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第4話
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「やっぱり怪しい!あの男!」
帰り道、関がそう吐き捨てた。
「まあね・・・・・。けど、動機がはっきりしないし、目撃情報も証拠もないよ」
2人が揉めていたという話は聞こえてこない。
殺害現場や佐々木のマンションの近辺での目撃情報も、その前日や当日にはなかった。
仲が良かったのは本当のようで、事件前日と当日を除けば、頻繁に互いの自宅を行き来しているようだった。
怪しいという気持ちは俺にもあるが、なにしろ物証が少な過ぎた。
凶器に使われたらしい包丁は死体のそばに落ちていたが指紋はなく、一般的に良く売られているメーカーのもので、凶器から犯人を割り出すことは難しかった。
その他にも、犯人が残して行ったと思われるものは何もなかった。
事件当日は日曜日で2人とも仕事は休み。
河合への電話は月曜日の仕事の確認で、現場に直行するという内容だった。
死体を発見したのは、毎朝ジョギングでその公園を通る近所に住む主婦。
佐々木が夜中に、どうしてその公園に行ったのか。
携帯の通話記録を見ても、夜8時に探偵社にかけた電話の後は松本にかけた電話のみ。
改めてその電話の内容を天宮に確認したが、最近できたクラブに一緒に飲みに行こうという誘いの電話だったということだった。
どうしてその時間だったのかということについても、天宮はやはり特に疑問に思っていなかったようだった。
「陽介は、良く唐突に思いついて電話してきたりするから。その時間だったら俺もたいていは起きてることが多いし、急に思いついたんじゃないですか?」
確かに、佐々木の携帯の通話記録を見てみると、夜中や明け方など様々な時間に電話をかけていることがわかる。
相手は天宮、河合が大半だったが、他にも飲み友達が何人かいるようだった。
その飲み友達や学生時代の友人の話でも、佐々木は、『気さくで明るくていいやつ』という評判が大半を占め、『調子のいいやつ』という声もあったが、嫌われたり恨みを買うようなことはないようだった。
佐々木陽介を殺したいほど憎んでいた人物。
大抵の場合はどんなにいいやつと言われていたって、1人や2人、憎んでいたりするものなのだが・・・・
1週間たっても犯人の目星かつかず、早くも捜査に行き詰まりを感じ始めたころだった。
「樫本さん、ちょっと気になる情報が」
と、関が言った。
「実は昨日、家に帰る途中に偶然あの喫茶店のウェイトレスの女の子に会ったんですよ」
「喫茶店?」
「あの、探偵社の下の、戸田裕太ってやつがやってる店ですよ」
「ああ、あの―――」
あの後、あの店には戸田裕太にも話を聴くため訪れていた。
その時、ウェイトレスの女の子が1人いたのだが、彼女にも話を聞いていた。
その時は大した情報も得られなかったのだが―――
「彼女が言ってたんです。佐々木と河合が言い合っているのを見たことがあると」
「河合って、あの社長の?」
俺の言葉に関は頷いた。
「戸田は河合社長とは幼なじみなので、彼の手前、あの時は言えなかったと言ってました」
そう、戸田裕太は河合の1つ下で、子供の頃からの友達だということだった。
あの探偵社のあるビルは河合の父親のもので、幼なじみの縁でそこの1階に店を借り、喫茶店をオープンしたと言っていた。
「その時は天宮はいなくて、2人でコーヒーを飲みに来たそうです。そこで―――」
『―――ふざけんな!!』
怒りを必死に抑えてる声だった。
温厚なイメージの河合らしからぬ言動に、彼女は驚いたらしい。
河合はテーブルを挟んで向かい側に座っている佐々木を睨みつけていた。
『俺は―――そんなことは認めない。絶対に!』
そんな河合に対し、佐々木は冷静だった。
『決めるのは、皐月でしょ?浩斗くんの意見なんか必要ない』
そう言って不敵に笑う佐々木の目も、決して笑っていなかったという。
『皐月が・・・・皐月だって、そんなこと、望んでるわけない』
『ふーん?じゃあそれを皐月が望めば、浩斗くんも文句ないわけだ?』
『・・・・!!』
挑発するように笑みを浮かべる佐々木を、河合は無言で睨みつけていた・・・・・。
「詳しい内容はわからなかったということですが、天宮に関連しているということは確かなようですね。天宮自身もあの店にはよくいくそうですが、彼が来ると女性客が増えると言われるくらい、とにかく目立つ存在らしいです。で、その女の子の目から見ると、ですけど―――佐々木も河合も、天宮のことが好きだったんじゃないかと―――」
「あの社長が?」
意外だった。
2人一緒にいるところを見たのは、最初に佐々木の遺体確認に来た時だけだった。
その時にはそんな様子はなかったと思うのだが・・・・・。
「女の勘は、案外当てになるものですからね。で、もしその話が本当なら、河合には佐々木を殺す動機があったってことになりませんか?」
そう言って、関は俺を伺うように見た。
「天宮をめぐっての争いってこと?まあ、考えられなくはないけど――――」
でも、河合と佐々木は高校からの付き合いで、一緒に探偵社まで始めた仲だ。
そんな相手を、殺すだろうか?
