転生令嬢は逃げ出したい 〜絶倫ルート回避したはずなのに、何故か別の絶倫ルートに入ったんですが!?〜

稲雀あや

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第五話「王子の溺愛」

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 学園在学中に伴侶を見つける事。
 国内では相手が見つからず、最終手段として父上が呼んだ占い師が告げた国へと留学する事となった。
 それが、この国へ留学した理由。

 そう簡単に見つかるとは思っていなかったが、入学式の朝、俺は運命の相手とも言える人物に出会った。
 出会ったと言っても、彼女が触手に貪られそうになるのを見ていただけなのだが……。
 処女性が重視されないこの国で貞操を守った。
 それだけで興味が湧いた。
 だが、彼女にはすでに婚約者がおり、相手は王族だという。

 王族の婚約者だというのに、何度も襲われかけ、その度に貞操を守ろうと奮闘する、美しい女性。

 なぜか間近で痴態を見てしまう事が多く、逃げるために手を貸したり、共犯者となったりと交友を持った。
 互いに名前を呼び合うことはついぞなかったが、会う度に新たな一面を見せる彼女に惹かれないはずもなく、なんとしても彼女が欲しいと思った。
 それが叶わないと知って、溢れ出んばかりの恋情に蓋をした。 

 そのはずだった。

 彼女が婚約破棄を言い渡されるまでは。

 婚約破棄を言い渡されたというのに、一切泣かず、家へと戻っていく彼女の動向を従者に探らせれば、家を追い出され酒場にいるという。
 彼女の生家へ信書を送った直後にそう告げられ、血の気が引いた。

 馬鹿か!? あれだけ危険な目に合いながら、なんでそんなに危機管理能力が低いんだ!?

 俺は慌てて酒場へと足を運んだ。




 酒場へ足を踏み入れれば、むわっとした酒の匂いに包まれる。
 店内を見渡せばすぐに彼女を見つける事が出来た。
 カウンターに一人座る彼女は異質で、店内の視線を独り占めしていた。

 ……間違いは起こってないな。

 安堵のため息をつき、彼女へ近づこうとしている男達を牽制する。

 彼女は俺のものだ。誰にも触れさせるものか。

 どす黒い感情を押し殺し、声をかける。

「ユキノ。帰るぞ」

 俺の声に反応し、振り向いた彼女──ユキノ・フォン・グレード──。
 絹のような白く長い髪が靡《なび》く。
 華奢な身体に似つかない豊満な胸が、大きく開いた襟ぐりから覗いており、危機感のなさを物語っている。
 俺を映す紫紺の瞳は、泣いていたのか少し涙に濡れ、幻想的だ。
 魅入られそうな瞳が上目遣いに俺を捉えた。

「覗き見男……?」
「はぁ……。俺の名前はグレンだ。店主、お勘定」

 会計を済ませ、ユキノを抱き上げる。
 小さな悲鳴が聞こえたが、聞こえなかったフリをして店を出た。
 路地へと入り人目がない事を確認した後、転移魔法で自室へと戻る。

 いきなり部屋に現れた俺を見ても何も言わず従者のアレクが頭を下げた。

「風呂の準備は整っております」
「あぁ。侍女達を呼んで来い」
「承知しました」

 アレクが侍女を呼ぶため部屋から出て行く。
 その様子を黙って見ていたユキノをソファーへと下ろす。
 自分は隣に座らず、床へ片膝をつく。

「……なんで私を迎えに来たの?」

 当然の疑問だろう。
 ユキノの右手を取り、口付ける。

「俺が、君を娶るためだよ」

 一瞬の沈黙。

「は? え、なんで?」
「ユキノが好きだから。それ以外に理由が必要?」

 下から見るユキノは新鮮で、顔を真っ赤に染めていた。
 彼女のように魅力的な女性なら、ありふれた告白など聞き飽きているだろう。
 それなのに、こんな簡単で単純な言葉で照れている。

「可愛い」

 もう一度手の甲へ口付けを落とす。

「っ、そんな事ない、はず……」

 自身の事なのに他人事のように呟く彼女に苦笑する。
 薄々感じていたが、彼女はどこか遠くを見ているような、そんな違和感。
 問いただしたところで答えてはくれないだろう。
 そうこうしていると、侍女の到着を告げるノック音が響いた。
 返事をし侍女達を招き入れ、彼女を任せると一言告げる。
 侍女達が頭を下げ、彼女を風呂へと促した。
 困惑する彼女に、

「それじゃあ、後でね」

 と声をかけるが、返ってきたのは心細そうな声だった。
 不安げな顔に後ろ髪を引かれるが、頭を撫でて俺は寝室へと向かった。



◇◆◇




「これはどう見ても、それ用のランジェリー……だと思うんだけど?」

 身を清め終わったユキノが寝室へと連れられて来た第一声がこれだ。
 彼女の方を視界に入れた途端、不覚にも固まってしまった。
 座っていた寝台から落ちなかった自分を褒め称えたい。

 火照った傷一つない陶器のような肌。
 少し濡れた艷やかな髪。
 申し訳程度に肩へとかけられたバスローブの中はランジェリーで、服としての役目はない。

「……ねぇ、聞いてる? これが初夜って事?」

 直接的な言葉が聞こえ、我に返った。
 引き気味なユキノを立ち上がり抱き締め、柔らかな感触を堪能する。

「そういう事になるね。……嫌?」
「……私の事、本当に好きなの?」
「もちろん」

 腕の中で見上げてくる彼女はとてもしおらしく、可愛らしい。

「シエロニアも一夫多妻制だったと記憶してる。それが嫌だって言ったら?」

 シエロニア出身だと知っていたのなら好都合だ。

「そんな事で君が手に入るなら、俺は喜んで権利を放棄するよ」
「……それなら、いいよ。これから、私だけを見て、私だけを愛して」

 彼女の根幹はこれか。
 自分だけを愛し、慈しむ、唯一無二の相手を求めているのか。
 処女性を重視しないという事は、不貞にも寛容と言う事。
 不貞は不貞。
 だが、それが許せないのは器が小さいからだと学ぶ。
 もちろん中には自身だけを見てほしいと考える異質な人間もいる。
 まさかユキノも同じ考えだとは思わなかった。

「仰せのままに」

 歓喜が身体を巡る。

 彼女だけだ。俺が欲しいと思い焦がれるのは。

 軽い彼女を抱き上げ、優しく寝台へ降ろした。
 上へ覆いかぶさるように乗った俺と目を合わせないよう、視線を泳がせる彼女に自分を見て欲しくて、強引に唇を奪った。
 ユキノは驚きに目を見開いたが、口内へ舌を侵入させると恥ずかしさからか目を閉じてしまう。

「んっ、ぁ、ふぁ……ぁ」

 時折、合わさった唇の端から漏れ出る声が、腰に響く。

 あぁ、可愛い。堪らない。

 もっともっとと強請るように首へと手を回し、積極的に舌を絡ませるユキノを蕩けさせたい。
 下着としての役割はない布の下から柔らかな肌を楽しむように腰から撫で上げる。
 唇を離せば、銀の糸が二人を繋ぐ。

「もっと、愛して。愛されてるって、思わせて」

 不安げに揺れる瞳。
 何が彼女をここまで不安にさせるのだろう。

「お望みのままに。ユキノ、愛してるよ」

 彼女が不安を拭うため、自分の思いを分からせるために、抱いても良いと許しが出た。
 これほど嬉しい事はない。
 俺はこれからの行為を想像し舌なめずりをした。
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