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第20話
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その時の俺には、本当に皐月しか見えてなかった。
皐月の隣に戸田さんがいたこととか、戸田さんが皐月の手を握っていたこととか、全然見えてなかったんだ。
相変わらずの大きくてきれいな皐月の瞳が、俺を見て不安げに揺れていた。
俺は大股で皐月に近付くと、戸田さんが握ってない方の手を掴んだ。
「―――来て」
そう一言だけ言って、俺は皐月の手を引っ張って歩き出した。
「え―――稔?どこ行くの?」
皐月の問いかけにも答えず、俺はそのまま速足で歩く。
「ちょ―――さっちゃん!」
「裕太くん、ごめん。それ、浩斗くんに持って行ってあげて。浩斗くんには、後で連絡するからって―――」
まだ戸田さんがなにか言っていたけれど、俺の耳には届いていなかった・・・・
皐月を連れて俺たちがたどり着いたのは、俺の家だった。
「稔、ここ・・・・・」
そこは、皐月が俺の『心臓部』と言った部屋。
誰にも見せたことのない、俺の素の部分を隠した場所。
その部屋の扉の前に立ち、不思議そうに俺を見る皐月。
俺は、黙ってその扉を開けた―――。
中は8畳ほどの広さの洋室で、所狭しと水彩画や手作りのフィギアが置かれていた。
そう、ここは俺のアトリエだった。
昔から、絵を描いたり粘土で物を作るのが好きだった俺は、刑事になってからも休みの日には必ずここにこもって制作活動を続けていたのだ。
アーティストになろうとか、描いたものを売ろうとか思っていたわけではなかった。
ただ、その時に描きたいものを描き、作りたいものを作る。
創作している時は、本当の自分でいられる気がした。
誰の目も気にせず、自分の世界に没頭するのだ。
それが、俺にとっては何よりも大切な時間だった・・・・・
「―――すごいね」
部屋を見渡し、皐月が呟いた。
皐月の瞳が、キラキラと輝いていた。
一つ一つの作品を見つめながら、頷いたり、笑ったり、穴があくほどじっと見入ったり・・・・・
まるで、宝物を見つけた子供のように・・・・・
「皐月には・・・・・この部屋はどんなふうに見えてたの?」
最初から、この部屋の存在に気付いていた皐月。
中に何があるのかも、大体わかると言っていた。
それがどういう感覚なのか俺にはわからないけれど。
皐月の心の目にはどう見えていたのか、気になった。
「―――すごく、大切なものがあるんだなって思ってたよ。絵とか・・・・粘土?いろんなものがあるのはわかってたけど、なにが描かれてるのかとか、細かいことまではわからない。ただ、稔にとってこの部屋が神聖な場所なんだってことだけはすごく伝わってきた」
「・・・・すごいね。誰にも話したことないのに・・・・」
俺の言葉に、皐月はふと真剣な顔を俺に向けた。
「どうして、俺に見せてくれたの?」
俺は、その言葉に思わず笑った。
「それは、皐月にもわからないんだ?」
そんな俺に、皐月はちょっとムッとしたように唇を尖らせた。
「あたり前だよ。俺、エスパーじゃねえもん。人の気持ちまでは、わからないよ」
皐月の能力だって、俺からしてみたらエスパー並だけど。
「・・・・・皐月に、見て欲しいものがあるんだ」
「俺に・・・・・?」
皐月が首を傾げる。
俺は頷くと、いつも作業をしている部屋の中央の椅子の上に置いてあるスケッチブックを手に取った。
そして、それを皐月に差し出す。
皐月はスケッチブックを受け取ると、不思議そうな顔をしながらも、それを開いた―――。
すぐに、皐月の顔が驚きに変わる。
1枚、また1枚とスケッチブックをめくる。
「―――――これ・・・・」
「うん」
「これ・・・・・俺・・・・・?」
「うん。そうだよ」
そのスケッチブックに描かれているもの。
それは、全て皐月だった・・・・・。
「それ、全部未完成なんだ」
「え?」
いったい何枚描いたのか、自分でもわからないくらい、皐月だけを描いたスケッチブック。
でもそれは、鉛筆で簡単にデッサンしただけのもので色も塗られていない未完成品だ。
「皐月を・・・・・何色で描いたらいいのかわからないんだ」
「俺の、色・・・・・?」
「そう。皐月はいつも俺の目には輝いて見えて・・・・・眩し過ぎて、ちゃんと見れない。だから、色を塗れない。皐月の色を、俺は見つけられないんだ」
「稔・・・・」
「だから・・・・手伝ってくれないか?」
「え?」
「その絵を、いつか全部完成できるように・・・・・・俺の傍にいて欲しいんだ・・・・・」
皐月の眼が、驚きに見開かれる。
俺は、皐月を見つめ―――
そっと、その手を握った。
「皐月が・・・・・好きなんだ」
皐月の大きな瞳から、涙が零れ落ちた。
その涙の行方を追っていたら―――
皐月が、ふわりと俺に抱きついた。
「俺も・・・・・俺も、好き、稔」
