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第三十二話「落とし前」
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王族としての務めをこなすセクトに、思わず笑みが浮かぶ。
「ちゃんと公務をこなしていれば、その努力を見てくれる人は現れるんじゃないの?」
「それじゃ遅いんだ!」
「グレンが王位を承るのは、もっと先の話よ?」
「それでもっ! 僕はっ……!!」
「はいはい、二人とも落ち着こうね」
言い争いに発展する前にグレンが仲裁に入った。
「先にヒルダについて話そうか。セクトについてはその後。わかった?」
腰に手を回され引き寄せられる。
頷くしか選択肢がないのを分かってやっているのだから、食えない男だと思う。
「それで、ヒルダ。貴女は実家のしている事を知っていたの?」
セクトの隣で黙り込んで座っているヒルダに問いかける。
「……いいえ。信じてもらえないかも知れませんが、私はなにも知りませんでした。セクト殿下から動かぬ証拠を見せられても、なにかの間違いだと……信じて疑わぬほどに……申し訳ありません」
「僕が動けば彼女はもうお義姉さんの侍女ではいられなくなる」
「どうしてもユキノ様の側にいたくて、協力しておりました」
「……そう。それでセクト殿下の手駒となったってわけね」
主人として喜んでいいのか、悲しんだらいいのか。
ただ一つ言うとすれば、これだろう。
「一言、相談して欲しかった。私はそんなに頼りない主人だった?」
「っ! いえっ、いいえ! 決してそんなことはっ!」
「でも事実、貴女は相談しなかった。もし貴女の家が取り潰しになったとしても、口利きぐらいは出来たのに……」
私の言葉を聞いたヒルダはついにわっと泣き出してしまった。
溢れる涙を拭うこともせず、彼女は壊れた機械のように謝罪の言葉を口にするばかり。
「申し訳……ありませんっ! ユキノ様っ……申し訳っ!」
「いいの、貴女の変化に気が付けなかった私にも落ち度はあるわ」
「そんなっ!! 全てっ! 全て私が悪いのですっ!! ユキノ様に大事にされている自覚がありながら、私は、私はっ……!!」
今まで一度も見たことがないほど取り乱すヒルダの姿に、私は目を見張った。
いや、そもそも侍女が取り乱すことなどあってはならない事だ。それが王宮で使える侍女であれば尚の事。
「ヒルダ。私は貴女を許したい。でも、あんな事があった以上、貴女の信頼は0に等しいわ」
「もちろんでございます! この後に及んで、浅ましくもまだ私を信じて欲しいなどと、そんな卑しい考えはありませんっ! ユキノ様の信頼を取り戻すためなら、下積みからやり直す覚悟だってあります!」
彼女の必死な言葉に頬が緩む。
「それでこそ私の侍女よ」
今まで通り彼女を雇う事は出来ない。一度崩れた信頼関係はすぐに修復できるものではないからだ。
しかし、優秀な腕の侍女を失うのも惜しい。
「まず実家をどうにかしてきなさい。内部告発するもよし、セクト殿下に頼んでこの国から圧力をかけるもよし。貴女の好きにしていいわ」
「ユキノ様……」
「それで実家が無くなったとしても、貴女の腕なら王宮の見習い侍女としての試験も簡単に受かるでしょう」
ヒルダがゴクリと息を飲んだ。
私がこれから口にする言葉が分かるのだろう。
言いたくはないが、言わなければならない。
ヒルダの主人として、最後の仕事だ。
「ヒルダ。貴女を解雇します。今まで世話になったわ。今すぐ荷物をまとめて出ていきなさい。もし実家の事で今後セクト殿下に接触する時はグレンを通して頂戴。私は一切関わらないわ」
主人を害する計画に手を貸したケジメはつけなければ。
この事が公になる前に。
ヒルダが頭を垂れる。
「ユキノ様……。私こそ、ありがとうございました」
立ち上がり、退出しようとするヒルダの背中に声をかける。