しかも2人とも同性愛者だったって言うのか?
「―――とりあえず、調べてみる価値はあると思いませんか?」
「そうだな。河合が犯人かどうかは別として、もう一度話を聞いてみるか」
関と2人で再び河合探偵社を訪れたのは、その日の夕方だった。
天宮はもう帰った後で、河合は1人、事務所で書類の整理をしていたようだった。
俺たちは少しの間事務所内の応接セットで待たされていた。
書類に向かう河合の姿は真面目な仕事人間という感じだった。
眉間にしわを寄せ、テキパキと何かを書類に書き込んでいく。
そして20分ほど経った頃、ようやく書類を片付け、俺たちの方へ来たのだった。
「すいません、お待たせして。それで、今日はどういったお話でしょう?」
河合の言葉に、関が口を開く。
「はい、実は伺いたいことが―――」
その時だった。
俺の携帯が着信を知らせた。
「―――失礼」
「どうぞ」
「もしもし、樫本ーーーえ?――――本当に?――――わかった!すぐにいく!」
俺は携帯を切りながら、その場に立ち上がった。
いつになく素早い俺の動きに、関の顔にも緊張が走る。
「―――樫本さん」
「河合さん―――あなたも来てください」
「は?」
河合は、目を瞬かせた。
「どうして、僕が―――」
「―――天宮皐月さんが、何者かに襲われたそうです」
その言葉に、河合の顔は文字通り、さっと青ざめたのだった・・・・・。
帰り道、関がそう吐き捨てた。
「まあね・・・・・。けど、動機がはっきりしないし、目撃情報も証拠もないよ」
2人が揉めていたという話は聞こえてこない。
殺害現場や佐々木のマンションの近辺での目撃情報も、その前日や当日にはなかった。
仲が良かったのは本当のようで、事件前日と当日を除けば、頻繁に互いの自宅を行き来しているようだった。
怪しいという気持ちは俺にもあるが、なにしろ物証が少な過ぎた。
凶器に使われたらしい包丁は死体のそばに落ちていたが指紋はなく、一般的に良く売られているメーカーのもので、凶器から犯人を割り出すことは難しかった。
その他にも、犯人が残して行ったと思われるものは何もなかった。
事件当日は日曜日で2人とも仕事は休み。
河合への電話は月曜日の仕事の確認で、現場に直行するという内容だった。
死体を発見したのは、毎朝ジョギングでその公園を通る近所に住む主婦。
佐々木が夜中に、どうしてその公園に行ったのか。
携帯の通話記録を見ても、夜8時に探偵社にかけた電話の後は松本にかけた電話のみ。
改めてその電話の内容を天宮に確認したが、最近できたクラブに一緒に飲みに行こうという誘いの電話だったということだった。
どうしてその時間だったのかということについても、天宮はやはり特に疑問に思っていなかったようだった。
「陽介は、良く唐突に思いついて電話してきたりするから。その時間だったら俺もたいていは起きてることが多いし、急に思いついたんじゃないですか?」
確かに、佐々木の携帯の通話記録を見てみると、夜中や明け方など様々な時間に電話をかけていることがわかる。
相手は天宮、河合が大半だったが、他にも飲み友達が何人かいるようだった。
その飲み友達や学生時代の友人の話でも、佐々木は、『気さくで明るくていいやつ』という評判が大半を占め、『調子のいいやつ』という声もあったが、嫌われたり恨みを買うようなことはないようだった。
佐々木陽介を殺したいほど憎んでいた人物。
大抵の場合はどんなにいいやつと言われていたって、1人や2人、憎んでいたりするものなのだが・・・・
1週間たっても犯人の目星かつかず、早くも捜査に行き詰まりを感じ始めたころだった。
「樫本さん、ちょっと気になる情報が」
と、関が言った。
「実は昨日、家に帰る途中に偶然あの喫茶店のウェイトレスの女の子に会ったんですよ」
「喫茶店?」
「あの、探偵社の下の、戸田裕太ってやつがやってる店ですよ」
「ああ、あの―――」
あの後、あの店には戸田裕太にも話を聴くため訪れていた。
