転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ

文字の大きさ
上 下
840 / 934
第三十章 入園前準備

九百九十九話 実技試験開始

しおりを挟む
「なお、試験は身体能力強化のみ使用可能となります。剣技の試験終了後、魔法で試験を受けたい方は申し出て下さい。受験番号順にグループを作って試験を行います」

 先生の合図で、一斉に受験生が動き始めた。
 リズたちは一つの班にまとまっているけど、これは安全管理の意味もある。
 王女様でもあるエレノアの安全管理と、他の受験生がリズたちの実力を見てショックを受けないためです。
 無事にグループ分けができたところで、早速試験を開始します。

「えい、やあ、やあ!」

 ヒュン、ヒュン、ヒュン。

「そうそう、良い感じよ。もっと踏み込んで良いわよ」

 エレノアがレイナさんに木剣を振るっているけど、身体能力強化を使っているとはいえ中々良い感じだった。
 ちなみにエレノアが使っているのはレイピアタイプの木剣で、他にもダガータイプなど色々な木剣を準備しておいた。
 もちろん、僕たちの魔力を通して強化していない普通の木剣です。
 他の受験生も思い思いに剣を振るっていて、僕から見てもとても良い感じだった。
 一見問題なく実技試験が進んでいるかと思われたが、ここでカンニングをした面々がまたもややらかしてしまった。

 ブン、ガキン!

「うん、なんだこの音は? スラちゃん、調べてくれ」
「げっ」

 実技試験は自分の木剣を使っても良いのだけど、もちろん普通の木剣じゃないと駄目です。
 ぽっちゃり君がルーカスお兄様に振るった木剣から、金属音みたいなものが聞こえたのです。
 すぐさまスラちゃんが鑑定魔法を使ったけど、なんと木剣の中に金属の棒を入れて重さを足していました。
 つまり、自分の斬撃がより鋭く見えるように誤魔化したことになります。
 この事実に、ルーカスお兄様の怒りのメーターがゴゴゴって上がっていきました。
 個人的には、ルーカスお兄様とスラちゃんが普通に会話していたのにビックリしたけど。

「全員手持ちの木剣を出すように!」
「「「はっ、はい……」」」

 ルーカスお兄様の怒号に、何人かが観念して偽造した木剣を前に出した。
 スラちゃんが確認した結果、四人が偽造した木剣を使用していた。
 全員同じ一派で、僕たちを大したことないと言っていた面々です。
 というか、生徒会長でもあるけど王太子殿下でもあるルーカスお兄様に偽造した木剣を使うのってある意味凄い神経しているね。

「ふふ、ふふふ……」
「「「ひっ、ヒィィ……」

 あっ、ルーカスお兄様の怒りのメーターが振り切れちゃった。
 珍しい真っ黒の笑みを浮かべるルーカスお兄様を見て、木剣を偽造した四人は尻餅をついて後退りしていました。
 スラちゃんもちょっとビクッてしているけど、自分が招いた結果なのだからしっかりと受けてもらいましょう。
 すると、ルーカスお兄様は魔力で強化された木剣に持ち替えた。

「せっかく良い木剣を用意しているのだから、存分に振るうが良い。今更、別の木剣に替える必要もないだろう」

 ということで、ルーカスお兄様はあえて偽造した木剣を手に取らせて実技試験を再開した。
 でも、元々偽造した木剣に頼るような腕前なので、下手な踊りを踊っているみたいに酷すぎた。
 もう、ことの成り行きを見守っていた僕とスラちゃんも唖然とするものだった。
 ちなみに、カンニングをしたけど一応きちんとした木剣を持ってきた、あるいは木剣を借りた人にはアイビー様が相手をしていた。

「「「はあはあはあ」」」
「お前たち、三分どころか二分も体力が持たないのはどういうことだ!」

 なんというか、茶番劇を見ている気がしてならなかった。
 そもそも体力がないので、僅か三分の実技すら体力が持たなかった。
 あまりにも不甲斐ない結果にルーカスお兄様の怒りが収まらないけど、これは試験なので剣技から魔法に変更することにした。