「もし、今後も私に仕えたいと思ってくれるのなら、全てが片付いた後、一から腕を磨き直してきて」
「っ!! はい! それでは、失礼致します」
もう一度頭を下げたヒルダは、清々しい笑顔で部屋を後にした。
「……偉かったね。ユキノなら、今回の事はなかった事にするかと思っていたのに」
グレンになでくりなでくりと髪をかき乱される。
子供のような扱いと彼の言葉に少しムッとしてしまう。
侮らないでほしい。私だって、末席ではあるが王族に名を連ねる人間だ。
王妃になるため日々努力をしてきた。
その努力は元々グレンのためにしたものではない。しかし、今ではもうグレンのためにしたと言っても過言ではいのだ。
「私だって、事の重大さは分かっているつもり」
「もしユキノが彼女を辞めさせなければ、俺が辞めさせていたよ」
「……でしょうね」
ため息をついてグレンを見上げる。
ようするに、試されていたのだ。
グレンは一夫多妻制の権利を放棄したが、彼の元へ自分の娘を嫁がせたい貴族はいまだ後を絶えないと聞く。
そのため、これからも私が狙われる事はあるかもしれない。
「足をすくわれないようにね。毎回俺が助けに行けるわけじゃないから」
「わかってる。今回は……イヤリングのおかげね?」
出立前、イヤリングを肌見離さず持っていて欲しいと言ったのは、彼が転移魔法を使うためだ。
どんな魔法にも制約があり、転移魔法はあらかじめ出入り口を決めておく必要がある。
そのため一度も訪れたことのない場所には行けない。
「正解。寝ている時も付けていてくれるなんて、思ってなかったけどね」
彼の言葉に思考が停止する。
私はイヤリングを手に持って寝落ちたはずだ。
それなのに、イヤリングは耳に付いていた。
何故、なんて考えるまでもなく――
飛び上がるように立ち上がり、部屋から飛び出した。
はしたなくも大股で走り出す。
すれ違う人達がぎょっと目を剥くが関係ない。
しばらく駆けて見えた背中に叫ぶ。
「ヒルダ!!」
驚いた顔で振り返った彼女に命令を口にする。
「絶対、戻ってくるのよ!」
涙を流しながらもしっかりと頷いたヒルダがまた背を向けて歩き出した。
私は彼女が見えなくなるまでその場で立ち尽くしていた。
たった一度、選択を間違えただけと言われるかもしれない。けれど、されど一度だ。
ゲームのように選択肢を選ぶ前にセーブなど出来るはずもない。
これは彼女が選択した結果だ。
私はそれを受け入れるしかない。
私に出来ることはこれだけ。
ヒルダがもう一度私の元へ戻ってくると祈るしかない。
落ち込む気持ちを隠し、私は自室へと戻った。
「気はすんだ?」
「いきなりごめんなさい。でも、気はすんだ」
「ならよかった」
グレンは隣の座った私を引き寄せ、今度は優しく頭を撫でる。
落ち込んでいるのがバレているのだろう。
私は彼に身を預け、甘んじて慰めを受け入れた。
本当は慰めなんていらないと跳ね除けてしまいたい。薄情者だと罵られた方がいい。でもそれは私の自己満足だ。
グレンの満足のいくまで撫でられ、心地よさにうつらうつらしてきた頃。
彼の声で起こされた。
「じゃあ次はセクトの番だね」
唐突に自分の名前を呼ばれたセクトが肩を揺らす。
そうだった。話し合いの最中だった。
シャキッと背筋を伸ばし座り直す。
あの夜、セクトには一方的に意見を述べ、その答えを聞く前に帰ってきてしまった。
その話の続きをしなければならない。
「セクトの廃嫡は望んでいない。俺も、ユキノも」
「はい。これからも王族であることが罰だと……」
「そうだ。これはあくまでもセクト個人に対しての罰というだけだね。まぁそれ以前の問題があるんだけど……。なんだか分かるか?」
首を横に振るセクト。
彼はにこにこと食えない笑みで言葉を紡ぐ。
「セクト、俺はね? ユキノに害をなそうとした事が許せない。でも、俺は王子だ。だからユキノの安否が確認できた今、言うべきことはただ一つ。誤情報を流して戦争を起こそうとしたのは見過ごせない」
