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第18話
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数日後―――
仕事の合間に、警察署の屋上で缶コーヒーを飲んでぼんやりしていた俺の元へ、関がやってきた。
「何してんすか」
「ん―・・・・ぼーっとしてる」
「見りゃわかります。てか、いいんですか?こんなところで油売ってて」
「別に、いいだろ?特に事件も起きてないし」
俺の言葉に、関は溜息をついた。
「・・・・・皐月くんには、会いに行かないんですか?」
その言葉に、一瞬びくりと震える。
「―――何で」
「事件は解決しましたけど・・・・・。たぶん、彼の中じゃまだ終わってないんじゃないですか?皐月くんには何の責任もないとはいえ、自分が原因で親友が殺され、安井も自分を守るために負傷した。自分を責めてるんじゃないですかね、今頃」
おそらく、その通りだと思った。
皐月は、優しい男だ。
純粋で、無垢な心を持ってる。
きっと、今頃傷ついているに違いない。
だけど、俺は―――
「俺が会いに行ったって・・・・何もできねえよ」
俺は、皐月にとって友達でもなければ、ましてや恋人でもない。
事件を通して知り合った、刑事と事件関係者だ。
ただそれだけ・・・・・・。
「―――皐月くんが、あの日俺の家に来たのはどうしてだと思います?」
「―――え?」
あの日、皐月はゲームがやりたいからと、関の家へ行ったんだ。
当然俺の家にまた来るものだと思っていた俺は、自分でも信じられないほどショックを受けていた。
皐月にとって、俺は単なる担当刑事でしかなかったんだと思った。
だけど、関の口から出たのは意外な言葉だった。
「―――あれは、樫本さんのためですよ」
「・・・・は?」
どういうこと?
訝しげに首を傾げる俺に、関は続けた。
「あの日、あの店には石倉がいたじゃないですか」
「ああ・・・・そうだけど・・・・・」
「石倉の話で・・・・・あの日、ずっと石倉が皐月くんと俺たちの会話を聞いていたことがわかったんです。話の中で、皐月くんが前の日に樫本さんの家へ泊ったことがわかったでしょう。それに、2人が名前で呼び合うのも聞いていた。皐月くんに異常に執着していた石倉が、それを知って疑わないはずがない。2人の間に、何かあるんじゃないかってね」
「何かって、別に何も―――」
「だけど、石倉は疑った。そして、皐月くんはそれに気付いたんでしょうね。そこでまた、その日樫本さんの家に泊るということになれば、今度は樫本さんが襲われるかもしれない―――皐月くんは、そう思ったんですよ」
「―――まさか」
「自分と樫本さんの関係が、単なる刑事と事件関係者だと思わせたかったんですよ。だから、同じ刑事である俺の家に泊ると言った。俺の家にも泊まることで樫本さんとの仲が特別じゃないと、石倉に思わせたかった」
皐月が・・・・・そんなことを・・・・・?
「・・・・・河合さんが、言ってましたよ。人見知りの激しい皐月くんが、あんな風に知り合ったばかりの人の家に泊ったり、その人の家で酒を飲んだりすることは今までなかったって。―――皐月くんは、樫本さんの家に泊ったことをなんて言ってました?」
「え・・・・」
俺のところに来た理由・・・・・
『―――あんたのとこに来たいと思ったのは、俺がこういうこと言って驚きはしても、気持ち悪いとは言わないだろうと思ったから・・・・』
「皐月くんは、自分の特殊能力のせいでずいぶんいやな思いもしてきたんでしょ?会ったときにその人のことがわかってしまうから・・・・。知りたくもないのに知ってしまう。そしてそれを知った人が自分から離れてしまう。そんな思いをしてきた皐月くんにとって、樫本さんはきっと特別だったんじゃないですか?」
特別・・・・・俺が・・・・・?
