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第一章 バルガス公爵領

第十五話 不穏な話

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「サトー様、本日お泊まり頂くお部屋となります。ご所望がございましたら何なりとお申し付けください」
「……はい、わかりました」
「御夕食の前にお風呂でもいかがでしょうか、準備が整いましたらお呼びいたします」
「……ありがとうございます」
「では、失礼致します」

 パタン。

 ソファーにどっかりと座って。
 あー、緊張した。
 メイドさんなんかと話したことないから、どう喋っていいかわからん。
 なんちゃってメイドさんとは大違いだ。
 あれはまさにプロフェッショナルだ。
 メイドという名のプロフェッショナルだ。

「わーい、わーい!」

 そしてミケさんや、スラタロウと一緒にベットで跳ねない。
 見るからに高価なベットにふかふかのマットレスというのは、その跳ね具合から見てよくわかる。
 そして今座っているソファーも、超ふかふかで体が沈んでいく。

「主人、この後はどうするのだ?」

 シルが今後の事を聞いてきたのだが、その前にシルさんよ。高級そうなカーペットにぐたーってしていないか?
 まあ、一旦それは置いといて。

「出来れば今日中に、ビアンカ様とバルガス様に色々聞いてみたい。今日感じた視線は、俺たちを邪魔者として感じているようだ。冒険者ギルドに行くのは明日になるかな」
「ふむ、わかったぞ主人」

 シルさんよ……、カーベットに横になって尻尾振るだけでは説得力ないぞ。
 そしていつの間にかミケとスラタロウは、ベットで寝ているし。
 本当に君たち自由人だね。

 こんこん
 
 お、ノックされた。誰かな?

「どうぞ」
「失礼します。御館様がお呼びになられております」
「わかりました。直ぐに行きます」
「恐れ入ります」

 丁度、バルガス様からお呼び出しだ。この際色々聞いてみよう。

「主人、こちらは心配するな」

 シルさん。もう体が緩みきっている状態で言われても……

 さっき部屋に案内してくれたメイドさんに連れられて、お屋敷の中を歩くが、このお屋敷まじで広いな。
 調度品も高価そうだし。
 と思ったら、とある部屋の前で止まった。

 こんこん。

「御館様。サトー様をお連れいたしました」
「おお、そうか。ご苦労。入ってくれ」
「失礼します」
「失礼しまーす」

 メイドさんに案内されて入った部屋には、バルガス様の他にビアンカ殿下もおられた。
 いきなり話題の本丸登場です。

「サトー殿、よく来られた。ささ、座ってくれたまえ」
「失礼します」

 うお、バルガス様に促されて座ったこのソファー、さっきの部屋のよりも段違いにすごいぞ。
 ……貧乏人臭くてすみません。
 メイドさんは紅茶を淹れてくれて、部屋から退出した。
 部屋の中は、俺、バルガス様、ビアンカ殿下の三人だけになった。

「さてサトー殿。今回のゴブリンの撃退の件、本当に助かった。ありがとう」
「妾からも礼を言わせてもらう」
「お二人とも顔を上げてください。当たり前の事をしただけですから」

 いきなりバルガス様とビアンカ殿下に頭を下げられた。
 平民の俺には、高貴な人に頭を下げられるのはちょっときついぞ。

「はは、流石はサトーよ。当たり前の事と言った」
「そうですな殿下。なかなか普通のことではない事ですよ」
「あはは……」

 あかん、部屋に入っていきなり精神力をごっそり削られたぞ。
 最後まで気力もつかな。

「サトー殿は、冒険者になられるという事だが、冒険者ギルドにはいつ行かれますかな?」
「明日朝に行こうと思っております」
「そうですか、それでは明日は騎士をつけさせますので、一緒に冒険者ギルドに行ってもらえませんか。今回の襲撃の件も併せて報告したいのです」
「こちらとしては、ギルドの場所がわかりませんので、非常にありがたいです」
「それは、よかった。こちらからも是非よろしく頼みます」

 バルガス様もこちらの予定を気にしてくれていた。ありがたい。

「さてサトー殿、ここから本題に入りたいと思います。今回のゴブリンの襲撃、普通ありえるかと思われますか?」
「私はまだ冒険者になっておりませんが、あの襲撃は普通ではないと感じます」
「サトー殿もそう感じておりますか」

 お、本題が来たぞ。どこまで話が聞けるかな。

「あの襲撃は作為的な物を感じています。このバルガスめを狙ったのか、あるいは……」
「ここからは妾が話そう」
「ビアンカ殿下……」
「簡単にいうと、改革派と保守派の対立じゃな。現在貴族はこの二つの派閥が対立しておる」

 ビアンカ殿下が事の次第を話してくれたが、派閥対立か。
 日本でもアメリカでもあったなあ。

「現在王宮は古い制度の打破に向けて色々動いておる。父上や兄上、妾もそうじゃ。しかしそうなると今まで甘い汁を啜っていたものが割を食うわけじゃ」
「サトー殿。残念ながら貴族は選ばれしものという古来の考えを強く持っている方が大勢おります。その為特権意識が非常に強いのです」
「王家はそのような者どもにも配慮してきたのだが、最近になって過激な行動に出るようになってのう。今回の襲撃もそのような感じじゃ」

 いくらなんでも八歳の王女を襲撃して亡き者にするとは、正気の沙汰ではないなあ。
 特権意識の他に、何か不正があるのかもしれない。

「しかし、此度はサトーという者に出会えた妾は幸運じゃったというわけじゃ。サトーがそばにいれば敵も軽々しく手を出さまい。」
「ええ、全くです。そこでサトー殿にお願いがあります」
「私にお願いですか」
「殿下が我が家に滞在の間、是非とも我が屋敷に逗留いただきたい」
「うむ、これは妾からもお願いしたい。サトーが入ればこちらも優位に立てると思うのじゃ」

 おお、冒険者になる前からビックイベントが待ち構えているぞ。
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