俺は、そっと皐月の背中に腕を回し―――
ぎゅっと、その華奢な体を抱きしめた・・・・・
皐月の隣に戸田さんがいたこととか、戸田さんが皐月の手を握っていたこととか、全然見えてなかったんだ。
相変わらずの大きくてきれいな皐月の瞳が、俺を見て不安げに揺れていた。
俺は大股で皐月に近付くと、戸田さんが握ってない方の手を掴んだ。
「―――来て」
そう一言だけ言って、俺は皐月の手を引っ張って歩き出した。
「え―――稔?どこ行くの?」
皐月の問いかけにも答えず、俺はそのまま速足で歩く。
「ちょ―――さっちゃん!」
「裕太くん、ごめん。それ、浩斗くんに持って行ってあげて。浩斗くんには、後で連絡するからって―――」
まだ戸田さんがなにか言っていたけれど、俺の耳には届いていなかった・・・・
皐月を連れて俺たちがたどり着いたのは、俺の家だった。
「稔、ここ・・・・・」
そこは、皐月が俺の『心臓部』と言った部屋。
誰にも見せたことのない、俺の素の部分を隠した場所。
その部屋の扉の前に立ち、不思議そうに俺を見る皐月。
俺は、黙ってその扉を開けた―――。
中は8畳ほどの広さの洋室で、所狭しと水彩画や手作りのフィギアが置かれていた。
そう、ここは俺のアトリエだった。
昔から、絵を描いたり粘土で物を作るのが好きだった俺は、刑事になってからも休みの日には必ずここにこもって制作活動を続けていたのだ。
アーティストになろうとか、描いたものを売ろうとか思っていたわけではなかった。
ただ、その時に描きたいものを描き、作りたいものを作る。
創作している時は、本当の自分でいられる気がした。
誰の目も気にせず、自分の世界に没頭するのだ。
それが、俺にとっては何よりも大切な時間だった・・・・・
「―――すごいね」
部屋を見渡し、皐月が呟いた。
皐月の瞳が、キラキラと輝いていた。
一つ一つの作品を見つめながら、頷いたり、笑ったり、穴があくほどじっと見入ったり・・・・・
まるで、宝物を見つけた子供のように・・・・・
「皐月には・・・・・この部屋はどんなふうに見えてたの?」
最初から、この部屋の存在に気付いていた皐月。
中に何があるのかも、大体わかると言っていた。
それがどういう感覚なのか俺にはわからないけれど。
皐月の心の目にはどう見えていたのか、気になった。
「―――すごく、大切なものがあるんだなって思ってたよ。絵とか・・・・粘土?いろんなものがあるのはわかってたけど、なにが描かれてるのかとか、細かいことまではわからない。ただ、稔にとってこの部屋が神聖な場所なんだってことだけはすごく伝わってきた」
「・・・・すごいね。誰にも話したことないのに・・・・」
俺の言葉に、皐月はふと真剣な顔を俺に向けた。
「どうして、俺に見せてくれたの?」
俺は、その言葉に思わず笑った。
「それは、皐月にもわからないんだ?」
そんな俺に、皐月はちょっとムッとしたように唇を尖らせた。
「あたり前だよ。俺、エスパーじゃねえもん。人の気持ちまでは、わからないよ」
皐月の能力だって、俺からしてみたらエスパー並だけど。
「・・・・・皐月に、見て欲しいものがあるんだ」
「俺に・・・・・?」
皐月が首を傾げる。
俺は頷くと、いつも作業をしている部屋の中央の椅子の上に置いてあるスケッチブックを手に取った。
そして、それを皐月に差し出す。
皐月はスケッチブックを受け取ると、不思議そうな顔をしながらも、それを開いた―――。
すぐに、皐月の顔が驚きに変わる。
1枚、また1枚とスケッチブックをめくる。
「―――――これ・・・・」
「うん」
「これ・・・・・俺・・・・・?」
「うん。そうだよ」
そのスケッチブックに描かれているもの。
それは、全て皐月だった・・・・・。
「それ、全部未完成なんだ」
「え?」
いったい何枚描いたのか、自分でもわからないくらい、皐月だけを描いたスケッチブック。
でもそれは、鉛筆で簡単にデッサンしただけのもので色も塗られていない未完成品だ。
「皐月を・・・・・何色で描いたらいいのかわからないんだ」
「俺の、色・・・・・?」
「そう。皐月はいつも俺の目には輝いて見えて・・・・・眩し過ぎて、ちゃんと見れない。だから、色を塗れない。皐月の色を、俺は見つけられないんだ」
「稔・・・・」
「だから・・・・手伝ってくれないか?」
「え?」
「その絵を、いつか全部完成できるように・・・・・・俺の傍にいて欲しいんだ・・・・・」
皐月の眼が、驚きに見開かれる。
俺は、皐月を見つめ―――
そっと、その手を握った。
「皐月が・・・・・好きなんだ」
皐月の大きな瞳から、涙が零れ落ちた。
その涙の行方を追っていたら―――
皐月が、ふわりと俺に抱きついた。
「俺も・・・・・俺も、好き、稔」
俺は、そっと皐月の背中に腕を回し―――
ぎゅっと、その華奢な体を抱きしめた・・・・・
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