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第21話(最終話)
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「大体、皐月があの時関の家なんか行くからおかしくなっちゃったんだよ」
「何それ、俺のせい?」
ビールを飲みながら、リビングで床に座って睨みあう2人。
せっかく気持ちが通じ合ったというのに。
早速雲行きが怪しかった。
だって、あれだけはどうしても納得いかなかったんだ。
「だって、あれは―――」
皐月が言いかけるのを、俺が遮る。
「知ってるよ。俺のためだって言うんだろ?あそこに石倉がいて、俺たちの様子をうかがってたから、特別な関係だと思われないようにしたかったって。石倉が犯人だって、皐月は気付いてたから、俺を守ろうとしたって」
俺の言葉に、皐月は目を見開いた。
「なんで、それ―――」
「関が言ってた」
「マジで!?俊哉、すごいね。俺の考えてたことわかっちゃったんだ」
へぇ~なんて感心してる皐月に、俺はますます面白くない。
いつの間にか名前で呼んでるし!
「ていうか、なんで石倉が犯人だって気づいた時に言わなかった?」
あの時、石倉は捜査線上に上がっていなかった。
わかっていれば監視をつけることもできたのに。
「・・・・誰も信じないだろ?証拠もないのに」
「だけど」
「襲われた時、暗くて顔は見えなかったけど・・・犯人が俺の部屋に入る場面が見えた」
「え・・・」
「玄関を上がって、すぐ洗面所に行って俺の歯ブラシをくすねてた。それから部屋の明かりをつけて色々物色して・・・俺が帰ってきたのに気づいて、明かりを消してキッチンに身を潜めてた」
「そんなことまで見えるのか・・・」
「その人が見たものが見えるんだ。だから本人の顔は見えない。けど、洗面所に入った時に鏡に映った顔が見えたんだよ。石倉さんだった」
「それで・・・」
「でもそんな話、信じないだろ?俺もその時にはそれくらいしか分からなかったし。けど、あの店に4人で調べに行った時、石倉さんに会って。はっきりと見えたんだ。あの人が、陽介を殺すところが」
皐月が辛そうに俯く。
「石倉さんに勘づかれないように、必死に平静を装ったよ。まだ、証拠は何もない。逮捕することはできないだろうと思ったからね」
「そうだったのか・・・・。でもやっぱり、俺には言って欲しかった。そしたら、あんな危険な目にあわせることなかったのに」
「それは、ごめん。でも安井さんに会って、彼の無実を確信してからと思ったんだ。石倉の記憶だけだと、共犯ていう可能性もあったから」
確かに、悪意はなかったにせよ皐月へのストーカー行為のこともあるし、凶器の包丁の指紋を拭き取ったりなど安井については全くの無罪という訳ではなかった。
だが石倉に脅されていたという事情や皐月の身を案じていたという皐月の証言もあり、情状酌量が考慮され今回は罪に問われることはなかった。
にしても
「あれだけ俺の事煽ってたくせに、翌日はしれっと関の家へ行くって言われて、すげーショックだったんだからな」
「煽ってた?俺が?」
皐月が、首を傾げて目を瞬かせた。
―――自覚なしかよ!
「煽ってたじゃん!酒飲んで、俺にキスして、一緒に寝たいとか言い出して!」
あれが煽ってるんじゃなかったら何なんだ!