「皐月くんが言ってましたよ。樫本さんは、自分を受け入れてくれる人だって」
「皐月が・・・・・?」
「今・・・・きっと皐月くんはすごく傷ついてる。もちろん彼のそばにはいつも河合さんやあの、戸田さんもいますけど。でも、きっと皐月くんが今会いたいと思ってるのは・・・・・樫本さんだと思いますよ」
関が、俺を見てちょっと笑った。
「ま・・・・無理に会いに行けとは言いませんけどね。傷ついた皐月くんを、周りが放っておくはずがないし。もちろん俺も。樫本さんに、言いましたよね?俺、皐月くんが好きみたいですって」
「あ、あれ・・・・・」
「本気ですよ」
そう言って、関は俺をまっすぐに見据えた。
初めて見る、関の本気の顔・・・・・。
「樫本さんに遠慮する気はないですから。今度またゲームに誘って、2人で食事でもして・・・・・皐月くんは乙女なところがあるから、いいムードに持っていけばキスくらい簡単にいけそうですし」
「―――んなこと、させねえ」
「は?なんか言いました?」
「皐月と、キスなんかさせねえ。皐月とキスしていいのは―――俺だけだ!」
関がぽかんと俺を見る。
―――あ、やべ、俺、今とんでもないこと―――
後悔しても後の祭り。
関がジトリと横目で俺を見た。
「はぁぁ?なるほどー、じゃ、あの日、早くもキスしちゃってたわけだ?事件関係者と、刑事が、ねえ・・・・・・」
「い、いや、違う、してねえよ、あれはその―――事故だ!!」
俺の苦し紛れの言葉に、関が大きな溜息をついた。
「ったく・・・・・聞いてるのが俺だけでよかったですよ・・・・。で、いつまでここにいるんですか?早くいかないと、本当に河合さんに皐月くん取られちゃいますよ?」
「!!!サンキュー、関!」
一応関に礼を言ってから―――
俺は、ダッシュで屋上を後にしたのだった・・・・・。
「―――あ―あ・・・・。俺も人がいいよなぁ」
屋上に残された関の呟きは、俺には聞こえなかった・・・・・。
仕事の合間に、警察署の屋上で缶コーヒーを飲んでぼんやりしていた俺の元へ、関がやってきた。
「何してんすか」
「ん―・・・・ぼーっとしてる」
「見りゃわかります。てか、いいんですか?こんなところで油売ってて」
「別に、いいだろ?特に事件も起きてないし」
俺の言葉に、関は溜息をついた。
「・・・・・皐月くんには、会いに行かないんですか?」
その言葉に、一瞬びくりと震える。
「―――何で」
「事件は解決しましたけど・・・・・。たぶん、彼の中じゃまだ終わってないんじゃないですか?皐月くんには何の責任もないとはいえ、自分が原因で親友が殺され、安井も自分を守るために負傷した。自分を責めてるんじゃないですかね、今頃」
おそらく、その通りだと思った。
皐月は、優しい男だ。
純粋で、無垢な心を持ってる。
きっと、今頃傷ついているに違いない。
だけど、俺は―――
「俺が会いに行ったって・・・・何もできねえよ」
俺は、皐月にとって友達でもなければ、ましてや恋人でもない。
事件を通して知り合った、刑事と事件関係者だ。
ただそれだけ・・・・・・。
「―――皐月くんが、あの日俺の家に来たのはどうしてだと思います?」
「―――え?」
あの日、皐月はゲームがやりたいからと、関の家へ行ったんだ。
当然俺の家にまた来るものだと思っていた俺は、自分でも信じられないほどショックを受けていた。
皐月にとって、俺は単なる担当刑事でしかなかったんだと思った。
だけど、関の口から出たのは意外な言葉だった。
「―――あれは、樫本さんのためですよ」
「・・・・は?」
どういうこと?
