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第一章 バルガス公爵領

第四十五話 しっかり者の兄と自由人の妹

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「ここでは何だから、屋敷の中で挨拶をしよう」

 ビアンカ殿下の兄は、とってもできる人みたいだ。
 ずっと立って待っている俺達の事を気遣ってくれた。
 折角なので、先程の応接室に戻る事にした。

「あー、可愛いのがいっぱいいる!」

 ビアンカ殿下の姉が、テーブルの上の従魔達の寝ているカゴを見つけてテンションが上がっている。
 
「エステル、落ち着け」
「あたっ」

 そして、ビアンカ殿下の姉は、ビアンカ殿下の兄からチョップを食らっていた。
 どうもビアンカ殿下の姉は、とても騒がしい人の様だぞ。

「ごほん、では先に自己紹介を。私はビアンカの兄でアルスだ。この度は、妹が大変世話になった」
「私はエステルだよ。ビアンカちゃんのお姉ちゃんで、リンちゃんの同級生なんだよ」

 アルス殿下は金髪短髪の冷静沈黙で、エステル殿下は金髪のボブカットで天真爛漫って感じだ。
 兄妹なので顔はそっくりなのだが、性格はまるで違うぞ。

「アルスお兄様は、母上に似ておる。エステルお姉様は、完全に父上に似ておるな」
「という事は、陛下とエステル殿下は性格が似ているという事ですか?」
「兄妹の中では一番父上に似ておる。父上も公式の場だとしっかりしておるが、気の許した人の前ではかなり緩いぞ」

 ビアンカ殿下から、衝撃の情報が。
 まさか国王陛下が、エステル殿下に似た性格だとは。
 エステル殿下を見ると、自由人だという感じがしてならないぞ。
 とりあえず、俺達も自己紹介しよう。

「俺はサトーと申します。犬獣人がシロで、猫獣人がミケと言います」
「シロだよ。よろしくね」
「ミケはミケだよ。アルスお兄ちゃん、エステルお姉ちゃん」
「シロちゃんとミケちゃんか。二人ともとっても可愛いね」

 エステル殿下は、既にシロとミケの事が気に入った様だ。
 二人の頭の事を撫で撫でしている。

「わ、私はザシャです」
「く、クレアと言います」
「二人とも、そんなに固くならなくてま良い」
「「は、はい」」

 ザシャとクレアは、流石に緊張している。
 薬草採取の時にリンさんが貴族令嬢だと知ったのもあって、周りの人が凄い人だらけなのもあるだろう。
 アルス殿下が二人の事を気遣っても、流石に緊張が取れない様だ。

「アルスお兄様、どうやらこの屋敷の怪しい奴らは明日宿に向かうらしいのじゃ」
「ふむ、そうなると宿に監視を向かわせると同時に、屋敷の部屋の捜索も行う事ができるな」
「しかし、奴らに気付かれない様にこっそりと行う必要がある。できれば、鍵を開けるのも控えたいのう」

 ビアンカ殿下の懸念も分かる。
 もしかしたら、鍵を開けたら作動する魔導具を仕掛けているかもしれない。
 となると、別の手を使えば良いのかもしれないぞ。

「ビアンカ殿下、折角なので本日仲間にした従魔の力を借りてはどうですか?」
「ふむ、アルケニーとネズミか。それなら、天井の隙間から侵入出来るかもしれんのう」
「タラちゃん、ホワイト。できそうか?」
「侵入ならおてのものだよ」
「うむ、フランソワにもお願いしよう」
「はい、任せてください」

 アルケニーとネズミなら、天井の隙間から部屋に侵入出来る。
 タラちゃんとホワイトに加えてフランソワもやる気満々だし、ここは頑張ってもらおう。

「しかし、サトーは面白い事を考えるな」
「そ、そうでしょうか?」
「うむ。王族と分かっても、妾にもきちんと意見を言うしアルスお兄様に対してもそうだ。そういう存在は貴重だぞ」

 な、何だか王族から高評価を貰ってしまった。
 俺としては、普通に意見を言っただけなんだよな。

「ふーん、確かにサトーは面白いね。私も興味を持ったよ」
「サトーさんは、的確な指示を出しますし、冒険者ギルドでも評価が高いですよ」
「サトーは、学園に編入する事がほぼ確実じゃ。エステルお姉様の同級生になるぞ」
「おお、それは楽しみだ」

 そして、俺はエステル殿下にも興味を持たれてしまった様だ。
 リンさんからの評価も高いし、何故に俺は高貴な人から好かれるのだろうか。

「サトーさんは、本当に貴族ではないんですよね」
「違います。普通の一般平民です」
「うーん、信じられないですよ」

 ザシャとクレアからも、俺の事が貴族ではないか疑惑を言われてしまった。
 俺は、どこに出しても恥ずかしくない唯の平民です。

「あ、そういえばリンさんはエステル殿下に用事があるのではないですか?」
「あ、いえ、この場では、ちょっと」

 そういえばとリンさんの用事の事を思い出したのだが、何故かリンさんの歯切れが良くないぞ。

「リンよ、申してみよ。別に罰する事ではないのだろう?」
「そうだよ。リンちゃんからの用事が気になるな」

 アルス殿下と当の本人であるエステル殿下からも突っつかれたので、リンさんは決心して話をした。

「学園の先生から、エステル殿下のレポートが出ていないと言われまして。もし、会う機会があれば郵送で良いので出して欲しいと言われました」
「あっ」

 リンさんが申し訳なく話をすると、エステル殿下はゴソゴソとバッグの中を漁り出した。
 そして、一枚の紙をテーブルの上に置いた。

「エステル、このレポートの期限はいつまでだ?」
「ね、年末です」
「今は、いつだ?」
「と、年明けです」

 あ、リンさんの話を聞いたアルス殿下が、怒りでメラメラと燃えている。
 一方のエステル殿下は、滝の様な汗を流していた。

「エステル、今すぐレポートを書け。書き終わるまで、食事抜きだ」
「ええー、そんな!」
「やかましい。これで何回目だ! さっさと書きなさい」
「ひぃー」

 エステル殿下は、アルス殿下からめちゃくちゃ怒られた。
 そりゃ、期限内にレポートを出していないんだもんな。
 しかも今回だけでなく、前科があるとは。
 エステル殿下は宿泊予定の部屋に連れて行かれ、レポートを書くまで部屋から出られない様に監視をつけられていた。
 うーん、王族にもこういう人がいるとは。
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