【完結】子猫のいる生活

菊花

文字の大きさ
上 下
4 / 18

初めてのお風呂とニュース番組

しおりを挟む
 チュンチュンと窓の外から鳥の鳴く声が聞こえてきた。

「えぇぇぇ……本当に何も無かった。私って魅力が無いのかなー」
『ウチとしては、そういう事は精霊を助け出してからにして欲しいんだけど』
「昨日は気合を入れて、いつもよりしっかり髪をといてみたりしたのにさ」
『おーい、リディアー。ウチの話、聞いてる? というか、聞こえてる?』
「こうなったら、クロードを絶対に……」
『リディアーっ!』
「ん? あ、おはよう、エミリー。……どうしたの? 何か疲れているみたいだけど」

 何故かエミリーがジト目でぐったりしているけれど、いそいそと朝の準備を始め、ある程度準備が整った所で、コンコンと扉がノックされた。

「リディア。起きていますか? 良ければ一緒に朝食を……」
「クロード。来るのが遅いよ」
「すみません。女性は朝に時間が掛かるものだと、姉から聞いていたので」

 違う、そうじゃないの!
 いえ、確かに朝は時間が掛かるものだし、クロードが来る時間は丁度良いんだけど……昨日! 昨日来て欲しかった!
 レオナさんも、もうちょっと大切な事を教えてあけて欲しかったよ。
 内心そんな事を思いつつ、二人で食事を済ませ、再び馬車で揺られる事に。
 昨日は本当に眠っちゃったけど、今日の私は違うんだからっ!

「……すぅー、すぅー」
『リディア。何をしているの?』
(そんなの決まっているじゃない。寝たふりよ)
『…………リディア。リディアは演劇の世界に進まなくて良かったね』
(エミリー。それはどういう意味?)
『そのままの意味なんだけど』

 目を閉じているから表情は分からないけれど、声からエミリーが呆れているのはわかる。
 変ね。完璧な演技のはずなのに。
 寝たふりをしながらクロードの肩に顔を乗せてみたり、偶然を装って指先に触れてみたりしたけれど、クロードはいつも通りの反応しかしてくれない。
 これは、もっと大胆にいかないといけないって事かしら?
 新たな作戦を練りつつ、時折現れた魔物をクロードが退治して、御者さんや乗客の方々から感謝されたりしている内に、イーサリム公国の国境へ到着した。

「はい。では、この馬車はここまでです。この先は国境を越えてから、向こうの乗合馬車へお乗り願います」

 御者さんの言葉に従い、乗客たちと共に入国時のチェックの列に並ぶ。
 ちなみに、イーサリム公国が入国チェックを始めたのは、つい最近らしく、余計に何か怪しい事をしているのではないかと、勘繰ってしまう。
 まぁ、アメーニア王国とかエスドレア王国が緩いだけで、もしかしたらイーサリム公国が普通なのかもしれないけど。

「あれ? エスドレア王国は入国時にチェックなんてしないのに、兵士さんは居るのね」
「イーサリム公国側に兵士が居るので、そのためですよ。我が国の国民が不当な扱いを受けないようにね」

 ふーん、なるほどねー。
 ちゃんと国民を大事にするのは偉い! そう思っていると、私たちの番が来て、

「では次の者ぉぉぉっ!?」

 エスドレア王国側の兵士さんがクロードの顔を見た瞬間に狼狽え始める。
 あ! もしかして、クロードの事を知っている兵士さんなの!? というか、第二騎士隊長だし、知らない訳がないわね。
 第二騎士隊長であるクロードが鎧も身に着けずに、若い女性(私)と二人でお忍びで別の国へ……って、騒がれると困る。
 今回の旅は、私とクロードの仲を深める旅行ではなく、あくまで精霊さんたちを助ける旅であり、普通の人を装って入国しようとしているのに。

「あ、あの……こんな所で一体何を……」

 クロードが目線で、空気を察して欲しいと訴えかけているのに、兵士さんが気付かぬ様子で話し掛けてくる。
 マズい。目と鼻の先にイーサリム公国の兵士さんたちが居るのに、ここで「隊長」なんて呼ばれたら……こ、ここは私がフォローするしかないわっ!

「さ、さぁ、あなた。次は、私たちの番よ。行きましょう。せっかくの新婚旅行ですもの。のんびり、ゆっくりしたいわねー!」

 そう言って、クロードの胸に抱きつく。

「――っ!? ……お、おい。今、新婚旅行って言わなかったか? ……あの、堅物のクロード隊長が結婚なんてするか!? よく似た他人じゃないのか?」
「……でも、それにしては似過ぎですよ。鎧こそ着ていないですけど、あの腰に吊るした剣とか、様になり過ぎですよっ!」
「……あ、だけど右手と右足が同時に前へ出たりして変な歩き方だから、やっぱり違うかも。あのクールなクロード隊長なら、絶対にあんな事しないでしょうし」

 ヒソヒソと兵士さんたちの声が聞こえてくるけれど、大声で話して居る訳ではないので、イーサリム公国側の兵士さんには聞こえていないみたい。
 私の演技……の甲斐もあって、無事に国境を越える事が出来た。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

田舎の雑貨店~姪っ子とのスローライフ~

なつめ猫
ファンタジー
唯一の血縁者である姪っ子を引き取った月山(つきやま) 五郎(ごろう) 41歳は、住む場所を求めて空き家となっていた田舎の実家に引っ越すことになる。 そこで生活の糧を得るために父親が経営していた雑貨店を再開することになるが、その店はバックヤード側から店を開けると異世界に繋がるという謎多き店舗であった。 少ない資金で仕入れた日本製品を、異世界で販売して得た金貨・銀貨・銅貨を売り資金を増やして設備を購入し雑貨店を成長させていくために奮闘する。 この物語は、日本製品を異世界の冒険者に販売し、引き取った姪っ子と田舎で暮らすほのぼのスローライフである。 小説家になろう 日間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 週間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 月間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 四半期ジャンル別  1位獲得! 小説家になろう 年間ジャンル別   1位獲得! 小説家になろう 総合日間 6位獲得! 小説家になろう 総合週間 7位獲得!

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

処理中です...