「別に・・・・・煽ってるつもり、なかったけど」
そう言って、皐月は唇を尖らせた。
「・・・・・じゃあ、ああいうこと、誰にでもすんの?キスしたり、一緒に寝たり・・・・・」
胸が、痛かった。
そりゃあ、キスは挨拶だなんて言ってたやつだし。
意識する方が悪いのかもしれないけど。
でも・・・・・
「・・・・・逆だよ」
皐月が、そう言って照れくさそうに俯いた。
「逆?」
「うん。俺、最初から稔が好きだったもん」
「え・・・・・」
「めっちゃ緊張してたんだよ。自分から稔の家がいいって言ったのにさ、いざ2人きりになったらすげえ緊張しちゃって・・・・・だから、酒飲んでごまかそうと思ったの。そしたらちょっと飲み過ぎちゃって・・・・。ちょっと、ブレーキ利かなくなっちゃった。キスしたのは、稔が好きだから。本当に、稔にキスしたかったからだよ」
「そう・・・・・なの?」
やばい。どうしよう・・・・・超嬉しいんだけど。
「俺ね・・・・ホストやってた時もそうだけど、お客さんに『キスして』ってねだられた時以外、自分からキスしたことってないんだよ」
「え?マジで?」
「うん。嫌いな相手じゃなければ拒まなかったのも事実だけど・・・・・。でも・・・・・たぶん、自分からキスしたのって、死んだ陽介にしたのが初めてかも」
―――あのとき・・・・佐々木に、『ばいばい、陽介』と言ってキスした皐月。
「あんなことしかできなかった。陽介には、たくさんいろんなことしてもらったのに・・・・・俺には、あいつのためにできることなんて、何もなかった・・・・・」
そう言って、きゅっと唇をかみしめる皐月。
その瞳には、涙が溜まっていた。
「そんなこと、ないだろ?ちゃんと犯人捕まえたじゃないか。あれは、皐月のおかげだよ。皐月がいなかったら、犯人を捕まえることはできなかった」
「・・・・ありがと、稔」
柔らかい笑みを浮かべる皐月。
ああ、そうだ。
俺は、たぶん最初に会った時から皐月のことが好きだったんだ。
皐月の、宝石のように輝く大きな瞳に魅せられて―――
ずっと、その宝石を手に入れたくて、追ってきたんだ・・・・・。
「皐月・・・・」
俺は、皐月の頬を撫でるように手を添えた。
皐月の瞳が一瞬揺れ、俺を見つめる。
ゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねた。
ちょっと冷たくて、柔らかな唇に、ついばむようなキスをする。
「―――好きだよ、皐月」
「稔・・・・」
「すげえ好き。だから・・・・・ずっと俺の傍にいて」
たとえ俺のためでも、他のやつのところに、行ったりしないで。
自分でも信じられないくらいの独占欲に、少し不安になる。
稔に嫌われたら、俺はきっとダメになる・・・・・
皐月が、俺のシャツをきゅっと握る。
潤んだ瞳が俺を見つめ―――
「―――俺も、好きだよ。大好き、稔」
微かに朱に染まった頬。
男も女も虜にするだけの魅力があるくせに、自分のことは全然わかってない皐月。
恋人になったからって安心なんかできやしない。
こいつに魅せられてるのは、俺だけじゃない。
だけど、渡さない。
この瞳も、長い睫毛も、白い肌も、黒髪も―――
全部全部、俺のものだから・・・・・・
俺は、自分の腕の中に皐月を閉じ込めた・・・・・。
「何それ、俺のせい?」
ビールを飲みながら、リビングで床に座って睨みあう2人。
せっかく気持ちが通じ合ったというのに。
早速雲行きが怪しかった。
だって、あれだけはどうしても納得いかなかったんだ。
「だって、あれは―――」
皐月が言いかけるのを、俺が遮る。
「知ってるよ。俺のためだって言うんだろ?あそこに石倉がいて、俺たちの様子をうかがってたから、特別な関係だと思われないようにしたかったって。石倉が犯人だって、皐月は気付いてたから、俺を守ろうとしたって」
俺の言葉に、皐月は目を見開いた。
「なんで、それ―――」
「関が言ってた」
「マジで!?俊哉、すごいね。俺の考えてたことわかっちゃったんだ」
へぇ~なんて感心してる皐月に、俺はますます面白くない。
いつの間にか名前で呼んでるし!
「ていうか、なんで石倉が犯人だって気づいた時に言わなかった?」
あの時、石倉は捜査線上に上がっていなかった。
わかっていれば監視をつけることもできたのに。
「・・・・誰も信じないだろ?証拠もないのに」
「だけど」
「襲われた時、暗くて顔は見えなかったけど・・・犯人が俺の部屋に入る場面が見えた」
「え・・・」
「玄関を上がって、すぐ洗面所に行って俺の歯ブラシをくすねてた。それから部屋の明かりをつけて色々物色して・・・俺が帰ってきたのに気づいて、明かりを消してキッチンに身を潜めてた」
「そんなことまで見えるのか・・・」
「その人が見たものが見えるんだ。だから本人の顔は見えない。けど、洗面所に入った時に鏡に映った顔が見えたんだよ。石倉さんだった」
「それで・・・」
「でもそんな話、信じないだろ?俺もその時にはそれくらいしか分からなかったし。けど、あの店に4人で調べに行った時、石倉さんに会って。はっきりと見えたんだ。あの人が、陽介を殺すところが」
皐月が辛そうに俯く。
「石倉さんに勘づかれないように、必死に平静を装ったよ。まだ、証拠は何もない。逮捕することはできないだろうと思ったからね」
「そうだったのか・・・・。でもやっぱり、俺には言って欲しかった。そしたら、あんな危険な目にあわせることなかったのに」
「それは、ごめん。でも安井さんに会って、彼の無実を確信してからと思ったんだ。石倉の記憶だけだと、共犯ていう可能性もあったから」
確かに、悪意はなかったにせよ皐月へのストーカー行為のこともあるし、凶器の包丁の指紋を拭き取ったりなど安井については全くの無罪という訳ではなかった。
だが石倉に脅されていたという事情や皐月の身を案じていたという皐月の証言もあり、情状酌量が考慮され今回は罪に問われることはなかった。
にしても
「あれだけ俺の事煽ってたくせに、翌日はしれっと関の家へ行くって言われて、すげーショックだったんだからな」
「煽ってた?俺が?」
皐月が、首を傾げて目を瞬かせた。
―――自覚なしかよ!
