15 / 18
子猫のいる生活
しおりを挟む茶羽と黒羽の帽子を受け取り、ちょっと疲れ気味な二人を休ませるため駐車場に向かう三人、ショッピングモールを出て車の止めてある場所に向かう。
車の前に来た時突然、後ろから『キャー』という悲鳴が聞こえた。
俺は振り向くと少し先から野球帽をかぶった人が走ってくる、手に何か持って前に構えていた、よく見ると包丁のようなものだった。
俺はとっさに茶羽と黒羽を左右に突き飛ばす、その瞬間男は俺にぶつかってきた。
お腹に鈍い痛みを感じ視線を下げるとぶつかってきた奴が持っていた包丁が刺さっていた。
「うっ、なにを」
「俺の楽しみとエンジェルを奪ったお前に対する天罰だ。」
ぶつかってきたのは若い男だった、そしてわけわからないことを叫んだ。
辺りで叫んだり助けを呼ぶ声が聞こえて、視界の端に警備員が数人走ってくるのが見えた。
茶羽と黒羽を見ると座ったまま目を見開いて俺の事を見ている。
俺は立っているのもつらくなり座ろうとすると駆け付けた警備員に支えられ寝かされる。
茶羽と黒羽も俺に近づいてきて腕にしがみついてきた、その顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
どこかで俺を刺した男の笑う声と数人の男性の怒鳴り声、あとは悲鳴のようなものと救急車はまだかと怒鳴っている声が聞こえてきた。
茶羽と黒羽も泣きながら俺の名前を叫んでいる。
遠くで救急車のサイレンが聞こえてきたころ、刺された痛みが麻痺したのか痛みがなくなってきてそれから意識が遠のいていく。
『あぁ、俺はもうダメなのか、茶羽、黒羽、ごめんな』
真っ暗で何も見えず感覚もない中、どこか遠くで猫の鳴く声が聞こえていた、しばらくして猫の鳴き声が聞こえなくなると、痛みで目が覚める。
目を開けると知らない天井、目線をずらすとそこには健治と香織がいた、二人は目に涙をためていて、俺が目を開けたことを確認して健治はどこかに走っていく。
すぐ健治と白衣を着た男性が来る。
そこでショッピングモールの駐車場で刺されたことを思い出す、『あぁ、ここは病院なんだな』と思考も徐々に戻ってくる。
起き上がろうとすると健治と白衣の男性に止められる。
そこで俺は茶羽と黒羽が居ないことに気づく。
「茶羽と黒羽は・・・」
「大丈夫だから今はしゃべるな、いいな。」
俺の言葉を遮るように健治は大丈夫だと言う、だが香織は下を向いたままだった。
それを見た俺は茶羽と黒羽に何かあったんじゃないかと思った。
「茶羽と黒羽をここに・・・」
「しゃべるなって言ってんだろ、二人は大丈夫だから、俺を信じろ。」
俺の言葉を遮り健治がそう言うので俺は頷いて天井を見る、しばらくすると痛みが消えていき眠くなってくる、そして眠りについた。
夢の中に茶羽と黒羽が出てきた、二人はずっとこっちを見て何か言っている、だけど何も聞こえない。
口の動きを見ると、『おとうさん・・・・・・ありがとう、またね』途中はよくわからなかったが、そう言っているように見えた。
俺も喋ろうとするのだが声が出ない、必死に二人に近づこうとしても動かない。
どういうことかと考えるが何も思いつかない、聞こえないし声も出ないそして動けない、そんな状態に苛立ちを覚えこの状況に怒りを覚える。
しばらくして二人が徐々に消えてゆく、二人がいた場所には最初からそれしかなかったかのように帽子だけが残されていた。
俺は茶羽と黒羽に近づくことも声をかける事も出来ずにただ消えていくのを見ているしかなかった、消えてからもその帽子に近づこうとしても動けない、『何なんだよこれは!!』そう思った瞬間、俺は目が覚める。
あれだけ痛かったお腹の痛みが無くなっている。
視線の先にある天井は寝る前に見ていた病院の天井、部屋は暗かった、視線をずらしてみても周りに誰もいない、起き上がり窓の外を見ると真っ暗で今は夜だと分かる。
そうだ俺は刺されたんだとお腹を確認するも刺された跡すらなくなっていた。
何がどうなっているのかわからなく、冷静になれと自分に言い聞かせて起こったことを思い出していく。
茶羽と黒羽とショッピングモールに行った、いつもの和食屋で焼き魚定食を食べて、オーナーさんのお店で帽子を受け取り、帰る際包丁を持った男に刺された、そしてたぶん今いるこの病院に運ばれた、そこで一度目を覚ましまた眠りについた。
そこまでは思い出した。
その後に見た夢は何だったんだ?茶羽と黒羽は何が言いたかったんだ?
