7 / 18
ショッピングモール再び
しおりを挟む バルテルが持ち込んだ酒で盛り上がる古龍シェンは、酔うに従って外見が変化した。頭の上にツノが飛び出し、続いて肌に鱗が現れる。最終的には長い尻尾が揺れ始めた。バルテルの話だと、酔い潰れたら龍に戻るそうだ。
本体が龍なので、正体不明になると元の姿になるのだ。その辺は魔族にも似たようなのが居たから分かる。
「ところで、ツノ……じゃなくて、えっとシドウ殿」
シェンは多少怪しい呂律で僕を呼んだ。両手で干し肉を掴んで齧る琥珀の膝の上に転がる僕は、『なんですか』と尋ねた。声を出さないと聞いてるか、分からないだろうし。
「当代の魔王殿が勇者に倒されたとすると、数十年は動かぬであろう。なぜベリアルが彷徨いておるのか」
ああ、なるほど。普段なら魔王が斃れると数十年は閉じこもって回復に魔力を注ぐ。その間は他の魔族も大きな動きはしない。なぜなら魔王はひとつのシステムだった。魔族の魔力は魔王の能力に比例する。魔王が玉座にいなければ、その間は魔族の能力が格段に落ちるのだ。
掻い摘んでその話をすると、シェンは驚いた様子で目を見開いた。あれ? これって周知の事実で秘密じゃないよな?
「そのような事情、初めて聞いたぞ」
『そう、なのか? 皆知ってると思ってた』
素で返した僕の右側で、バルテルが唸る。
「それであの魔族、ベリアルだったか。あいつも強気に出られなかったのか」
威嚇はしたが、最終的には契約を持ち出した。つまり森人の集落を相手取って戦うのは不利で、今後に差し支えると判断したのだろう。
「バルテル、魔族を滅ぼすぞ」
「そうだな。盟約を破ろうとしたことだし、琥珀に危害が及ぶ。何より、こんなチャンスは二度とない」
魔族……そんなに嫌われてたんだ。好かれる要素は見当たらないけど、滅ぼすほど憎まれてるとは知らなかった。
「他に何か情報はないか」
『逆に質問してよ、答えるから』
僕としては琥珀が最優先だ。数百年に及ぶ孤独を癒してくれたし、僕を初めて人扱いした友達だった。幼子だから、今後は彼の成長を助ける庇護者でありたい。持っている知識や知恵が役立つなら、大いに活用して琥珀を守ってくれ。
「魔王に他に弱点はあるか」
『今の魔王は数十回の再生に耐えたから、もう交代時期だと思う。もしかしたらツノが折れたのも、そういう事情だったりして』
今まで魔王の頭上にいて、何度か攻撃を当てられたこともある。だが一度も折れなかった。先が欠けたことはあったけど、あれもついこの間の話だ。弱体化している可能性があった。数十回も再生と破壊を繰り返せば、強靭な魔族の体も脆くなるはずだ。
「なるほどな……」
考えられる。鍛治を行う森人バルテルは、己の経験に照らして納得した。
「新しい魔王が誕生する条件を知ってるか?」
『確か、魔力量だっけ』
今の魔王を凌ぐ魔力を持つ、魔族が魔王を消滅させることで、次の王が生まれる。戦いは魔力をぶつけ合うシンプルな戦いで、故に魔力量だけが重要視された。技術や魔法の扱い方は要らない。
「そうだ。ならば、ツノのシドウ殿を持つコハクが次の魔王だな」
シェンはにやりと笑った後、後ろにぐらりと倒れた。いびきをかいて寝ている。酔いが限界に達したらしい。
「おい、逃げるぞ」
まだ肉を齧る琥珀を急かしたバルテルは酒瓶を掴み、反対の手で琥珀の手を握って走り出した。右手に肉を持つ琥珀が伸ばした左手に掴まれ、僕もかろうじて一緒に離脱する。
ぐがぁああ! 大きな寝言が響いたと同時、洞窟の半分を埋める巨大龍が出現した。完全に酔うと元に戻るって、本当だったんだな。
本体が龍なので、正体不明になると元の姿になるのだ。その辺は魔族にも似たようなのが居たから分かる。
「ところで、ツノ……じゃなくて、えっとシドウ殿」
シェンは多少怪しい呂律で僕を呼んだ。両手で干し肉を掴んで齧る琥珀の膝の上に転がる僕は、『なんですか』と尋ねた。声を出さないと聞いてるか、分からないだろうし。
「当代の魔王殿が勇者に倒されたとすると、数十年は動かぬであろう。なぜベリアルが彷徨いておるのか」
ああ、なるほど。普段なら魔王が斃れると数十年は閉じこもって回復に魔力を注ぐ。その間は他の魔族も大きな動きはしない。なぜなら魔王はひとつのシステムだった。魔族の魔力は魔王の能力に比例する。魔王が玉座にいなければ、その間は魔族の能力が格段に落ちるのだ。
掻い摘んでその話をすると、シェンは驚いた様子で目を見開いた。あれ? これって周知の事実で秘密じゃないよな?
