転生令嬢は逃げ出したい 〜絶倫ルート回避したはずなのに、何故か別の絶倫ルートに入ったんですが!?〜

稲雀あや

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第二十四話「結婚式。そして」

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第二十四話「結婚式。そして」
 結婚式当日。
 雲ひとつない晴天は天が祝福するかのようだ。
 私達の結婚式は大聖堂で行われる。
 大聖堂までの移動は民衆のために行われ、新郎新婦をお披露目する意図があるらしい。

 この日のためにあつらえた真っ白なウエディングドレスを纏い、式場へと向かうため、パレード用の馬車に乗り込んだ。
 ベールを被ったまま移動するため、安全のためグレンにエスコートされて移動する。
 結婚式はするが他人に顔を見せる事だけは許容出来なかったらしく、ベールを外すのは誓いのキスをする時だけ。
 そんな独占欲全開の旦那様……私をエスコートし乗り込んだグレンを盗み見る。
 彼の服装もこの日のためにあつらえた軍服だ。前世でいうところの海上自衛隊第一種夏制服といったところだろうか。外交を行う都合上、それよりも派手な装いではあるが、白色で長袖の軍服なところは一致している。

 軍服ってどうしてこんなにかっこいいんだろう。

 思えば初めてシた時も軍服だった。
 あの時は流されるままシたため、満足に軍服を堪能出来なかった。
 私のドキドキと高鳴る胸に気がついたのか、にやりとした意地悪な顔で視線を向けられる。
 見惚れていると知られたくなくて、顔を背ければクスクスと笑い声が聞こえた。

「本当、可愛い」
「そんなの知らない」

 歓声が近づいてきてハッと我に返る。

 王族として初めてのお務め。頑張らなきゃ。

 そう意気込んで、乗り心地の良い馬車から集まってくれた民衆へニコニコと手を振る。
 長くも短く感じられる道のりをゆったりと進む中、グレンが外に笑顔を向けたまま声をかけてきた。

「ユキノ」
「なぁに?」

 祝の歓声に包まれながら、隣に座るグレンの言葉に答える。

「本当は昨日の夜に渡そうと思っていたんだけど、抱き潰しちゃったから……」

 そう。昨夜はひどい目にあった。一度だけのはずが二回、三回と回数が増えていきいつも通り貪られた。
 朝起きて足腰立たない私に平謝りをしたグレンは自ら回復魔法を施してくれた。
 その際、申し訳無さそうな顔をするグレンの頭に犬の耳が見えたのは秘密だ。
 優しく左耳に触れた手が離れると、チャリっと音を立てて少し重い何かが揺れる。

「うん、やっぱり似合うね」
「イヤリング?」

 ピアスを付ける時のような感覚ではなかった事からイヤリングだと判断した。
 ニコニコと笑う彼の顔を見るに正解だったようだ。

「アメジストと黒曜石オブシディアンのイヤリング。デートした時に見つけたんだ。ユキノに似合うと思って買ったから、貰ってくれると嬉しい」
「グレンが私のために……?」

 デートで寄ったのは可愛らしい女性向けの宝飾店だけ。
 グレンが居心地を悪そうにしていたからあまり長い時間は滞在出来なかった。
 そこで買ってくれたのだろう。
 可愛らしいお店で真剣に悩むグレンを想像し、よく分からない感情が募る。溢れ出んばかりのこの感情の名前はなんだろうか。

「城に招く行商人から買うような高価な物ではないかもしれないけど、えっと、ユキノの瞳と俺の瞳の色に似てると思ったんだ。俺達もこの寄り添うような宝石みたいな関係を築いていきたい。だから、その……」

 私が安物では気に入らないと思ったのか、一人弁明を始めるグレン。
 彼はこれからの未来を考えてくれている。
 その事実がくすぐったくて、思わず頬が緩む。

「嬉しい。ありがとう」
「っ! あーもう、なんで俺のお嫁さんこんなに可愛いの!? このまま結婚式バックレて囲いたい……」

 不穏な言葉が聞こえた気がしたが、流石王族。ニコニコとした顔は崩さず言ってのけた。

 もしかして、グレンと結ばれるのは監禁ヤンデレルートだったりするのかしら?
 ……駄目ね。全て憶測でしかないわ。こんな時、あの娘がいてくれたら今物語のどこにいるのかが分かるのに。

 大聖堂に辿り着き、グレンのエスコートで馬車を降りる。
 ふんわりと広がる従来のドレスではなく、体のラインにピッタリと合ったマーメードドレスは初めて見る者を虜にしたのだろう。
 私が降りるまで騒がしかった来賓が一斉に口を噤んだのだ。

 え、怖っ……。

 頬が引きつりそうになったが、なんとか笑みをたたえる。
 内心ドン引きしながらでも、体に染み付いた作法は裏切らない。
 長い階段をエスコートされ、上品に、清楚に、静々と優雅にすでに開け放たれていた大聖堂の扉を潜った。

 真っ赤な絨毯。
 色とりどりのステンドグラス。
 礼拝堂内にはすでに来賓が揃っている。

 グレンと共にヴァージンロードをゆっくりと通る。
 ベールで顔が見えづらい事を利用し視線だけで来賓に目を向ければ、二度と会うことはないと思っていた元婚約者のレオンや涙ぐんだ両親が座っていた。

