上 下
648 / 878
第二十六章 ミカエルの五歳の祝い

七百七十四話 午前中はお仕事です

しおりを挟む
 そして、いよいよ辺境伯領での五歳の祝いの日になりました。
 僕の屋敷は、朝からミカエルとブリットの準備でドタバタです。

「はい、着付けが出来ましたよ」
「おー、カッコいい!」
「ブリットも、お姫様みたい!」

 五歳の祝いは午後からなんだけど、既に侍従のお姉さんによって服も髪型もばっちりとセットしたミカエルとブリットが笑顔で食堂ではしゃいでいました。
 テンションマックスの二人を見て、リズ達も思わず笑顔で見ていました。

「お兄ちゃん、今日はリズはお家にいていいんだよね?」
「屋敷にいていいよ。僕も午前中でお仕事を切り上げて帰ってくるよ」

 リズ達はほぼやる事がないし、ジンさん達も今日は担当職員による情報分析だけなので王城に行かなくて済みます。
 個人的には僕も王城に行ってお仕事するのは気が引けるけど、書類が色々溜まっているんだよなあ。
 主に宰相向けの書類が。
 という事で、僕とプリンだけが王城に行ってきます。

 カリカリカリ、ペラペラペラ。

「アレク君も真面目だな。今日くらいは一日休んでもいいだろうに」
「そう思ったんですけど、よりによって夕方に沢山の資料が執務室に運ばれたので。しかも、何故か全部急ぎなんですよね」

 僕はどんどんと書類を処理して、宰相に回して行きます。
 はあ、手続きが面倒くさい書類ばっかりで、本当に嫌になっちゃいますね。
 そして、あらかた書類を処理して、休憩をしている時でした。

「もしかして、アレク君が辺境伯領での五歳の祝いに参加できなくする為に、ワザとぎりぎりのタイミングで書類を出して来たのかもな」

 宰相がお菓子を食べながらぽつりと呟くと、僕を含めて執務室にいる全ての人が「あっ」って表情をしながら宰相に視線を送っていました。
 宰相は全員から視線を向けられてなになに状態だったけど、直ぐに宰相も僕達が視線を向けた理由を理解してくれました。

「確かこの書類は商務からまわってきたものだね。あたしが、商務に行ってくるよ」
「シーラ、お願いだから穏便に頼むよ」
「ははは、そりゃ相手の態度次第だね」

 シーラさんが、腕まくりをしながら宰相執務室を出て行った。
 宰相は穏便に頼むとシーラさんにお願いしていたけど、相手がクロだったら絶対に穏便では済まないはずだ。
 念の為にプリンも一緒にシーラさんについて言ったけど、果たしてプリンでシーラさんを止められるかな。

「アレク殿下、本当に申し訳ない。まさか、本当にわざと書類の提出を遅らせていたとは」
「提出者の名前を見て、あたしゃ直ぐに分かったよ。本当に姑息な真似をするんだから」

 そしてシーラさんが執務室を出て行ってから三十分後、恐縮しきりの商務卿とぷんぷんしているシーラさんがプリンと一緒に戻ってきました。
 どうも前から宰相が商務卿時代から意地の悪い事をする者らしく、前にも似たような事をしたという。
 プリン曰く、商務部局にやくざの殴り込みみたいに入ってシーラさんは、目を逸らしている問題の人の襟首を掴んで会議室に引きずり込んで行ったそうだ。
 しかもプリンもタイミング悪く会議室に入れなかったので何が起きていたか分からなかったそうだけど、会議室の中からはシーラさんの怒号と問題の人の悲鳴が聞こえていたという。
 プリンも怖くて、会議室の中に入れなかったそうです。
 直ぐに商務部局の人が商務卿の執務室に行って商務卿を連れて来て、商務卿が怒り心頭のシーラさんを何とかなだめたそうです。

「あの馬鹿、この後も大量の書類をアレク殿下に送ろうとしていたよ。本当にどうしようもない男だね」
「前にもこんな嫌がらせをして問題を起こしていたので、該当の者は自宅待機にして処分する方向だ」

 お菓子を食べながら未だにぷりぷりしているシーラさんと、ちょっと疲れている商務卿の対比が物凄いですね。
 因みに、意地悪い事をする人は別に歴史のある貴族でもなんでもなく、頭は良いけど単に他人への意地悪をするのが好きみたいです。
 以前当時の商務卿に意地悪をしてシーラさんが大激怒したのに、宰相に異動して顔を合わせなくなったのですっかり元に戻っちゃったみたいです。
 その人がこの後出そうとした書類も、明日確認で良くなりました。
 ホッと一息着く事ができそうなので、僕も予定通り午前中で王城から辺境伯領に戻れそうです。
 因みに、ティナおばあさまにもその問題を起こした人の事が知れ渡ってしまったみたいです。
 どんな事になったか、僕も怖くて聞けませんでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

異世界を満喫します~愛し子は最強の幼女

かなかな
ファンタジー
異世界に突然やって来たんだけど…私これからどうなるの〜〜!? もふもふに妖精に…神まで!? しかも、愛し子‼︎ これは異世界に突然やってきた幼女の話 ゆっくりやってきますー

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。