「……はい」
「もし俺が気が付かず国境近くまで軍を進行していたら? 間違いなく隣国は侵略という大義名分を掲げて攻めてきただろうね」
「っ、はい」
「そうなれば、苦しむのは俺たちじゃない。国民だ。わかるよな?」
「はい」
グレンの言葉にセクトはしおらしくうなだれた。
彼の言う通り、一歩間違えれば外交問題どころではなく、国際問題に発展しかねない事をセクトはしでかしたのだ。
今になってやっと自分のした事の重大さを理解したのか、セクトはガタガタと震えだす。
気が付いたからと言って、事を起こした事実は消えてはくれない。
しかし、ヒルダの弱みを握り操り私を拐う緻密さと、グレンが国境で敵国が侵攻してきていないと気がつくほどのずさんさが合わさった計画は、彼が一人で起こしたとも考えにくい。
国境付近で上げられた信号弾。
それを上げられるのは、ただ一人。
「……辺境伯」
ぽつりと口から出た言葉にセクトが反応した。
「そうです。言い訳がましいかも知れないけど、辺境伯に話を持ちかけられ、乗ってしまいました」
「傀儡にしようとしたんだろうな。セクトなら御しやすいと判断された。ようは舐められていたんだ。俺も、お前も」
「っ、僕はっ……!」
「殺意は秘めて、研ぎ澄ますものだよ。誰にも気取られてはならない」
グレンは綺麗な笑顔とは裏腹に物騒な言葉を口にする。
気圧されたセクトが息を呑む。
「でもまぁ、国境付近に軍には待機命令を出しているし、いい機会かもな」
「え、まだ軍は国境付近にいるの? 帰還命令ではなく?」
「うん。そうだよ。だから辺境伯は俺とセクトはまだ戦っているとでも思っているんじゃないか? 俺を竜化させ王族の地位を剥奪する、だなんて言ってないだろ?」
「そりゃあ、建国神話はただのおとぎ話だと思われているから……。結局、兄様は竜にはならなかったけど……」
「俺がいつ、竜になれないって言った?」
一瞬の静寂。
そして、
「えぇぇぇえ!?」
絶叫が響いた。
「ちゃんと公務をこなしていれば、その努力を見てくれる人は現れるんじゃないの?」
「それじゃ遅いんだ!」
「グレンが王位を承るのは、もっと先の話よ?」
「それでもっ! 僕はっ……!!」
「はいはい、二人とも落ち着こうね」
言い争いに発展する前にグレンが仲裁に入った。
「先にヒルダについて話そうか。セクトについてはその後。わかった?」
腰に手を回され引き寄せられる。
頷くしか選択肢がないのを分かってやっているのだから、食えない男だと思う。
「それで、ヒルダ。貴女は実家のしている事を知っていたの?」
セクトの隣で黙り込んで座っているヒルダに問いかける。
「……いいえ。信じてもらえないかも知れませんが、私はなにも知りませんでした。セクト殿下から動かぬ証拠を見せられても、なにかの間違いだと……信じて疑わぬほどに……申し訳ありません」
「僕が動けば彼女はもうお義姉さんの侍女ではいられなくなる」
「どうしてもユキノ様の側にいたくて、協力しておりました」
「……そう。それでセクト殿下の手駒となったってわけね」
主人として喜んでいいのか、悲しんだらいいのか。
ただ一つ言うとすれば、これだろう。
「一言、相談して欲しかった。私はそんなに頼りない主人だった?」
「っ! いえっ、いいえ! 決してそんなことはっ!」
「でも事実、貴女は相談しなかった。もし貴女の家が取り潰しになったとしても、口利きぐらいは出来たのに……」
私の言葉を聞いたヒルダはついにわっと泣き出してしまった。
溢れる涙を拭うこともせず、彼女は壊れた機械のように謝罪の言葉を口にするばかり。
「申し訳……ありませんっ! ユキノ様っ……申し訳っ!」
「いいの、貴女の変化に気が付けなかった私にも落ち度はあるわ」
「そんなっ!! 全てっ! 全て私が悪いのですっ!! ユキノ様に大事にされている自覚がありながら、私は、私はっ……!!」