「煽ってたじゃん!酒飲んで、俺にキスして、一緒に寝たいとか言い出して!」
あれが煽ってるんじゃなかったら何なんだ!
「別に・・・・・煽ってるつもり、なかったけど」
そう言って、皐月は唇を尖らせた。
「・・・・・じゃあ、ああいうこと、誰にでもすんの?キスしたり、一緒に寝たり・・・・・」
胸が、痛かった。
そりゃあ、キスは挨拶だなんて言ってたやつだし。
意識する方が悪いのかもしれないけど。
でも・・・・・
「・・・・・逆だよ」
皐月が、そう言って照れくさそうに俯いた。
「逆?」
「うん。俺、最初から稔が好きだったもん」
「え・・・・・」
「めっちゃ緊張してたんだよ。自分から稔の家がいいって言ったのにさ、いざ2人きりになったらすげえ緊張しちゃって・・・・・だから、酒飲んでごまかそうと思ったの。そしたらちょっと飲み過ぎちゃって・・・・。ちょっと、ブレーキ利かなくなっちゃった。キスしたのは、稔が好きだから。本当に、稔にキスしたかったからだよ」
「そう・・・・・なの?」
やばい。どうしよう・・・・・超嬉しいんだけど。
「俺ね・・・・ホストやってた時もそうだけど、お客さんに『キスして』ってねだられた時以外、自分からキスしたことってないんだよ」
「え?マジで?」
「うん。嫌いな相手じゃなければ拒まなかったのも事実だけど・・・・・。でも・・・・・たぶん、自分からキスしたのって、死んだ陽介にしたのが初めてかも」
―――あのとき・・・・佐々木に、『ばいばい、陽介』と言ってキスした皐月。
「あんなことしかできなかった。陽介には、たくさんいろんなことしてもらったのに・・・・・俺には、あいつのためにできることなんて、何もなかった・・・・・」
そう言って、きゅっと唇をかみしめる皐月。
その瞳には、涙が溜まっていた。
「そんなこと、ないだろ?ちゃんと犯人捕まえたじゃないか。あれは、皐月のおかげだよ。皐月がいなかったら、犯人を捕まえることはできなかった」
「・・・・ありがと、稔」
柔らかい笑みを浮かべる皐月。
ああ、そうだ。
俺は、たぶん最初に会った時から皐月のことが好きだったんだ。
皐月の、宝石のように輝く大きな瞳に魅せられて―――
ずっと、その宝石を手に入れたくて、追ってきたんだ・・・・・。
「皐月・・・・」
俺は、皐月の頬を撫でるように手を添えた。
皐月の瞳が一瞬揺れ、俺を見つめる。
ゆっくりと顔を近づけ、唇を重ねた。
ちょっと冷たくて、柔らかな唇に、ついばむようなキスをする。
「―――好きだよ、皐月」
「稔・・・・」
「すげえ好き。だから・・・・・ずっと俺の傍にいて」
たとえ俺のためでも、他のやつのところに、行ったりしないで。
自分でも信じられないくらいの独占欲に、少し不安になる。
稔に嫌われたら、俺はきっとダメになる・・・・・
皐月が、俺のシャツをきゅっと握る。
潤んだ瞳が俺を見つめ―――
「―――俺も、好きだよ。大好き、稔」
微かに朱に染まった頬。
男も女も虜にするだけの魅力があるくせに、自分のことは全然わかってない皐月。
恋人になったからって安心なんかできやしない。
こいつに魅せられてるのは、俺だけじゃない。
だけど、渡さない。
この瞳も、長い睫毛も、白い肌も、黒髪も―――
全部全部、俺のものだから・・・・・・
俺は、自分の腕の中に皐月を閉じ込めた・・・・・。
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