転生令嬢は逃げ出したい 〜絶倫ルート回避したはずなのに、何故か別の絶倫ルートに入ったんですが!?〜

稲雀あや

文字の大きさ
上 下
16 / 37

第十五話「第二王子」

しおりを挟む
第十五話「第二王子」
 グレンにエスコートされ用意された部屋へと足を踏み入れる。
 そこには既に第二王子のセクトがおり、ソファーに腰掛けて私達の訪れを待っていた。
 セクトはグレンと同じ黒髪に黒い瞳をしていた。
 違うところはセクトが短髪だということぐらいだ。

「待たせたな」
「僕も来たところなので気にしないで下さい。そちらが兄様の……」

 立ち上がり礼をするセクトに、ゆったりと美しく見えるよう最新の注意を払い淑女の礼をする。

「お初にお目にかかります。ご挨拶が遅くなり申し訳ありません。私、ユキノと申します」
「うん、初めまして」
「それで? 俺の妻に何か用か?」

 グレンはいつもの様子からは考えられないほど冷たい声色でセクトに要件を聞く。
 初めて聞く彼の冷たい声色に、私は驚きを隠せない。
 しかしセクトはそんな彼に機嫌を悪くするわけでもなく、にこにこと笑って着席を促してきた。
 心底嫌そうな顔をしながらも私を座らせてからグレンは隣に着席する。

「お義姉さんとなった人と交流を深めようとするのは悪い事ですか?」
「……お前は俺達王族の性を分かってるだろ?」
「もちろんですよ」
「それなら」
「でも、まだですよね?」

 途端に黙り込むグレン。
 居たたまれない空気に息が詰まりそうだ。

 それにしても、王族の性ってなんなの? そんな話、一度もされた事ない。

 私の内心を悟ったのか、グレンが優しく腰を抱いた。

「ユキノなら問題ない」
「本当にそうでしょうか?」
「何が言いたい」
「いえ、王族の中にはそう言って本懐を成せなかった者もいたそうではないですか。……僕はただ兄様の心配をしているだけです」

 兄弟でしか通じない話を私の前でして、何がしたいのだろう。

 というか、私ここに必要だった……?
 私がいないといけない話じゃなさそうなんだけど。

「あの、差し出がましいとは存じますが、今日私を呼ばれたのに理由はあるのですか?」

 傍目には兄弟喧嘩をしようとしている様にしか見えない。

「あぁ、ごめんね。今日お義姉さんを呼んだのは他でもない、兄様の事だよ」
「グレンの?」
「お義姉さんはどうして兄様の妻になろうと思ったの?」

 成り行きで。
 とは口が裂けても言えそうにない、重い空気が漂う。
 冷や汗をかきそうな空気の中グレンが口を開いた。

「それを聞いてどうする? そもそも、お前には関係のない話だ」
「冷たいなぁ。それに理由はちゃんとある。僕も本懐を成し遂げたいからね。その参考にさせて貰おうと思って。ねぇ、お義姉さん。兄様と初めて出会った時どう思った?」

 グレンのきつい口調にもものともせず、セクトは笑った。
 したたかだなぁと思いつつ、私は素直に言葉を返す。

「第一印象は、私好みの男性がこの世に存在するとは思わなかった……ですね」
「……へぇ?」
「顔も声も体つきまで全てが好みのど真ん中でした」

 正直な感想を言っただけだが、腰に回ったグレンの腕に力が籠もる。

「ふぅん、そうか。やっぱりお互いに惹かれるものがあるのかな」
「……もういいだろ。ユキノ、そろそろ部屋に戻ろう」

 強制的に立ち上がらされ、グレンに引きずられるように扉まで連れて行かれる。

「え、ちょっ、申し訳ありません。失礼致します」
「はいはい。またね」

 半身を後ろに向け、別れの言葉を早口で告げる。
 やれやれと言いたげな顔でセクトはこちらに手を振った。
 そうして、第二王子セクトとの初対面は慌ただしく終わり、私達は部屋を後にした。



 ◇◆◇



「もう! なんでそんなに冷たいのよ」
「一分、一秒でも、セクトと対面する時間を短くしたかっただけだよ」

 自身の部屋に戻った私は、ソファーに腰掛け、グレンらしくない行動の理由を問いただしていた。
 しかし、彼は悪びれる様子もなく横から私を抱きしめている。

「ユキノの覚悟が決まってから言おうと思ってたんだけどね。この際話しておこうと思う」
「……何よ、いきなり」
「俺達シエロニアの王族は代々束縛が激しいんだ。それはもう、自分の妻を誰にも見せないようにするぐらいに」
「なんとなくそんな気はしてた」

 王妃教育で習った、王妃は王を支えるため公務を行う。というような事は全くさせてもらえず、自由ではあるが、ほぼほぼ軟禁状態。
 束縛が激しいだなんて、考えなくても分かりそうなものだ。

 ……よし、やっぱり逃げよう。

 適切な距離感さえ保てればいい。
 その為の抗議の一環として、逃亡計画を立てようじゃないか。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...