怪しくて妖しい容疑者に魅せられて

まつも☆きらら

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第1話

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「うわ、こりゃあひでえな」

俺はその死体を見て、顔を顰めた。

その死体は、若い男だった。

顔は無傷だったが、腹部には無数の刺し傷があり、かなりの量の出血の跡が見られた。

「―――結構なイケメンですね」

被害者の横にしゃがみ、その顔を冷静に観察しながら、せきが言った。

俊哉としやは俺の部下の刑事だ。

童顔でかわいらしい印象を与えるが、なかなかキレる頭の持ち主だ。

俺の名前は樫本稔かしもとみのる

今年で勤続10年目の刑事だった。

「年は20代半ば―――ってとこですかね。身元の分かるものは持ってなかったんですかね」

関の声に答えるように、近くにいた鑑識の人間が顔を上げた。

「―――ガイシャの持っていた携帯です」

と、色の違う携帯を2台、渡される。

「2台?」

白い携帯と黒い携帯。

俺は、白い携帯の方を手に取って眺めた。

「仕事用とプライベート用、あるいは本命用と浮気相手用・・・・とか?樫本さん、どう思う?」

関の言葉に、俺は首を傾げた。

「わかんねえけど・・・・どっちにしろめんどくせえことするなぁ」

「―――こっちの黒い方は、最後に通話した時間が昨日の夜8時になってる。そっちは?」

「えーと・・・・・夜中の2時、だな」

「相手は?」

「『皐月さつき』だと。女かな」

「こっちは、『河合かわい』だって。ちょっとかけてみるか」

そう言って関は携帯を耳にあてた。

「―――――もしもし。わたくし関と申しますが――――世田谷署のものです。―――は?探偵・・・・・?」




やってきたのは、被害者の佐々木陽介ささきようすけと同じ年頃の若い男2人だった。

「河合浩斗ひろとと申します」

そう言って頭を下げたのは、グレーのスーツを着た、整った容姿のまじめそうな男だった。

育ちがいいのだろう、探偵にしては高そうなスーツをさりげなく着こなしている姿はスタイルも良く、人目を引いた。

そしてその河合の一歩後ろに下がってついてきた男が口を開く。

天宮あまみや皐月です」

彼が入ってきた途端、その場の空気が変わった気がした。

肌の色が透けるように白く、唇は紅を引いたように赤い。

長い前髪がかかったその大きな瞳はまるでつけ睫毛でもつけているかのように長くカールした睫毛に縁どられ、伏せ目がちなのにとても目力のある瞳だった。

小さな顔に柔らかそうな、長くちょっとくせのある黒髪。

長い首は白くとてもきれいで―――

黒いカットソーの上に羽織ったグレーのロングカーディガンと、ぴったりした黒いデニムのパンツにハイカットのスニーカー。

ラフな格好なのに、ピンと伸びた背筋のせいか、曲線を描くような細い腰のラインのせいか、とても艶めかしく感じた・・・・・。


出迎えた俺と関は、一瞬言葉を失った。

天宮皐月に見惚れていた俺たちを、河合が冷めた目で睨む。

「あの、佐々木は?」

「あ・・・・ああ、すいません。こちらへどうぞ」

関が慌てて、2人を遺体安置室へ案内する。



「―――間違いありません。佐々木陽介です。彼は、僕の探偵社の探偵です」

『河合探偵社』

それが河合が社長を務める探偵社の名前で、佐々木陽介の8時の通話記録はその河合へかけたものだった。


河合の言葉はしっかりしていたが、その顔色は青ざめていた。

天宮もじっと佐々木の顔を見つめていたが、その表情は全く変わらず、真意を読みとることはできなかった。

「すいません、あちらでお話を聞かせていただけますか?」

そう言って関が河合を促したが、天宮は動こうとしなかった。

「―――皐月」

河合の声に、ちらりと眼だけをそちらへ向ける。

「―――先、行ってて。すぐに行くから」

「じゃあ、僕が外で待ってますので、河合さんは関と先に行っていてください」

俺はそう言って、2人を促し部屋の外に出た。

河合はそれでも天宮のことが気になるようだったが、関に促されると、仕方なく歩き出した。


2人の姿が見えなくなると、俺は遺体安置室の扉を細く開け、中をそっと覗いた。

松本は、じっと佐々木の死体を見つめていた。

そして

細く白いその指で、佐々木の頬を撫でた。

「―――陽介、ばいばい」

そう呟いた天宮は、体をかがめ―――

佐々木の唇に、そっと口付けたのだった・・・・・。

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