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4章 怨み

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 突然胸が悪くなるようなお話をしてすみませんでした。
 久しぶりにT区と聞いたものですから、あまりにも色々と思い出してしまって、その勢いでしゃべりすぎてしまいました。
 はい?
 …どうしてそんな詳細まで知ってるのかって?
 今まで事件とは無縁の街だったせいか、当時は随分騒ぎになったんですよ。
 おしゃべり好きで詮索好きな主婦の力もあって、噂は詳細まで瞬く間に広がりました。
 赤間さん一家と交流がなかった私の耳にまで届くのに、そう時間はかかりませんでした。

 それと…この話は本当かどうか分からないのですが…
 事件以来、赤間さん宅があった敷地には、変な噂が流れました。
 声が聞こえるそうです。
 女の唸り声。恨みと悔しさが滲み出たその声は、人の声とは思えない地鳴りのような恐ろしさで、聞いた者の背筋を凍らせたそうです。
 また、何かを必死で追いかける女の目撃情報もありました。
 女は、家があった敷地を出て、数メートル先の車道まで来ると、パっと消えるそうです。
 そしてまた家の敷地から現れては車道で消える。真夜中、同じルートを何度も行き来していました。
 女が車道で姿を消す場所は、百子が轢かれた場所と同じ辺り。背丈や体格も百子そっくりだったそうです。

 仮に、霊や呪いと言った超常的なものを信じるとしたら…
 一晩のうちにあれだけの出来事が起こった場所に、不可解な事象が発生してもおかしくはない。
 そして実際に多くの霊の目撃情報が上がっていて、犯人もまだ捕まっていないのなら、犯人は呪われるのではないか…
 近所の人達は口々にそんな噂をしました。
 気のせいだと言って信じない人もいましたが、気味が悪くて誰も寄り付かない場所である事は事実でした。
 私は神や超常的なものは信じない方なのですが、実際に生きていた人間の霊は存在してもおかしくないと思っています。
 生前に起きた出来事によって、何かしらの強い想いがあったのなら尚更です。
 中でも、悲しみや怨みといった負の感情は、霊の多くが抱くものですし厄介なものです。
 
 百子の霊は間違いなく存在すると思っています。目撃情報もおそらく真実でしょう。
 
 もし呪いというものが本当にあるならば、犯人は相当苦しんでいるのではないでしょうか?
 生きた心地がしない…
いっそのこと死んだ方がマシだ…
 —そう考える事は充分あり得るんじゃないでしょうか。

 ごめんなさい……
 霊だとか呪いだとか…初対面の方にお話しするような事ではありませんよね。失礼しました。
 海野さんのような方と話をするのは久しぶりなので、ついつい話が止まらなくなってしまいました。

 次は海野さんの話を聞かせてください。
 ここにこうして来ることになった経緯を…可能であれば教えて頂けませんか?
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