「そのような事情、初めて聞いたぞ」
『そう、なのか? 皆知ってると思ってた』
素で返した僕の右側で、バルテルが唸る。
「それであの魔族、ベリアルだったか。あいつも強気に出られなかったのか」
威嚇はしたが、最終的には契約を持ち出した。つまり森人の集落を相手取って戦うのは不利で、今後に差し支えると判断したのだろう。
「バルテル、魔族を滅ぼすぞ」
「そうだな。盟約を破ろうとしたことだし、琥珀に危害が及ぶ。何より、こんなチャンスは二度とない」
魔族……そんなに嫌われてたんだ。好かれる要素は見当たらないけど、滅ぼすほど憎まれてるとは知らなかった。
「他に何か情報はないか」
『逆に質問してよ、答えるから』
僕としては琥珀が最優先だ。数百年に及ぶ孤独を癒してくれたし、僕を初めて人扱いした友達だった。幼子だから、今後は彼の成長を助ける庇護者でありたい。持っている知識や知恵が役立つなら、大いに活用して琥珀を守ってくれ。
「魔王に他に弱点はあるか」
『今の魔王は数十回の再生に耐えたから、もう交代時期だと思う。もしかしたらツノが折れたのも、そういう事情だったりして』
今まで魔王の頭上にいて、何度か攻撃を当てられたこともある。だが一度も折れなかった。先が欠けたことはあったけど、あれもついこの間の話だ。弱体化している可能性があった。数十回も再生と破壊を繰り返せば、強靭な魔族の体も脆くなるはずだ。
「なるほどな……」
考えられる。鍛治を行う森人バルテルは、己の経験に照らして納得した。
「新しい魔王が誕生する条件を知ってるか?」
『確か、魔力量だっけ』
今の魔王を凌ぐ魔力を持つ、魔族が魔王を消滅させることで、次の王が生まれる。戦いは魔力をぶつけ合うシンプルな戦いで、故に魔力量だけが重要視された。技術や魔法の扱い方は要らない。
「そうだ。ならば、ツノのシドウ殿を持つコハクが次の魔王だな」
シェンはにやりと笑った後、後ろにぐらりと倒れた。いびきをかいて寝ている。酔いが限界に達したらしい。
「おい、逃げるぞ」
まだ肉を齧る琥珀を急かしたバルテルは酒瓶を掴み、反対の手で琥珀の手を握って走り出した。右手に肉を持つ琥珀が伸ばした左手に掴まれ、僕もかろうじて一緒に離脱する。
ぐがぁああ! 大きな寝言が響いたと同時、洞窟の半分を埋める巨大龍が出現した。完全に酔うと元に戻るって、本当だったんだな。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
3/25発売!書籍化【完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
一二三書房/ブレイド文庫様より、2025/03/25発売!
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2025/03/25……書籍1巻発売日
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~
なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。
そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。
少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。
この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。
小説家になろう 日間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 週間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 月間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 四半期ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 年間ジャンル別 1位獲得!
小説家になろう 総合日間 6位獲得!
小説家になろう 総合週間 7位獲得!
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる