上 下
217 / 880
第十七章 教皇国編

三百四十三話 大教会前での炊き出し

しおりを挟む
 皇都に来て三日目の朝。
 今日は朝から大人数を呼ぶので、僕は大忙しだ。
 先ずは王城からルーカスお兄様達を迎えに行くのだが、何故かこの人も参加する事に。

「教皇国も久々ね。今日は子ども達の良いところが見られそうね」
「ははは……」

 ルーカスお兄様が空笑いするのも仕方ない。
 同行者は王妃様なのだからだ。
 赤ちゃんは、アリア様が面倒をみているそうだ。

 そして、帝国にリルムを迎えにいったら、帝国もこの人が参加する事になった。

「我が子の良い所を見ないといけませんわね」

 そう、今度は皇妃様がついてきたのだ。
 双子ちゃんはケイリさんがみているそうだ。

「リズちゃん! エレノアちゃん!」
「「リルムちゃん!」」

 仲良しの三人は、再会を喜んでいた。
 実はちょこちょこと会っているから、久しぶりではないんだよね。
 
「うーん、これは中々壮観ですな」

 ポニさん達と研究員を連れて来るために辺境伯領に向かったら辺境伯様も来ると言ったので、一緒に連れてきたのだ。
 大教会の庭では、教皇様と王妃様と皇妃様とティナおばあさまが談笑していた。
 うん、何故トップの集まる井戸端会議にジンさんも巻き込まれているかは不明だ。
 僕に向かって助けてって表情をしているけど、僕はあの人達に物を申すのは無理です。
 
 先ずは大教会の前で炊き出しと治療の準備をするのだが、待っている街の人が物凄い数だ。

「聖女様がいらっしゃる」
「双翼の天使様もいるぞ」
「華の騎士様もいるわ」
「導く者様もいるなあ」

 主に僕達の事を指差してキャーキャー言っている。
 僕達が皇都に来た時の、サイクロプス討伐の影響が物凄くありそうだ。

「こりゃ相当の量の食材を切らないといけないな」
「腕が痛くなりそうですね」

 大量の食材を刻んでいる僕とジンさんを他所に、治療班は早速市民に治療を始めている。
 治療ができる人が多いので、何とかまわっている様だな。
 因みに今回はスラちゃんも護衛に回っているので、近衛騎士のノエルさんが魔法を使って野菜を切ってくれている。
 
「ヒヒーン」
「うわ、何だ!」
「縛られて動けないぞ!」

 そして、今日もポニさん達とスラちゃん達は大活躍。
 次から次へと、不審者を捕まえている。
 アマリリスによって、ぐるぐる巻きに拘束されているのもいる。
 本当にゴキブリホイホイみたいに不審者が取れるなあ。

「くそ!」
「えーい」
「ぐっはー」

 並んでいて捕まるのも時間の問題になった不審者は、刃物を持って治療班に突っ込んでいく。
 でも、刃物を掴んで走り出した瞬間に、リズによって魔法で吹き飛ばされたけどね。

「えーっと、あのフードを深めに被った人も不審者です」
「はい、直ぐに向かいます」

 僕も野菜を切りつつ、探索で辺りを警戒します。
 僕の側にいる聖騎士に、こっそりと不審者のいる位置を指示していく。
 
「リルムちゃん、魔力大丈夫?」
「まだまだ大丈夫だよ!」

 治療班も沢山の人を治療しているけど、魔力はまだまだ大丈夫の様だ。
 リルムも順調に魔力が伸びている様だな。

「魔法で治りませんでしたね。では、この生薬をお使い下さい」
「はい、ありがとうございます」
「へえ、この様に魔法と生薬を併用しているのね」

 研究者も治療班に混じって住民の治療を行っています。
 研究者の様子を皇妃様が興味深そうに見ています。
 帝国も、生薬の研究が始まったばかりって言っていたもんね。

「くそう、ヤケクソだ!」
「危ない、全員警戒を」

 と、ここで不審者がまたもや手榴弾の様な魔道具を投げてきた。
 が、すかさず蹴り返したものがいた。

「ヒヒーン」
「ブッチー!」
「マジかよ! ぐへえ」

 そう、ブッチーが魔導具が発動する前に人のいない方角へ蹴り飛ばしたのだ。
 不審者はまさかの事態にびっくりしている。
 あ、不審者はアマリリスの電撃でノックアウトした様だ。

「「「ギシャー!」」」

 教会の敷地の隅っこで現れたのは、ゴブリン五十体。
 うーん、こんな雑魚で僕達に対抗するとは。
 もしかしたら、懐古派は持っている魔導具が少なくなっているのかもしれないな。
 どうしようかと思っていたら、王妃様と皇妃様とティナおばあさまがすくっと立ち上がった。

「暇だったし、ちょうどいい運動相手が出ましたね」
「子どもの前なので、少しはカッコいい所を見せないと」
「ちょっと雑魚ですが、退屈しのぎには良いでしょうね」

 ティナおばあさまはいつものレイピアだったけど、王妃様は両手に鞭を構えていて皇妃様はごっついハルバートを持っている。
 そして、三人による一方的な殲滅戦が始まった。

「はいはいはいはい、遅いわよ!」

 王妃様は両手に持った鞭を振り回し、複数のゴブリンを屠っていく。
 王妃様、この鞭を陛下に向けてはいないよね?

「うおー、喰らいなさい!」

 皇妃様はハルバートをブンブン振り回して、一撃で複数のゴブリンを屠っていく。
 すげー、正しく戦乙女って感じだよ。

「せい、はあ!」

 二人がとても派手に戦うから、ティナおばあさまの剣撃がとても地味に見えている。
 そして僅か数分で、五十体のゴブリンは殲滅されたのだった。

「うおー! 両国の妃様はこんなにも強いのか」
「国を武力でも支えているのか!」

 三人が一瞬でゴブリンを殲滅したのを見て、住民はとても盛り上がっている。
 当の本人達は、あっという間に戦いが終わってしまったので、かなり不満そうだ。

「ジンさん、王妃様と皇妃様の戦いをどう見ますか?」
「余裕で戦っていたなあ。本気を出したら、どれほどの強さか分からないなあ」
「ですよね」

 僕とジンさんはお互い顔を見合わせて、思わず苦笑していた。
 炊き出しももう直ぐで終了。
 無事に終わるかなと思ったら、終わらなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

あれ?なんでこうなった?

志位斗 茂家波
ファンタジー
 ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。  …‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!! そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。 ‥‥‥あれ?なんでこうなった?

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。