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勇者修行③

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ーー 「そのタイミングで横に躱せ!」

ーー「透明化の敵は動く時、空間に歪みが生じるからそこを狙って」

ーー「その魔物は一直線にしか攻撃出来ないから躱した後、側面を狙うといいよ」

通路を通過した俺達は大きな部屋に出ると、ゴブリンや体格がゴツく2メートル程の身長を持つ魔物オーガに、豚の顔をした魔物オークに囲まれたのだが、バラクマゼ1人で呆気なく撃破。
そこから分割し、勇者1人に騎士が1人付くようにしてそれぞれが修行に励んでいるのだが...

「なぁ...勇者と騎士の数がピッタシなのは偶然か?」

「いえ、多分勇者の数に合わせたのかと」

「勇者と仲良くなる為のきっかけを潰しやがってぇ」

「しかしマスターが指南するのは無理と言っていたのですし丁度良いのでは?」

確かにそうだけど...そうだけどさぁ。

「仲良くなる為にきっかけは必要だろぉ...」

この騎士と勇者1:1の中に割り込むとかレベル高すぎ。

「らいとははずかしがりやだからねー」

「リーラもだろー」

「りーらはちがうもん」

「どの口が言ってんだ」

リーラの頬を軽く引っ張りながら言うと「うそれふほめんらはい」と謝ったので離してやる。

「らいといたい」

「まあ、別に怒ってるわけじゃないから許してくれ」

頬を抑えるリーラを撫でる。

「にしてもどうすっかなー。今俺らがやれることってあるか?ここの魔物なんて騎士だけで十分過ぎるし、何もやること無いぞ俺ら」

「確かにそうですね。今から帰って改修工事でもしますか?」

「いや、それは駄目だ。今帰ったら約束を破ったことになる」

うーんと唸る俺とメルに、複数の魔物が襲い掛かってくる。

「腹を括ってバラクマゼに聞いてみるか」

ドゴッ

「そうですね。もし私達が何もしなかったのを見られたら報告されかねないですし」

バキッ

「えっと、バラクマゼはっと...いたいた」

祐樹という勇者に付き添っているバラクマゼを見つけた俺は、魔物を倒しながら近づく。

「よく見るんだ。目で付いていけないのはただ慣れていないだけだ」

「はい!」

祐樹が戦ってるのは確かスピードに特化した亀--シュネルタートルか。
スピードに特化したっていっても所詮亀。時速120キロくらいが限界だろう。

祐樹がシュネルタートルと対峙してる間にバラクマゼの元へと行くと、俺達に気づいたようで「どうした?」と声を掛けてきた。

「俺達やること無いんだけど」

「ん?勇者の修行はどうした」

「は?勇者と騎士の数ピッタシで教える勇者がいねーよ」

何故か俺の発言に「おかしいな」と首を傾げたバラクマゼは言葉を続ける。

「お前の為に一人開けといたのだが」

「は!?一人の奴なんてどこにもいなかったぞ!?」

そう言うとバラクマゼはため息を吐いた後、頬を掻きながらこう言った。

「あの子か...」

「あの子?」

「あぁ、影が凄く薄い子でな。目の前にいるのに気づかないって事があった」

「マジか...」

「マジだ...」

ま、何にせよ俺の暇潰しが見つかったってわけだ。

「で、その子の名前って何?」

「静乃...水原静野みずはらしずの

「どうぇっ!?」

いつからいたんだこの子!?影薄いな!
メルもリーラも気づかなかったようで俺と同じ驚愕の表情をしていて、バラクマゼさえビクッとしていた。

「...この子がお前が言ってた子か?」

「...そうだ」

落ち着いた俺はマジマジと水原静乃を見る。
身長はリーラよりやや大きめで、黒髪のショートヘア、眠そうな目をしていて無表情だ。

「えっと水原さん?よろしくな」

水原静乃はコクンとだけ頷くと、俺の顔をジッと見つめてきた。

「え...えーっと何かな?」

「.....」

「えー.....と」

「.....」

「.....」

無言で見つめられるのに、居た堪れなくなった俺はメルとリーラに目で助けを求めた。
その意図が伝わったのだろう、メルが俺と水原静乃の間に割り込むと、

「排除します!」

「いや違うだろ!どんな解釈してんだよ!」

「え!こいつ殺れって意味では無かったのですか!?」

「初対面の全く害意の無いやつを殺せとかそんな事言わねーよ!」

俺達がそんな事を言ってる間にもずっと俺の方を見る水原静乃。
と、そこにリーラが俺の後ろに隠れた後、ひょこっと顔を出す。

「らいとがいやがってる!」

「.....」

「ら...らいとが...いやがってる」

「.....」

「らいと...」

「.....」

「うぅ...らいとぉ」

リーラにも全く耳を貸さずにずっと俺を見る水原静乃に、無視されたリーラが半泣きで俺に抱きついてきた。水原静乃が男なら容赦なく殴ってたが、女であり勇者だ。彼女を傷つければ王都から追放されかねない。

