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第19話

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「―――皐月、大丈夫か?」

俺は、ソファーで横になっていた皐月に声をかけた。

「―――うん」

皐月が微かに目を開ける。

眠っていたわけではないのだ。

あの事件の後、皐月はずっと眠れないようだった。

もともと繊細な男なのだ。

その体も、元から華奢だったが、さらに痩せてしまった気がする。

顔色も良くなかった。

弱音は吐かないけれど、自分が原因で起きてしまった事件のことで苦しんでいることは明白だった。

辛そうな皐月を見ているのは、俺も心が痛かった。

できればなんとかしてやりたい。

だけど―――

きっと、それは俺じゃだめなんだ・・・・

そう思って、俺は小さく溜息をついた。

―――何やってるんだよ、あの人は!


「―――浩斗くん」

いつの間にか、皐月が俺の方を見て立っていた。

「あ―――なに?」

「裕太くんの店で、コーヒー飲んで来るね」

「ああ、うん、わかった」

皐月は、入口へ歩いて行き、扉を開けた。

そして、ちょっと振り向くと、俺に笑顔を見せた。

「俺は、大丈夫だから。心配しないで」

「―――うん」

皐月が出て行った扉を見つめる。

―――ったく・・・・こんな時にまで、俺に気を使うんだから・・・・

皐月は、俺には弱音を吐いてくれない。

俺じゃあ、ダメなんだよな・・・・・

もう、わかっていたことだけれど。

俺は、傷む胸を無意識に手で押さえた・・・・・。




「―――あ、さっちゃん!ちょうどよかった!」

店を出て、事務所への階段を上がろうとしたところで、降りてきたさっちゃんと出くわす。

「裕太くん」

さっちゃんが俺を見て微かに笑う。

けど、やっぱり元気ない。

さっちゃんは、あの事件のあとからずっとこんな感じだ。

店にも顔出してくれるけど、いつも顔色が悪い。

ちゃんと眠れてないみたいだって、ひろくんが言ってたけど・・・・・

「あのさ、さっちゃん、マンゴー好き?」

「マンゴー?」

「うん。常連のお客さんに宮崎県産のおいしいマンゴーもらったんだ。さっちゃんとひろくんにもあげようと思って、持って行こうと思ったんだけど」

「そうなんだ。ありがと。浩斗くん、たぶん好きだよ。じゃあ、もらおうかな―――」

そう言って、俺の差し出したマンゴーの入った袋を受け取ろうと手を差し出したさっちゃん。

俺は、そのさっちゃんの手を握った。

さっちゃんが、ちょっと驚いて俺を見る。

「―――さっちゃん、俺、さっちゃんのためだったら何でもするよ?」

「え・・・・・・」

「どうしたら、元気になる?どうしたら、笑ってくれる?」

「―――裕太くん・・・・」

さっちゃんの瞳が揺れた。

長い睫毛が縁どる大きな瞳。

その大きな瞳に、今は俺だけが映ってる。

「さっちゃん、俺―――」


「皐月!!」

突然聞こえてきた声に、さっちゃんの体が大きく震え―――

その大きな瞳が、さらに大きく見開かれた―――

「み・・・・のる・・・・?」

そこに立っていたのは、なぜか肩で息をする、樫本刑事だった・・・・・。

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