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3巻
3-3
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「ようやく来ましたね」
食堂では、ハンナお姉さんとマヤお姉さんが待っていた。
ちなみに、ハンナお姉さんたちには住み込みで働いてもらっている。二人の旦那さんの職業がそれぞれ料理人と庭師なので、彼らにも屋敷の管理をお願いしているのだ。
「さあさあ、席に座ってください」
マヤお姉さんに促されて席に座ると、すぐに料理が運ばれてきた。
今日はケチャップライスとサラダ。もちろん、スラちゃんとプリンの分も取り分けてある。
では、早速いただこう。
「うーん、トマトケチャップがとってもおいしい! 具のチキンもほっぺたが落ちそう!」
「リズ様、いつもおいしいって言って全部食べてくれるから、旦那がとっても喜んでいたわ」
「だって、本当においしいんだもん!」
ハンナお姉さんの旦那さんはとっても腕がいい。僕も毎日のご飯が楽しみだ。
おいしい昼食の後は、ミカエルがいる子ども部屋へ。
ミカエルはどんどん行動範囲が広がってきていて、もう少しすると掴まり立ちができそうだ。
「ミカちゃん、今日も一緒にお昼寝しようね」
「あうー!」
もうそろそろ僕とリズはお昼寝を卒業しないといけないけど……相変わらず、リズはミカエルと一緒にお昼寝するのが大好きだ。となると、僕も付き合わざるを得ない。
この屋敷の警備は結構厳重だ。
なんと言っても、ここにはティナおばあ様の養子となった僕とリズがいる。領主であるヘンリー様の屋敷を警備しているのと同じくらいの数の兵が、屋敷の周辺を警戒してくれているのだ。
……とはいえ、最近のホーエンハイム辺境伯領はとっても平和。僕たちも安心して過ごせた。
お昼寝が終わったあともミカエルと一緒に遊び、やがてバスタイムに。
夕食を食べたらすっかり就寝時間なのだが……僕はリズと、たまにミカエルとも一緒に寝ている。
眠る時は妹分と一緒なのが、もう習慣になっているんだよね。
新たな屋敷にはリズに割り当てられた部屋があるのだけれど、そちらのベッドが使われることはほとんどなかった。
◆ ◇ ◆
今日は王城で勉強をする日……なのだが、それはお休み。なんと、王家の子供たちと一緒に王都の冒険者ギルドを見学することになったのだ。
王都には何度も来ているけど、冒険者ギルドを訪ねるのは何気に初めて。僕もちょっとワクワクしている。
普段から僕とリズがどんな依頼を受けているか話しているので、ルーカスお兄様もルーシーお姉様もエレノアも、なんとなく冒険者が依頼をこなす姿を思い描けているらしい。
実際にベテラン冒険者を見れば、僕たちの話を聞くよりももっとリアルに仕事をイメージできるはず。
僕たちの護衛には、いつも通り、ジェリルさんとランカーさんがつく。そして……
「おじいちゃん、絶対に私たちのことを都合よく使っているわ」
ニース宰相の指名依頼という形で、馴染みの冒険者、カミラさん、ナンシーさん、ルリアンさんたち魔法使い三人娘が説明担当として同行する。
祖父……つまり、ニース宰相にいいように使われている、と愚痴るカミラさんがちょっと不憫だ。
「リズも準備できた!」
「いや、アレク君とリズちゃんは冒険者の格好をしなくてもいいんだけど……」
ナンシーさんが苦笑いを浮かべる。
カミラさんたちはみんな貴族の令嬢だけれど、今日は冒険者として活動している時の格好……すなわち、魔法使いらしいローブ姿でやってきた。
それを事前に聞いていたリズ。「カミラさんたちがその格好で冒険者ギルドに行くなら、リズも着替える」と言ってきかなかった。
そんなリズに巻き込まれる形で、僕もいつもの冒険者服である。
「「「いいなあ……」」」
ルーカスお兄様とルーシーお姉様、エレノアは、なんだか羨ましそうに僕たちを見ていた。
しかし、ルーカスお兄様たちの衣装は用意されていない。今着ている動きやすい子ども用の騎士服で我慢してほしい。
スラちゃんはリズのフードの中に、プリンは僕のフードの中に入って、スタンバイ完了だ。
全員の準備ができたので、みんなで馬車に乗って王都の冒険者ギルドに移動した。
王城から少し離れたところにある冒険者ギルドは、馬車でも三十分ほどかかった。
馬車を真っ先に降りて、リズは凄いはしゃぎようだ。
「わあ、ホーエンハイム辺境伯領の冒険者ギルドよりも大きい!」
「ここはブンデスランド王国にある冒険者ギルドの本部だからね。それでも、ホーエンハイム辺境伯領は支部の中なら一番大きいわ」
初めて見る冒険者ギルドに、ルーカスお兄様たちは目を丸くしていた。
カミラさんが説明するように、ここは冒険者ギルド本部だけど……依頼内容に違いはあるのかな?
