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第十五章 再びの貴族主義派の不正

二百七十話 一番やばかったアホラ子爵

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 リズとエレノアとサンディも一緒にアホラ子爵領に行く事になったので、ティナおばあさまと官僚の一部と近衛騎士とでアホラ子爵領の屋敷に移動します。

「ちょっと、ちょっと待って下さい」
「順番に、順番に並んで下さい」
「うわ、これは大変だ」
「ちょっと不味いわね、暴動が起こらない様にしないと」

 屋敷前で軍が無料治療所と炊き出しをしていたけど、そこに沢山の人が押し寄せている。
 人手が足りなくて、暴動が起こりそうだ。

「僕が炊き出しを手伝います。リズとエレノアとサンディは治療の方を」
「任せて!」
「人の整理は近衛騎士に任せましょう。私も手伝います。官僚は屋敷に向かって下さい」
「「「はい」」」

 ティナおばあさまがテキパキと指示を出して、僕達は一気に動き出します。
 僕は炊き出しの調理場に入り、簡単にできる野菜炒めを作っていきます。
 リズ達の治療班も忙しそうだけど、チラッと並んでいる人を見る限り怪我よりも病気の人が圧倒的に多いなあ。
 
 一時間程料理に専念したら、ようやく人が落ち着いてきた。
 僕としては身体強化魔法の良い訓練になったけど、それ以上に満足に食事にもありつけない人がこんなにも多いのか。
 ナシュア子爵領は物資が回り始めたのもあって、被災地なのにこんなに酷い状況ではなかったぞ。

「リズ、エレノア、サンディ。僕とティナおばあさまは屋敷に入るから、何かあったら声をかけてね」
「分かった!」

 治療班はまだ時間がかかりそうなので、リズ達と近衛騎士にお願いして僕とティナおばあさまは屋敷に入った。
 屋敷の中は、多くの兵が忙しそうに動いている。
 そして仮本部の応接室には、沢山の押収物が山の様に積まれている。

「ティナおばあさま、リズ達が捜索に参加したら宝探しになりそうですね」
「現時点でこの量だもの、きっとまだまだ出てくるわよ」

 豪華な物品だけでも大量なのに、お金もザクザクと出てきた。
 とりあえず罰金分もあっという間に確保できたので、王城の兵の待機所に運んで置いた。

「状況を纏めたら、閣僚に来てもらった方が良いですね」
「それが良いわね。ナシュア子爵領は方針も決まって動き出しているけど、正直アホラ子爵領の方が重篤だわ」

 応接室で一息ついてから、ティナおばあさまと簡単に話をした。
 バザール領は商人も冒険者も大丈夫だったし、ポートコールも商人は何とかなっていた。
 だけど、アホラ子爵領はざっと見た感じ産業が壊滅状態だった。
 うーん、今まで見てきた貴族領地の中でも群を抜いて悪いなあ。

「ここまで状況が悪いとは。領地経営の失敗の最たる例だな」
「概算見積もりでナシュア子爵領への賠償金を試算して、残った金で早急に経済をまわさないといけないぞ」
「取り過ぎた税金も市民に戻さなければならない。直近の分だけでも直ぐに手を打たないと」

 農務卿、財務卿、商務卿、内務卿が王城から駆けつけてくれたけど、アホラ子爵領の混乱具合に呆れを通り越していた。
 因みに、カスラ男爵領とクズラ男爵領は大きな問題がなかったので、二つの領地の商会に動いて貰ってとりあえずの物資購入に動いて貰っている。
 いくら同じ派閥の上役からの要請とはいえ、なぜこの二領はアホラ子爵領に従ったのだろうか。
 とは言え、過ぎた事はしょうがないので、追加で閣僚と共に屋敷に着いた官僚に金額計算をしてもらって、簡単な予算案を作る事になった。

「またお金の入った袋を見つけたよ」
「書類の束が出てきたの」
「宝石が沢山ありました」

 そして、やはりというか、治療班もひと段落したリズ達が宝探しを始めて次々と発掘してきた。
 ポートコールの時よりも沢山の金品が見つかってきて、閣僚も思わず頭を抱えているよ。

「確か領地経営の失敗でも、最高刑は死刑だったな」
「アホラ子爵は、遅かれ早かれ死刑になる運命だったのだろう」
「こんなに金品を溜め込んで、一体何に使おうとしたのだろうか」
「金品を貯める事が目的で、何も考えていなかった可能性が高いなあ」

 うん、閣僚のアホラ子爵の評価は散々だった。
 というか、一緒に作業をしている僕とティナおばあさまも気持ちは一緒だ。
 最終的にアホラ子爵が何をやりたかったのか、全く分からないぞ。

「罰金分は先程国に納めているから、ナシュア子爵領への賠償金を多めに見積もってこれくらいか」
「直近の税の取りすぎ分がこの位で、数年分を含めてもこの位か」
「今ある現金の山で余裕で賄えるな。宝石とかはオークションにかけて、現金化するか」
「それでも大量に金品が余るぞ。全く何処の大貴族かってもんだ」

 とりあえずの試算が出たけど、それ以上に金品が余る様だ。
 念の為にと、陛下にも報告を行う事に。

「はあ、溜め息しか出てこぬな。如何に奴に領地経営の才能がなかったか、十分に分かるな」

 簡易な報告書を見て、陛下は物凄く呆れていた。
 そりゃあそこに居た人なら、全員同じ気持ちだろうな。

「もう少し住民への手当を厚くしておこう。幸いにして両隣の二領がまともだから、そこから手をまわすとするか」

 陛下にも方針の了解を得たので、後は官僚にお任せとなった。
 
「アレク達も現地入りしてずっと動いているから、ある程度目処がたったら撤収しても良いぞ」
「はい、分かりました」

 実質二日間だったけど、本当に色々あったからな。
 正直な所、少し休みたい気持ちに傾いていた。
 閣僚はこのまま王城にいるそうなので、僕とティナおばあさまがアホラ子爵領の屋敷に戻った。

「あっ、お帰りなさい」
「見てみて、また大量のお金を見つけたんだよ」
「ベッドの中に沢山ありました」
「「……」」

 屋敷に戻ると、またもや大量の金の入った袋の山が出現していた。
 リズ達は良い仕事をした表情をしていたが、僕とティナおばあさまはアホラ子爵に対する呆れ具合が増しただけだった。
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