転生令嬢は逃げ出したい 〜絶倫ルート回避したはずなのに、何故か別の絶倫ルートに入ったんですが!?〜

稲雀あや

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第二十五話「軍服祭り」

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第二十五話「軍服祭り」

「あなたのせいで……!!」

 乾いた音が響く。
 頬を叩かれた音だ。

「一生幸せになれないよう祈ってるわ」

 女性の歪んだ笑顔が怖い。
 夢だと分かっているのに息が苦しくなる。

「私の可愛い可愛い愛娘」




「ッ……!」

 がばりと飛び起きる。
 冷や汗が背中を伝い、気持ち悪い。

 結婚式も披露宴も無事に終わり、疲れ果てた私はグレンよりも先に部屋に戻ってすぐに眠りに落ちた。
 そして、忌々しい記憶を夢として見たのだろう。

 結婚式をしたからね。
 幸せになろうとすると、いつもこれだ……。

 カタンッと何かを置いた音にハッと我に返る。

「あ、ごめん。起こしちゃったね」

 いまだ軍服のグレンが申し訳無さそうな顔をこちらに向けた。先程の音はテーブルにグラスを置いた音だったようだ。
 夜も深い時間のはずだが、まだ公務をしていたのだろうか。

「大丈夫。グレンはまだ仕事終わらないの?」
「終わって帰ってきたところ。どうしたの? 寂しかった?」

 少し意地の悪い笑みで紡がれた言葉。それに素直に頷いた。
 素直に頷かれて虚をつかれたグレンがぽかんと口を開け驚いている。

「え、どうしたの?」

 硬直から戻ったグレンが心配そうな表情で寝台に近づき、私の顔を覗き込む。

「大丈夫……ではなさそうだね。何があったのか教えて? ユキノの憂いは全部俺が払うから」
「グレン……ありがとう」

 寝台に腰掛けたグレンに抱きつけば、驚きながらもしっかりと抱きしめ返してくれる。
 彼の温かさに強張っていた身体から力が抜けるのが分かった。

「あったかい」

 思わずこぼれた。

「そりゃあ生きてるからね」

 くすくすと笑うグレンにドキリと胸が高鳴る。

 グレンに捨てられたら、私は生きていけないかもしれない。

 安心と共に訪れる底知れぬ闇。
 それほどまでに私の中でグレンの存在が大きくなっているということだ。

「また不安そうな顔。そんなに俺頼りない? ユキノの悩みも不安も全部分けて? 全部俺が解決してみせる」
「……グレンは私のどこが良かったの?」
「え、全部」

 即答。
 呆れた口調で「なにそれ」と返せば真面目な顔で当たり前と言わんばかりに返事をされた。

「初めて会った時、惹かれたんだ。会う度に違う一面を見せてくれるユキノが可愛くて目が離せなかった。アーマルド国の第一王子の婚約者だと知っても、諦める事など考えれないぐらいに惹きつけられていたんだよ」

 頬に口づけを落とされ、少しだけ恥ずかしさが募る。

「それって直感ってこと、よね?」
「まぁそうとも言うね。最初は直感だったとしても、今ではユキノの全てを愛しているよ」

 私はいまだ全てを曝け出していない。
 それなのに、全てを愛しているなんて。
 前世のこと、なにも知らないくせに……。

 秘密を話さない事は棚に上げて、グレンを責める私はなんて自分勝手なんだろう。
 でもでもだってと駄々っ子みたいに逃げている。

「……ごめんね」
「んん? え、いきなり何?」
「なんでもない。ねぇ、グレンの正装、もっと堪能させてほしい」

 自己満足の謝罪を口にし、昼間にしようと考えていた事……つまり、グレンの軍服を堪能する事にした。
 グレンは私の言葉に一瞬目を瞬いたが、意味を理解したのかニヤリと笑った。

「見るだけで満足?」
「分かってるくせに」
「えー? どうして欲しいか言ってくれないと分からないよ?」

 誘惑。
 それに私は抗えない。
 式の最中は細部まで確認できなかった軍服を堪能できるチャンスに目が眩んでしまったからだ。

「目の前に立ってくれる?」
「お安い御用だよ」

 グレンは立ち上がり一歩下がって両手を広げる。
 このチャンスに脳裏に焼き付けなければと、食い入るように凝視する。

 白一色の軍服。詰襟に竜の装飾を施された黒釦。右肩から伸びた黒色の飾緒が白の軍服を華麗に彩っている。
 左胸には、竜を模した黒色の刺繍。竜の瞳には黒曜石オブシディアンが小さいながらも自己主張をしていた。