そんなことを考えていると、どこであってもいつもと同じ! とばかりに、リズが冒険者ギルドの中に入っていった。
「うーん……思ったよりも人が少ないのね」
リズの後に続いたルーシーお姉様が言う通り、冒険者の姿はまばらで受付も空席が目立った。
また、王都の冒険者ギルドには宿こそ併設されているものの、食堂がない。
カミラさんが口を開く。
「冒険者は朝早くから活動するのよ。だからお昼時は冒険者が少ないし、掲示されている依頼も減っているわ」
「そうなんですね。冒険者ギルドといえば、朝から冒険者がお酒呑んで騒いでいるイメージがありました」
「ルーカス様のおっしゃる通り、地方によってはそのようなギルドもあります。王都のギルドは食堂がないこともあって、閑散としてますね」
ルリアンさんが補足した。
ホーエンハイム辺境伯領の冒険者ギルドには食堂があって、お昼でも賑やかだけど……ルーカスお兄様がイメージするほど騒いでいる人は少ないかも。
ルーシーお姉様とエレノアが不思議そうにギルドの中を見回す。
「さあ、まずはギルドマスターにご挨拶しましょう」
カミラさんを先頭に、受付の奥にある個室に入る。
そこにはいかにも魔法使いって感じの女性がいて、ソファーに腰かけて僕たちを待っていた。
王都のギルドマスターって女性なんだ!
黒色の長髪で、長身。とにかくスタイルがいい人だ。際どいドレスにローブを羽織っているけど……子どもの前でこんな格好していいのかなと、一瞬不安になる。
僕たちがソファーに座ると、カミラさんがギルドマスターを紹介してくれた。
「こちらがサーラさん。王都の冒険者ギルドマスターよ。王国中の冒険者ギルドを統括するグランドマスターは別にいるけど、今日は所用で不在なの」
「初めまして、ギルドマスターのサーラよ。ようこそ、王都の冒険者ギルドへ。皆様を歓迎するわ」
サーラさんがソファーから立ち上がり、僕たち一人一人と握手する。
挨拶が終わると、カミラさんが僕に質問してきた。
「アレク君、冒険者の仕事ってなんだと思う?」
「素材の採取や魔物の討伐、あとは……指名を受けての人の調査や知らない場所の探索とかでしょうか?」
「うん、大体合っているわ。さすがはアレク君ね」
カミラさんがニコリとして僕の頭を撫でる。
僕の回答を聞き、サーラさんもふむふむと頷いた。
「もともと冒険者は、未開の地を調査したり、そこに現れる魔物を討伐したりしていたの。国を発展させるために、領地を広げないといけなかったからね。魔物から採れる素材は貴重な資源だったのよ。冒険者って、リスクはあるけれどうまくいけば大金を得られる職業だったの」
サーラさんの説明に、今度は僕たちがふむふむと頷く。ルーカスお兄様はきちんとメモを取っていた。
僕たちの様子を微笑ましそうに眺め、サーラさんが話を続ける。
「一攫千金を狙って多くの人が冒険者を志した結果、いろいろと問題が起きたわ。冒険者同士でのいざこざも発生したし、資源となる魔物の乱獲も起こった。だから、冒険者を管理する組織を作ることになったの。それが冒険者ギルドよ」
確かに、一攫千金を夢見た人が押し寄せたら、トラブルだって起こりそうだ。
特に貧しい人などは、お金を得るために身の丈に合わない危険を冒す可能性もある。
「国や各領地の兵では守りきれない領地は冒険者の手を借りているわ。貴重な薬の原料には、危険な場所に生えているものもある。他にも魔物の間引きなど、冒険者への依頼は絶えないわ」
「サーラさん、リズがやっている薬草採取もそうなの?」
「ええ、そうよ。薬草は病人や怪我人の治療に必要だからね。常にリズ様が治療するわけにはいかないでしょう?」
初心者でも頑張れば一定の収入が得られるから、今でも冒険者を志す人は多いそうだ。
「国や領地によっては、ギルドと災害時の応援協定を結んでいるところがあるわ。そういう地域にあるギルドは施設の管理費などを領主が負担していて、緊急時には協力を求めるの」
「そういえば……ホーエンハイム辺境伯領でゴブリン襲撃事件が起きた時も、ヘンリー様とギルドマスターのベイルさんがいろいろ話をしてました」
「アレク様は実際の光景を目にしたのね。特にホーエンハイム辺境伯領は国防の要。いざという時のために定期的に話し合いが行われているわ」
この間のような魔物の襲撃時だけでなく、天災が起きた時なんかもギルドと協力して解決に当たるらしい。冒険者ってなかなか大変だ。
サーラさんの解説はこれで終了となった。
「真面目に聞いてくれてありがとう。また説明する機会があると思うから、その際はよろしくお願いしますわね」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
子どもたちみんなで声を揃えてお礼を言う。ご褒美にジュースをもらって、部屋を出た。
「次は実際にギルドの依頼を見てみましょう。依頼を見ると、その土地でどのようなことが求められているか分かるわよ」
カミラさんに連れていかれたのは、依頼が貼ってあるギルドの掲示板。
早速、みんなでどんな依頼があるか見てみた……僕とリズ、それにエレノアは背が小さいため、背伸びをした。
「うーん、素材採取と護衛依頼が多いですね」
「思ったより、魔物討伐の仕事って少ないんだな」
僕とルーカスお兄様の所感は間違っていなかったみたい。
そばで見ていたカミラさんがうんうんと頷く。
「王都には多くの人が住んでいるから、薬草をはじめ、常に素材の需要が高いの。そして王都と各都市は街道で結ばれているから、行商人がよく護衛を依頼するのよ。王城があって兵も多いから、定期的な魔物討伐は彼らの役目ね。アレク君もルーカス様も大正解だわ」
「「「へえー」」」
カミラさんの解説を聞き、リズとエレノア、ルーシーお姉様はビックリしている。
……リズ、前に似たようなことを教わってるよね?
そうこうしているうちに昼食の時間になった。本日の冒険者ギルドの見学はこれにておしまい。
「カミラさん、依頼に出かけないの?」
「残念でした。今日は行かないわよ」
「えー!」
リズが不満の声を上げた。
カミラさん、「今日は」ってことはもしかして……
「明後日、アレク君とリズちゃんはホーエンハイム辺境伯領で薬草採取をする予定でしょう? そこでルーカス様たちも実際に冒険者の仕事を体験してみましょう」
「「「わーい!」」」
ルリアンさんの思わぬ提案に、ルーカスお兄様たちが両手を上げて喜んでいる。
もちろんきっちりと警備がつくと思うけど……ホーエンハイム辺境伯領での薬草採取は、周囲に気をつければ簡単にできる。
まだ子どもの僕とリズだってこなせてるくらいだし。
「ねえ、カミラさんたちも来てくれるの?」
「私たち三人だけでなく、ジンとレイナも護衛につくわ。もちろん、近衛騎士のお二人も。他にも冒険者ギルドから護衛を出します」
それだけの護衛がついているなら、ルーカスお兄様たちがいても安心だ。
王城に帰る馬車の中、早速王家の子供たちに薬草採取のコツをあれこれ話すリズだった。
◆ ◇ ◆
「お兄ちゃん、早く王城に迎えに行こう!」
「分かった、分かった。そんなに手を引っ張らないでよ」
「はーやーくー!」
いよいよみんなで冒険者の仕事をする日が来た。今日は朝からリズのテンションがとんでもなく高い。
朝誰よりも早く起きて、あっという間に朝食を食べ終え、ぱぱっと着替えを済ませているリズ。
いつもこのくらいできれば言うことなしなんだよね。僕がため息をつくと、チセさんとハンナお姉さんたちがクスクスと笑った。
スラちゃんとプリンもやる気満々だ。待ち切れないリズたちに急かされて、僕は予定よりもかなり早めに王城に【ゲート】を繋いだ。
「遅いの、アレクお兄ちゃん!」
王城に着いたら、着替えをばっちり済ませたエレノア、そしてルーカスお兄様とルーシーお姉様が、今か今かと待っていた。
全員この前と同じ子ども用の騎士服を着ていて、腰には剣を下げている。王族の子どもらしく、年齢のわりに大人びたところがある三人にしては珍しく、リズ以上にはしゃいでいた。
やはりというか……三人の後ろでは、ビクトリア様とアリア様、それにティナおばあ様が苦笑している。
あれ? ティナおばあ様の服装がいつもと違う。華やかなドレスじゃなくて、赤を基調としたパンツスタイルの騎士服だ。髪形もポニーテールにしている。
なぜティナおばあ様が着替えているかは、彼女自身が教えてくれた。
「保護者として私がみんなに同行するわ。こう見えて、剣はなかなかの腕前なのよ」
シャキーン、シュシュシュシュ!
ティナおばあ様が腰に下げていたレイピアを抜き、高速の突きを披露した。
「おお! おばあちゃん、かっこいい!」
リズとスラちゃんは大興奮だ。ルーカスお兄様たちも歓声を上げている。
確かに、とんでもない剣のスピードだった。
「では、ビクトリア様、アリア様。行ってきます!」
「気をつけてね」
「ゆっくりしてきていいわよ」
カミラさんたち魔法使い三人娘、そして近衛騎士のジェリルさんたちもやってきたので、僕はビクトリア様たちに挨拶をし、僕の屋敷に繋いだ【ゲート】をくぐった。
屋敷の前ではヘンリー様とイザベラ様が僕たちを待っていた。
そのそばで控えていたチセさんをチラッと見る。
ささっと近づいてきた彼女は、「アレク様が早めに王城に向かわれたので、ヘンリー様とイザベラ様にお声がけしておきました」と耳打ちしてきた。本当に仕事ができる人だなぁ。
ヘンリー様とイザベラ様はティナおばあ様とにこやかに話している。
「これはこれはティナ様。なんとも勇ましいお姿ですな」
「うふふ、孫にいいところを見せたくてね」
「久々に『華の騎士』の復活ですわね」
「「「「「『華の騎士』?」」」」」
リズをはじめ、子どもたちがクエスチョンマークを浮かべる。もちろん僕もだ。
イザベラ様がニコニコしつつ教えてくれた。
「ティナ様はね、王族なのに近衛騎士でもあられたの。華麗な剣捌きから、『華の騎士』って呼ばれていたのよ。男女問わず、ティナ様に憧れる人は多かったわ」
「「「「凄ーい!」」」」
おお、ティナおばあ様にそんな過去があったなんて!
みんなティナおばあ様に駆け寄って、「凄い、凄い!」と言っている。僕も思わず拍手してしまった。
ただ、ここで時間を取られてしまってはもったいない。ひとまず冒険者ギルドに行かなきゃ。
連れ立って歩きながら、僕はティナおばあ様に聞いてみた。
「ティナおばあ様、お昼ご飯はどうしますか?」
「もちろんギルドの食堂で食べるわよ。ふふふ、実はとっても楽しみにしていたの。近衛騎士をしていた時は、遠征するたびにその土地の名物をいただいたものよ」
どうやら事前にティナおばあ様の鶴の一声があったらしく、今日のお昼ご飯はギルドの食堂で食べることになった。
ギルドの食堂の食事はおいしい。確か、ホーエンハイム辺境伯領産の食材をいっぱい使っていると聞いたことがある。
そんなこんなで、みんなでギルドに向かって歩いていく。
あえて【ゲート】や馬車は使わない。事前の打ち合わせで、せっかくだし辺境伯領の町並みをみんなにゆっくり見てもらおうという話になったからだ。
「あら、リズちゃん。今日はお兄ちゃんの他にもいっぱい人がいるのね」
「うん、そうなの。今日はおばあちゃんにー、ルーカスお兄ちゃんとルーシーお姉ちゃん、エレノアも一緒なんだ! 薬草採取に行くんだよ!」
「そうなの、それじゃあ頑張らないとね」
道を歩いていると、商店街のおかみさんが声をかけてきた。
僕たちの出自は町の人も知っている。リズが名前を出しちゃったし、ティナおばあ様たちが王族だと分かったはず。
それでも町のみんなはニコリと笑い、僕やリズにいつものように話しかけてきた。
「とってもいい町ね。私たちにも物怖じせずに話しかけてくれるわ」
「そうですね。僕たちが誰か分かっているみたいですが、それでも普通に接してくれます」
ティナおばあ様とルーカスお兄様が小声で話している。ホーエンハイム辺境伯領の雰囲気のよさを感じてくれたみたいで何よりだ。
護衛のジェリルさんは一度ホーエンハイム辺境伯領を訪れているのでなんとなく慣れていたようだけど、初めてここに来た近衛騎士は町の人の様子を見てビックリしていた。
僕たちが目を離している隙に、リズはエレノアとルーシーお姉様と一緒になって商店街のお店でお菓子を買っていた。
「おう、アレクとリズじゃないか。なんだ? 今日はちびっ子がいっぱいだな」
ギルドに着くと、よく会う冒険者のおじさんが話しかけてきた。
「そうなの。おばあちゃんたちと来たんだ」
「うんうん……うん? 確か、リズってティナ様の孫だったよな? ……ってことは、そこにいる女性がティナ様!? 『華の騎士』様かよ!」
どうもティナおばあ様に気がついたみたいで、おじさんが大声を上げた。
それを聞いた途端、近くにいた他の冒険者たちが一斉に近寄ってくる。
「おお、本当だ。『華の騎士』様だ! 俺は王都でお見かけしたことがあるぞ。こんなところで会えるなんて……!」
「あ、あの、握手していただけませんか? 『華の騎士』様は、私の憧れだったんです!」
「あらあら、それくらいならいくらでもどうぞ。いつもアレク君とリズちゃんを見守ってくれて、本当にありがとうね」
ティナおばあ様はあっという間に冒険者たちに囲まれてしまった。男女問わず握手を求められていて、にこやかに対応している。
あまりの冒険者たちのフィーバーぶりに、僕とリズはもちろん、エレノアたちも近衛騎士の皆さんもポカーンとしてしまった。
「……リズちゃん、本当に『華の騎士』様のお孫さんだったのねぇ」
「ああ。『華の騎士』様の血筋なら、幼いのに腕が立つのも納得だぜ」
冒険者たちがリズを見て何やら頷いている。
僕もどうしてリズが強いのかちょっと疑問だったけど……ティナおばあ様の血ってことかな? 冒険者たちがここまで盛り上がるんだから、現役時代のティナおばあ様はよほど活躍していたんだろう。
騒ぎに巻き込まれないうちに冒険者登録を済ませようと、エレノアたちはジェリルさんに連れられて受付へ向かった。
僕たちもついていこうとした時、カミラさんの声が聞こえてきた。
「ジン、今日の仕事はあの人と一緒だからね」
「あの人って誰だよ……あれ? なんだかティナ様がいるように見えるんだが、俺の見間違いか? 今日の依頼は新米冒険者の護衛だって聞いているんだが……」
「見間違いなんかじゃないわよ。ちなみに、新米冒険者って、ルーカス殿下とルーシー様、エレノア様のことだから」
「ええ!?」
いつの間にかジンさんがそばにいたみたい。カミラさんが指差す先――ティナおばあ様を見て固まっている。一緒に来ていたらしいレイナさんが、ティナおばあ様に会釈した。
ジンさんもレイナさんも、ティナおばあ様を知っているのかな。
食堂では、ハンナお姉さんとマヤお姉さんが待っていた。
ちなみに、ハンナお姉さんたちには住み込みで働いてもらっている。二人の旦那さんの職業がそれぞれ料理人と庭師なので、彼らにも屋敷の管理をお願いしているのだ。
「さあさあ、席に座ってください」
マヤお姉さんに促されて席に座ると、すぐに料理が運ばれてきた。
今日はケチャップライスとサラダ。もちろん、スラちゃんとプリンの分も取り分けてある。
では、早速いただこう。
「うーん、トマトケチャップがとってもおいしい! 具のチキンもほっぺたが落ちそう!」
「リズ様、いつもおいしいって言って全部食べてくれるから、旦那がとっても喜んでいたわ」
「だって、本当においしいんだもん!」
ハンナお姉さんの旦那さんはとっても腕がいい。僕も毎日のご飯が楽しみだ。
おいしい昼食の後は、ミカエルがいる子ども部屋へ。
ミカエルはどんどん行動範囲が広がってきていて、もう少しすると掴まり立ちができそうだ。
「ミカちゃん、今日も一緒にお昼寝しようね」
「あうー!」
もうそろそろ僕とリズはお昼寝を卒業しないといけないけど……相変わらず、リズはミカエルと一緒にお昼寝するのが大好きだ。となると、僕も付き合わざるを得ない。
この屋敷の警備は結構厳重だ。
なんと言っても、ここにはティナおばあ様の養子となった僕とリズがいる。領主であるヘンリー様の屋敷を警備しているのと同じくらいの数の兵が、屋敷の周辺を警戒してくれているのだ。
……とはいえ、最近のホーエンハイム辺境伯領はとっても平和。僕たちも安心して過ごせた。
お昼寝が終わったあともミカエルと一緒に遊び、やがてバスタイムに。
夕食を食べたらすっかり就寝時間なのだが……僕はリズと、たまにミカエルとも一緒に寝ている。
眠る時は妹分と一緒なのが、もう習慣になっているんだよね。
新たな屋敷にはリズに割り当てられた部屋があるのだけれど、そちらのベッドが使われることはほとんどなかった。
◆ ◇ ◆
今日は王城で勉強をする日……なのだが、それはお休み。なんと、王家の子供たちと一緒に王都の冒険者ギルドを見学することになったのだ。
王都には何度も来ているけど、冒険者ギルドを訪ねるのは何気に初めて。僕もちょっとワクワクしている。
普段から僕とリズがどんな依頼を受けているか話しているので、ルーカスお兄様もルーシーお姉様もエレノアも、なんとなく冒険者が依頼をこなす姿を思い描けているらしい。
実際にベテラン冒険者を見れば、僕たちの話を聞くよりももっとリアルに仕事をイメージできるはず。
僕たちの護衛には、いつも通り、ジェリルさんとランカーさんがつく。そして……
「おじいちゃん、絶対に私たちのことを都合よく使っているわ」
ニース宰相の指名依頼という形で、馴染みの冒険者、カミラさん、ナンシーさん、ルリアンさんたち魔法使い三人娘が説明担当として同行する。
祖父……つまり、ニース宰相にいいように使われている、と愚痴るカミラさんがちょっと不憫だ。
「リズも準備できた!」
「いや、アレク君とリズちゃんは冒険者の格好をしなくてもいいんだけど……」
ナンシーさんが苦笑いを浮かべる。
カミラさんたちはみんな貴族の令嬢だけれど、今日は冒険者として活動している時の格好……すなわち、魔法使いらしいローブ姿でやってきた。
それを事前に聞いていたリズ。「カミラさんたちがその格好で冒険者ギルドに行くなら、リズも着替える」と言ってきかなかった。
そんなリズに巻き込まれる形で、僕もいつもの冒険者服である。
「「「いいなあ……」」」
ルーカスお兄様とルーシーお姉様、エレノアは、なんだか羨ましそうに僕たちを見ていた。
しかし、ルーカスお兄様たちの衣装は用意されていない。今着ている動きやすい子ども用の騎士服で我慢してほしい。
スラちゃんはリズのフードの中に、プリンは僕のフードの中に入って、スタンバイ完了だ。
全員の準備ができたので、みんなで馬車に乗って王都の冒険者ギルドに移動した。
王城から少し離れたところにある冒険者ギルドは、馬車でも三十分ほどかかった。
馬車を真っ先に降りて、リズは凄いはしゃぎようだ。
「わあ、ホーエンハイム辺境伯領の冒険者ギルドよりも大きい!」
「ここはブンデスランド王国にある冒険者ギルドの本部だからね。それでも、ホーエンハイム辺境伯領は支部の中なら一番大きいわ」
初めて見る冒険者ギルドに、ルーカスお兄様たちは目を丸くしていた。
カミラさんが説明するように、ここは冒険者ギルド本部だけど……依頼内容に違いはあるのかな?
そんなことを考えていると、どこであってもいつもと同じ! とばかりに、リズが冒険者ギルドの中に入っていった。
「うーん……思ったよりも人が少ないのね」
リズの後に続いたルーシーお姉様が言う通り、冒険者の姿はまばらで受付も空席が目立った。
また、王都の冒険者ギルドには宿こそ併設されているものの、食堂がない。
カミラさんが口を開く。
「冒険者は朝早くから活動するのよ。だからお昼時は冒険者が少ないし、掲示されている依頼も減っているわ」
「そうなんですね。冒険者ギルドといえば、朝から冒険者がお酒呑んで騒いでいるイメージがありました」
「ルーカス様のおっしゃる通り、地方によってはそのようなギルドもあります。王都のギルドは食堂がないこともあって、閑散としてますね」
ルリアンさんが補足した。
ホーエンハイム辺境伯領の冒険者ギルドには食堂があって、お昼でも賑やかだけど……ルーカスお兄様がイメージするほど騒いでいる人は少ないかも。
ルーシーお姉様とエレノアが不思議そうにギルドの中を見回す。
「さあ、まずはギルドマスターにご挨拶しましょう」
カミラさんを先頭に、受付の奥にある個室に入る。
そこにはいかにも魔法使いって感じの女性がいて、ソファーに腰かけて僕たちを待っていた。
王都のギルドマスターって女性なんだ!
黒色の長髪で、長身。とにかくスタイルがいい人だ。際どいドレスにローブを羽織っているけど……子どもの前でこんな格好していいのかなと、一瞬不安になる。
僕たちがソファーに座ると、カミラさんがギルドマスターを紹介してくれた。
「こちらがサーラさん。王都の冒険者ギルドマスターよ。王国中の冒険者ギルドを統括するグランドマスターは別にいるけど、今日は所用で不在なの」
「初めまして、ギルドマスターのサーラよ。ようこそ、王都の冒険者ギルドへ。皆様を歓迎するわ」
サーラさんがソファーから立ち上がり、僕たち一人一人と握手する。
挨拶が終わると、カミラさんが僕に質問してきた。
「アレク君、冒険者の仕事ってなんだと思う?」
「素材の採取や魔物の討伐、あとは……指名を受けての人の調査や知らない場所の探索とかでしょうか?」
「うん、大体合っているわ。さすがはアレク君ね」
カミラさんがニコリとして僕の頭を撫でる。
僕の回答を聞き、サーラさんもふむふむと頷いた。
「もともと冒険者は、未開の地を調査したり、そこに現れる魔物を討伐したりしていたの。国を発展させるために、領地を広げないといけなかったからね。魔物から採れる素材は貴重な資源だったのよ。冒険者って、リスクはあるけれどうまくいけば大金を得られる職業だったの」
サーラさんの説明に、今度は僕たちがふむふむと頷く。ルーカスお兄様はきちんとメモを取っていた。
僕たちの様子を微笑ましそうに眺め、サーラさんが話を続ける。
「一攫千金を狙って多くの人が冒険者を志した結果、いろいろと問題が起きたわ。冒険者同士でのいざこざも発生したし、資源となる魔物の乱獲も起こった。だから、冒険者を管理する組織を作ることになったの。それが冒険者ギルドよ」
確かに、一攫千金を夢見た人が押し寄せたら、トラブルだって起こりそうだ。
特に貧しい人などは、お金を得るために身の丈に合わない危険を冒す可能性もある。
「国や各領地の兵では守りきれない領地は冒険者の手を借りているわ。貴重な薬の原料には、危険な場所に生えているものもある。他にも魔物の間引きなど、冒険者への依頼は絶えないわ」
「サーラさん、リズがやっている薬草採取もそうなの?」
「ええ、そうよ。薬草は病人や怪我人の治療に必要だからね。常にリズ様が治療するわけにはいかないでしょう?」
初心者でも頑張れば一定の収入が得られるから、今でも冒険者を志す人は多いそうだ。
「国や領地によっては、ギルドと災害時の応援協定を結んでいるところがあるわ。そういう地域にあるギルドは施設の管理費などを領主が負担していて、緊急時には協力を求めるの」
「そういえば……ホーエンハイム辺境伯領でゴブリン襲撃事件が起きた時も、ヘンリー様とギルドマスターのベイルさんがいろいろ話をしてました」
「アレク様は実際の光景を目にしたのね。特にホーエンハイム辺境伯領は国防の要。いざという時のために定期的に話し合いが行われているわ」
この間のような魔物の襲撃時だけでなく、天災が起きた時なんかもギルドと協力して解決に当たるらしい。冒険者ってなかなか大変だ。
サーラさんの解説はこれで終了となった。
「真面目に聞いてくれてありがとう。また説明する機会があると思うから、その際はよろしくお願いしますわね」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
子どもたちみんなで声を揃えてお礼を言う。ご褒美にジュースをもらって、部屋を出た。
「次は実際にギルドの依頼を見てみましょう。依頼を見ると、その土地でどのようなことが求められているか分かるわよ」
カミラさんに連れていかれたのは、依頼が貼ってあるギルドの掲示板。
早速、みんなでどんな依頼があるか見てみた……僕とリズ、それにエレノアは背が小さいため、背伸びをした。
「うーん、素材採取と護衛依頼が多いですね」
「思ったより、魔物討伐の仕事って少ないんだな」
僕とルーカスお兄様の所感は間違っていなかったみたい。
そばで見ていたカミラさんがうんうんと頷く。
「王都には多くの人が住んでいるから、薬草をはじめ、常に素材の需要が高いの。そして王都と各都市は街道で結ばれているから、行商人がよく護衛を依頼するのよ。王城があって兵も多いから、定期的な魔物討伐は彼らの役目ね。アレク君もルーカス様も大正解だわ」
「「「へえー」」」
カミラさんの解説を聞き、リズとエレノア、ルーシーお姉様はビックリしている。
……リズ、前に似たようなことを教わってるよね?