「よーしよし......あの、水原さん?」

「.......静野...フルネームは好きじゃない」

「えっと...静野さん?」

「......ん」

どうやら黙ってた理由は名前で呼んで欲しかっただけらしく、俺達は一斉に溜め息を吐いたのだった。




人に武術などを教えたことが無い俺は、どうすればいいもんかと頭を悩ませた後、取りあえず勇者がいない場所へ移動した。メルとかリーラがいたら勇者達の邪魔になるしな。

「さて、静乃さん。まず君が使える固有スキル『氷結魔法』を見せてもらおうか」

まずは、固有スキルがどんなもんかと見せてもらおうかと思ったのだが、俺が口にした途端に静乃は首を横に傾げた。

「...何で知ってるの?」

「あ....」

・・・そういえばそうだった。鑑定を使って他人のステータスを見ることが出来るのは、勇者と神と俺とメルくらいなんだっけ。この前もこんな事があった気がするし...今後気をつけよう。

「あー、バラクマゼに聞いたんだよ」

これでバラクマゼには言ってないとか言われたら終わりだな。

「...そう」

助かった...と心の中で安堵の息を吐くと、静乃は魔物がいる方を向いた。
静乃の向いてる方向にいるのはオーガ2体で、まだこちらに気づいている様子は無い。

「...じゃあ、今から『氷結魔法』見せる」

そう言うと、静乃を中心に、床に薄青色の魔方陣が現れる。心なしかここら周囲の気温が下がった気がした。

にしても『氷魔法』は見たことあるけど『氷結魔法』は聞いたことも無かったな。やっぱ固有スキルっていう位だから、世界で静乃しか使えない魔法なのかもな。

魔方陣に気付いたのか、オーガ2体がこちらへ向かってくる。
さぁどうする静乃。魔法職は魔法を詠唱及び展開するのに時間がかかる。その分威力を発揮するが魔法を放てなければ意味は無いぞ。

静乃は襲い掛かってくるオーガに表情を一切変えることなく、両手を床につけると一言

「......止まれ」

そう言った直後、静乃を中心に展開された魔方陣が光弾けたと思うと、手をつけた場所から床を侵食していくかのように凍り始めた。

一瞬、俺達にも被害が!?と思ったが、氷はオーガの方向にだけ進んでおり、現在もオーガに迫っている途中だった。

「グオオォォオ...グゴッ!?」

氷の侵食がオーガの足に当たると、そこから絡みつくようにオーガの体を氷が這い上がっていく。見る見るうちにオーガは凍っていき、呻き声も頭まで凍ると聞こえなくなった。

「......こんな感じ」

静乃は額に掻いた汗を掻くと、少々ドヤっとした顔をした。

「魔方陣の展開速度、発動速度は申し分ないかな」

ステータスの数値通りの威力だと思う。ただ、

「ただ1人じゃ余り使えないな。近接系の仲間に囮になってもらって、使うなら良いとは思うけど」

威力面も相手を行動不能にする時間を早めれば良いと言おうと思ったが、まだ始めだしこれから成長すれば良い事なので言わなかった。

「......ん」

相変わらず無表情だが、少し落ち込んでるように見えたのは俺の気のせいだろうか?

「他には無いのか?」

「......今は無い」

「そうか」

「......ん」

これからどうしよ....
ステータスを見る限り静野は魔法に特化してるし、魔法の修行をするのが良いんだろうけど、今覚えてる魔法がこれだけじゃなぁ。
とっとと魔法を覚えるのが良いにも、このダンジョンでは中々上がらなさそうだし....もうあのダンジョンに連れて行こうかな? まぁでも急に強くなったりしたら勇者達に質問攻めに合うことは確実だし、本人に聞いてみないとな。

「静乃さん、速く強くなりたい?」

「.....新しい魔法を使ってみたい」

新しい魔法=強くなる、だから強くなりたいって事でいいのか?

「うーん...静野さんって口固い?」

「......まず人と余り話した事が無い」

「ならいいか...えっと、今から静野さん別のダンジョンで修行する事になるけど秘密に出来る?」

「......ん」

「絶対に秘密だからな?」

質問攻めに会った時に、多分この子なら言わないと思うが念の為、念押しすることにした。

「.......分かった」

「じゃあ皆俺の手でも肩でもいい。どこでも掴んでくれ」

「わかったー!」

「はい」

リーラは俺に抱きつき、メルは俺の腕を、静乃は一瞬躊躇った後、無言で俺の服の裾を掴んだ。

「さぁ!じゃあ行きましょうかね!」

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