 ぴょんぴょんぴょん。
 さっ、シュイーン。

「あのスライム目掛けて、思いっきり魔法を放つのだ。既に実感したと思うが、あのスライムは普通のスライムではない。存分に魔法を放って構わない」

 ルーカスお兄様が、少し離れたところで魔法障壁を構えるスラちゃんを剣で指した。
 スラちゃんも、どんな魔法が放たれるのかとっても楽しみにしていた。
 因みに、全員火魔法が使えるという。
 結果から言うと、四人中三人は威力はともかくとしてそこそこの大きさのファイヤーボールを放っていた。
 普通にこれくらいやれば良かったのにと、僕もルーカスお兄様も思わず呆れてしまった。
 しかし、一番最後の四人のボス的存在でもあるぽっちゃり君がある意味凄かった。

 シュイン、ヘロヘロヘロ、カコン。

「「えっ?」」

 ぽっちゃり君はピンポン玉くらいのファイヤーボールを放ったかと思ったら、何とスラちゃんの魔法障壁まで届かずに地面に落ちてしまったのです。
 これには、僕とルーカスお兄様だけでなくスラちゃんも言葉を失ってしまいました。
 なのでスラちゃんがスススってぽっちゃり君の前に近づいて魔法を受けたのだけど、魔法障壁に殆ど衝撃がなかった。
 念のためにぽっちゃり君の手を取って魔力を確認したけど、別に少ないってわけでもなかった。
 うん、ということですね。

「今や、貴族も自己研鑽を重ねて自分を高めなければ自分の望む仕事は得られない。貴族名だけで仕事を得られる時代ではなくなったのだ。このままでは、学園に入園することすら叶わないぞ」
「はあはあ、ぐっ……」

 ルーカスお兄様の厳しい言葉に、ぽっちゃり君は息を荒くしながらルーカスお兄様を見上げていました。
 いやね、ここでルーカスお兄様を睨むのは筋違いな気がするよ。
しおりを挟む
感想 236

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

逆行転生って胎児から!?

章槻雅希
ファンタジー
冤罪によって処刑されたログス公爵令嬢シャンセ。母の命と引き換えに生まれた彼女は冷遇され、その膨大な魔力を国のために有効に利用する目的で王太子の婚約者として王家に縛られていた。家族に冷遇され王家に酷使された彼女は言われるままに動くマリオネットと化していた。 そんな彼女を疎んだ王太子による冤罪で彼女は処刑されたのだが、気づけば時を遡っていた。 そう、胎児にまで。 別の連載ものを書いてる最中にふと思いついて書いた1時間クオリティ。 長編予定にしていたけど、プロローグ的な部分を書いているつもりで、これだけでも短編として成り立つかなと、一先ずショートショートで投稿。長編化するなら、後半の国王・王妃とのあれこれは無くなる予定。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

婚約破棄の場に相手がいなかった件について

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵令息であるアダルベルトは、とある夜会で婚約者の伯爵令嬢クラウディアとの婚約破棄を宣言する。しかし、その夜会にクラウディアの姿はなかった。 断罪イベントの夜会に婚約者を迎えに来ないというパターンがあるので、では行かなければいいと思って書いたら、人徳あふれるヒロイン(不在)が誕生しました。 カクヨムにも公開しています。

悪役令嬢は蚊帳の外です。

豆狸
ファンタジー
「グローリア。ここにいるシャンデは隣国ツヴァイリングの王女だ。隣国国王の愛妾殿の娘として生まれたが、王妃によって攫われ我がシュティーア王国の貧民街に捨てられた。侯爵令嬢でなくなった貴様には、これまでのシャンデに対する暴言への不敬罪が……」 「いえ、違います」

今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので

sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。 早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。 なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。 ※魔法と剣の世界です。 ※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。