転生令嬢は逃げ出したい 〜絶倫ルート回避したはずなのに、何故か別の絶倫ルートに入ったんですが!?〜

稲雀あや

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第十話「憂鬱」

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第十話「憂鬱」
「結婚式とお披露目パーティーを開く事になった」
「はい?」

 朝食を食べながら告げられた言葉に思わず不満気な言葉が漏れてしまう。
 蜜月から一ヶ月経ってする結婚式とはいったいなんだ。
 私が首を傾げれば、グレンは心底不服だと言いたげにため息をついた。

「結婚式もパーティもしないと決めていだんだけどね。父上に押し切られてしまった」
「あら、グレンにも逆らえない事があるのね」

 この一ヶ月見てきたグレンはやり手であった。
 そのため、逃亡の計画はなかなかにやり辛く、この世界最強である私でも攻めあぐねているところだ。
 彼がやらないと決めていた結婚式とパーティをもぎ取るなんて、流石は一国の王だ。

「可愛いユキノを誰にも見せたくない。それに、パーティーとかそういうの苦手だろ?」

 すねた口調で言われれば、なんだかとっても可愛く見えてしまうのだから私も毒されてきていると思う。

「私は結婚式が出来て嬉しい。確かに貴族の催しはあまり得意ではないんだけど、それとこれは別だし……」

 結婚式に憧れない女子は居ないと思う。
 それに、王族の末席に名を連ねたのにお披露目をしないというのも、なんだか認めてもらえていないようで嫌だ。
 逃げ出したいと思う気持ちと認められたいと相反するような自身の感情に戸惑ってしまいそうだ。

「ユキノは結婚式したかったの?」
「ん? まぁ……それはもちろん、女の憧れだよ」
「……そうか。ならそれ相応の用意をしないといけないね」

 先程のすねた様子とは打って変わって、満面の笑みで侍従に指示を出し始めたグレン。
 食事ぐらいゆっくり食べればいいのにと思いながら、私は彼を眺めていた。



 ◇◆◇



 結婚式の開催が決まってからというもの、毎日のようにデザイナーと打ち合わせをする事になった。
 最初は初めて目にする純白のドレスに目を輝かせていたが、二、三日同じ事を繰り返すと流石に飽きてくるというものだろう。

「ささ、奥様。このようなドレスはどうでしょう?」
「失礼ですが、先程のドレスとあまり変わらない気がするのですが……?」
「分かり難いかとは存じますが、こちらは先程よりも体のラインを強調するものとなっております」

 並べられた二つのローブ・デコルテを見比べるが、やはりと言うべきか大きな違いは感じられない。
 よく見ると微妙に違う気もするなぁという程度だ。
 この世界の主流は某夢の国に出てくるお姫様達のような、ふりっふりでひらっひらなプリンセスラインのドレス。
 しかし、豊満な胸の私には似合わない。
 侍女に紙とペンを持ってこさせ、簡単にドレスを描き込む。
 描き終えた紙をデザイナーに渡せば、デザイナーは目がこぼれ落ちそうなぐらい両目を見開いていた。

「こここここれは!!!???」
「こんな感じに一度ドレスを仕立ててくださる?」
「え、ええ、ええ!! もちろんです!!」

 感極まり過ぎて泣き出しそうなデザイナーが挨拶もそこそこに部屋を退出した。
 やっと一息つける。

「お茶淹れてくれるかしら」
「かしこまりました」

 後ろに控えている侍女に声をかければ、すぐに温かい紅茶が差し出された。
 カモミールの匂いを堪能し、カップに口をつける。
 乾いた喉を潤していれば応接間の扉が開いた。
 ノックもせずに入ってこれるのはたっだ一人だけ。

「グレン。どうしたの?」

 カップを置き私が名を呼べば、とろけるような笑みを湛えたグレンに抱きしめられた。

「可愛い妻に会いたくなっただけだよ」
「サボりに来たわけじゃなくて?」
「……ちょっと休憩」
「ふふっ」

 そんなグレンが可愛くて笑えば、むっとした彼に唇を塞がれる。

「ん、ぅあっ」
「好きだよ、ユキノ」

 離された唇から紡がれる言葉。
 返事を返す事をしない私に少し寂しそうな顔をしながらも、強要することはない。

「あ、やっぱりここでしたか!! ほら、まだ執務が残っているんですよ!!」
「ちっ思っていたよりも早いな、アレク」

 ノックと共に部屋に入室したグレンの従者のアレクが、彼の首根っこを掴み半ば引きずるような形で連れて行く。

「そんな睨んでも駄目です。ほら、行きますよ!!」
「はぁ、優秀な従者で俺は幸せものだよ。ユキノ、また来るね」
「ええ。私はこれから自室へ戻るわ」

 嵐のように唐突に現れて、いつの間にか消えていくグレンは、よく執務の合間に私の元に訪れては愛を囁いて行く。
 その言葉はゆっくりと私の中に染み込んで、逃げる気すら削がれそうになる。

 駄目よ、グレンの愛はシナリオに矯正されたものだもの。
 本当に私を好きなわけではないわ。
 だから、期待なんてしてはいけない。

 どれだけグレンに愛を囁かれようとも、容易に信じることは出来ない。
 少し冷めてしまったカモミールティーをもう一度口に運び、私はため息をついた。
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