転生令嬢は逃げ出したい 〜絶倫ルート回避したはずなのに、何故か別の絶倫ルートに入ったんですが!?〜

稲雀あや

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第二十八話「絶望に抗え 後編」

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第二十八話「絶望に抗え 後編」
「やっと見つけた」

 耳心地の良い、少し掠れた声が上から降ってくる。
 上から登場したのはきっと侵入を気取られないため。そして、魔法であれば空中浮遊も可能だからこその荒業。
 天井が吹き飛んだことで広がった明るい視界に目が眩む。水面が波打つように揺らいだ視界に、安堵で涙が溢れたのだと悟った。

「グレン」

 来てくれた。私のために、息を切らして。

「誰だ、ユキノを泣かせたのは」

 グレンが私を押し倒す男をじろりと見下ろす。

「ひぃ」

 破壊された天井から現れたグレンはさながら魔王のようで、盗賊達は転がるように逃げ出した。
 流石は当て馬というべきか、潔い撤退だ。
 盗賊がいなくなった事でヒルダが私の元へと駆けつけた。
 優しく起こされるが、刺激に顔が歪む。
 グレンの突然の登場に心底驚いたのだろう。微かな音を立ててセクトが後ずさった。
 目敏くその音を拾ったグレンがそちらへ目を向ける。

「……セクト?」

 地上に降り立ったグレンは愕然とした顔でセクトを見つめる。

「早かったね、兄様。もっと足止めされていたら良かったのに」
「どうしてお前がここにいる? 皆お前を探して……」

 いつもなら真っ先に私に駆け寄るであろうグレンはその場に立ち尽くしたままだ。
 曲がりなりにも血を分けた兄弟。ショックが大きいのだろう。

「天才の兄様なら、もう分かっているんじゃないですか?」
「……俺は天才じゃないと何度言えば分かるんだ」
「ではなぜ僕は王族の証である治癒魔法が使えないんですか。天賦の才無くして使えるのであれば、僕も使えるはずでしょう!」
「誰しも得手不得手はある」
「そんな綺麗事まっぴらだ! 代々治癒魔法の使い手が王になった事実は覆らない」

 治癒魔法が使えないと言うセクトに驚きの目を向ける。
 王族は皆使えるのだと思っていた。

「そんなことか」
「そんなこと!? 僕にとってはそんなことで片付けられる事じゃないんですよ!! だから僕は、兄様を竜にする」
「は?」
「え?」

 私とグレンの声がハモる。

「王の器絶望する時その姿は竜となる」
「ただのおとぎ話だ」
「本当にそうかな?」
「なんだと?」
「兄様の愛する番の姿を見てみなよ。媚薬を盛られボロボロだ。……まっ、あの男達の慰めものになったから当たり前か」

 息をするように嘘をつかれ、反応が遅れる。

「……え? いや、慰めものになってないし」

 咄嗟に否定できなかった私に何を思ったのか、セクトに向いていたグレンの瞳が私を捉えた。
 その転瞬てんしゅん
 ぱきっ、と音が聞こえた。

「あ?」

 音の鳴った方に視線を移し――

「グレンッ!! 手が……!!」

 グレンの右手の甲が鱗に覆われてしまった。
 自身の手を見て固まっている。
 徐々に鱗が手から腕の関節へと上がっていく。

「マジかよ」
「はははは! やった! 成功だ!!」

 高らかに笑うセクトと対称に落ち着き払っているグレン。

「な、なんで焦らないの?」
「あーいや、これは……」

 時間にして数分だろうか。
 いつまでも続くと勘違いしてしまう緊張感の中、我に返ったセクトが呟く。

「どうして……なぜ竜化しないんだ!?」

 ぱきぱきと鳴っていた音はいつの間にか止んでおり、それは竜化の終わりを示していた。
 竜化の終わったグレンは竜人とも人間とも言い難い見た目をしており、幻想的だ。

 それはまるで、人の肌と竜の黒鱗の織りなす交響曲シンフォニー

 頬にまで上る鱗がグレンの美しさを際立たせている。

「きれい……」
「なぜだ!! どうして……!?」
「これはね、忌むべき俺の本来の姿だからだよ」

 少し伏し目がちに呟いたグレンは胸に手を当て大きなため息をついた。

「セクトも国王陛下も女王陛下だって知らない、俺だけの秘密。戦争が終わったらユキノには明かそうと思ってたんだ。物心ついた時にはこの姿になれた、ってね」

 グレンの暴露にセクトはせわしなく視線を泳がせる。この事態が飲み込めないらしい。
 そんな様子のセクトを見て肩をすくめたグレンは「まぁ、敵軍なんて攻めてきてなかったけど」とお茶目に笑った。