そうこうしているうちに昼食の時間になった。本日の冒険者ギルドの見学はこれにておしまい。
「カミラさん、依頼に出かけないの?」
「残念でした。今日は行かないわよ」
「えー!」
リズが不満の声を上げた。
カミラさん、「今日は」ってことはもしかして……
「明後日、アレク君とリズちゃんはホーエンハイム辺境伯領で薬草採取をする予定でしょう? そこでルーカス様たちも実際に冒険者の仕事を体験してみましょう」
「「「わーい!」」」
ルリアンさんの思わぬ提案に、ルーカスお兄様たちが両手を上げて喜んでいる。
もちろんきっちりと警備がつくと思うけど……ホーエンハイム辺境伯領での薬草採取は、周囲に気をつければ簡単にできる。
まだ子どもの僕とリズだってこなせてるくらいだし。
「ねえ、カミラさんたちも来てくれるの?」
「私たち三人だけでなく、ジンとレイナも護衛につくわ。もちろん、近衛騎士のお二人も。他にも冒険者ギルドから護衛を出します」
それだけの護衛がついているなら、ルーカスお兄様たちがいても安心だ。
王城に帰る馬車の中、早速王家の子供たちに薬草採取のコツをあれこれ話すリズだった。
◆ ◇ ◆
「お兄ちゃん、早く王城に迎えに行こう!」
「分かった、分かった。そんなに手を引っ張らないでよ」
「はーやーくー!」
いよいよみんなで冒険者の仕事をする日が来た。今日は朝からリズのテンションがとんでもなく高い。
朝誰よりも早く起きて、あっという間に朝食を食べ終え、ぱぱっと着替えを済ませているリズ。
いつもこのくらいできれば言うことなしなんだよね。僕がため息をつくと、チセさんとハンナお姉さんたちがクスクスと笑った。
スラちゃんとプリンもやる気満々だ。待ち切れないリズたちに急かされて、僕は予定よりもかなり早めに王城に【ゲート】を繋いだ。
「遅いの、アレクお兄ちゃん!」
王城に着いたら、着替えをばっちり済ませたエレノア、そしてルーカスお兄様とルーシーお姉様が、今か今かと待っていた。
全員この前と同じ子ども用の騎士服を着ていて、腰には剣を下げている。王族の子どもらしく、年齢のわりに大人びたところがある三人にしては珍しく、リズ以上にはしゃいでいた。
やはりというか……三人の後ろでは、ビクトリア様とアリア様、それにティナおばあ様が苦笑している。
あれ? ティナおばあ様の服装がいつもと違う。華やかなドレスじゃなくて、赤を基調としたパンツスタイルの騎士服だ。髪形もポニーテールにしている。
なぜティナおばあ様が着替えているかは、彼女自身が教えてくれた。
「保護者として私がみんなに同行するわ。こう見えて、剣はなかなかの腕前なのよ」
シャキーン、シュシュシュシュ!
ティナおばあ様が腰に下げていたレイピアを抜き、高速の突きを披露した。
「おお! おばあちゃん、かっこいい!」
リズとスラちゃんは大興奮だ。ルーカスお兄様たちも歓声を上げている。
確かに、とんでもない剣のスピードだった。
「では、ビクトリア様、アリア様。行ってきます!」
「気をつけてね」
「ゆっくりしてきていいわよ」
カミラさんたち魔法使い三人娘、そして近衛騎士のジェリルさんたちもやってきたので、僕はビクトリア様たちに挨拶をし、僕の屋敷に繋いだ【ゲート】をくぐった。
屋敷の前ではヘンリー様とイザベラ様が僕たちを待っていた。
そのそばで控えていたチセさんをチラッと見る。
ささっと近づいてきた彼女は、「アレク様が早めに王城に向かわれたので、ヘンリー様とイザベラ様にお声がけしておきました」と耳打ちしてきた。本当に仕事ができる人だなぁ。
ヘンリー様とイザベラ様はティナおばあ様とにこやかに話している。
「これはこれはティナ様。なんとも勇ましいお姿ですな」
「うふふ、孫にいいところを見せたくてね」
「久々に『華の騎士』の復活ですわね」
「「「「「『華の騎士』?」」」」」
リズをはじめ、子どもたちがクエスチョンマークを浮かべる。もちろん僕もだ。
イザベラ様がニコニコしつつ教えてくれた。
「ティナ様はね、王族なのに近衛騎士でもあられたの。華麗な剣捌きから、『華の騎士』って呼ばれていたのよ。男女問わず、ティナ様に憧れる人は多かったわ」
「「「「凄ーい!」」」」
おお、ティナおばあ様にそんな過去があったなんて!
