転生令嬢は逃げ出したい 〜絶倫ルート回避したはずなのに、何故か別の絶倫ルートに入ったんですが!?〜

稲雀あや

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第二話「はじめまして。さようなら」

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 金髪碧眼のイケメン王子。
 絶倫で三日三晩抱き尽くしても足りないという性欲おばけ。
 それが私の婚約者――レオン・フォン・アーマルド第一王子――だ。

「なぁ、俺様達婚約者だろ?」
「ですが……」

 あぁ、殴りたい。

 授業にも慣れてきた夏。
 昼休み前の授業が終わった直後。
 私の体操着姿は豊満な体つきを隠せず、盛った性欲おばけに体育倉庫へ押し込まれていた。
 マットの上に組み敷かれ、呆れ返るしかない。

「ん」

 フェザータッチで太ももを撫で上げられ、ビクリと反応してしまう。
 反応を示したのがお気に召したようで、レオンはニヤリと下衆びた笑みを浮かべる。
 メインヒーローがしていい顔ではないと思う。

「我が国では処女性は重視されていない事は、お前も知っているだろう?」

 シナリオ通りのセリフ。
 決められたレールの上を歩くのはまっぴらごめんだ。
 この世界で最強は私なのだから、組み行かれても力ずくでどうにかなるはず。

「……の」
「どうした?」
「んの、発情猿がぁぁぁぁあ!!」

 叫びながら思い切り股間を蹴り上げる。
 もちろん身体能力向上の魔法を自身にかけることも忘れない。

「~っ!?!?!?!?!??!」

 声にならない声を上げ、のたうち回るレオンを放置し、私は体育倉庫を出た。
 数歩進んだところで、後ろから声をかけられる。

「クククッえげつない事するね、君」

 振り向けば、そこには高身長のイケメンが笑顔で立っていた。

 この世界はイケメンしか存在しないわけ? でもこんなイケメン攻略対象に居なかった気がするけど……。

 カラスの濡羽のような艷やかな黒髪。
 オニキスのような黒色の瞳。
 整い過ぎた顔立ちは暴力的なまでに美しく、呼吸すらも忘れてしまいそうだ。
 制服の上からでもその体躯が鍛えられている事がわかる。
 日本人なその見た目は、東の大国シエロニアの特徴だ。

 シエロニアからの留学生よね……?

 デビュタント以外の社交界を全て欠席している私には、彼が誰なのか分からない。

 いい男だわ。

 顔も、体つきも、声も、全てが私好みでお近づきになりたいという欲が湧く。
 しかし、私は王子の婚約者だ。
 異性と仲良くしすぎると、不貞という烙印を押され断罪(処刑)されてしまう。

「覗き見ですか? 良いご趣味ですね」
「覗き見の趣味はないんだけど……。ねぇ、君の名前を聞いてもいいかい?」
「どうして此処にいるのか教えてくれたら、考えてもいいですよ」
「そうきたか。うーん、あの色狂いに手を引かれている所を発見したから、かな?」

 レオンはもう色狂いの称号を貰っているのか。
 つまり、色々な令嬢としっぽりヤッてくれてるわけで……。

 あんの節操なし。

 王族とはいえ、婚約者がいる身でヤりまくるのはどうかと思う。

「つまり、私がアレに襲われるかもしれないと危惧して覗き見をしていた……と」
「覗き見は不可抗力ね。仮にも自国の王子をアレ扱いとは、聞かれたら不敬罪だよ? というか、名前を教えてはくれないの?」

 優しく微笑まれ、誘惑に釣られて出かかった自身の名をグッと堪える。

 でも、ヒントぐらいなら……いいわよね。

 彼が知っていれば次会った際には名前で呼ばれるだろうし、そうでなかった場合はその時だ。
 頭の悪い男に興味はない。

「大丈夫ですよ。私、アレの婚約者なので」

 一瞬、ほんの一瞬だけ見開かれる黒色の瞳。
 じっと観察していなければ気付けないほどの、僅かな動揺。

「……それならますます君が逃げ出す理由がわからないんだけど、どうして?」
「決まってるでしょう? 貞操を守るためですよ」
「この国では処女性は重視されていない、と把握してるんだけど?」

 他国から見れば、処女性が重視されないこの国は少し異常に映るだろう。
 そして、その国で育ったにも関わらず、初めてを大事にする女性も稀有に映るに違いない。

「そうですね。でも、私は大事にしたい。私の身体なのですから、それ以外の理由はいらないでしょう?」
「……それもそうだ」

 面白そうに笑う彼にトキメキを感じつつも、悟られぬよう淑女の礼をしてニッコリと笑顔を作る。

「私はこれで失礼します。ご機嫌よう」

 丁度、昼休みの始まりを告げる予鈴が鳴る。

 早く着替えなきゃ。

 私は小走りに教室へと向かった。






 ユキノが去った後、黒髪の男はその場で考え込むように佇んでいた。
 その隣に大きなバスケットを持った従者が現れる。

「あの娘が、ユキノ・フォン・グレードか」
「ちょっと殿下。流石にあの娘は駄目ですよ。他国の王族の婚約者はやばいですって」
「アレクか。……そうだな」
「分かっていただけたならいいんです。さっ、昼食を食べましょう!」
「あぁ」

 殿下と呼ばれた男が中庭へと歩き出し、それにアレクが続く。
 体育倉庫には、いまだに痛みに悶えるうめき声が反響していた。
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