 え、ちょ、はぁ? 意味分かんない!
 思ってた以上にかっこいいんだけど!?
 いや、待って、これでもし帽子も被ったら完璧すぎて卒倒する自信があるわ。

 内心荒ぶっていると、グレンが思い出したかのようにテーブルからあるものを持ち上げた。
 そして、おもむろに髪をかき上げながらそれを頭に乗せる。

「ひぇっ。尊っ、あーもう、顔面の破壊力っ」

 顔を両手で覆い悶絶する。
 用意周到にもほどがある。式では使わなかったはずの帽子を被るグレンは眩しすぎて直視できない。
 顔を覆う前に見た帽子は、軍服と同じく白。つばがあるタイプで、クラウンには国旗にも描かれる竜と雨の帽章が金色に輝いている。

「喜んでもらえたみたいで何よりだよ」

 私に全身がよく見えるようにと一歩下がっていたグレンが私を押し倒した。

 押し倒した……!?

 唐突な彼の行動に目を丸くするしかない。

「え、グレン?」
「ん? 今日はこのままシようかなって思ったんだけど、嫌?」

 つまり、着衣プレイ?

「え、でも、それ正装じゃ……」

 すごく罰当たりな気がするのは私だけだろうか。
 そんな私をよそにグレンは「大丈夫」とにこやかに即答した。
 やわやわと無防備な双丘を揉まれ甘い声が漏れる。

「んっ」
「汚れたら洗えばいいだけだから、ね? 好きでしょ、正装《これ》」
「ひゃぁ」

 寝間着を剥ぎ取られ、素肌が晒される。少しだけ肌寒い。

「すぐに温かくしてあげる」
「ゃはぁっ、あっグレン」

 触れるか触れないかの柔らかなタッチで腕や太ももを撫で上げられ、ピクリと体が反応する。

「もっと俺を感じて。とろけさせてあげる」
「あっ」

 秘部の蕾を探し当てたグレンが、優しく蕾をこねる。
 ビリビリと足先まで痺れるような快感が走る。

「や、いきなりはあぁぁ」

 毎日のように快感に慣らされた体は、少しの触れ合いで準備が整ってしまう。

「ね、もっと俺を感じて。俺だけを見て?」

 言葉と同時に指が中へと差し込まれ、確実に良いところばかりを狙い刺激される。

「や、ひゃん、んぅ」

 ねちねちとした攻めに嬌声を上げ身をよじる。
 快感を逃したくて、思わず足を閉じた。そうすれば足の間にあるグレンの手は動くことが出来ない。
 すると笑みを深くしたグレンが、

「今日は嗜好を変えてみようか」

 と、良いことを思いついたと言わんばかりの口調で言い放った。
 嫌な予感が脳裏を過ぎる。

「それってどういう……」
「ユキノ。足を開け。それでは触れられない」

 いつもより低い音で発せられた命令。
 その声に腰が砕けそうになる。

「っ! な、な、なっ!?」
「この声が好きなんだな? あとこの口調も気に入ったか?」

 大好きです!!!!

 とは流石に叫べず、気まずげに視線を逸らす。

「たまにこの口調で喋っていると、うっとりと見つめてくるからな。ユキノが好きなら良かった」
「そ、そんなにあからさまだった……?」
「いや? 俺以外は気がついていないよ。さ、続きをしようか。ほら、足を開くんだ」

 有無を言わせぬ言葉におそるおそる足を開く。
 ふっと薄い笑みを浮かべたグレンが指の動きを再開させる。

「あっ! そこっゃ」
「気持ちいいか? たっぷり可愛がってやる」
「んっ、やらぁ」

 ぐずぐずに溶かされる。
 グレンの欲情に染まった黒色の瞳が私を捕らえて離さない。

「もっ、焦らさなっんん」

 あと少しで果てるところで刺激が止む。

「ど、してぇ」
「ユキノ。どうして欲しい?」

 ぴたりと止められた指がもどかしい。
 いつもと違う低い声と命令にドキドキと心臓がうるさい。

「言わないといつまでもこのままだが、いいのか?」

 恥ずかしい言葉を求められている現状に、かっと体が熱くなってしまう。

 いつもなら言わずとも察してくれるのに……。
 これが嗜好を変えるということか。
 破壊力が凄まじい。
 ましてや顔も、声も、体つきも、体格差だって、全てが好みどストライクなのだ。
 抗えるわけもない。
 自ら秘部を広げ、上目遣いでグレンを見つめる。

