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第十三章 貴族主義派の不正

二百八話 スラちゃんとプリンが怒った理由

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 船が港に戻るにはまだかかりそうだけど、その間に代官邸で拘束されていた査察官と警護にあたっていた人がやってきた。

「あ、いっぱい怪我しているよ」
「本当だ、直ぐに治さないと」

 足取りはしっかりとしているけど、殴られたと思わしき跡が顔などにもしっかりと残っている。
 僕とリズが、怪我をしている人を治療する。
 すると、内務卿が僕達の方に近づき、治療を終えた人と話始めた。

「ケーヒル、無事で何よりだ」
「叔父上、わざわざご足労頂き申し訳ありません」
「いやいや、ここまでくるとこちらも出てこないとならない。もしもの為にと、ケーヒルに通信の魔導具を渡しておいて正解だったな」

 どうも内務卿の知り合いの様だ。
 よく見れば、髪の毛の色も似ているような。
 だから内務卿も少し焦っていたんだ。

「内務卿とお知り合いだったのですね」
「うちの親戚だ。優秀だし、査察官の経験もある」
「アレク殿下、治療して頂き感謝します。アレク殿下にもご足労頂き申し訳ありません」
「これは王国直轄で起きた事ですし、僕も税関連の書類を確認しています」
「有難う御座います。神童と名高い殿下がいるのはとても心強いです」

 内務卿の親戚であるケーヒルさんは僕の事も知っていて、神童なんて呼んでいた。
 僕なんかでも、少しでも役に立てば良いのだけど。

「どうも資金の横流しをしていた様です。ベストール侯爵一派が絡んでいるのは間違いないのですが、詳細までは分かりませんでした」
「そこまで分かっていれば十分だ。こちらも、闇ギルドと手を切ったはずなのにどこから資金が出ているかを探っていたんだ」
「増援要請をしてから代官に話をしたので、何とかなりました。もし、代官に話をしてから増援要請をしたら、追加の査察官が来る前に逃げられていたかと思います」
「こちらも間に合うかギリギリだったけどな。その代わりにだいぶバツを喰らった様だが」
「その様ですね」

 港に曳航されてきた逃走船の中から、スラちゃんとプリンによってボコボコにされた人達が兵によって運び出されてきた。
 うーん、殆ど担架に乗せられて運ばれてきているぞ。

「あががが」
「うーん、うーん」
「逃走犯とはいえ、容赦ない対応ですね」
「スラちゃんとプリンがここまでやるとは。船の中で何かあったみたいですね」

 普段は温厚なはずのスラちゃんとプリンが、いくら逃走犯とはいえここまでボコボコにする事はない。
 何故ここまでスラちゃんとプリンが怒っていたかは、兵によって保護された人を見て分かった。
 粗末な服を着せられた、僕とほぼ同じ年齢の少女。
 一見するとプラチナブロンドのロングヘアで、とても綺麗な少女だ。
 だが、顔には痣があり服の隙間からはムチで叩かれた様な跡があった。
 少女と一緒に船から降りてきたスラちゃんとプリンが、事情を話してくれた。

「スラちゃんとプリンが代官を追い詰めたら、あの子を人質にして逃げようとしたんだって」
「屑だな」
「腐ってますね」

 スラちゃんからの報告をリズが皆に伝えると、軍務卿と内務卿が怒りの表情へと変わっていく。
 僕もこの仕打ちにかなり怒っている。
 そして鑑定をすると、驚きの事態が判明した。

「軍務卿、内務卿。この少女は僕よりも一つ下なのですが、ベストールという名字を持っています」
「成程、なんとなく読めたぞ」
「詳しくは、これからくる馬鹿に聞いてみよう」

 軍務卿と内務卿は、まさに船から降ろされた人物を睨みつけていた。
 ブクブクに太った姿の、恐らく代官と思わしき人物が姿を現したのだった。
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