 勘当したはずの娘が他国の王族へ嫁ぐと知って手のひらを返した両親だが、愛情いっぱいに育てられた自覚はある。
 貴族というものはしがらみが多くて嫌になるが、王族から婚約破棄された私に荷物を持たせてくれたのは両親なりの愛情だったのだろう。

 両親を呼んでくれたグレンに視線を向けると満足げな顔をしていた。
 祭壇の前で佇んでいる神父の元へと歩みを進める。
 祭壇前で立ち止まり、神父の言葉を待つ。

「病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命のある限り心を尽くすことを誓いますか?」
「竜に誓って、ユキノだけを生涯の番とします」
「はい。竜に誓います」

 竜信仰の帝国では竜に誓いを捧げるらしく、この文言は最上級の誓いだ。
 もし誓いを破ると竜神の怒りを買い、竜の裁きを受けるとされている。

「指輪の交換を」

 初めにグレンが神父に差し出された小さな宝石が埋め込まれたシンプルな指輪を受け取った。
 左手をグレンに差し出せば、彼は優しく左手を取り指輪を薬指へと通す。
 私も同じようにグレンの左の薬指へと指輪を通し、指輪の交換を終えた。

「それでは誓いのキスを」

 グレンがそっとベールを持ち上げる。
 ベールを上げやすいよう腰を折り、背中へベールが下ろすタイミングでゆっくりと姿勢を戻した。
 グレンと向き合い、目を瞑る。
 唇に温かく柔らかな彼の唇が触れたのを確認し、目を開ければ拍手が聞こえた。
 来賓へと振り返ったグレンが人のいい笑みを浮かべ口を開く。

「これからはふたりで力を合わせ、悲しみは半分に喜びは二倍にして、夫婦の絆を深めていこうと思います。ただ、ふたりともまだまだ未熟者でございます。今後ともご指導ご鞭撻(べんたつ)を賜りますよう、よろしくお願いします。ご列席の皆さま方のご健康とご多幸をお祈りいたしまして、私たちふたりのごあいさつに代えさせていただきます」

 彼の言葉に続き、にっこりと笑顔を貼り付け口を動かす。

「最後になりましたが、遠い異国の風習であるブーケトスなるものをしたいと存じます」

 これは私の提案。
 少しでも憧れの結婚式へと近づけたくて提言した。
 そうすれば皇帝陛下が「面白い」と提案を快く受け入れてくれたのだ。
 介添人から小さなブーケを受け取り、初めて聞くであろう単語に困惑している来賓へと言葉を続ける。

「ブーケトスとは、異国の地にて花嫁が参列者へと花束を投げるというものです。そしてこの花束を取ることの出来た者は次の花嫁、花婿となれるというジンクスがございます」

 ざわりと空気が揺れた気がしたが、一瞬で自制するのは流石は貴族だ。

「もちろんこれは余興ですので、受け取れなかった方々にも後ほどブーケをお届け致します。取れなかったとしても安心なさって下さいね」

 そう締めくくり、グレンへ視線を移せば、彼は心得たと頷いて声を張り上げる。

「それではブーケトスを行いますので、皆様大聖堂外の階段下へとお集まり下さい」




 ブーケトスはそれはそれは大盛り上がりで、女性同士の争奪戦がおこったとか……。




 そして時は少し進み、披露宴。

「はじめまして。ユキノ様。此度はご結婚おめでとうございます」

 貴族階級の作法を無視した挨拶。
 しかも、グレンが少し挨拶へと離れたタイミングでの無礼だ。警戒しないわけがない。
 声の方へ視線をやれば、真っ赤なストレートの髪をした女性が立っていた。
 第一印象は悪役令嬢だ。

「……私はまだ貴女に挨拶をした覚えがありませんが、不躾では?」
「あら、申し訳ありません。つい昔の癖で」
「そうですか」

 あまり関わらない方が良いだろうと話を切り上げようとするが、彼女はそれを許さない。

「改めまして、あたしはナーシャ・フォン・タタンと申します。同じ転生者として、よろしくお願い致します」

 大きな爆弾を落とされ固まっている間にナーシャと名乗った女性はその場を離れており、異変に気付いたグレンが戻ってきた。
 そしてそのタイミングを見計らってダンスの音楽が流れ始めてしまう。
 主役である私とグレンが踊らなければ、来賓が踊れない。
 グレンに手を取られ、ホールの真ん中へと誘《いざな》われる。

 今はダンスに集中しないと。

 ナーシャのことも気にはなるが、目の前のお務めを終えなければならない。
 軽やかにとステップを踏む。

「どうかしたか?」
「……いえ、なんでもないの」

 くるくると回っている最中に気遣われるが、転生の事が言えるはずもなく、口を噤んだ。
 グレンと息の合ったダンスを終え、優雅に礼をする。
 すぐに目立つ赤色の髪を探すが見つからず、反則技だと思いつつも控えていた侍女のヒルダにナーシャを探させた。
 しかし戻ったヒルダから明るい報告は受け取れなかった。
 なぜなら彼女はすでに披露宴から帰っていたのだ。
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