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第二章 バスク子爵領

第九十話 ブレットとの決戦

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 悔しそうな表情をしているブレッドに向けて、リンさんが再度通告した。
 一応形式的なものだろう。

「国家指名手配犯ブレッド、今一度無条件降伏を勧める」

 すると、ブレッドは開き直った様に俺達に話しかけてきた。

「ははは、最初から死刑が分かっているのだ。俺にもプライドってものがある。ここは一つ大暴れさせて貰うぞ」

 俺達にそう言うと、ブレッドは胸元から薬を取り出して飲み込んだ。
 
「グゴゴゴゴ」

 たちまちブレッドの体は異質に盛り上がり、着ている服も千切れていく。

「サトー、今じゃ」
「ブレッド、俺がただ単に引き下がる訳ないだろう、が!」

 キラーン。

「グオオオ!」

 ブレッドが魔獣化したタイミングで、俺はビアンカ殿下の合図と共に溜めておいた魔力を使って状態異常回復の魔法を使った。
 既に大犯罪を犯しているブレッドの事だ。
 状態異常回復の魔法をかけられても、人間に戻る事はないだろう。

「グフ、グォー」
「ふむ、妾達の目論見通りじゃ。魔獣化の途中で状態異常回復をかけられたから、中途半端な魔獣化になっておる」
「確かに、この作戦はかなり有効ですね」

 魔獣化の薬を飲むと急激に身体が異常に発達する為、全ての魔獣化を止める事は出来ない。
 しかしバルガス公爵領の時のバンの様に、完全に魔獣化をするのを防ぐ事ができた。

「ビアンカ殿下、流石に疲れたので後衛に下がります」
「うむ、サトーよ良くやったのじゃ。後は妾達に任せて、スライム達の指揮に専念せよ」

 ビアンカ殿下だけでなく、エステル殿下やマルクさんも前に出た。
 そして、この人も動き出した。

「さて、ここからは私達も戦いましょう」
「「はい」」

 リンさんがスラリと剣を抜いて構えた。
 そして、オリガさんとガルフさんも盾と剣を構えている。

「「ブルル」」

 俺達の事を忘れてはいけないよと、二頭の馬もやる気を見せていた。

「私は念の為に、後衛に下がる。リンよ、思いっきりやるのだ」
「はい、お兄様」

 そして、俺の隣にやってきたラルフ様から、リンさんに檄が飛んだ。
 一瞬にしてこちらも陣形を作り、一気に攻撃を仕掛ける。
 俺以外のメンバーは大して疲れていないし休憩も取れたので、とても元気一杯だ。

「ぶどう、グラビティを。あんこはブライトネスとサイレスを」

 ブォン。

「グォ? グア?」

 先ずは補助魔法が得意なスライムのぶどうとあんこによって、ブレッドの動きを封じ込める。
 ブレッドは突然目と耳が使えなくなり、更には体が重くなってかなり混乱している。

「ではいくぞ!」

 バリバリバリバリ。

「グシャアー!」

 ビアンカ殿下の先制の雷撃が、ブレッドに命中した。
 もしブレッドの目が見えたなら雷撃は避けられていた可能性もあるが、今の視力と聴力を奪われたブレッドなら雷撃は当て放題だ。

「せい」
「とう」

 ズシャ。

「ギャー」

 そして、リンさんとエステル殿下がブレッドの背後から斬りつけた。
 ブレッドとしては、突然の激痛で訳が分からないだろう。
 それでもブレッドは、腕を振り回してなんとか反撃をしようと試みる。

 ガコン。

「させません」
「このくらいなら平気だ」

 しかし、乱暴に振り回された腕もオリガさんとガルフさんの盾で簡単に防がれてしまった。
 この隙に、マルクさんがブレッドの顔目掛けて短剣を投げつけた。

「ギシャー!」

 マルクさんの投げた短剣は、ブレッドの両目を正確に突き刺した。
 これでブレッドは、完全に視力を失う事になった。

「一旦離れて下さい。魔法による飽和攻撃を行います」
「「はい」」

 俺の指示に従ってオリガさんとマルクさんが素早く離れて、スライム達による魔法の一斉掃射が行われます。
 
 ズドドドドド。
 ズドドドドド。

「グオオオ」

 流石というか、ブレッドは野生の本能で防御をしてスライム達による魔法の連射を防いでいた。
 しかし、俺はスライム達の魔法の連射でブレッドを倒せるとは思っていない。
 この魔法の連射は、あくまでも次の攻撃への布石なのだから。

 ズドドドドド。
 ズドーン。

「グギャアー!」

 一瞬スライム達の魔法の連射が止み、その瞬間に魔法障壁を展開した馬二頭がブレッド目掛けて猛スピードで突っ込んできたのだ。
 完全に不意を突かれた形のブレッドは、馬の突進をモロに受けて叫びながら宙を舞い、そして地面に激突した。
 馬二頭による突進攻撃はとんでもない威力で、地面に落下したブレッドは殆ど動かなくなっていた。
 
「「はあ!」」

 ズドン。

「グフゥ……」

 間髪入れず、リンさんとエステル殿下がジャンプして、落下の勢いを利用してブレッドの両胸に剣を突き立てた。
 ブレッドは空気の抜ける様な声を出したと思ったら、完全に動かなくなった。
 俺は、念の為にブレッドの事を鑑定した。
 
「ビアンカ殿下、鑑定したらブレッドは死亡と出ています」
「そうか。しかし、今回は作戦が上手くハマったな。殆どブレッドに攻撃させずに倒す事ができたのじゃ」

 俺がビアンカ殿下に話をしたのを聞いて、メンバーは剣をしまった。
 うまくブレッドの魔獣化の弱体化が成功し、更には視力を奪う事もできた。
 今回の戦闘は、ほぼ完勝といえる内容だった。
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