今まで一度も見たことがないほど取り乱すヒルダの姿に、私は目を見張った。
いや、そもそも侍女が取り乱すことなどあってはならない事だ。それが王宮で使える侍女であれば尚の事。
「ヒルダ。私は貴女を許したい。でも、あんな事があった以上、貴女の信頼は0に等しいわ」
「もちろんでございます! この後に及んで、浅ましくもまだ私を信じて欲しいなどと、そんな卑しい考えはありませんっ! ユキノ様の信頼を取り戻すためなら、下積みからやり直す覚悟だってあります!」
彼女の必死な言葉に頬が緩む。
「それでこそ私の侍女よ」
今まで通り彼女を雇う事は出来ない。一度崩れた信頼関係はすぐに修復できるものではないからだ。
しかし、優秀な腕の侍女を失うのも惜しい。
「まず実家をどうにかしてきなさい。内部告発するもよし、セクト殿下に頼んでこの国から圧力をかけるもよし。貴女の好きにしていいわ」
「ユキノ様……」
「それで実家が無くなったとしても、貴女の腕なら王宮の見習い侍女としての試験も簡単に受かるでしょう」
ヒルダがゴクリと息を飲んだ。
私がこれから口にする言葉が分かるのだろう。
言いたくはないが、言わなければならない。
ヒルダの主人として、最後の仕事だ。
「ヒルダ。貴女を解雇します。今まで世話になったわ。今すぐ荷物をまとめて出ていきなさい。もし実家の事で今後セクト殿下に接触する時はグレンを通して頂戴。私は一切関わらないわ」
主人を害する計画に手を貸したケジメはつけなければ。
この事が公になる前に。
ヒルダが頭を垂れる。
「ユキノ様……。私こそ、ありがとうございました」
立ち上がり、退出しようとするヒルダの背中に声をかける。
「もし、今後も私に仕えたいと思ってくれるのなら、全てが片付いた後、一から腕を磨き直してきて」
「っ!! はい! それでは、失礼致します」
もう一度頭を下げたヒルダは、清々しい笑顔で部屋を後にした。
「……偉かったね。ユキノなら、今回の事はなかった事にするかと思っていたのに」
グレンになでくりなでくりと髪をかき乱される。
子供のような扱いと彼の言葉に少しムッとしてしまう。
侮らないでほしい。私だって、末席ではあるが王族に名を連ねる人間だ。
王妃になるため日々努力をしてきた。
その努力は元々グレンのためにしたものではない。しかし、今ではもうグレンのためにしたと言っても過言ではいのだ。
「私だって、事の重大さは分かっているつもり」
「もしユキノが彼女を辞めさせなければ、俺が辞めさせていたよ」
「……でしょうね」
ため息をついてグレンを見上げる。
ようするに、試されていたのだ。
グレンは一夫多妻制の権利を放棄したが、彼の元へ自分の娘を嫁がせたい貴族はいまだ後を絶えないと聞く。
そのため、これからも私が狙われる事はあるかもしれない。
「足をすくわれないようにね。毎回俺が助けに行けるわけじゃないから」
「わかってる。今回は……イヤリングのおかげね?」
出立前、イヤリングを肌見離さず持っていて欲しいと言ったのは、彼が転移魔法を使うためだ。
どんな魔法にも制約があり、転移魔法はあらかじめ出入り口を決めておく必要がある。
そのため一度も訪れたことのない場所には行けない。
「正解。寝ている時も付けていてくれるなんて、思ってなかったけどね」
彼の言葉に思考が停止する。
私はイヤリングを手に持って寝落ちたはずだ。
それなのに、イヤリングは耳に付いていた。
何故、なんて考えるまでもなく――
飛び上がるように立ち上がり、部屋から飛び出した。
はしたなくも大股で走り出す。
すれ違う人達がぎょっと目を剥くが関係ない。
しばらく駆けて見えた背中に叫ぶ。
「ヒルダ!!」
驚いた顔で振り返った彼女に命令を口にする。
「絶対、戻ってくるのよ!」
涙を流しながらもしっかりと頷いたヒルダがまた背を向けて歩き出した。