そう思ったら茶羽と黒羽に会いたいという気持ちが強くなる。
そしてベットから出ようとすると、ベットの脇に何かが置いてあるのに気づく、それを見てはっとする、茶羽と黒羽の帽子だ、ここにあるという事はここに居たのだろう。
そしてまた先ほど見た夢の光景を思い出す。
そして思わず言葉が出た。
「茶羽、黒羽、会いたい」
つぎの瞬間病室の扉が開く、そこには二人の影がたっていた、廊下の明かりで逆光になっていて顔は確認できなかったが、そのシルエットは俺が知っている間違えようのない者だった。
「茶羽、黒羽、」
「「・・・!?」」
俺の声に入り口に立っていた二人は飼い主を見つけた猫のように俺の胸に飛び込んできた。
「茶羽、黒羽、心配かけてごめんな。」
そう言い二人の頭をなでると茶羽と黒羽は大きな声で鳴きだす。
その声を聞きつけ看護婦さんが病室に飛び込んでくる、そして俺と茶羽と黒羽を見ると慌てて走っていく。
すぐに白衣を着た男性を連れてくる、男性にこの病院の医者だと説明されて、俺のお腹の傷を確認すると驚いて目を見開いていた。
それもそうだ刺された傷が跡形もなくなくなっているんだから。
「なにがおこったんだ?傷が綺麗に治っている!
それにこの子達は・・・」
そこまで言うと医者は黙ってしまった。
俺も何が起こったか分からないとしか答えれなかった。
視線をずらすと涙を流しながらも笑顔を見せる茶羽と黒羽が居た。
翌日色々な検査をして、もう一晩病院に泊まり、検査の結果どこも異常がないことが分かり、俺は退院することになった。
医者も俺も、退院の手伝いに来た健治と香織も、何が何だか分からないといった状況だ。
病院を出ると、健治が入り口まで車を回してくれていたので乗ると茶羽と黒羽が笑顔で、
「「おとうさんおかえり」」
と言ってきた。
「あぁ、ただいま」
そう言うと健治は車を出し俺の家に向かった。
家の玄関を開けると家の中は出かけた時のまま変わらなかった。
健治と香織は念のためと一晩泊まって朝に帰っていった。
俺と茶羽と黒羽は二人を見送ると、家の中に戻っていく。
そして、いつもの朝、いつものお手伝い、いつもの勉強。
いつも家の中に響いている茶羽と黒羽と俺の笑い合う声、二人が走り回る足音。
いつもの日常が今日も過ぎていく。
いつまでもいつまでも・・・
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

ダンジョンチケット
夏カボチャ
ファンタジー
1話5分のファンタジー。
ある少年の夏休みはふとした瞬間から次元を越える!
大切な者を守りたいそう願う少年
主人公の拓武が自分が誰なのか、そしてどうすればいいのか、力のあるものと無いもの、
その先にある真実を拓武は自分の手で掴むことが出来るのか
読んでいただければとても嬉しいです。((o(^∇^)o))
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
3/25発売!書籍化【完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
一二三書房/ブレイド文庫様より、2025/03/25発売!
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2025/03/25……書籍1巻発売日
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる