではあの容疑者を見ると、とても人間とは思えないよね。
 人型の何かとしか見えないし。
 ふとサリー様は、シルの近くにいた操られていた雛鳥に気がついたみたいだ。

「あれシルちゃん。この鳥さんは?」
「この鳥は犯人に操られていたんだぞ。無理やり動かされてこの状態だぞ」
「えー? 誰か鳥さん直せないの?」
「もう普通の回復魔法では無理だぞ。我でもどうしようもないぞ」
「そんな……。鳥さんがかわいそう……」

 サリー様は息も絶え絶えの雛鳥を胸に抱き締めて泣いている。
 でもあれだけの強力なエリアスタンを無理やりやらされ、もう体力も残っていなさそうだ。

「サリーよ、この鳥も被害者じゃ。でも妾でもどうにもならん」
「ビアンカ殿下でも……。鳥さん、なんとか助かって!」
「うむ? これはなんじゃ!?」

 ビアンカ殿下も鳥を抱きしめるサリー様を慰めようとするが、サリー様はなんとか雛鳥を助けようとしている。
 すると、突然サリー様の体が黄金色に光出し、流石にビアンカ殿下もびっくりしている。

「お願い、鳥さん助かって!」

 サリー様が目を瞑って祈り出すと、光はお屋敷の敷地ギリギリまで広がっていく。
 時間にして十秒位だろうか。
 その間辺りは眩しく神々しい位に光っていた。
 徐々に光は収まっていき、光が収まると同時にサリー様も目を開けた。

「チチチ」
「わあ! 鳥さん元気になった!」
「おお、なんということじゃ」

 ビアンカ殿下もびっくりしている。
 あの瀕死状態の雛鳥が全回復しているのだ。
 羽も全て綺麗になっていて、あの焦げた状態はまるで分からない。
 雛鳥はサリー様が治してくれたのがわかっているのか、顔を寄せたサリー様に寄り添っている。

「あれ? 体が動くぞ!」
「本当だ!」

 さらに治ったのは雛鳥だけでなかった。
 エリアスタンで痺れていた全員が回復していた。
 勿論俺も回復している。

「サリーお姉ちゃん!」
「わあ。ミケちゃん大丈夫?」
「うん、サリーお姉ちゃんが治してくれたから。鳥さんも元気になったんだね!」
「そうだね! とても元気だね!」

 ミケがサリー様に抱きついていった。
 痺れが治って元気いっぱいだ。

「でも今回ミケは何も出来なかったよ……。ビアンカお姉ちゃんを守れなかった」
「ミケよ、しょうがないのじゃ。妾とて運がよかっただけじゃ」
「うん……」
 
 今回ばっかりは何も出来ないのは俺たちも一緒だな。
 結果ビアンカ殿下を危険に晒してしまったわけだし。
 ミケがしょんぼりするのもしょうがない。

「ふう、やれやれ。想定外の事態でしたなアルス殿下」
「全くだ。これからはこういう事態に備えないと行けないな」
「はい。今回はビアンカ殿下に助けられました」
「そうだな。それに卿の娘のお陰で、ビアンカの手を汚さないで済みそうだ」

 バルガス様とアルス王子が話していたが、今回助かったのは俺らだけではなかった。

「うぅぅ……」

 バルガス様とアルス王子の視線の先には容疑者の姿が。
 サリー様の回復魔法でなんと魔物の姿から元の人間の姿に戻り、トリプルサンダーで受けた傷も全回復していた。
 まだ意識は戻っていないが、命は大丈夫だろう。
 これで容疑者が死んでしまったら、ビアンカ殿下が直接手を下した事になる。
 いくら王族とはいえ、まだ八歳の女の子だ。
 心に傷を負ってしまった可能性もある。
 それを防げた事に、バルガス様とアルス王子は安堵していた。

「サリーよ、よくやったぞ」
「あ、シルちゃん。急に魔法が使えたからびっくりしたよ」
「サリーは既に魔法を使えるだけの素養があったのだぞ。それがあの鳥を助けようと思ったことで使えるようになったのだぞ」
「助けようと思った事で?」
「前に話したが、聖属性は相手を思うことが必要だぞ。今回必死に助けようと思ったことで聖魔法が発動したんだぞ」
「そっか、教えてもらっていたね。シルちゃんありがとう!」
「立派な弟子で、我も嬉しいぞ」

 そういえば前にシルが言っていたな。聖魔法は思いも必要だって。
 それだけサリー様も真剣に助かってくれと思ったんだ。

「でもサリーよ。今回は大きな範囲で聖魔法が発動してしまったぞ。結果的にはよかったが、魔力の制御訓練は頑張るんだぞ」
「はい、頑張ります!」
「うむ。そのいきだぞ」

 何このイケメンオオカミ。弟子を褒めつつ改善点を指摘し、さらにやる気を出させている。
 俺には到底無理だ。

「さて、ひとまずは終わりだな。他のやつの尋問もあるし、暫くは忙しくなるぞ」
「「はい!」」
「街に残党が残っているかもしれない。暫くは警備を強化する。明日には別部隊も合流するだろう。容疑者の尋問が終わり次第、バルガス卿の騎士と合同で捜索に入る」

 アルス王子が部下の近衛兵に訓示し、明日以降の予定を伝えている。
 色々あったけど、これで一連の事件は一区切りだな。
 後は偉いお方にお任せだ。

 容疑者はバルガス様のお屋敷の牢に収容された。
 まだ意識は戻らないが、じきに起きるだろうとの事。
 牢の前は二十四時間体制で監視されるそうだ。

 そして俺たちは食堂に集まって夕食を頂いている。
 アルス王子もいるので豪華な作りだ。
 リンさんとビルゴさんも一緒に頂いている。
 元々貴族とその従士だったリンさん達はテーブルマナーもバッチリだったのだが、ビルゴさん達は慣れないテーブルマナーに悪戦苦闘。
 テーブルマナーはそこまで気にしないでと言われたのだが、そう言われると逆に気になってしまうのが人間の性。
 哀れビルゴさん達は、あまりくつろげない夕食だったみたいだ。

 リンさん達とビルゴさん達は夕食後にそれぞれの宿泊している所に帰っていった。
 お屋敷に泊まってはと言われたが、特にビルゴさん達が断っていた。
 まあ、豪華な部屋ではなかなか寝れないよね……

「ふああ、ねむねむ」

 今日は朝からイベントが一杯あった為か、とても疲労困憊。
 ミケもおねむのようだ。
 明日は取り調べがメインになるので、俺たちの出番は何もない予定。
 ……多分ないよね?
 もう普通に冒険者やりたいんです!
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜

赤井水
ファンタジー
 クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。  神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。  洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。  彼は喜んだ。  この世界で魔法を扱える事に。  同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。  理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。  その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。  ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。  ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。 「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」  今日も魔法を使います。 ※作者嬉し泣きの情報 3/21 11:00 ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング) 有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。 3/21 HOT男性向けランキングで2位に入れました。 TOP10入り!! 4/7 お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。 応援ありがとうございます。 皆様のおかげです。 これからも上がる様に頑張ります。 ※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz 〜第15回ファンタジー大賞〜 67位でした!! 皆様のおかげですこう言った結果になりました。 5万Ptも貰えたことに感謝します! 改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...