私は彼女が見えなくなるまでその場で立ち尽くしていた。
たった一度、選択を間違えただけと言われるかもしれない。けれど、されど一度だ。
ゲームのように選択肢を選ぶ前にセーブなど出来るはずもない。
これは彼女が選択した結果だ。
私はそれを受け入れるしかない。
私に出来ることはこれだけ。
ヒルダがもう一度私の元へ戻ってくると祈るしかない。
落ち込む気持ちを隠し、私は自室へと戻った。
「気はすんだ?」
「いきなりごめんなさい。でも、気はすんだ」
「ならよかった」
グレンは隣の座った私を引き寄せ、今度は優しく頭を撫でる。
落ち込んでいるのがバレているのだろう。
私は彼に身を預け、甘んじて慰めを受け入れた。
本当は慰めなんていらないと跳ね除けてしまいたい。薄情者だと罵られた方がいい。でもそれは私の自己満足だ。
グレンの満足のいくまで撫でられ、心地よさにうつらうつらしてきた頃。
彼の声で起こされた。
「じゃあ次はセクトの番だね」
唐突に自分の名前を呼ばれたセクトが肩を揺らす。
そうだった。話し合いの最中だった。
シャキッと背筋を伸ばし座り直す。
あの夜、セクトには一方的に意見を述べ、その答えを聞く前に帰ってきてしまった。
その話の続きをしなければならない。
「セクトの廃嫡は望んでいない。俺も、ユキノも」
「はい。これからも王族であることが罰だと……」
「そうだ。これはあくまでもセクト個人に対しての罰というだけだね。まぁそれ以前の問題があるんだけど……。なんだか分かるか?」
首を横に振るセクト。
彼はにこにこと食えない笑みで言葉を紡ぐ。
「セクト、俺はね? ユキノに害をなそうとした事が許せない。でも、俺は王子だ。だからユキノの安否が確認できた今、言うべきことはただ一つ。誤情報を流して戦争を起こそうとしたのは見過ごせない」
「……はい」
「もし俺が気が付かず国境近くまで軍を進行していたら? 間違いなく隣国は侵略という大義名分を掲げて攻めてきただろうね」
「っ、はい」
「そうなれば、苦しむのは俺たちじゃない。国民だ。わかるよな?」
「はい」
グレンの言葉にセクトはしおらしくうなだれた。
彼の言う通り、一歩間違えれば外交問題どころではなく、国際問題に発展しかねない事をセクトはしでかしたのだ。
今になってやっと自分のした事の重大さを理解したのか、セクトはガタガタと震えだす。
気が付いたからと言って、事を起こした事実は消えてはくれない。
しかし、ヒルダの弱みを握り操り私を拐う緻密さと、グレンが国境で敵国が侵攻してきていないと気がつくほどのずさんさが合わさった計画は、彼が一人で起こしたとも考えにくい。
国境付近で上げられた信号弾。
それを上げられるのは、ただ一人。
「……辺境伯」
ぽつりと口から出た言葉にセクトが反応した。
「そうです。言い訳がましいかも知れないけど、辺境伯に話を持ちかけられ、乗ってしまいました」
「傀儡にしようとしたんだろうな。セクトなら御しやすいと判断された。ようは舐められていたんだ。俺も、お前も」
「っ、僕はっ……!」
「殺意は秘めて、研ぎ澄ますものだよ。誰にも気取られてはならない」
グレンは綺麗な笑顔とは裏腹に物騒な言葉を口にする。
気圧されたセクトが息を呑む。
「でもまぁ、国境付近に軍には待機命令を出しているし、いい機会かもな」
「え、まだ軍は国境付近にいるの? 帰還命令ではなく?」
「うん。そうだよ。だから辺境伯は俺とセクトはまだ戦っているとでも思っているんじゃないか? 俺を竜化させ王族の地位を剥奪する、だなんて言ってないだろ?」
「そりゃあ、建国神話はただのおとぎ話だと思われているから……。結局、兄様は竜にはならなかったけど……」
「俺がいつ、竜になれないって言った?」
一瞬の静寂。
そして、
「えぇぇぇえ!?」
絶叫が響いた。
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