みんなティナおばあ様に駆け寄って、「凄い、凄い!」と言っている。僕も思わず拍手してしまった。
ただ、ここで時間を取られてしまってはもったいない。ひとまず冒険者ギルドに行かなきゃ。
連れ立って歩きながら、僕はティナおばあ様に聞いてみた。
「ティナおばあ様、お昼ご飯はどうしますか?」
「もちろんギルドの食堂で食べるわよ。ふふふ、実はとっても楽しみにしていたの。近衛騎士をしていた時は、遠征するたびにその土地の名物をいただいたものよ」
どうやら事前にティナおばあ様の鶴の一声があったらしく、今日のお昼ご飯はギルドの食堂で食べることになった。
ギルドの食堂の食事はおいしい。確か、ホーエンハイム辺境伯領産の食材をいっぱい使っていると聞いたことがある。
そんなこんなで、みんなでギルドに向かって歩いていく。
あえて【ゲート】や馬車は使わない。事前の打ち合わせで、せっかくだし辺境伯領の町並みをみんなにゆっくり見てもらおうという話になったからだ。
「あら、リズちゃん。今日はお兄ちゃんの他にもいっぱい人がいるのね」
「うん、そうなの。今日はおばあちゃんにー、ルーカスお兄ちゃんとルーシーお姉ちゃん、エレノアも一緒なんだ! 薬草採取に行くんだよ!」
「そうなの、それじゃあ頑張らないとね」
道を歩いていると、商店街のおかみさんが声をかけてきた。
僕たちの出自は町の人も知っている。リズが名前を出しちゃったし、ティナおばあ様たちが王族だと分かったはず。
それでも町のみんなはニコリと笑い、僕やリズにいつものように話しかけてきた。
「とってもいい町ね。私たちにも物怖じせずに話しかけてくれるわ」
「そうですね。僕たちが誰か分かっているみたいですが、それでも普通に接してくれます」
ティナおばあ様とルーカスお兄様が小声で話している。ホーエンハイム辺境伯領の雰囲気のよさを感じてくれたみたいで何よりだ。
護衛のジェリルさんは一度ホーエンハイム辺境伯領を訪れているのでなんとなく慣れていたようだけど、初めてここに来た近衛騎士は町の人の様子を見てビックリしていた。
僕たちが目を離している隙に、リズはエレノアとルーシーお姉様と一緒になって商店街のお店でお菓子を買っていた。
「おう、アレクとリズじゃないか。なんだ? 今日はちびっ子がいっぱいだな」
ギルドに着くと、よく会う冒険者のおじさんが話しかけてきた。
「そうなの。おばあちゃんたちと来たんだ」
「うんうん……うん? 確か、リズってティナ様の孫だったよな? ……ってことは、そこにいる女性がティナ様!? 『華の騎士』様かよ!」
どうもティナおばあ様に気がついたみたいで、おじさんが大声を上げた。
それを聞いた途端、近くにいた他の冒険者たちが一斉に近寄ってくる。
「おお、本当だ。『華の騎士』様だ! 俺は王都でお見かけしたことがあるぞ。こんなところで会えるなんて……!」
「あ、あの、握手していただけませんか? 『華の騎士』様は、私の憧れだったんです!」
「あらあら、それくらいならいくらでもどうぞ。いつもアレク君とリズちゃんを見守ってくれて、本当にありがとうね」
ティナおばあ様はあっという間に冒険者たちに囲まれてしまった。男女問わず握手を求められていて、にこやかに対応している。
あまりの冒険者たちのフィーバーぶりに、僕とリズはもちろん、エレノアたちも近衛騎士の皆さんもポカーンとしてしまった。
「……リズちゃん、本当に『華の騎士』様のお孫さんだったのねぇ」
「ああ。『華の騎士』様の血筋なら、幼いのに腕が立つのも納得だぜ」
冒険者たちがリズを見て何やら頷いている。
僕もどうしてリズが強いのかちょっと疑問だったけど……ティナおばあ様の血ってことかな? 冒険者たちがここまで盛り上がるんだから、現役時代のティナおばあ様はよほど活躍していたんだろう。
騒ぎに巻き込まれないうちに冒険者登録を済ませようと、エレノアたちはジェリルさんに連れられて受付へ向かった。
僕たちもついていこうとした時、カミラさんの声が聞こえてきた。
「ジン、今日の仕事はあの人と一緒だからね」
「あの人って誰だよ……あれ? なんだかティナ様がいるように見えるんだが、俺の見間違いか? 今日の依頼は新米冒険者の護衛だって聞いているんだが……」
「見間違いなんかじゃないわよ。ちなみに、新米冒険者って、ルーカス殿下とルーシー様、エレノア様のことだから」
「ええ!?」
いつの間にかジンさんがそばにいたみたい。カミラさんが指差す先――ティナおばあ様を見て固まっている。一緒に来ていたらしいレイナさんが、ティナおばあ様に会釈した。
ジンさんもレイナさんも、ティナおばあ様を知っているのかな。
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