「普段は魔力制御で人間っぽく出来ているだけ。普通の人ではない俺は、自身を王の器足る人間だと一度も思った事はない」
「な、な、な、なんだよ、それ……」
「古の媚薬を使ったな? それは俺の魔力制御を狂わせる」
「グレン……ひゃあんっんんん」

 つかつかと近づいてきたグレンに持ち上げられ、今までにない快感が駆け巡り簡単に軽く達してしまった。
 今まで我慢できていたはずのそれはいとも簡単に全身を貫いた。感じたことのない刺激に力が入らず、くたりとグレンの胸にもたれかかる。
 ドクドクと規則的に聞こえる鼓動の音が心地良い。

「お前も早く帰れ。部下が心配しているぞ」
「なんで断罪しないんだよ! 兄様のその姿のことだって、陛下に報告するかもしれないだろ! 情けをかけたつもりか!?」
「お前はそんなことしないよ」
「何を根拠にそんな戯言を……」
「この姿の俺を兄とまだ呼んでくれているだろ? だからだよ」

 化け物と罵られてもおかしくない状況で、セクトはグレンを兄様と言った。
 たったそれだけで、信じられるものなのだろうか。

「ユキノだって誠心誠意謝れば許してくれるはずだよ。ね、ユキノ?」
「まぁ、このぐらいは学園で慣れっこだから……。実害といえば媚薬を盛られたぐらいだし。けど、ヒルダを使った事は許さない。だからちゃんと落とし前は自分でつけて。それで、これからもグレンと比較され続ける王族でいることが一番辛い選択でしょ? なら絶対に楽な方へは逃がさない。ずっと王族でいて」
「だ、そうだよ。廃嫡なんて望んでないってさ」

 最後に目を向けたセクトは悔しそうに唇を噛んで俯いていた。
 是とも否とも答えを聞けぬまま、グレンの転移魔法で景色が一変する。

 最初に目に付いたのは天蓋付きの寝台。いつもの寝室だ。
 速攻寝台に寝転ばされ、甘い声が漏れる。

「古の媚薬を使われてよくここまで耐えられたね? 本来であれば、空気に触れるだけでイキ狂う代物だよ」

 なんて劇薬を使ってくれたんだ、あの第二王子は!

「え、それ、なんで私大丈夫なの……」
「たぶん、俺のせい。俺の体液がユキノを変えてしまった」

 グレンの体液、つまり精液を体内に吸収したため、私の体質が変わったと。

「? なんでグレンのせいなの? それを言うならグレンのおかげじゃ……?」

 首を傾げれば、グレンは物悲しげに笑う。

「ユキノはこんな醜い姿になった俺でもいいの? 気持ち悪いでしょ」
「なんで? その姿すごくかっこいいと思う。この頬の鱗がグレンの色っぽさを助長させてて……」
「っ、本当、ユキノは俺を喜ばせるのが上手い」

 壊れ物を扱うように優しく私の頬へと触れる。触れた手は少し震えていた。
 安心させるように手を重ね、添えられた手に頬擦りをする。

「私は本心を言ってるだけよ。話はあとに、はぁ、しない? 私……グレンに触れた途端、っん。我慢っ出来なく……」

 体が熱い。グレンのことしか考えられない。
 ほしい。
 グレンが、ほしい。グレン以外はいらない。
 お願い。早く。

 これも媚薬の効果なのか、グレンの体液による変化なのか、浅ましくもグレンが欲しくてたまらなくなってしまった。

 これ以上我慢できないっ!

「ちょ、ユキノ!?」

 グレンの静止も聞かず、彼を押し倒す。
 そしてすかさずパンツを脱がして上に跨がり、だらだらとはしたなくも蜜を垂れ流す蜜壺へ彼のモノをあてがおうとして、固まった。
 そこにあるはずの物がない。

「ほら、言わんこっちゃない。魔力の制御が聞くまで人間の姿には戻れないから、ユキノは辛いかもしれないけど、発散なら指でも……」
「だ、大丈夫!!」

 何が大丈夫なのか。挿れるものがないのに、どうすればいいのかなど分かるはずもない。
 記憶の隅に追いやっていたが、グレンはあのエロゲーの隠しキャラなのだ。
 主人公ヒロインを溺愛し、蜜月という甘い日々を送るだけ……なんて生易しいはずがなかった。

「本当に? じゃあ、どっちがいい?」
「どっち……?」

 グレンが自身の鼠径部を押した。
 するとなんということだろう。
 鼠径部から形がそれぞれ違う一対の剛直が飛び出してきたのだ。
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