「わ、私の、ここに……グレンの熱い楔《くさび》をちょうだい……?」

 言い切った瞬間、手で口を覆ったグレンが「マジかよ」と小声で呟いたのが聞こえた。
 この少し乱暴な口調が本来の口調なのかもしれない。

「ねぇ、早く。もう待てないの。お願いグレン……」
「っ、ほんっと煽るのが上手いな!」

 喉仏が上下しごくりと息を飲んだグレンが、帽子を私の顔に乱暴に押し付けた。

「わっぷ。んっ、あぁ!」

 彼の顔が見えないまま勢いよく剛直が突き立てられたが、すでに濡れそぼった泥濘はすんなりと彼を受け入れた。そして、刺激に慣らされた体はいとも簡単に快感を拾う。
 リズムよく打ち付けられる快感。
 それに合わせてゆらゆらと揺れる黒色の飾緒。
 指とは比べ物にならない質量で貪られ、気持ちよさに頭がふわふわする。
 徐々に加速する抽送に嬌声が止まってくれない。
 しかし、顔に押し付けられた帽子を退けようとすると阻まれてしまった。

「グレッン、帽子ぃやぁんん!!」
「ごめん。今情けない顔してるから、見ないで」
「えっなんぁッあっ、待って、グレッンんんんん!!」
「くッ、締めすぎだ」

 最奥を抉る剛直に、呆気なく達してしまう。
 私と共に果てたであろうグレンの子種が熱い。
 身を捩るほどの快感で少しずれた帽子から、頬をほんのり赤く染めたグレンが見えた。
 目を疑う光景に虚を突かれ何も言えずにいると、グレンと視線がかち合ってしまった。

「あーくそ、だっせぇ」

 観念したのかグレンは帽子を取り、私の首筋に顔を埋める。
 素肌に触れる飾緒が少し痛い。それに気がついたグレンが少しだけ体を浮かせてくれた。
 些細な気遣いが愛されているのだと実感させてくれる。
 私はその想いに今はまだ答えることが出来ないが、せめて本心を口にしようと震える唇を動かした。

「どんなグレンも私は……か、かっこいいと、思う、よ」

 言葉尻にいくにつれて小声になってしまったが、グレンには聞こえているだろう。
 軍服も十二分に堪能した。

 かっこいいと思っているのは事実だし、嘘は言ってない。うん。
 それに、軍服エッチ、最の高でした。ごちそうさまです。

 先程の秘事を思い出してはてれてれとだらしなく頬を緩める。

「ほんと、なんでそんな可愛いの……」

 動物がマーキングするかのように首筋に頭をグリグリと押し付けてくるグレンが可愛くて、吹き出した。

「ぷっ、あはは。可愛いのはグレンでしょ。ふふっ。犬みたい~」

 調子に乗ってグレンの頭を撫でくりまわす。
 意外にもグレンは私が満足のいくまで止めなかった。

 しかし……。

 私の手が止まったのを見計らい上体を起こした彼は、粗放に服を脱ぎ捨てた。
 見事な細マッチョが姿を現しほぅと見惚れる。

 いつ見ても完璧なシックスパック……。

 見惚れている間に音を立てて寝台の下へと落ちた軍服とグレンの顔を交互に見つめる。

 でも、今服を脱ぐ理由が分からない。

 よほど意味がわからないといった顔をしていたのだろう。
 今度はグレンが壊れ物を扱うように頭を撫でてきた。
 どれほど見慣れていても見惚れてしまうほどの美しすぎる笑みを浮かべて、

「ユキノは十分正装を堪能したみたいだし、今度は俺を楽しませて?」

 と、悪魔のような言葉を放ったのだ。




 長い夜はまだまだ始まったばかり。
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