訝しげに首を傾げる俺に、関は続けた。
「あの日、あの店には石倉がいたじゃないですか」
「ああ・・・・そうだけど・・・・・」
「石倉の話で・・・・・あの日、ずっと石倉が皐月くんと俺たちの会話を聞いていたことがわかったんです。話の中で、皐月くんが前の日に樫本さんの家へ泊ったことがわかったでしょう。それに、2人が名前で呼び合うのも聞いていた。皐月くんに異常に執着していた石倉が、それを知って疑わないはずがない。2人の間に、何かあるんじゃないかってね」
「何かって、別に何も―――」
「だけど、石倉は疑った。そして、皐月くんはそれに気付いたんでしょうね。そこでまた、その日樫本さんの家に泊るということになれば、今度は樫本さんが襲われるかもしれない―――皐月くんは、そう思ったんですよ」
「―――まさか」
「自分と樫本さんの関係が、単なる刑事と事件関係者だと思わせたかったんですよ。だから、同じ刑事である俺の家に泊ると言った。俺の家にも泊まることで樫本さんとの仲が特別じゃないと、石倉に思わせたかった」
皐月が・・・・・そんなことを・・・・・?
「・・・・・河合さんが、言ってましたよ。人見知りの激しい皐月くんが、あんな風に知り合ったばかりの人の家に泊ったり、その人の家で酒を飲んだりすることは今までなかったって。―――皐月くんは、樫本さんの家に泊ったことをなんて言ってました?」
「え・・・・」
俺のところに来た理由・・・・・
『―――あんたのとこに来たいと思ったのは、俺がこういうこと言って驚きはしても、気持ち悪いとは言わないだろうと思ったから・・・・』
「皐月くんは、自分の特殊能力のせいでずいぶんいやな思いもしてきたんでしょ?会ったときにその人のことがわかってしまうから・・・・。知りたくもないのに知ってしまう。そしてそれを知った人が自分から離れてしまう。そんな思いをしてきた皐月くんにとって、樫本さんはきっと特別だったんじゃないですか?」
特別・・・・・俺が・・・・・?
「皐月くんが言ってましたよ。樫本さんは、自分を受け入れてくれる人だって」
「皐月が・・・・・?」
「今・・・・きっと皐月くんはすごく傷ついてる。もちろん彼のそばにはいつも河合さんやあの、戸田さんもいますけど。でも、きっと皐月くんが今会いたいと思ってるのは・・・・・樫本さんだと思いますよ」
関が、俺を見てちょっと笑った。
「ま・・・・無理に会いに行けとは言いませんけどね。傷ついた皐月くんを、周りが放っておくはずがないし。もちろん俺も。樫本さんに、言いましたよね?俺、皐月くんが好きみたいですって」
「あ、あれ・・・・・」
「本気ですよ」
そう言って、関は俺をまっすぐに見据えた。
初めて見る、関の本気の顔・・・・・。
「樫本さんに遠慮する気はないですから。今度またゲームに誘って、2人で食事でもして・・・・・皐月くんは乙女なところがあるから、いいムードに持っていけばキスくらい簡単にいけそうですし」
「―――んなこと、させねえ」
「は?なんか言いました?」
「皐月と、キスなんかさせねえ。皐月とキスしていいのは―――俺だけだ!」
関がぽかんと俺を見る。
―――あ、やべ、俺、今とんでもないこと―――
後悔しても後の祭り。
関がジトリと横目で俺を見た。
「はぁぁ?なるほどー、じゃ、あの日、早くもキスしちゃってたわけだ?事件関係者と、刑事が、ねえ・・・・・・」
「い、いや、違う、してねえよ、あれはその―――事故だ!!」
俺の苦し紛れの言葉に、関が大きな溜息をついた。
「ったく・・・・・聞いてるのが俺だけでよかったですよ・・・・。で、いつまでここにいるんですか?早くいかないと、本当に河合さんに皐月くん取られちゃいますよ?」
「!!!サンキュー、関!」
一応関に礼を言ってから―――
俺は、ダッシュで屋上を後にしたのだった・・・・・。
「―――あ―あ・・・・。俺も人がいいよなぁ」
屋上に残された関の呟きは、俺には聞こえなかった・・・・・。
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