その時、ウェイトレスの女の子が1人いたのだが、彼女にも話を聞いていた。
その時は大した情報も得られなかったのだが―――
「彼女が言ってたんです。佐々木と河合が言い合っているのを見たことがあると」
「河合って、あの社長の?」
俺の言葉に関は頷いた。
「戸田は河合社長とは幼なじみなので、彼の手前、あの時は言えなかったと言ってました」
そう、戸田裕太は河合の1つ下で、子供の頃からの友達だということだった。
あの探偵社のあるビルは河合の父親のもので、幼なじみの縁でそこの1階に店を借り、喫茶店をオープンしたと言っていた。
「その時は天宮はいなくて、2人でコーヒーを飲みに来たそうです。そこで―――」
『―――ふざけんな!!』
怒りを必死に抑えてる声だった。
温厚なイメージの河合らしからぬ言動に、彼女は驚いたらしい。
河合はテーブルを挟んで向かい側に座っている佐々木を睨みつけていた。
『俺は―――そんなことは認めない。絶対に!』
そんな河合に対し、佐々木は冷静だった。
『決めるのは、皐月でしょ?浩斗くんの意見なんか必要ない』
そう言って不敵に笑う佐々木の目も、決して笑っていなかったという。
『皐月が・・・・皐月だって、そんなこと、望んでるわけない』
『ふーん?じゃあそれを皐月が望めば、浩斗くんも文句ないわけだ?』
『・・・・!!』
挑発するように笑みを浮かべる佐々木を、河合は無言で睨みつけていた・・・・・。
「詳しい内容はわからなかったということですが、天宮に関連しているということは確かなようですね。天宮自身もあの店にはよくいくそうですが、彼が来ると女性客が増えると言われるくらい、とにかく目立つ存在らしいです。で、その女の子の目から見ると、ですけど―――佐々木も河合も、天宮のことが好きだったんじゃないかと―――」
「あの社長が?」
意外だった。
2人一緒にいるところを見たのは、最初に佐々木の遺体確認に来た時だけだった。
その時にはそんな様子はなかったと思うのだが・・・・・。
「女の勘は、案外当てになるものですからね。で、もしその話が本当なら、河合には佐々木を殺す動機があったってことになりませんか?」
そう言って、関は俺を伺うように見た。
「天宮をめぐっての争いってこと?まあ、考えられなくはないけど――――」
でも、河合と佐々木は高校からの付き合いで、一緒に探偵社まで始めた仲だ。
そんな相手を、殺すだろうか?
しかも2人とも同性愛者だったって言うのか?
「―――とりあえず、調べてみる価値はあると思いませんか?」
「そうだな。河合が犯人かどうかは別として、もう一度話を聞いてみるか」
関と2人で再び河合探偵社を訪れたのは、その日の夕方だった。
天宮はもう帰った後で、河合は1人、事務所で書類の整理をしていたようだった。
俺たちは少しの間事務所内の応接セットで待たされていた。
書類に向かう河合の姿は真面目な仕事人間という感じだった。
眉間にしわを寄せ、テキパキと何かを書類に書き込んでいく。
そして20分ほど経った頃、ようやく書類を片付け、俺たちの方へ来たのだった。
「すいません、お待たせして。それで、今日はどういったお話でしょう?」
河合の言葉に、関が口を開く。
「はい、実は伺いたいことが―――」
その時だった。
俺の携帯が着信を知らせた。
「―――失礼」
「どうぞ」
「もしもし、樫本ーーーえ?――――本当に?――――わかった!すぐにいく!」
俺は携帯を切りながら、その場に立ち上がった。
いつになく素早い俺の動きに、関の顔にも緊張が走る。
「―――樫本さん」
「河合さん―――あなたも来てください」
「は?」
河合は、目を瞬かせた。
「どうして、僕が―――」
「―――天宮皐月さんが、何者かに襲われたそうです」
その言葉に、河合の顔は文字通り、さっと青ざめたのだった・・・・・。
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